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7-9 小麦の刈り取り時期は夏。

後継者問題って言うのは身分に関係なくついて回るものだと思います。

昨今だとあまり実感がない問題かもしれませんが。

 ロマンス小説について、いろいろと聞かせてもらった。

 中には、男性同士の恋愛も含まれているらしく、やはり男性が読むべきものじゃないということは語られる。

 それでも、二人も結構読んでいるらしく、あれを読んだか、これは読んだかという話で盛り上がってしまった。

 正直、男性同士のものがあると聞けただけでも助かった。

 下手したら、手に取ったものが、それでダメージを受けてたかもしれない。

 見分け方なんかも教わったので、今後は気を付けよう。

 日が暮れ始めたので、遅くならないうちに二人を家と居留地へと送り届けた。

 ベネットはいつもとは逆なので自分が送ると言ってくれたけど、街の中だしな。

 平気だよと言って、断った。

 倉庫に帰って馬車を納めロバたちを解放してやると、すっかり日が落ちてしまっている。

 夜になると狼は元気になるのか、首ひもを引っ張るようにずんずん進んでいく。

 カールを迎えに行き、借りている部屋に戻る。

 しかし、いい加減名前でも付けてやらないとなぁ。

 どうしよう。

「なあ、カール。狼の名前ってどうしようか?」

 二人がじゃれ合っているところで聞いてみた。

「ガウ?」

 鳴き声か。

 ちょっといい加減すぎな気がする。

「それ名前か?」

 カールはちょっと悩むけど、ゴブリンのネーミングセンスに任せる方が間違いか。

 しかし、俺だってネーミングセンスがあるわけじゃないんだよなぁ。

「そもそもこいつの性別は何だろうな?」

 一応確かめると雌みたいだな。

 小説の定番だと女の子に変わったりするのが常だけど、そういう様子はない。

 まあ、期待してる俺もどうかしてるなぁ。

 頭がおかしい。

 でも、雌の狼か。

 ちょっとネットで調べると北欧神話の狼が引っかかる。

 マーナガルム、月の狼というのはちょっとかっこいいかもしれない。

 でも、月の神マーニは男性だから、マーナだとちょっと女の子に付けるべきじゃないかなぁ。

 いや、でも響はいいからなぁ。

「マーナにするか。」

 そういうと、狼は不思議そうに俺を見る。

「お前の名前だよ。マーナ、よろしくな。」

 二ヶ月も名前も付けてなかったから、ちょっと気恥しい。

 誤魔化すようにマーナの頭をなでてやる。

 

 翌日早くにカールとマーナを同乗させて、スクーターを走らせる。

 本来二人乗りとか三人乗りとか、よろしくはないんだが一番早い移動方法がこれなので、そこは目をつぶっている。

 カールが運転できるなら、もう一台用意してもいいんだけどなぁ。

 足着かないんだもん。

 なるべく、速度は落し気味にはしてるけど、マーナとカールをインベントリにしまう方が安全ではあるんだよなぁ。

 どっちの方がいいんだろうか。

 悩む。

 間もなく、レイナ嬢宅へと到着する。

 すっかり様変わりして結構な邸宅に見えるくらいコンテナハウスが拡張されている。

 一応、コンテナやパーツは俺が出しているが、結合や窓などの取り付けは大工さんにお願いしてあった。

 全面ガラス張りの部屋の前はテラスとしてデッキが置かれている。

 デッキ自体は大工さんのお手製だったりするから、しっかりしている。

 基礎なども、しっかりと杭を打たれ固められているから、手入れをすれば結構長持ちしそうだよな。

 こういうのもありだなぁ。

 相変わらず、家にいる時は目の下のクマも隠さず、ローブ姿のレイナが玄関から顔を出している。

「おはようございます、レイナさん。

 カールのことよろしくお願いしますね?」

 俺が挨拶をすると、大きな欠伸をされた。

「ごめん、これからおやすみなんだ。

 カール君には好きにしてもらっていいから、鍵だけは閉めてね。」

 そういうと、奥に引っ込んでしまった。

「カール大丈夫か?」

 ちょっと心配になって、カールに尋ねた。

「大丈夫、任せて。」

 胸を張って言われたが、本当に大丈夫だろうか?

 まあ、言ってもしょうがないか。

 スクーターをインベントリに納めて、マーナの首輪にリードを付けて村へ向かう。

 

 小麦の収穫は上々だ。

 どっさりと取れる。

 広大な畑一面に黄金色の絨毯が敷かれているようだ。

 村の人が全員でも日が暮れるまで収穫に時間がかかったが、何とか終わった。

 その間、マーナは森の中を駆けずり回ってリスや兎なんかを追っかけまわしていたらしい。

 何とか兎を一匹捕まえて、見せに来たがとてもうれしそうだった。

 ミレンさんも嬉しそうにその獲物を受け取ってくれる。

 いや、まあその……

 血まみれの顔で嬉しそうにされると反応に困るんだけどね。

 ミレンさんは怯えてないことからすれば、それが普通なのかもしれないけど。

 しかし、狼なのに首輪をつけているだけでみんな怯えた様子はない。

 多分、飼われていると分かれば問題ないのかなぁ。

 マーナも、人を襲うようなそぶりは見せてないし、たぶん大丈夫なんだよな。

 まあ、小さいうちから人に慣れさせておくに越したことはないか。

 明日には指定された穀物商人が来るので、その様子を見させてもらおう。

 今晩は収穫の祝いという事で、村長さん宅にお呼ばれしている。

 ちょっと楽しみだ。

 

 豚の丸焼きに焼き立てのパン、それにカブと豆、それにベーコンのスープととても豪華だ。

 香辛料や香草、ニンニクやショウガみたいなものも使われている。

 俺が持ってきた唐辛子も加えられて、豚の丸焼きはちょっとピリ辛だ。

 ご家族だけではなく、村の家長全員が揃っている。

 ある程度歓談した後で、料理をもって各家庭に帰っていくらしい。

 ビールを飲みつつ、みんな和気あいあいとしている。

「ヒロシさん、今日はとても助かりました。」

 ブラームさんがビールの入った瓶を持ってきて、俺のカップに注いでくれる。

 あんまり飲みたくないんだよなぁ。

 昨日の今日だから。

 こっそり、水に変換しておこう。

「ありがとうございます、ブラームさん。

 そうそう、お忙しそうだったので渡しそびれていたんですが、これを受け取ってもらえますか?」

 ブラームさんは革職人でもあるので、ハンスたちが鞣したワイバーンの皮を渡す。

「これは、トカゲの皮ですか?」

 どうやら見たこともないらしい。

「ワイバーンの皮ですよ。知り合いが手に入れましてね。」

 俺が倒すのに参加してたというと、何か問題になりそうなので伏せておく。

「ワイバーンですか、なるほど、だから丈夫なんですね。」

 触り心地や張りを確かめるように撫でたり引っ張ったりしている。

「一応は普通の針も通るらしいですが、鋼の針の方がいいそうなので、これもご一緒にどうぞ。」

 そういって、ワイバーンの皮を縫製するときに使うと聞いた針をブラームさんに渡した。

 こっちは、アレストラばあさんに作ってもらったものだ。

 結構高かった。

「いや、これは、ありがたいですね。

 針にはいつも困っていたんです。

 鍛冶も村ではなかなかやりにくいものですから。」

 ちょっとした修理などは村にも炉があり、街に修理に出すのは稀らしい。

 なんでも自給自足を目指すのは、この世界の農村では常識みたいだ。

 まあ、移動手段が限られてるから当然と言えば当然か。

 それでも、アルノー村は余裕がある方で、いろいろと買って貰っている。

 収穫のお祝いとして、これくらいは送らせてもらおう。

 出来たワイバーン革の製品は是非家で買い取らせてもらいたいところではあるけども。

「いつもありがとうございます、ヒロシさん。

 こいつの腕を買っていただいて、最近やる気が出てきたようだ。

 感謝していますよ。」

 村長のドレンさんとしても、次期村長のブラームさんには期待している部分があるんだろうな。

 その人のやる気が生まれるなら、歓迎といったところなんじゃないだろうか?

「いえ、こちらこそ。

 ブラームさんの作ってくれた製品は評判もいいです。

 こちらこそ、お世話になってます。」

 出来のいいものなんか、”売買”のオークションにかけると結構なお値段で売れる。

 流石にワイバーン革は売っていいものかは悩むけど、こちらの世界で素直に流せる数少ない商品だ。

 とてもありがたい。

「ヒロシさんの小麦も順調に育っていましたな。

 あれは、やはり肥料の影響なんですかな?」

 俺が実験的に撒いた、春播きの小麦はドレンさんやブラームさんが世話をしてくれている。

 そのおかげか、緑の葉が生き生きと伸びていた。

 肥料のおかげばかりじゃないだろう。

「いえ、皆さんがお世話をしてくれている部分も大きいと思います。

 本当にありがとうございます。」

 いやいやそんなことはと謙遜されたけど、どこか誇らしげだ。

 やっぱり、この村の人たちは勤勉だなと感じる。

 あぁ、やばいやばい、聞こうと思ってたことを忘れるところだった。

「ところで、この村では孤児の子を雇う余裕とかあるんでしょうか?」

 ジョンのことをかいつまんで話してみる。

 スカベンジャーを目指していることも合わせて伝えてみた。

「ん、むぅ、どうでしょうね。

 その子一人なら、食っていくに困ることはないかもしれませんが、金が稼げるかと言われるととても無理ではないかなぁ。

 多分、その子は他の子たちも何とかしてやりたいと思ってるのかもしれないが。」

 難しい顔をされてしまった。

 流石に20人もの孤児を養えるだけの余裕はないよな。

 まあでも、農村に行って働くというのも現実的な選択肢ではある。

 難点があるとするなら、みんなバラバラになるというところだろう。

「しかし、スカベンジャーねぇ。

 おとぎ話で、勇者や賢者が迷宮を踏破して富を得るという話は定番ですが、現実としての職業としては選ばせたくない職業ですな。」

 まあ、成功するのは一握りと分かっている職業につかせたがる親はいないよな。

「えー、おじいちゃん僕スカベンジャーやりたい!!」

 突然、アレンが声を張り上げる。

「だって、かっこいいもん!!僕も剣を持ってバッタバッタと化け物を退治するんだ!!」

 アレンの言葉に仕方ないなといった感じでドレンさんは困った顔をする。

「アレン、お前は家を継ぐんだ。」

 ブラームさんが強い言葉でしかりつけた。

「家はお兄ちゃんが継げばいいでしょ?僕は家を出る!!」

 なんか、余計なことを言ってしまったみたいだな。

 まさか、そんな夢を抱えてるとは思ってもみなかった。

「ね?お兄ちゃんが家を継ぐよね?」

 アレンに話を振られ、ジョシュは戸惑い気味だ。

「僕は、構わないけど。」

「ジョシュは、大学に進ませる。

 魔法の才能があるんだ。家に残すわけにはいかない。」

 ブラームさんは頭ごなしに子供の将来を決め付ける。

 あまり、こういうの好きじゃないんだよな。

 でも言うことはもっともだ。

 才能があるのなら、それを伸ばしてやるのが親の務めでもある。

 でも、それにはジョシュも不満そうだ。

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