6-13 ようやく脱出できそう。
今回はアクション描写に力を入れてみました。
ちょっとヒロイックだったかもしれませんが、それくらいの力を実は与えてもらっています。
いつのまにか寝てしまっていたらしい。
目が覚めて、確認すると8時間も寝ていた。
朝食というには遅い食事を済ませる。
こういう時でも、飯は食えるんだよなぁ。
とりあえず、もうそろそろ地上にたどり着けそうだとベネットに伝える。
しばらくの間が空いて、返信が来た。
予想はしていたけど聞きたくなかった内容だった。
ドラゴンが村を襲撃していたという内容だ。
ベネットたちが当初、ドラゴンが出たという話を衛兵に伝えた際には、そんなものが出てくるはずないだろうという感じで取り合ってもらえなかったらしい。
だけど、そのあとたまたま巡回していた衛兵が現場を目撃して呪文による伝達が行われると状況が変わった。
呪文による伝達何てよっぽどのことがない限り行われない。
そのよっぽどのことが起こったと判断されたようだ。
>現場の状況を聞いたけど、悲惨な状態だったって。
>それで、衛兵さんが確認を取ったら、すでに全滅している村がいくつか。
書いているベネットも恐ろしいのか、文字が若干乱れていた。
地下にいる俺は、ドラゴンの脅威から逃れられている。
そのことがむしろ俺にとっても恐ろしかった。
ドラゴンのテリトリーがどの程度なのか分からないので、ベネットが襲われる姿を思い浮かべただけで震えてしまう。
>対策はどうなってるの?
ともかく、無策なままではないだろう。
なにがしかの対応があるはずだ。
>暁の盾が招集されて、対応に当たることになったって。
>でも、昨日の今日じゃまだ編成も終わってないと思う。
襲撃現場はモーダルの近郊だ。
アルノー村なんかも心配だ。
あるいは、レイナなら何とか出来るんだろうか?
もしくは先生か。
勝手に信頼を寄せてしまっているけど、何か望みがないとやってられない。
>みんな寝ずの番をして警戒しているけど、正直私たちじゃ逃げるしかない。
>もし地上に出られたらすぐに連絡してね?
>自動車なら逃げ切れると思うから。
森の中を走れば、あるいは逃げ切れるかもしれないな。
出来れば、野原に出ないことを願おう。
狙ってくれと言ってるようなものだし。
しかし、本当に心配だ。
ベネットが狙われたらどうしよう。
こういう時本当に無力だ。
何もできない。
いや、何もできないじゃない。
ともかく、一旦地上に出て座標を確認しよう。
周りの状況もだ。
救出をしようとしてくれてるベネットたちに迷惑をかけられない。
結果として俺の選択肢は間違ってなかった。
もし、救出のためにうろちょろなんかさせてたら狙われる可能性がある。
あるいは、ベネットたちに地下にいてくれというべきかもしれないけど、都合よく地下がある施設が近くにあるとも限らない。
車に乗って移動してくれているのが一番安全だ。
幸い、他者へのサービス提供ができるようになってたおかげで給油サービスも修理サービスもグラスコーの車には適用されている。
あるいはそれでも事故や故障が起こるかもしれないが、もうそれは祈るしかない。
ウルズ様、ベネットたちに加護を。
ともかく、作戦は考えた。
後は、うまくいくことを祈るばかりだ。
作戦は簡単だ。
守護者が追いかけてくるというなら追いかけさせる。
そして、鉄球の罠にはめる。
上手くいくかどうかは分からない。
とりあえず、丹念に障害物は取り除こう。
幸い図面の通りなら、鉄球の罠までは階段を挟むとはいえ直線だ。
もはや争いを避けるなんてまどろっこしいことはしない。
挑みかかってくるなら、受けて立つ。
気迫が通じてくれたのか、余計な戦闘は起こらない。
流石に地上に最も近い階層だとゲートに呼び寄せられる魔獣なんかはいないのかもしれない。
迂回して、広間に最も近い曲がり角にたどり着けるように移動した。
ちらりとのぞき込む。
確かにいた。
鎧を身にまとった牡牛だ。
しかもでかい。
普通の牛の2倍くらいあるんじゃないだろうか?
通路の幅ぎりぎりの大きさだ。
移動速度は、ぎりぎりこっちが勝っているといった感じだ。
《加速》を使えば、あるいは逃げおおせるだろうけど、それが目的じゃない。
あれを倒すのが目的だ。
俺は、ゆっくり曲がり角から姿を現す。
だが、動く気配がない。
頭は地上へ続く階段の方へ向けている。
追っかけてくる条件は何だろう。
ともかく、ゆっくり、ゆっくり近づいていく。
相手が動き出すタイミングを見誤ればひき潰されるだろう。
広間に一歩足を踏み入れた。
ぐるりと牡牛が振り向く。
俺も振り向き一目散に逃げだす。
まるで地響きで地面が揺れているかのような音を響かせ守護者は追いかけてくる。
鼻息がかかるんじゃないかぐらいぎりぎりだ。
階段をジャンプして飛び降りた。
《軟着陸》が発動してふんわりと着地できたけど、おかげでジャンプで稼いだ距離が無駄になった。
いや、これも作戦のうちだ。
どこまで頭が回るか分からないが、ぎりぎりじゃなければバレる可能性もある。
ともかく、俺は走る。
タイミングが重要だ。
多分《加速》をかけるタイミングを間違えたら俺がぺしゃんこだ。
ここだ!!
俺は加速をかけて、ど真ん中を踏み抜く。
ばくんと壁が開き、鉄球が飛び出してくる。
ゆっくりとした動きに見えるのは《加速》の影響だろう。
駆け抜けるのは問題ない、あとは牡牛が引っかかってくれるかだ。
急いで振り返る。
鉄球遅い!!
牡牛が駆け抜けてきてる。
俺は槍を取り出した。
抜けてくるなら押し戻してやる!!
ハンスが教えてくれた技だ!!
喰らえ!!
俺は、全神経を集中して槍を突き出した。
どんっという音が響き、牡牛を鉄球の場所まで後退させることに成功する。
そして、ぐしゃっという音とともに、牡牛が鉄球に押しつぶされた。
だがまだ生きている。
とどめを刺すために、俺は駆け出して、さらに槍を突き出した。
ざっくりと槍が刺さると、牡牛が光の粒子に変わる。
それと同時に《加速》の効果が切れた。
ぎゃりぎゃりと鎖を巻き上げる音が響き、鉄球が壁へと引き戻されていく。
牡牛のいた場所には大量の秘石がばらまかれていた。
なんだこの量。
もはやどれくらいあるか分からない。
とりあえず掃除機の要領で水で包み込んで一緒にインベントリにしまい込む。
それと同時に電子音が響く。
レベルが上がってくれるのはうれしいけど、タイミング良すぎだよ。
後ろから、雄たけびのようなものが聞こえる。
やばい、他の魔獣に気づかれたか。
来た道を戻らないと。
罠をよけて、俺は広間まで走る。
たどり着いたところでゲートで呼び寄せられた魔獣たちは階層を越えられないことを思い出す。
なんだよ、焦る必要なかったじゃないか。
両手をついて、俺はへたり込んでしまった。
本当に俺は抜けてる。
そもそも、他に仕掛けがあるんじゃないかと推測してたのに、その場所でへたり込むのは頭が悪い。
幸い何もなかったからよかったけど。
ともかく、遺跡側の出入り口をシャッターで封鎖しよう。
若干、間口が広くて左右を杭で止めることはできないけど、一応上下には杭が打てる。
部屋の中央には魔法陣が描かれている。
これで守護者を召喚してるんだろうか?
でも、”鑑定”では何も出てこない。チョークと蝋しか成分表は表示してくれない。
稼働してないんだろうか?
ともかく、仮に”鑑定”で分からない仕組みであってもひと月は出てこないはずだから大丈夫だろう。
魔法陣をいじるとなんか厄介なことになるかもしれないから、触るのはよそう。
とりあえず、他に何もないことを”鑑定”で確かめる。
目に留まる様なものはない。
まあ、さっきへたり込んでたんだから何かあったら発動してるだろう。
本当に間が抜けている。
先ほどは、牡牛が居て見えなかったけど、上り階段が見える。
こっちも扉なんかはないので、あとで塞がないとまずい。
とにかく地上に続いているのかを確かめないと。
階段を上り始めてみても、光が差し込んでくるわけじゃない。
ちょっと不安になる。
あの本に書かれていたことが全部でたらめだったらどうしよう。
祈るような気持ちで階段を踏みしめる。
大した段数じゃなかった。
登りきる前に、森の中へ出られることが分かる。
完全に出てしまうと、何かに見つかる可能性もあるから、外を窺うくらいにとどめておこう。
多分、祠があってそこに階段がある様な感じだろうか?
とりあえず、現在地を確認してみる。
この階段はどうやら別次元ではないらしく、ちゃんと座標が表示された。
どうしよう、外に出て改めて確認するべきなんだろうか?
正直、外に出るのが怖い。
引き返そう。
祠側も、同様にシャッターを使って封鎖をする。
ベネットたちが来るまでここで過ごそう。
外は緊迫した状態だろうから、連絡を取るのが躊躇われたが無事地上に出れたと報告しておく。
ついでに、現在地を記した地図も送る。
>分かった。
>ともかく、そこでじっとしていて。
>到着したらトランシーバーで連絡するから。
その返信に、ちょっと不安になった。
果たして別次元に無線は通じるんだろうか?
とりあえず、定期的に階段に出よう。
そこなら、無線は通じるはずだ。
多分。
シャッターがあれば安全と思っちゃいけないとは思うけど、本当に疲れた。
外に出れば出たでドラゴンがいるわけだけど、どうにかならないものか。
無駄に何かを聞いても、ベネットを困らせるだけだろうし、こっちから連絡するのはよそう。
何か気晴らしができるものがあればいいんだけども。
そういえば、レベルアップしてたんだなぁ。
確認するかなぁ。
そういえば、”売買”のレベルも上がっていたんだっけ、いろいろありすぎて確認してなかった。
でも、そんなことをしてる場合なのかなぁ。
いや、出来ることはもうないし。
なんだか何もやる気が起きない。
もういろいろと限界だ。
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