6-18 先生まで召集されてる。
先生は怪獣映画の博士ポジションですかね。
ただ怪獣映画と違って先生の場合は直接ドラゴンをぶちのめすことは可能なわけですが。
「メイ、お茶を用意してくれるかな?ヒロシ君からクッキーを頂いたから一緒に出してくれると嬉しいな。」
先生は席を付くなり、兎頭のメイドさんにおみやげに持ってきたクッキーを渡した。
「畏まりました。少々お待ちください。」
綺麗なお辞儀をしながら、メイと呼ばれたメイドさんはいったん部屋を後にした。
「あまりに簡素な部屋で気がめいりそうだけど、どうぞ座って……」
先生に席を勧められて俺は椅子に座った。
確かにいつもの部屋に比べたら簡素だとは思うけど、決して粗末な感じはしない。
まあ、趣味の問題だよな。
「いきなり連絡が来て、伝令役を仰せつかってね。まあ、お金をいただいて仕事をしているわけだから文句を言う筋合いはないのだけども。
面倒だよね。」
気持ちは分からないでもない。
「ところでヒロシ君は何だってこんなところにいるんだい?」
一応、御付きの団員さんもいるので、こんなところというのが悪口とかに聞こえてなければいいけれど。
いや、まあ先生の雰囲気にあってないのは確かだけども。
「いろいろありまして。かいつまんで話させてください。」
メイドさんがお茶とクッキーを持ってきてくれたところで話を始める。
断りを入れておかないと先生の話に聞き入って朝になってしまう。
一応モーラ様には申し訳ないけれど名前を伏せさせてもらい、ドラゴンに襲われたことと遭難したこと、そしておそらくは原因であろうと濁しつつモーラ様の大ポカを話す。
遺跡については伏せておいた。
下手に見つけた本の話をしたら面白そうだからやってみようかなんて言われかねない。
「なるほどねぇ、それは災難だった。
呼ばれた人もだけれど、アーバレスも無念だったろうね。」
突然の名前にちょっと俺は混乱する。
話の流れからすると、この地域を守ってくれていた竜の名前だろうか?
「もちろん、ヒロシ君も大変だったろう。
とはいえ、生きながらえたんだ。幸運を祝おう。」
先生は紅茶の入ったカップを持ち上げた。
「ありがとうございます。ちなみに、そのアーバレスという方はどなたですか?」
推測はできるけど、確認はしておかないとな。
「あぁ、ごめんごめん。察しはつくと思うけれど、西部を守護していた竜の名前だよ。
気難しい銀の竜でね。
その物言いがナイーブになっていた人の癇に障ったのかもね。
いずれにせよ神のいたずらというのはいつも困ったものだよ。」
困ったもので解決していい問題じゃないと思います先生。
とはいえ、もう起こってしまったことだしな。
「しかし、だとすると誰が来るんだろう?見当はある程度つくけど、来てもらっても安定するかどうか。」
それはどういう事だろうか?
ある程度の事情を知っている先生が危惧する内容というのが気になる。
「何か問題があるという事でしょうか?」
うーんっと先生は唸った。
「まあ、ヒロシ君には会ってもらった方がいいね。
こちらに来たら紹介するよ。
単純な話、まだ経験の浅い子が来ると思うんだ。
そうなると、私もある程度サポートしてあげないといけなくなる。
私もそういうことは久しぶりだからね。」
竜のサポートって、やっぱり先生はとんでもない魔術師のようだ。
「ちなみに領主様たちは、このことをご存じなんでしょうか?」
少し不安になる。
もし、そういった事態が伝わらなくて、関係がこじれたりとかしたら目も当てられない。
「それは大丈夫だよ。
貴族というのは伝統を守るものだ。
それには、当然竜に対するしきたりも含まれている。
偉そうにふんぞり返ることだけが仕事じゃないからね。
叙勲を受けたら当然、一般教養として覚えておかなくちゃいけない。
知らなかったじゃすまされないこともあるんだよ。」
なんだかこの世界の貴族に同情してしまう。
100年単位の出来事の対処法なんか伝えきれるものとは到底思えない。
先生の齢は知らないけれど、たぶんエルフの基準で考えてるんじゃないだろうか?
生きて経験したことと、言い伝えじゃ全然違うと思うんだよなぁ。
長い伝言ゲームだ。
絶対何かヘマが起こる気がするんだよなぁ。
「心配しすぎなくていいと思うよ。
守護を担当する竜というのはやさしい子が多い。
多少のヘマなら大目に見てくれるよ。」
あんまりにも心配しているのが伝わったのか、先生はフォローを入れてくれた。
じゃあ、安心ですねと単純に思えたらよかったんだけどね。
「100年というと、アルノー村にいるレイナさんがいろいろと知っているんじゃないでしょうか?」
ちょっと水を向けてみる。
来訪者の末裔として長い年月を過ごしてきたんだから、いろいろと知ってるんじゃないだろうか?
「レイナちゃん、アルノー村にいるんだね。
悪いけれど、しばらくはお手伝いしてもらうかな。
やはり爵位というものは使ってなんぼだからね。」
なんだか生贄に捧げてしまったようで心苦しいが、打てる手は打っておくべきだと思う。
埋め合わせはするので勘弁して欲しい。
「ちなみに、先生にとってはドラゴンなんか一捻りだったりするんですか?」
ちょっと気になったので聞いてみた。
「いやいや、物理的には無理だよ。
見てよ、この細い腕。
多分、女の子にも負けちゃうよ。
もちろん、呪文で何とかする方法はいくつかあるけれど、ドラゴン相手だとね。
さすがに厳しいものがあるよ。
暴れてる子だけなら何とかならないでもないかな程度だよ。」
謙遜する内容が半端ない。
あの小山のようなでかさのドラゴンを何とかならないこともないというんだから、それだけでも十分凄いだろう。
そういう意味で、人間側にも切り札がいるというのも確かなんだろうな。
やはりそうなると渡しておくべきかな。
いざという時には、いろいろとお願いしなくちゃいけないこともあるだろうし。
「それで、先生ちょっとこれをお渡ししたいと思うんです。」
俺は、先生専用のインベントリを渡す。
旅先で見つけた、ちょっとシャレたかばんに紐づけてみた。
「ん?ただのカバン?」
あれ、俺の能力について何も話してなかっただろうか?
「えっと、実はですね。そのかばん、俺の持っている能力と紐づいているんです。」
一通りの説明をしたことで、どんなものかはわかってもらえたような気がする。
「なるほど、大体は理解したよ。何かあればこれに手紙を送ればいいんだね?
しかし、人によってお知らせ機能が付いたり、付かなかったり、リストが可視化されたりされなかったり、なかなか謎が多いね。
面白い。
ちなみに、私に何か送ってくれないかな?
どうなるのかを見てみたい。」
分かりましたと言って俺は先生のインベントリにポーションを送ってみた。
「ふむ、お知らせ届くね。
魔術適正が関係してるんだろうか?
ちゃんとリストも見える。
ちなみに、ヒロシ君にも見えるかい?」
透明度が変化したように光る板が出現する。それを先生はひっくり返して俺に見えるように角度調整してきた。
驚いた。
モニターを経由しなくても、人に見せることって可能だったんだな。
もしくは、先生だからできたんだろうか?
「どうやら見えるみたいだね。
面白い。
できれば私にも何か能力がもらえないものかなぁ。
いろいろと研究してみたいよ。」
確かに、俺なんかより先生が能力を持った方が有意義に使ってくれそうな気もする。
ただ、ちょっと悪意はないにせよ探求心が行き過ぎる面があるので、そこは心配な気もするけども。
まあ、どこの馬の骨ともわからん人間に渡すよりはましな気がするよなぁ。
「ふむ。
少し考えたけれど、出来ればレイナちゃんにも渡してもらえないかな?
あと、こちらに来る新しい担当の子にも渡してもらいたい。
いざという時に役立つかもしれないからね。
これはヒロシ君にも利益になると思うよ?」
確かにそれはその通りだろう。
ドラゴンに使いやすい”収納”がどんなものかちょっと考えないといけないかもしれない。
準備しておこう。
「分かりました。準備させていただきます。」
しかし、問題は枠ぎりぎりまで2tずつ割り当ててしまうと俺が使えるインベントリが枯渇するという事だ。
渡す人を今まで増やそうと思ってなかったから、少し加減をしないとな。
ただ、そこまで広げなければ平気だよな。
ひとしきり先生と話した後、居留地で借りた寝室で仮眠をとる。
久しぶりに安心して眠れる。
とはいえ、ベネットと一緒になって後部座関で寝入ってしまったので若干寝つきが悪い。
なのでベネットとトーラスのインベントリに《増強耐火》ポーションを仕込んでおいたり、これまでの顛末をキャラバンのみんなに知らせるために手紙をしたためて時間を過ごした。
しかし、グラスコーには悪いことをしてしまったかもしれない。
3か月も予定をしていた旅を中断させてしまったわけだし、ベネットとトーラスの護衛契約も解除されてしまっている。
もちろん市側の要請なので日当分の補填の他にも、それなりの補償金が支払われるらしいけど。
でも、俺がベネットに手紙を書かなければこんなことにはなっていなかっただろうな。
明日倉庫に顔を出して謝っておこう。
そういえば、双眼鏡の注文が暁の盾から入っている。
元々、トーラスに渡していたから注目されていたらしいけど、今回の事態を受けて、その重要性が増し早急に数を揃えたいと打診された。
数としては80なので、卸の値段で買うと若干在庫ができてしまうけど、手に入れるに越したことはないだろう。
遅かれ早かれ、有効性には気づかれてただろうし。
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