7-5 ゴミ漁りの流儀。
イメージとしてはゴールドラッシュのアメリカ西部みたいなイメージでしょうか。
一山当てればと群がる鉱夫たちと道具を売る商人みたいな関係を想像して書いてます。
一通り、ベネットの体の変化を伝えた。
魅力が上がっていると言われてもピンとこないとは思うがなるべく得た情報は包み隠さずに伝える。
防御力が上がっていると伝えたら、ちょっと驚いたように自分の体のあちこちを触って確かめていたけど。
特に変化した様子はないと教えてくれる。
まあ、ちょっとした上昇なので、そこまで劇的に変化するものでもないのかもしれない。
レベルも以前より1上がって、9だ。
いつまでたってもベネットには追い付けない。
守ってもらってばかりで情けないなぁ。
まあ、レベルを伝えてもベネットはいまいちわかっていない。
高い方がいいとは言っているけど、実感としてレベルが上がって強くなったというような気はしていないそうだ。
まあ、そりゃそうだよなぁ。
強さというのは相対的なものだ。
数字がこれだから、強くなりましたと言われて実感できることは少ないだろう。
「まあ、弱くなるよりかはいいと思う。うん。」
ベネットは俺に寄りかかったまま、腕を伸ばし自分の手を見て開いたり握ったりしながら、そうつぶやいた。
弱くなるなんてことがあるんだろうか?
いや、まあ、衰えることはあるか。
当たり前だよな。
ただ、俺は特に鍛錬を続けているわけでもないのに、能力値やレベルが落ちるという事はない。
俺が異世界人だからなのか、それがこの世界全ての理、法則なのかはちょっとつかみかねる。
今のところ継続的に”鑑定”しているのはベネットとトーラスだけだ。
それにベネットはとても鍛錬を積んでいる。
そう簡単には衰えないだろうなと思うから、正直サンプルが少なすぎるんだよなぁ。
「竜の祝福が強くなったりしたら、鱗とか生えてきちゃうのかな。」
ぽつりとベネットは不安を漏らす。
「そこは分からないけれど、鱗をはやす呪文はありますよ?」
防御力を強化するためにドラゴンの鱗をはやす《竜鱗》という呪文がある。
確か、これはしっかりと鱗が生えたはずだ。
「嬉しくないなって思ってるのに、そういう呪文があるよって言われても反応に困る。」
むすっとされてしまった。
まあ、確かにそうだな。
でも、なんていえばいいんだろうか。
「別に、ベネットさんに鱗が生えても俺は気にしないですよ。
まあ、生えたとして気になるのであれば消す方法を探してもいいですし。」
気が利かなくて野暮だなぁ、とは思ったものの俺から言えるのはそんなことぐらいだ。
「本当に……気にしない?……」
じっと試すように見つめてくる。
「まあ、生えてくる鱗にもよります。ラウレーネみたいな綺麗な色なら、ベネットさんに似合いそうだし。」
なんといえばいいか、正解が見つからない。
嘘をつきたくないけれど、傷つけたくもないし、かといってどうでもいいと思ってるように取られるのも嫌だ。
本当に言葉は難しい。
ふーんみたいな顔をされて、笑われた。
「それならいいかな。」
喜んでいる様子もあるし、ベネットとしては受け入れていい返答だったみたいだな。
よかった。
しかし、つくづく思うが俺の性癖は度がし難い。
普通の人だったら嫌がってしかるべきなんだろうか?
ベネットならある程度の変化でも受け入れられてしまうと思う自分は、おかしいかもしれない。
でも、世の中広いからなぁ。
俺よりもおかしな奴はごまんといそうな気もする。
とりあえず、夜も更けってきたし寝ないといけない。
「そろそろ部屋、戻りますか?」
そういうとベネットはちょっと恥ずかしそうに、体を起こした。
「うん、ごめんね。ちょっと甘えすぎちゃった。」
いやいや、甘えてくれるのはいくらでもしてくれていいんだけども。
問題は俺の理性が持たなさそうという事だ。
「おやすみ。」
そういうと、ベネットは部屋を出て行ってしまう。
あー、結局一人寝か。
まあ、狼を抱いたまま寝る趣味はないので、まあいいか。
あ、忘れる前に地図の時系列をまとめておこう。
ドライダルの足取りの手掛かりになるかもしれないしな。
翌日も門まで行って、出店の許可を得る。
基本的には、日の出から日の入りまでで銀貨1枚、日の入りから明け方までが金貨1枚。
それに売り上げの1割が税として徴収される。
スカベンジャーから品物を買い上げる場合も税が徴収されるので、そこは勘弁して欲しかった。
どうやら、ギルドの息がかかった商会であれば税はかからないらしい。
不公平だなと思わなくもないが、それが決まり内情仕方がない。
なので、出店を出すような行商人はみんな買取を拒否している。
まあ、秘石は対象外だから、それが通貨みたいな感じになっているのは面白かった。
客の流れは、昨日とあまり変わらない。
やはりなじみの店が強そうだなぁ。
品質の保証がない分、以前使ったところが優先されるのはある程度仕方がない。
「兄ちゃん、これとこれをくれ。あと酒はないのか?」
秘石を放りながら、横柄に注文される。
まあ、別に困りはしないけどおおざっぱだなぁ。
「ございますよ。強めのものがよろしいですか?」
そうだなという返答だったので、蒸留酒を用意して渡した。
釣りを渡そうと準備してたら立ち去られれそうになる。
「お客様、おつりがあります。
お待ちいただけますか?」
慌てて計算しておつりを用意する。
「釣り?要らねえよ。
とっとけ。」
確かに銅貨数枚の釣りだが、それでいいのか?
「いえ、そういうわけにもいきません。
お願いしますので、お受け取りください。」
後々計算が面倒になる。
ここは受け取ってもらわないと困る。
「たかが銅貨に律儀だな。
みんな気にしちゃいないぞ?」
ここの流儀なら従うべきかとも悩むが、一応きっちりしておこう。
「よそではそうかもしれませんが、私は素人に毛が生えたようなものです。
私の為と思って受け取っていただけませんか?」
流石にそこまで言えば、拒否はされないだろう。
「お、おう。そこまで言うなら受け取るよ。
まあ、あんまり生真面目にやらんほうがいいぞ。
どうせそのうちどんぶり勘定になるさ。」
やれやれといった様子で銅貨を持って行ってくれた。
ほっとする。
「ヒロシさんは、時々強引ですよね。」
セレンはため息をついて、そんなことを言ってくる。
強引か?
いや、単にちょろまかすと癖になりそうだから拒否しただけなんだが。
「どんぶり勘定するほど売れてないですし、誤魔化せないから受け取らなかっただけですよ。
混みだしたら、その流儀に染まりそうですけどね。」
俺の受け答えが気にくわなかったのか、複雑な表情をされてしまった。
それはどういう感情なんだろうか?
よくわからん。
「そんなことよりどうなんですか?正直、今のところろくでもない連中ばかりです。
あの子にこんな職業勧めるんですか?」
正直、今のところはないかなと思っている。
確かに羽振りは良さそうだけど、誰もかれもがいい加減だ。
いい加減にすることで儲けた人間は身の安全を図り、儲けられなかった人間はそのおこぼれに預かっているような感じもする。
決して楽な商売でもないし、身持ちを崩さないでやるには相当な精神力がいるような気もした。
「分かってくれたみたいで安心しました。
早めに切り上げて帰りましょう。」
まあ、セレンの言う通りかもな。
そう思った矢先、門の方から叫び声が聞こえる。
「誰かー!!治療ができるものはいないか!!頼む!!金は払う!!治療を!!」
その声を聴いて、真っ先にベネットが駆け出した。
「え?あ、えっと……
私も行ってきます!」
俺が頷くと、そわそわとセレンも行ってしまう。
店を開けるわけにもいかない。
俺はちょっと気になりはしたが、じっと我慢した。
ここで急に全部の荷物をしまい込んだら、目を付けられかねない。
周りの声を聴く限り、誰も助けに入ってない様子だ。
いつものおっさんだろとか、《治癒》のポーション買えばいいだろとか口々に言っている。
瀕死状態だったら《治癒》のポーションじゃ間に合わないんだけどな。
大丈夫だろうか?
そわそわと店番を続けていたら、ようやく二人が戻ってきた。
子供5人とおっさん連れで。
「いったい何があったんです?」
俺は、子供たちにジュースを渡しながら、おっさんに尋ねた。
「いや、なかなか帰ってこないもんだから、心配になりましてね。
中で酷い怪我をしてたらしくて、何とか連れ帰ってきたんだけども。」
へぇ、救助もやるのか。
単なる人売りかと思ったら少し見直してしまった。
「捨て駒にでもされたんですか?」
ジュースを一気に飲み干しほっと溜息をついてる子供たちを見て、ちょっと怒りを覚える。
いや、そういう正義感は目を曇らせる。
そういうことも含めてのスカベンジャーだろう。
冷静に考えよう。
「まあ、そんなところだろうね。
中にはしっかりと後進を育てようとしてくれるやつもいるが、そういうのは稀だ。
大抵は体のいい荷物持ち、それならまだいいんだがね。」
セレンが急に立ち上がり、おっさんの頬をひっぱたく。
「子供を食い物にしておいて、よくそんなことが言えますね!!
この人でなし!!」
ベネットは、セレンの剣幕に驚いてしまい、おろおろしている。
止めるのは俺だけだよな。
「セレンさん、その人を責めてもどうにもなりません。
叩いたところで、その人の良心の呵責を軽減するだけですよ。
子供を食い物にしてるのは、その人が一番よく分かってるはずだ。」
セレンは俺の言葉が気にくわなかったのか、普段見せない顔で睨んでくる。
「兄ちゃん、あんたの言葉の方がきつい。
殴られる方が楽なのは確かさ。
それすら許しちゃくれねえのか?」
許すも許さないもない。
単に食いつぶすつもりなだけだったら、助けになんか行かないだろう。
「俺の上司も似たような人でしてね。
商売は悪いことだと分かってはいるが、それでもその悪いことをしなくちゃ生きていけないと思ってるみたいなんですよ。
でも、俺には別に特別悪いことをしているとは思えないんですよね。」
おっさんには何言ってんだこいつみたいな顔をされるしセレンには相変わらず睨まれてるし、なんか怖いんだけども。
「少なくとも、悪意があって子供を任せたわけじゃないんですよね?
はじめから捨て駒にされるのを了承してたわけでもない。
違いますか?」
もし、初めから捨て駒にされることを前提にしていたなら、助けに行こうとするのはおかしい。
そもそも、中に入るのに金が必要になる。
それに探す手立てがなければ、こうして子供たちを外に連れてくることはできなかっただろう。
つまり、いざという時を想定はしている。
「そりゃ、そうだ。
一度で死んでもらったら、儲けが出ないからな。
子供たちだからって、食うものは食うし、休ませてやらなきゃちゃんと働いちゃくれない。
全部儲けのためだ。」
やっぱり、グラスコーと似てるな。
「それで、それを子供たちに強要してるんですか?」
俺の言葉におっさんは言葉を詰まらせる。
「そうだな。
上手いこと言って儲かると言いくるめてるし、似たようなもんだな。」
普通騙そうとする人間がそれを言ってしまったらおしまいだ。
「そこは、俺は騙してないって言い張るべきところだと思うんですけどね。
根が善良過ぎますよ。
正直、詐欺師に向いてない。」
ぐっとおっさんは言葉を詰まらせた。
「そこは、まだうちの上司の方が上手に誤魔化してますよ。
悪者ぶりたいのも分かりますけど、善意がないふりをするのはやめたらどうです?」
セレンが怪訝な顔をする。
でも、少し考えればわかる事なんだよな。
どう考えても放っておいた方が楽だ。
事業としては、救出まで考えていたら割に合わない。
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