1-16 色々実験してみた。
昼間に寝ていたので遅番のために起きたときでもそんなに眠気はない。
会社時代もよく夜勤で不規則な睡眠だったけど、外で過ごすからなのか見張りってあんまり苦痛に感じなかった。
と言っても、今は漫画を読んで暇を潰したりとか、携帯いじるとかできないから暇だ。
タブレットもパソコン持ってこれなかったしな。
娯楽類は全然無い。
当番は一人だし、本当にやることがない。
辺りも静かで、家畜たちも寝静まっている。
いや、でもこういうのんびりとした雰囲気は嫌いじゃないな……
キャラバンの生活は大変だけど、こう言うのをスローライフって言うんだろう。
これから、そういう生活をぶっ壊していくであろう立場である俺が言うのもなんだけど、ずっとこういう生活ができるならそれはそれで楽しいんだろうな。
思い直して、キャラバンに残ってみようか?
能力を使わなければ、きっと普通に過ごせるんじゃないかとも思うんだが……
とはいえ、まだ大した期間を過ごしたわけじゃない。
慣れてなくて、色々とやることがあったからこそ面白いと思っている部分もあるんじゃなかろうか?
能力についてあれこれ考えたり、試してみたりもしている。
落ち着いていけばいくほど、俺の薄弱な意志力じゃ脱落するのは目に見えてる気がする。
目先の新鮮さに騙されているよな確実に……
絶対楽をしたくなるはずだから、能力を使わないなんて事できるわけがない。
大体、山羊肉程度で俺の味覚は拒絶反応を示している。
化学調味料や合成着色料、保存料、増粘剤、ありとあらゆる食品添加物で調整された食品に慣らされている俺からすれば、この世界の料理は野性的すぎる。
よく、そういう食品添加物を嫌う奴らがいたが、無添加の食品が美味しいとは限らない。
と言うか、むしろ無添加=不味いと思っておくくらいが丁度良いくらいだ。
料理なんてすぐに劣化する。
出来たてならともかく店頭で買ってしばらくしたものが美味しく食べられるのは、全て食品添加物のおかげといえる。
体に悪い物があるのも確かだが、それだけ美味しいものを安価に食べたいという欲求は強いって事だ。
まあ、俺は平気という無根拠な自信が危機意識を鈍らせているって言うのもあるだろうけども。
なんにせよ、体をこわすほど甘い物に飢えていた俺が、よくこれまで砂糖なしで生活できていたもんだ。
正直、これからも我慢できるなんて到底思えない。
ともかく、それにつけてもお金だよね、お金。
それがなきゃ始まらん。
幸い、稼ぐ方法は見つかった。
超純水。
まさか、呪文が鍵になるとは思わなかった。
昔ネットで見たときに、純水が高いって見た覚えがある。
それが超純水だ。
出した直後の”鑑定”では値段まで気が回らなかったが、純水より安いって事はないだろう。
ただの水なんかよりも、断然高いに違いない。
とはいえ、手に入れるには代償が伴う。
それをまずは掴まないとな。
周りは静かで、まだ夜が明ける雰囲気でもない。
ちょっと実験をしてみよう。
まず、呪文を消費する。
前日のストックはスッカラカンだ。
1日が過ぎると呪文で生み出した水は綺麗さっぱり消える。
だから、日が変わるごとに呪文を使い直さないといけない。
面倒だが、さらに言うと水を操るのもストックがない状態ではできない。
1日4回という条件は、結構いろんなところで制約になっているな。
呪文が発動すると、ストックが100リットル溜まったのが分かる。
これは、割とすぐに溜まってくれるから、ありがたい。
まずは1リットルの水を取り出してみよう。
うーん、とりあえずこれはいつもやってるから負担になってる気はしなかったんだけど。
とりあえず、能力値とかどうなってるか見てみるか。
HP減ってたりするんだろうか?
MPみたいな物があって、マスクされてるのか?
ウィンドウで見てみても変動はない。
脈拍や血圧なんかも平常どおりだ。
とりあえず、問題なしだと思って良いのかな。
じゃあ、次に進もう。
水に対して鑑定をかけてみる。
成分表は、ミネラルウォーターっぽい。
値段は、0だ。
まあ、1リットルのただの水だし100円以上の値段、つくわけ無いよね。
端数はどういう扱いなんだろうか?
後で調べよう。
とりあえず、水の操作と”鑑定”を同時にしても別に変化はない。
操作する水の量が問題?それと同時に”鑑定”?
どうも、それらでは変化はないみたいだ。
大量の水を出せば、ちょっと体が重たいなと感じるけど、少なくとも数値に影響はない。
改めて、水の分量を1リットルに戻す。
よし、じゃあこの水を超純水にしてみよう。
ぱらぱらと水の中のミネラル分が粉末になって飛び散る。
少しくらっとした感覚を覚えた。
能力値の中の、意志力の横に、本来の数値より1点少ない数字が表示された。
これは、あれか………
能力値ダメージだな。
一時的なダメージだから、時間経過で戻るんだろう。
と言うことは、10リットルくらいなら気絶はしなさそうだな。
回復量がどんな物なのかは知らないけど、場合によればもうちょっとひねり出せそうだ。
と言うわけで、超純水を”鑑定”にかけてみる。
成分表は混じりっけなしの超純水であることを示している。
価格は、12と出ていた。
1リットルで銅貨12枚はおいしい。
とりあえず、インベントリにしまっておこう。
ちょっと気になったので、何度か出し入れをしてみるが、呪文がある限りは取り出したくらいで状態変化しないみたいだな。
よしよし。
これはいける。
早速、残り9リットルの水を超純水に変換し、インベントリに納めた。
結構くらくらする。
能力値が半分以下になると状態が疲労状態になるのか。
注意しないとな。
俺は鍋で作っていた野草茶をコップに移してから飲み、ほっとため息をつく。
しかし、俺の能力値と実際の意志力とは因果関係ないと思うんだよなぁ……
こんな精神薄弱な奴が15も意志力があるわけがない。
どういう割り振りをしたらこんな能力値になるんだろうか?
まあ、ともかく回復量を確認しよう。
って時計がないから計れ……あー、はいはい、休息していれば1時間当たり1点、睡眠中は2点ね。
つまり歩いていたりすると回復しないと……
ありがたいんだけど、サービス過剰だよな。
まあ、結局計測するには時計がないといけないわけだけども。
どうしようかな。
欲しい物はいくらでもある。
とりあえず靴も欲しいし、服だって欲しい。
でも手に入った金額でみんなの分もとなると……
少し俺が考えながら、”売買”のウィンドウを眺め始めた。




