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7-4 押し込み強盗とかさ。

ベネットは結構な激情家だと思います。

 遺跡を覆うように作られた砦の外には宿が何件か建てられていた。

 とはいえ、どこも安普請だ。

 女性が泊まるには微妙な気がする。

 ベネットは慣れているというし、セレンも平気という事だから宿をとったが、平気だろうか?

 一応、俺は別に部屋を取り狼の子と一緒に寝ることになる。

 こいつは大人しい奴でカールとも気が合うらしい。

 何かあると、ゴロゴロと絡み合っている。

 俺にも懐いているのか、それともこいつの趣味なのか、よく膝の上に乗ってきて困ることが多い。

「ヒロシ、ちょっといい?」

 戸を叩かれ立ち上がろうとして、案の定困る。

 かといって、起こすのもな。

 寝息立ててるし。

「ごめん、鍵はかかってないから入ってきて。」

 そういうと、ベネットが部屋に入ってくる。

 バケツを持ってきたという事はお湯かな?

「ねえ、お湯を貰ってもいい?なんだかこういうの久しぶりだけど。」

 確かに久しぶりかもしれない。

 お風呂も用意してあげられてないのが申し訳なくなる。

「ごめん。お風呂があればよかったんだけど。」

 この近くに水源はない。

 そのため、水は貴重だ。

 砦のために給水塔が建てられているが、やはり砦のためのものであって、砦に群がる人々には手に入れにくい。

 飲み物は大抵がビールで済ませている様子だった。

「水は貴重だから、贅沢は言ってられないし。

 むしろ、お湯を用意してもらえるだけでもありがたいわ。」

 今度来るときは、ちょっと対策を考えるべきか。

 むしろ、お風呂屋さんをやるのもありか?

 まあ、ともかくバケツにお湯を満たそう。

「そうそう、えっと……また、あとで来てもいい?……」

 ちょっとドキッとしてしまった。

 そういう意味じゃない。

 うん、”鑑定”の結果を伝えなくちゃだよな。

「もちろん。それまでに地図の方に時系列を加えておくから。」

「ありがとう、よろしくね。」

 そういうとベネットは部屋を出ていく。

 しかし、ほんとうに安普請だ。

 不明瞭だけれど隣の声が聞こえてくる。

 よろしくやってるのか、ちょっと物音も聞こえてくる。

 こういう場所でも女性というのはたくましく商売をしていて、刹那的な生き方に身を費やす男は一時の癒しを求めていた。

 ベネットやセレンをそういう目で見る男も何人かいたから、そこも宿に泊まるのを躊躇った理由でもある。

 もちろん、スカベンジャーに女性が皆無かと言われるとそんなことはない。

 特に術者には女性が多かった。

 社会構造上、男性に比べて活躍の場が少ないからか女性術者は傭兵やスカベンジャーを生業にする人が多いとか。

 そこらへん、やはり極限状態な環境の方が平等にはなりやすいんだろうな。

 そんなことを考えていたら、急に扉をあけられた。

 そこには知らない男がスティリットを持って立っていた。

「おい、兄ちゃん。鍵もかけないとは不用心だな。」

 押し込み強盗みたいだな。

 ちょっとびっくりして声も出ない。

「何、命までは取らないでやるよ。

 有り金全部だしな。」

 そりゃまた、ありがたいお申し出でございます。

 しかし、参ったな。

 いくらか小分けにしていた財布があるにはあるけど、素直に渡したら出て行ってもらえるだろうか?

「有り金全部は困りますよ。

 大した金額じゃないですけど、そっちのバッグに財布があるんでそれで勘弁してもらえないですかね?」

 そういいながら、男を”鑑定”してみる。

 それほど強くはない。

 斥候役でも治療役でもなく、前衛を張るタイプの人間にみえる。

 盗みが本職ではないと思うんだけども。

 しかし、完全に油断してたな。

 宿屋で強盗に襲われるとは微塵も思ってなかった。

「随分と冷静だな。

 このバッグか?

 変な動きはするなよ。」

 そういいながら、男はバッグを漁り、財布を取り出した。

「おい、これ、少しというには大分入ってないか?」

 なんだか嬉しそうだなぁ。

 いや、まあ、中身は殆ど銅貨だから本当に大した金額じゃない。

 それが結構な儲けだと思うなら、相当うまくいってないんだろうなぁ。

 年も結構いってそうだし。

「商売をしているなら、釣銭程度ですよ。

 まあ、懐が痛まないとは言いませんけどね。

 それより、あなた強盗が本職なんですか?」

 若干上擦り気味だけど、何とかしゃべれる。

 相手も冷静なようだし、ちょっと話を続けよう。

「いや、もちろんこんなこと、頻繁にやっちゃいねえよ。

 明日潜る金も無くなったから仕方なくな。」

 やはり、スカベンジャーが本職のようだ。

「上手くいってなさそうですね。」

 若干同情気味に言ってみた。

 これで激昂される可能性もあるけど、その時はその時だ。

「あぁ、残念ながらな。

 仲間もやられちまったし、思った以上にここの遺跡はやばいぜ。

 それでも見返りもそれなりにいい。

 潜りさえすれば、何とかなるんだ。」

 何を根拠に言ってるんだか分からないが、ギャンブル依存症みたいなものかもしれない。

 それなら俺でも何となく想像がつく。

 次は勝てる、だから借金して明日もやろう。

 根拠なんかない。

 下手すると腹が立って、どうせ勝てないからそれを証明してやるみたいに、負けることが目的にすり替わってる場合もある。

 これは、ちょっといただけないなぁ。

「何とかする見込みはあるんですか?」

 まあ、根拠がないと決めつけるのもよくないか。

 あるいは何か手立てがあるのかもしれない。

「一応な。

 仲間が死んだところに、漁ったものがまとまっている。

 明日そこまで行ければ回収できるはずだ。」

 まあ運任せのギャンブルよりかはましか。

 そこに到達して回収できれば儲けが出せることが見込める。

 ただ、それを他人より早く回収しないといけないという点が問題だけども。

「人手はどうするんですか?

 あなた一人じゃ無理でしょう?」

 どう考えても斥候役は必要だろう。

 上手く到達できるかどうか、それに成否がかかっている。

「大丈夫さ。

 お前もここで胡散臭いおっさんを結構見ただろ?

 荷物持ちの小僧を何人か見繕ってくれりゃ、そいつらを囮に回収できるって寸法さ。」

 あー、やっぱりそういう人売りの類だったか。

 ちょっとうんざりする。

「とりあえず、そろそろ終わりにしようか。あば……」

 男がスティリットを引き、別れを告げようとした瞬間。

 バケツが勢いよくすっ飛んできた。

 がこんっと派手な音を立て、男の頭に激しくぶつかる。

 そして、ばしゃっと水が飛び散る音もした。

 まるで獣のようにベネットが飛び込んでくると、男に馬乗りになってぼこぼこにし始めた。

「ベネットさん!ベネットさん!!平気です!もう大丈夫ですから!!」

 最初のバケツの一撃で、十分なダメージを受けているらしく、男はぐったりしている。

 俺が制止しないと、死んでしまう。

 慌てて立ち上がったので、狼の子が床に転がり落ちてしまう。

 部屋の中は水浸しだし。

 俺は、どうすればいいんだ。

 

 結局宿の人が来るまで俺はおろおろするしかできなかった。

 狼を拾って水を、ある程度はまとめて他に誰か来るんじゃないかと慌て続けるという感じで男がぼこぼこになってく様を眺めてしまった。

 ある意味爽快感はあったけども。

 なんだろう、格闘技大会の中継を見ている気分だった。

 宿の人が羽交い絞めにしたところで、ようやくベネットも落ち着いた。

 といっても今度は宿の人に対して食ってかかり始めたので、さすがに俺が割って入る。

 一通りの事情を話し、鍵を閉めてなかったこちらにも非があったことも言ったわけだけども後ろに立つベネットが恐ろしかったのか、すぐに別の部屋を用意してくれた。

 二間続きのVIPルームだ。

 建物自体が安普請だけに、あまり豪華な感じはしなかったけど、こういう部屋があるなら初めから言ってほしかった。

 これなら、強盗に襲われるなんてこともなかっただろうになぁ。

「ヒロシさん、何があったんですか?」

 セレンは狼を抱えつつ、別の部屋から俺とベネットを見ている。

 ベットの上では、俺に抱き着いたベネットがいる。

 何があったんだか、聞かれても、正直俺にも分らない。

「とりあえず、強盗に襲われてベネットさんに助けられました。」

 何となくベネットの頭を撫でてあげてしまう。

 まだ興奮気味なのか、ちょっと息が荒い。

 しかし、情けないよな。

 女の子に助けられておろおろするしかできないとか。

「とりあえず、私は隣で寝ますね?

 後、あまり婚姻前の、そういうのはよくないと思います。」

 そういうのとはどういうのだ。

「いや、何の話ですか?」

 そういうとバタンと扉を閉められてしまった。

 なんか、スカベンジャーの話から、若干セレンが俺に冷たくなってる気もする。

 それはそれで都合がいいから、構わないけれども。

 なんか釈然としない。

 しかし、どうすればいいだろうか。

 ずっとこのままというわけにはいかない。

 でも、振りほどくわけにもいかないしな。

 ベネットが落ち着けるように背中を撫でる。

「ごめんなさい。ヒロシが危ないと思ったから咄嗟に動いちゃった。」

 ようやく落ち着いたのか、小さくつぶやくように話し始めた。

 それは、その、すごく有難い。

「お父さんがまた、いなくなっちゃうとか。

 おかしいよね。ヒロシはお父さんじゃないのに……」

 やっぱりか、やっぱりお父さんかぁ。

 でも、前よりだいぶ進展してきてると思うんだよな。

「いなくなって欲しくないって思ってもらえるなら、それはとてもうれしいことですよ。」

 こんなか細くてしなやかな体なのにどこからあんな力が出てくるのだろう。

 女の子らしい柔らかさも感じる。

 ずーっと撫でていたい。

「ヒロシ、くすぐったい。」

「あ、ごめん。」

 あまりにも気持ちよくて夢中になってしまった。

 嫌がられたかな。

 お互い黙ったまま、そのままの姿勢で固まってしまう。

「あの……その……いやっていうわけじゃなくてね……」

 そっか、嫌がられてたわけじゃないのか。

 内心ほっとした。

「それより、見てくれたんだよね?」

 あぁ、そうだ。

 そういえば、柔らかかったよな。

 防御力が上がれば硬くなるものと思ったけど、そんなことなかった。

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