1-15 ハーレムは本当にあったんだ。(ただしイケメンに限る)
目が覚めたのが夜中なので、みんなはとっくに夕飯を済ませていた。
ミリーは俺に付き合ってて食ってなかったらしく、鍋に残されたポリッジを二人で貪ったわけだが……
飯を食いながら寝そうになっていた。
なんか申し訳なくなる。
と言うわけで、食後早々にミリーは退散してしまった。
俺は起きたばかりなので、早番のロイドと二人っきり、たき火を囲んでいる。
しかし見れば見るほどいい男だ。
妬ましい。
年齢からすると嫁さんとかいたんだろうか?
と言うか、こっちの世界だとどのくらいから婚姻してるんだろう?
貴族がいて、王様がいてってのは聞いているから勝手に中世から近世くらいだと思いこんでるけど定かじゃないんだよな。
現代にだって、別に貴族がいて王様がいる国だってある。
遊牧民だって立派に暮らしている。
電気機器がないからって、中世くらいだろうと思いこむのは危険だ。
魔法が発達してて、技術的な発展を遂げている可能性だって、異世界なんだからありだろう。
そういう意味でも風俗的な話は気になるよな。
「なあ、ロイド……ロイドって嫁さんとかいたの?……」
いきなり直球を投げてみる。
と言うか距離のはかり方なんかわかんねえよ。
特にロイドは、俺が苦手としているイケメンだ。
なかなか敬語が抜けなかったし、乗馬を習う関係じゃなかったらきっと話もできてない。
「三人いた……」
いきなり重婚発言ですか、そうですか……
あー、まあ、そりゃ優秀そうだもんな。
嫁さん三人いても不思議じゃないか……
くそう。
「三人とも死んだがな……」
なんか、どうということはないような感じでしゃべってるけど、結構重い内容ですよね?
あ、いや、今も奴隷として、どこかに囚われているよりかはマシなのかな?
うわー、言葉が出ないわ。
「安心してくれ。戦いに巻き込まれたのはいない。一人は流行病。一人は落馬で、もう一人は高齢のためだ。」
さらっと言うロイドだが、高齢のためになくなった嫁さんってなんだ?
ロイド、そんなに年いってるように見えないが?
「高齢でなくなった嫁さんって……どういう事?……」
俺の言葉にロイドは不思議そうな顔をしている。
「いわゆる寡婦だ。前の旦那が、俺の叔父でな……」
つまり、その叔父さんが亡くなったから養っていたと言うこと、なのかな?
あんまり羨ましくないな。
「彼女は60を超えていたから、寿命だろう。葬式は結構盛大に開いたよ……」
懐かしそうな顔をしている。
ここら辺の感覚は、よく分からないなぁ。
60歳ってまだ若いと思うんだが……
しかし、そうなってくると俄然興味が湧く。
「その60歳の嫁さんとは……」
やったんだろうか?
「最後の数年な。叔父を亡くした当初は、そういう気分ではないと断られていたが……」
うわー、老専なのかロイド。
いや、老婆とは限らないのか?
ファンタジーな世界だし、みんな死ぬまで若々しいって事だってありえる。
でも、そんなの聞けないしなぁ……
”しわくちゃだったの?”とか言えるかよ。
困った。
この環境だと、世界がどうなっているのかなんてさっぱり分からん。
テリーやミリーだってハーフリングと聞いたが、その生態なんぞさっぱりだ。
オークのハンスもゴブリンのヨハンナも種族名は知っているがそれ以外、まったく分からない。
でもなぁ……
鑑定で調べるのって、なんか失礼な気がするし……
調べているのが相手に伝わらないとは限らないからなぁ……
不意に”鑑定で調べないの?”とかって聞かれてないから未だに”鑑定”の能力が一般的かどうかも分からん。
こう言うとき、すっと記憶上塗りされても気分が悪いな。
考えるのはよそう。
そういえば、ロイドの重婚を妬んだ割に欲求がわかない。
ハーレムとか、作りたいとかそういう風に興奮しても良さそうなもんだが……
自己処理の回数は確実に増えたけど、あくまでも処理って感じだしな。
普通、体が若返ってるんだから精神年齢も引きずられてとかなるもんじゃないのか?
別段性欲が無くなってるわけでもなさそうだし……
不思議なもんだな。
あっさりと記憶の上書きをする割には、俺の行動に対しては補正がかかってない気がする。
これだけ都合の良いことが重なってるんだから、きっとろくでもない奴が力を渡したんだと思うんだが接触無いしな。
みんなの話してくれた宗教がらみの内容が真実を含んでいるなら、絡んできそうな神様は結構いそうなんだけど。
神様からしたら、俺程度取るに足らない存在なのかねぇ。
ま、そんなもんか……
出てこられても対処に困るから出てこないでくれた方が助かる。
むしろ善なる神様が出てきて、世界を救うのだとか言われる方が、よっぽどやだよ。
正しいだけに、拒否したり妥協したりができない。
そんなの交渉にならないからな。
とはいえ、強制的に悪いことをさせられるのも勘弁願いたいし……
まあ、唯一正しい絶対神って話は、みんなからは聞いてないのでほっとしてる。
どんな神様をあがめても、それはその人の自由って雰囲気だから、特にどの神様をあがめてるとも聞かれてないしね。
関わる人全員が、そんな感じで緩かったらありがたいだけども。
このキャラバンで過ごしていくなら、なんの問題もないんだけどなぁ。
あ、一応ロイドにも話しておかなきゃ。
「ちなみに、ロイド……俺が、いずれキャラバンから抜けるって話はしてたっけ?……」
なるべく軽い調子を心がけて尋ねた。
「何度か聞いたし、理由も想像できる……」
どうやらロイドは納得しているみたいだ。
と言うか、そうか何度もしてたか……
乗馬を習っているときに話してたような気もしてたし、ロイドは知ってたよな。
じゃあ、テリーとかヨハンナも知ってるんじゃないだろうか?
ミリーだけかな?話してないのは……
ミリーにも話したつもりだったんだけどな。
こう言うとき、自分の曖昧な記憶力にうんざりする。
だから余計に都合よく記憶を上書きされると気分が悪い。
特に今は不都合がないので、いかんともしがたいので放置しかできない。
それで、またイライラする。
駄目だ。
寝よう。
こう言うときは寝るに限る。
「じゃあロイド、もう一眠りするよ。おやすみ……」
俺は立ち上がり寝床へ向かう。
「おやすみ……」
素っ気ないけど、いつもしっかり返事はしてくれる。
ロイドのそういう態度が好ましく、俺は何となく笑った。




