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6-21 街もいろいろ混乱している。

災害そのものも恐ろしいけれど、それによって引き起こされる混乱の方が恐ろしい場合もありますよね。

 モーダルにいるとドラゴン騒ぎはどこへやらという感じがするけど、着実に変な噂が広まりつつある。

酷いものになると、ドラゴンによって世界が滅ぶだとか、王がすべての元凶だから王家を滅ぼせみたいな過激思想を言いふらす輩まで出てくる。

 俺が街に戻ってきて5日たって、まだ解決の糸口が見いだせないから不安になる気持ちはわかるが、明らかにそれで利益を得ようとしている連中がいるのも確かだろう。

 今日はあまりにも生鮮食品が値下がりしすぎなので、そこそこの値段で引き取ることにした。

多分、これ以降は廃棄されかねない。

グラスコーも、それには賛同してくれたのでインベントリを圧迫しても優先させてもらう。

 街にあるものはあらかた買い付けたので、アルノー村にも足を向けた。

レイナに専用インベントリを渡すためでもある。

 まずは村の方にお邪魔した。

「ヒロシさん、野菜を買い取っていただけるという話は本当ですか?」

 ドレンさんとしては、渡りに船だったらしく嬉しそうに笑ってくれた。

とはいえ、あくまでも俺も慈善事業じゃない。

普通の値段に戻った段階で徐々に売りに出すつもりだ。

グラスコーの方でも扱えるだろうし、売り上げは見込める。

「もちろん、すべてではないですよ?皆さんの備蓄分は取っておいてくださいね?」

 当然、食べるものなんだから根こそぎにして持っていったら、それこそドレンさんたちが困るだろう。

「いやいや、さすがにあまりにも買取が安値になってしまっていたので、埋めようかと思ってたところだったので。

 買い取っていただけるなら助かります。」

 植えたまま放置するとか、キャベツとかなら酢漬けにするとか保存方法もあるだろうけど、それだって限界はある。

保存期間を延ばす努力にだって限界はあるだろう。

 じゃあ、収穫せずに土に戻すという選択肢はなにもおかしくはない。

人の手を介するものなんだから、売値が安くなれば土に返した方がましという事は結構あるものだ。

 俺にも限界はあって、せいぜい市中に出回ったものとアルノー村で栽培してた作物でいっぱいいっぱいだ。

これ以上は保存できない。

 無限に収納容量があれば話は別なんだけどなぁ。

”収納”のレベルが上がっていけば、いずれ容量無限になったりするんだろうか?

 それはそれで怖いのであまり考えない方がいいかな。

ぽんぽん気軽にレベルアップするので、変なことは考えない方がいい気がする。

 とりあえず、買い取った野菜をすべて収納し終え、アルノー村の外れにあるレイナの家へと向かった。

 以前あった彼女の家はすっかり解体され木材にされてしまっている。

 その代わりに、俺が譲ったコンテナハウスがあるわけだが屋根も出来上がりさほど違和感はない。

ちょっと黒い家くらいには落ち着いている。

窓がないのが若干微妙かもなぁ。

 でもあの壁の内側全部本棚だし、窓を付けても多分意味はない。

 ガチャリと扉が突然開く。

「やあぁ、ヒロシくぅーん。よくも私を売ったなぁ。」

 地の底から響くような声であいさつされて俺はびくりと反応してしまった。

いや、売ったってなんだ?

別に何か不正行為を訴えたりとかはしてないんだけどな。

「いや、俺はなにも……」

 弁明しようにも何を問題視してるか分からない。

 いや、待てよ。売ったと言えば売ったのか?

 そんなに先生に居場所を教えたことがまずかったのだろうか?

確かにいろいろと苦労は掛けると思うけど、そこまでの恨み言を言われるレベルで嫌だったんだろうか?

「まあ、いいよ。用事があるんでしょ?入って……」

 若干元気がなさそうなのが気になる。

部屋に通され、ソファに腰かけた。

玄関もなくいきなり部屋なので、狭く感じるけど、少なくとも俺が借りている部屋よりは広い。

「アルトリウス様がまさかモーダルにいるとはね。

 最悪だよ。

 しかも、守護の竜について、あれこれ任されるし。貴族社会とは縁を切ったつもりだったのにぃ。」

 貴族社会がどんなものかも知らないけれど、そこまで面倒なものなのかな?

 むしろおべっかを使われる立場だろうし、そこまでの苦労はないと思うんだけどなぁ。

「えっと、そんなにつらいんですか?貴族社会って……」

 とりあえず、カールが描き上げた挿絵を取り出しながら尋ねる。

「いやに決まってるじゃん。そもそも普通に礼儀作法が面倒くさいし、言葉一つで人の首が飛ぶ世界だよ?

 誰が好き好んで関わりたいと思うの?

 いっとくけど、首が飛ぶって言うのは仕事がなくなるって意味じゃないからね?」

 文字通りか。確かにそれは嫌だな。

「しかも私、これでも相当高齢なわけよ。

 正体を知っている人間なら、それはそれで構わないんだけれど、さすがに知らない人には認識してもらうのは厳しいわけよ。」

 確かに、来訪者の末裔であるという立場を易々と開示はできない。

色々な事情があるのはわかるけども。

 しかし、その事情をどうやって納得させているんだろうか?

少し気になった。

「公の立場としては、普通に年齢を名乗ってるんですか?」

 少なくとも、110歳ですと言われてこの見た目の少女が出てきたら疑うと思う。

「想像はつくでしょ?一応、今の私は二代目のレイナってことになってる。60歳くらいの時に前の私は病死したことになったし。

 一応、公式には30代ってことになってる。

 お母様は、それよりもさらに20年くらい前に、二代目として活動を始めてるよ。

 そろそろ3代目にならないと、変装が厳しいとか言ってたかなぁ。」

 なかなか面倒くさそうだ。

「まあ、私はもう開き直って転生したとか吹聴してるけどね。

 だから、大魔女とか陰口叩かれてるけど。」

 名誉の二つ名じゃなかったのか。

じゃあ、ベネットのやったことってとんでもなく失礼なことだったんじゃ。

「しかも一概に悪意を持っていわれてるばかりじゃないから始末に負えないよ。

 転生の方法とか、若返りの秘訣みたいなのが知りたいご婦人には、大魔女様素敵ですみたいな近づかれ方するし。

 まあ、美容整形でいいならいくらでもやってあげるけどさ。」

 複雑だ。

女性の社会はちょっと恐ろしい。

 しかし、美容整形なんてできるんだな。

「魔法でいじるんですか?」

 指をワキワキしてるが、どんな呪文を使うんだろうか?

そこは気になる。

「見た目だけね。粘土をこねくり回すみたいにしわを取ったり、顎をスリムにしたり。

 でも、全身をいじらないと違和感があるから割と大変。

 お金もそれなりに掛かるからね。

 でも、ある意味、それは自分の為でもあるんだよ。

 見た目が変わらないのは魔法のおかげなんだって思われれば、私たちにもメリットはあるし。」

 確かに変装をしなくて済むようになれば、それはそれで楽か。

「いっそ、異世界に転移できたらいいんだけどねぇ。」

 最後にレイナはぼそりとおばあ様に会えるかもだし、とも付け加えた。

気持ちはわからなくもない。

「ところで、ヒロシ君。私にも渡してくれるんでしょ?

 異次元ポケット。」

 先生から聞いていたのか、早速催促された。

「一応説明しておきますけど、あまり変な使い方しないでくださいね?

 必要なものは、代金と手紙を入れてくれれば確認して商品を置いておきますんで。」

 説明をしながら、専用インベントリに繋がるウェストポーチを渡す。

「なるほどねぇ……時間停止してるのは便利だけど、確かに面倒な部分もあるね……中に入れられた子たちは何か感じてるのかな……」

 出来れば、何も感じていない方がいい気がする。

SF系の怪談でも時間関係の怪談は多い。

5億年ボタンみたいに記憶がなくなっているけど、中にいる時は実際に5億年過ぎているので、気が狂ってたり精神が摩耗する。

 だけど、戻ると記憶がなくなるので意識はリセットされ気にせず使い続ける。

 まあこれは、結局は読者がそれを認識するから恐怖に繋がるわけだけども、何かの拍子に記憶が戻らないとも言っていない。

なかなかに秀逸な怪談だと思う。

 頼むから変なことにはならないで欲しい。

 それも怖くて、狼の子を拒んでいる面もある。

 とはいえ試しもしないうちに、能力を封印するというのもおかしな話だ。

いずれは試さないとな。

「なんか、ちょっと怖くなっちゃったから、本の話していい?」

 レイナもちょっと怖くなったのか別の話題を振ってきた。

ベネットの行軍記の話だ。

 挿絵のチェックが終われば最終稿として渡せるという事だから近いうちに出版が出来そうだ。

「でも、ベネットちゃんはかっこいいねぇ。一応戦闘詳報も見せてもらったけど、本当漫画のヒーローみたい。」

 本人はそういう扱いをされたくないらしいから、レコーダーに取った彼女の証言ではそこまで話はない。

 だけど、他人の証言もある戦闘詳報では、彼女の戦いぶりが垣間見えた。

「確かに、馬上からジャンプして《軟着陸》を駆使して落下速度を緩めたり、逆に鉤爪付きロープで加速したりとか、なかなかアクロバティックだなと思いますけどね。

 俺、そんな戦闘しているところ見たこともないですけど。」

 俺が知らないベネットの姿があるのが、ちょっと不満だ。

 とはいえ戦いはいつだって危険が伴う。

出来れば、無理をさせたくはない。

 させたいのか、させたくないのか、自分でも矛盾しているなとは思うけど、実際そう思っているから仕方ないよな。

願望とは折り合いを付けないと。

 そういえば本と言えば、ダンジョンで拾った本をレイナに見てもらうのもありかもしれない。

先ほどの怖いからという言葉からも、倫理的には俺とそんなに乖離していないと思う。

 だけど、これ以上迷惑をかけてもいいのかはちょっと悩むな。

本好きではあるけど、こういう本にも興味があるとは限らないから、どうしたものかな。

「なに?何か他にもあるの?さっきから黙ってるけど。」

 警戒されるのは仕方ないけど、割と責任重大だからなぁ。

軽々しく口にしにくい。

 でも失敗したな。

悩んでいる姿を見せたら、喋ってるのとあまり変わらない。

心理的負担になるだけだろう。

 これはもう話すしかないだろうな。

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