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6-27 できれば彼女を幸せにしたい。

これにて6章終了でございます。

 濡れてしまったものは仕方がないので、ベネットの服はレイナの温風を出す呪文で乾かしてもらっている。

それなりに時間がかかるので、なるべくそちらは見ないようにしよう。

タオルがはためいて、見ちゃいけないところが見えてしまいそうだ。

 しかし、なんだってあんなものが刺さってたのだろうか?

幸い血には毒が含まれていなかったのでベネットの体に異変はないだろうけど、あんなものが刺さっていたらどんなに強靭でも、かなりつらかったんじゃないだろうか?

「ラウレーネ、なんで隠してたんだい?」

 先生の疑問はもっともだ。

 ラウレーネはちょっと困ったように視線を彷徨わせている。

「ちょっと抜きにくいところに刺さってたから、あと見えないから抜くのが怖かったんだ。」

 いや、むしろ誰に刺されたんだろうか?

そっちの方が気になる。

「まあ、それはそれで問題だけれど、誰に刺されたんだい?

 少なくとも私が迎えに行く前からだよね?」

 先生はちょっと怒ってるんだろうか?

そうでなくても少なくとも心配にはなる。

「分からない。

 人だったのは確かだけれど、捕まえようとしたら死んでしまったから。

 自分から毒を飲んで死んじゃうとは思わなかったよ。」

 ラウレーネの言葉にちょっと眩暈がした。

 まずもってドラゴンを攻撃しようとする人間が、少なからずいることに驚いた。

俺の同胞の場合は、ほぼ事故ともいえるだろうけど、あの銛は最初からラウレーネを狙って準備されたものだろう。

何が目的なのか、分からないところが不気味だ。

色々な妄想は浮かぶけれど、今の段階だと俺にはこれといった襲撃者の目的が思い浮かばない。

 ただ、使った相手の情報はわかる。

 ”鑑定”で調べれば、所有者の履歴をたどることが可能だ。

後で先生に教えておこう。

「ありがとうヒロシ、乾いたから返すわね。」

 そういって、ベネットがバスタオルを返してくれた。

いや、持っててもらってもいいんだけども。

「ごめんね、ベネット、あとで服を弁償するから。」

 ラウレーネは申し訳なさそうに頭を下げる。

「いえ、大丈夫です。跡もほとんど残っていませんでしたし、私もうかつに近づきすぎました。

 むしろ、ラウレーネ様のお役に立てて光栄です。」

 ベネットはむしろ、恐縮してしまっている。

それくらい最初の印象が強いんだろうな。

「まあ、竜の血に塗れたらむしろ高く売れそうですけどね。

 案外ベネちゃ、いやベネットは不死身になったかもしれませんよ。」

 レイナが口を挟んできた。

普段の口調と違うから違和感が半端ない。

 服装も、普段のローブ姿とは違い、フリルがふんだんに使われたドレスを身に着けている。

 しかし化粧って言うのはすごいな。

目の下のクマが消えている。

 いや、そう言うのはどうでもいい。関係ない話だ。

レイナの話を聞いていて気になった点が別にある。

 竜の血を浴びると不死身になるというのはジークフリートの伝承だったかな。

あれだと葉が背中についていて、そこが弱点になっていたとか、そういう話だった気はする。

 ちょっと縁起でもないから勘弁して欲しいな。

じっとベネットを見てしまった。

「ヒロシ、確かめてみていいよ。私に対しては気にしなくていいから。」

 そっと顔を寄せられて、耳元でささやかれる。

 いつもベネットには考えていることが筒抜けだ。

 でも、じゃあ分かりました見ますねってできるほど俺も強くない。

なんか変に意識すると見れなくなる。

「あとで見させてもらいます。」

 俺もそっと耳元でささやいた。

その様子がいちゃいちゃしているように見えるのかレイナはにやにやしている。

「仲がいいのを見るとなんだかこっちも幸せな気持ちになるよ。

 ずっとそういうのを見てたいなぁ。」

 ラウレーネもそんなことを言ってくる。

俺は恥ずかしくなって、そっぽを向いてしまった。

「そういうわけにもいきませんよ。なんせこれから各領地を巡らないといけませんし。

 さすがに町単位は無理でも市には赴いていただかなければいけません。

 釘を刺しておきますが、こんな光景滅多に見れないから覚悟しておいてくださいね。」

 レイナがラウレーネを脅すように笑う。

「いやだぁ!!あのギスギスした空気はいやぁ!!」

 どんだけトラウマになってるんだろうか?

人間関係で死んでしまいそうで心配になってしまうなぁ。

「いったい何があったんですか?」

 思わず尋ねずにはいられない。

「そりゃもう、どこから巡るかでガチンコバトルだったからね。

 アライアス伯の領都で序列を巡って決闘が起こるくらいだし。」

 順番で決闘って……

「まあ、爵位が違えば偉い順で済むんだけれどね。

 問題は男爵だよ。

 序列としては最下位なわけだけど、それでも伝統がある男爵と新興の男爵じゃ格が違う。

 下手すると伯爵が遠慮して順番を譲る家なんかもあるよ。

 大した違いだとは思わないんだけどね。」

 先生は心底くだらないと思っているようだけど、そりゃエルフ目線からすればという話だ。

100年前から男爵の家とつい2,3年前に男爵になりましたじゃ、全然違う。

どれくらい年季が違うのかは知らないけど何となく想像はつく。

「建国前からある男爵家と、村を作って新たな爵位を貰えた男爵じゃやっぱり力関係は違いますから。

 とはいっても、中身は結婚で乗っ取られて違う家が相続しているようなのもいるから古いから偉いとも言い難いのがまた困ったなのよ。」

 そうか、爵位と血脈って言うのは必ずしもリンクしてるわけでもないわけか。

 そういえば、ネットでそんな話を聞いた事もある様な気がする。

そう考えると世界が変わっても似たようなことをしてるもんなんだなぁ。

「だから、お前の所の爵位はうちから奪ったものだろ、みたいな喧嘩を始めちゃうんだよね。

 まあ、侯爵家令嬢の意向があれば、それでもだいぶ楽にはなったと思うよ。」

 先生の言葉に、レイナは顔をしかめる。

「言ったって、家も爵位を乗っ取ったようなもんだから。

 いくら親戚が碌に残ってなかった侯爵とはいえ、やっかみはすごいですよ。」

 心底うんざりしてそうだ。貴族って大変なんだなぁ。

 いや、俺もできることなら爵位は欲しい。

かなりの自治権が得られるらしいから、好きなことをするなら爵位は必須だ。

 とはいえ、こういう話を聞くと尻込みしてしまう。

民主主義って素晴らしいんだなって改めて思った。

「みんな親戚みたいなものなんだから、仲良くすればいいのに。」

 ラウレーネは悲しそうに言う。

 つくづく思ったけど、この竜は善良だけど、お人よし過ぎるよなぁ。

人の悪意にちょっと鈍感すぎる。

 例え兄弟でも利益が相反すれば敵対するのが人間というものだ。

ましてや、何世代も前の親族何て赤の他人と言っていい。

 もちろん、利益を分かち合い、運命共同体として結びついている血脈であれば、また違ってくるだろうけど。

 逆に言えば、それ以外に対してはとても攻撃的になるだろう。

 みんな仲良くで、仲良く出来たら苦労はしないんだよなぁ。

 ふとベネットを見るとうつむいてしまっている。

どうしたんだろうか?

「どうかしたんですかベネットさん。」

 何か今の会話で引っかかる様な事でもあったんだろうか?

「ううん、本当はみんな仲良くできたらよかったのにって……」

 そうか。

 ……復讐心でいっぱいになる自分を恥じてしまっているんだろうな。

 何も恥ずかしがることなんかない。

許せない奴は許せない。

それでいいと思う。

「仲良くできるならそれに越したことはないけれど、人は心が狭いものですよ。

 俺がベネットさんを奪われたとしたら、相手のことを恨むと思います。

 それがどんないい男であっても。

 少なくとも仲良くはできません。」

 ちゃんと伝わるだろうか。

それとも単に俺が器の小さい男に思えてしまうかな。

 いや、実際に器は小さいから、そこは別に。

 ただ、許せないことを間違いだとは思ってほしくない。

「すぐそうやって惚気るねぇ。

 もっとも私も許せない奴は許せないし、許す必要もないと思うけどね。」

 レイナはにやにやしながら、からかってくる。

でも、今はありがたい。

「ごめん、仲良く出来ない間柄なんていくらでもあるよね。

 軽率だったよ。

 僕にだって許せない相手はいるもの。

 その癖に仲良くやってというのは、わがままだったよ。」

 ラウレーネの言葉に、ベネットはかぶり振った。

「そんなことはありません。

 私も、出来るならみんなと仲良くしたい。

 仲良く出来たらどれだけよかっただろうと思うこともいっぱいあります。

 ただ、それが出来なかった。

 わがままなのは私なんです。」

 そうか。そのことを失念していた。

考えてみればベネットは傭兵だ。

 復讐のことだけじゃない。

手に手を取り合って、仲良くなんて望めないことはいっぱいあっただろうな。

後悔もいっぱいしたはずだ。

 もし彼女が望むなら、俺はそこから引きはがしたい。

わがままなのは、彼女だけじゃない。

俺だって、度がし難い程にわがままだ。

 そのわがままを実現する力が欲しい。

「なんだかみんな難しく考えるね。

 私は仲良くしたい相手と仲良く出来ればそれでいいよ。

 遍く人全てと等しく仲良くするなんて、それは他人に無関心なだけじゃない?

 まずは目の前の人を見てあげるべきだと思うね。」

 先生はどこか楽しげだ。

こういうやり取りが好きなのかなぁ。

 俺は何となくベネットの手を握った。

彼女も握り返してくれた。

 人のことを好きになるってこんな気持ちなんだな。

ベネットは俺のこと、好きでいてくれるだろうか。

俺はこの世界に来たことを心から感謝した。

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