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6-11 おっかなびっくり、ダンジョン行

ここは開き直ってイケイケどんどん

というわけにはいかないのが持ち味です。

 一息ついたところで、俺はシャッターをロックして、杭で壁に固定した。

ちゃんと立てて杭を打ち込めば、そうやすやすと侵入されないだろう。

 そういえば何度も電子音が響いていた気がする。

お知らせ機能の音だとは気づいていたけど、確認する余裕なんかまったくなかった。

 交換日記形式の紙、ベネットから大丈夫かと矢の催促が来ている。

俺は、紙を取り出してみてみた。

 読み取り不能となっている箇所があったからだ。

返事してと滲んだ字で書いてある。

>無事だよ、ベネット。何とか落ち着いた。

 慌てて返信を送る。

相変わらず、パソコンの文字で申し訳なくなる。

 俺はLEDランタンを取り出して、明かりをつけて暗視ゴーグルを外す。

結構な光量だ。

 部屋の中にはいろんなものが散乱しているけれど、全体的にがらんとした雰囲気があった。

バインダーを取り出して、手紙を書き始める。

 とりあえず、今までの経緯をまとめてベネットに送るためだ。

どう考えても要救助者としてはやってはいけないことを連発している気もする。

 とはいえ、襲い掛かってこられる可能性を考慮した場合に、左右から迫ってこられる状況は看過できなかった。

 これはいわゆるダンジョンという奴だとは思うけれど、正確なところが分からない。

 現在位置の確認のために座標を確認しようとすると表示されないことにも気づいた。

明らかにおかしい。

こんなことはあり得るんだろうか?

 一応、それも盛り込んで書いておく。

ベネットが別の紙に返事を書いてきた。

>遺跡の中には方位磁石が効かないところもあるってグラスコーさんが言ってるわ。

>それと、部屋の中に何か罠があるかもしれないから注意して。

 的確なアドバイスで助かる。

俺はすっかりその可能性を忘れていた。

>分かった、調べておく。

 そう返信した後、ざっと”鑑定”をかけてみた。

普通に鍵を掛けた部屋に罠を掛けるものかとも思ったけど、何らかの重要機密があれば定まった手順に従わなかった侵入者を排除する仕組みがあっても不思議ではない。

 それに、どうにも人が活動するために作られた建造物には思えなかった。

年月が経ちすぎて劣化した部分もあるんだろうけど、解釈に苦しむ構造だ。

 なんで崖下に入り口があるんだ。意味が分からない。

 ともかく、そんな建物なんだから、何があるか分からない。壁や天井、床も念入りに”鑑定”していく。

 壁の一か所に材質が違う場所があった。

 どうするべきだろうか?

 放置しておいた方がいいだろうか?

 今のところ何かが発動するような気配はない。

 でも、この構造的に多分隠し扉だよな。

槍でつついて押してみる。

 奥に壁の一部がずれた。そのまま横にずらす。

引き戸みたいな単純な構造のように思える。

 特に何か噴き出すとかもない。

 そこにあったのは、いわゆる宝箱みたいな箱だ。

こういう箱が生きていて襲い掛かってくるって場合も、定番だけど、”鑑定”する限りはちゃんとした収納用具のように見える。

値段がついてるのがなんとも。

 当然これに罠が仕掛けられている可能性もある。

少し考えてそのまま槍で触れてインベントリにしまってしまう。

 もし仮に毒が噴き出すとか、開ける時に針が飛び出すとかの罠ならそのまましまってしまえばいい。

触れた瞬間爆発する場合でも、爆発までにはタイムラグがあるはずだ。

 だからインベントリにしまえば爆発もしない。丁度いいだろう。

 他には何もなさそうだ。

 ほっと溜息をつく。

>隠し扉があって、宝箱があったよ。

 ベネットに一言言っておいた。

>なんで開けるの?罠があったかもしれないでしょ!!

 キレられた、泣きそう。

 いや確かにうかつだった。隠し扉だから、罠はないかなと思ったけどそういう心理の裏を突いたトラップもありうる。

ベネットの言うとおりだ。

>ごめんなさい。

 素直に謝っておく。

>こちらこそごめんなさい。言い過ぎたと思う。

>でも、慎重に行動してね?

>絶対助けに行くから。

 別の意味で涙が出そう。

 安堵感があって、急に眠気が襲ってくる。

 完全に寝ていいものでもない。

 非実体の敵だっているわけだから、でも意識を保てそうにない。

>ごめん、眠くなってきたから少し休むね。

>起きたら返事をするから。

 俺は毛布を取り出してかぶり、壁に寄りかかった。

>おやすみ。くれぐれも気を付けてね。

 ベネットの返信を見て、俺は目をつぶった。


 どれくらいの時間がたっただろう。

寝入った時間は分からないけれど、少なくとも6時間くらいは寝てたかもしれない。

 あれほど完全に寝入ったらまずいと思ってたのに、起きたら毛布を下敷きにして横になっていた。

ベネット心配してるかも。

>ごめん、完全に寝入っちゃってた。

 一応連絡を入れた。

>おはよう。問題がなければいいけれど、ちゃんと寝れた?

 怒ってるかなと思ったけど、優しい言葉を掛けられてうれしかった。

>大丈夫、今のところは変な動きはないよ。

>ちょっとお腹を満たしておきます。

 水を飲んで、軽く食事を済ませた。

さて、どうしたもんだろうか?

 少なくとも、最後に送った座標にある谷間からは多分出入り口がない。

目指すとするなら上だろうか?

 でも、下手に動かない方がいいのだろうか?

出入り口を探しに行って、さらに迷うというのはありがちな話でもある。

 正直悩む。

 多分、出入り口を探してもらうには安全な状況じゃないと難しいだろう。

ドラゴンが出たという事はおそらく、救助隊の安全は保証できない。

 助けてもらうなら、出入り口の座標が定まっているところにさっと来てもらってさっと立ち去るのが一番望ましいだろう。

 やっぱり上を目指した方がいいと思う。

 もちろん、上へとつながる道があればという話だ。

 幸い、俺には魔法能力がある。

姿を隠し、透視なんかを駆使して進めばある程度の隠密性は確保できると思う。

 ”鑑定”のおかげで罠も見つけやすい。

 マッピングしながら、探索した方がいい。

という結論が出たわけだけど。

 ベネットにはどう説明しよう。

ちゃんと話せばわかってもらえると思う反面、彼女にいらぬ心配をさせるような気もする。

 食事も済んでしまい、考えが堂々巡りしてしまう。

 ともかく話してみよう。

>とりあえず、体力も回復したので上を目指そうと思います。

>《透明化》や《透視・盗聴》もあるので、慎重に行こうと考えていますがどうでしょう?

 なんか文体が改まってしまう。

>ヒロシ、くれぐれも気を付けてね。

>無理そうなら、どこかに隠れていてもいいから。

>3日以内にはそちらに行けると思うから、それまではがんばってね。

>何かあったらいつでも連絡してね。

 否定されなかった。

てっきり怒られると思ったんだけどな。

 でも、決して見放すようなことは書かれていない。

とても心強い。

 よし、やってみよう。


 まず、LEDランタンを消して、暗視ゴーグルをかぶる。

 次にシャッターを止めている杭を外す。

 そして、シャッターをインベントリにしまう。

マッピング用のソフトも用意したので、慎重に進もう。

 《透明化》を掛ける。

 魔法のオーラを消すことはできないので、そういう視覚を持つ相手にはバレバレだから、なるべく身を隠しながら慎重に進む。

数分で切れる呪文なので、慎重と言ってもなるべく急ぎたい。

身を隠す場所がないところで切れたら何の意味もない。

 運よくすぐに上へ向かう階段が見えた。

目的は上へだから、上に進む道がある限り上を目指そう。

 いくつかの罠をかいくぐりつつ、次のフロアへと足を踏み出す。

耳を澄まし、注意しながら進む。

 ふいに気配を感じる。

 壁に身を寄せてしまう。意味はないかもしれないけれども。

曲がり角を覗くように、触手を備えた顔が通路を覗いてきた。

 ”脳喰らい”だ。

人の心を魅了したり、心理的な衝撃を与える攻撃方法を持っている化け物で、魔術が得意な個体もいる。

 思わず、バレたかと思ったがすぐに別の方向へと歩いて行ってしまった。

 あいつに捕まると、脳を食われて下僕にされたり家畜にされる。

とても仲良くできる相手じゃない。

 そっと見送る。

 そして、逆方向へと歩いていく。

 部屋がいくつか続いているがすべて無視して、なるべく階段が無いかと探し回るが呪文が切れそうになる。

慌てるとよくないので、早々に入れそうな部屋を探した。

 誰もいなさそうな部屋に入り、ほっと胸をなでおろす。

 ちょっとシャレにならない。

あんなのがいるとは、とても俺じゃ太刀打ちできないだろう。

 呪文をかけなおして、先へと進む。

何回か罠やモンスターをやり過ごしながら、ようやく階段を見つけた。

 とりあえず、やってることはそれの繰り返しだ。

 ただ、持続時間の短い呪文だ。可能な限り《透明化》だけを準備したけれど心もとない。

 あっという間に、1日で準備できる分を全て使い切ってしまう。

 ここからは、お金を浪費することになるけれどワンドで《透明化》を使おう。

 しかし、いったい何階あるんだろうか?


 ついにワンドが朽ちて砕けてしまう。

既に脳喰らいのいる階層から7階層上ったのでそろそろ崖の上に出ててもおかしくはないと思うんだけど、とりあえず今日はこれで打ち止めだ。

 呪文が切れそうになる前に、階段が見つからなければ目星をつけた部屋に戻ってやり過ごそう。

 あたりを見回し、物音がした方向に《透視》で様子を探る。

 顔剥き狼と言われている奴らが群れをなして歩いて行っている。

時折、俺の匂いを感じるのかクンクンと鼻を鳴らすが、姿が見えないので不思議そうな仕草をして立ち去っていく。

 なるべく動かないようにしてやり過ごした。

群れが通り過ぎた後で、俺は逆の道を選んで歩いて行った。

 階層が上がるにつれて、出てくる魔獣やモンスターの種類が増えていっている。

逆に手ごわさで言えば比較的与しやすい相手が比率としては増えていっていた。

 先ほどの、顔剥き狼って言うのも、倒そうと思えば何とかなりそうな魔獣だ。

普通の狼と違うのは、口を剥くとベロンと顔全体まで剥けてしまうくらいで、確かにびっくりはするけど、それだけの魔獣だ。

 とはいえ数が数だ。

やり過ごせるなら、それに越したことはないだろう。

 向かった先に上へと続く階段がある。

出来れば地上に繋がっていて欲しい。

 階段に足を掛けると、急に電子音が鳴る。

レベルアップを告げる音だ。

 思わず俺はびくっとしてしまった。

 この音が他人に伝わることはないみたいだから、誰かにバレる心配はないが、勘弁してほしい。

 しかし、こうやってやり過ごすだけでも経験値をくれるとはいいマスターだな。

運営しているのが誰だかは知らないけど素直に感謝したい。

 だけど、いきなりドラゴンと遭遇は勘弁してほしかった。

 やっぱりロキなのかねぇ。

 あぁ、いやロキ様なのかな。

モーラ様には、やはり荷が勝ち過ぎると思うし。

 ともかく、階段を上り切る。


 まあ、分かってた。


 まだ明かりが見えない時点で、外じゃないだろうなと思ってはいた。

登り切った先は、まだ暗い通路が続いている。

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