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6-8 念願の地図を手に入れたぞ!

順調で何よりですね。(暗黒微笑)

 お貴族様への挨拶というのはともかく堅苦しい。

話していいと言われるまで顔を上げることもできないのがつらいところだ。

意外とこの姿勢疲れるんだよな。

「三男坊だったか。確か出家していたのであったな。まったく、その割に文章はしっかりしておらん。

 よろしくね、叔父さんとは、まったくしょうもない奴だ。」

 これの調子からすると大分老齢なのかな?

大分革新的なことをしているので、勝手に若い男性だと思い込んでいた。

「これより発言を許す。顔を上げよ。」

 これでようやく顔を上げることができる。

「発言をお許しいただきありがとうございます。」

 とはいえ、こちらから言うのはまず感謝の言葉だ。

 ラウゴール男爵は白髪交じりの神経質そうな老人だ。

威厳もあり、とても庶民は近づきたいとは思わない雰囲気を放っている。

「まず、こちらの品をお納めいただければ幸いに存じます。」

 横に置いておいた箱を自分の前に置く。

いわゆる付け届けという奴だ。

 中身はほとんどの場合サンプル品だ。

これから商う品をご覧ください。できれば、購入してくださいという合図になる。

 もちろん、これは商人の場合だ。

 もし、まったく商売が関係しない場合は、お金や宝飾品などが好まれる。

 つまり換金性の高いものだ。

最低でも金貨10枚くらいは覚悟しておいた方がいいとは言われている。

 これもいわゆるお気持ちだ。

正解の金額はない。

 低すぎれば機嫌を損ねられるし、高すぎれば疑われる。

非常に厄介だ。

 ここら辺の話はグラスコーからだから、たぶん間違ってはいない知識だと思う。

 まあ、時には手ぶらでも無学な庶民で片付けられるそうだけど、話を聞いてもらうなら必須だろうなぁ。

 差し出した品物は、そばにいた男性が手に取り、男爵のもとへ届けてくれる。

「噂は聞いている。確か防刃服にタオルだったか。当然、織機はあるんだろうな?」

 目ざとい。

これまであってきた男爵は皆、現物を渡せば満足してくれていた。

作れるものを要求されるのは今回が初めてだ。

「防刃服につきましては、残念ながらまだ入手出来ておりません。」

 ピクリと眉を動かされると冷や汗が出てくる。

「しかし、タオルにつきましてはアレストラ工房に発注いたしまして、完成品を持っております。

 1台、ご笑納いただければ幸いに存じます。」

 なるほどなと小さくつぶやかれた。

 胃が痛い。

 男爵が側仕えの人を指さすと、その人が手を鳴らす。

ぞろぞろと謁見の間から人が出ていく。

 下がっていいとは言われていないから、俺は退出してはいけないのだろう。

確か、内密な話がある場合にこういうことをされるのだとか。

「すまんな、これも仕事なのだ。許してくれ。」

 何処か疲れたような声で男爵がしゃべり始めた。

「立ってくれて構わないぞ。ここからは非公式な話だ。

 そうだな、同業者として話したいんだ。構わないか?」

 つまり、一応許しは得たと思っていいのかな。

「分かりました。無作法な人間ですので、お許しいただけるならこれほどありがたい話はありません。」

 俺の言葉に男爵は笑った。

「まあ、いきなり畏まるなと言われても困るだろうな。

 それで、防刃服の製造方法はわかっていないのか?

 遺跡か何処かで見つけたのだろうか?

 それにしては、数が多い。

 実は、製造者を知っているんじゃないのか?」

 畳みかけるように男爵がしゃべりかけてくる。

「ナセル様、ヒロシ殿もそんなに一気に話しかけられては混乱します。

 秘密を明かせと無理強いするおつもりですか?」

 側仕えの男性がたしなめるように発言した。

「クロード、何もそんな惨いことをしようとは思っていない。

 数さえ揃えられるならそれで構わんのだ。

 それに、そもそも家督はとっくに継がせておるのだから商売に口を出す必要はないんだがな。」

 ナセルというのが、男爵の名前なんだよな、たぶん。

 王国では諱みたいな風習はないので、個人名で呼んでも問題は発生しない。

 あるとしたら、個人名に伯や卿を付けちゃいけない。

やるとしたら、爵位名+尊称+名前+様、という形になる。

 ややこしい。

まあ閣下呼びがいいよな。

 しかし、家督を継がせてるのは初耳だ。

「対外的には、まだ相続はお済ではありません。

 実質、事業はエオール様が引き継がれておいでですが、家長はいまだナセル様のままです。」

 お家事情が知りたいわけじゃないんだよなぁ。困った。

「事業を継げば家を継いだも同然だろう。

 形式にすぎん。

 実際、趣味の地図作りしかやっておらんもの。

 こういうやり取りもエオールに任せられんか?」

 相当お貴族様ムーブがストレスなんだな。

あれ、やる方も面倒だものなぁ。

 しかし、地図の話をしてもらえるなら、口を挟むべきかなぁ。

いや、ちょっと勇気がわかない。

「わがままを言っている間に時は過ぎます。

 話を進められてはいかがでしょう?」

 お前が割って入ってきたんだろうにと小さい声で男爵は悪態をつく。

思わず笑いそうになるからやめてほしい。

「製造方法についてはとやかくは言わん。

 とりあえず、100着ほど納品してもらえないだろうか?

 すぐにでなくとも構わん。

 確かモーダルだったな。

 わしの部下を使いに出すから、揃い次第手紙をよこすといい。

 もちろん、100着も頼むのだから、わかっておるよな?」

 つまり値下げしろってことですよね。

グラスコー商会で扱う防刃服は金貨20枚で出しているけど、他の商人が扱う時は30枚くらいに跳ね上がっているらしい。

 だから、多少勉強しても十分儲けは取れるし、そこは問題ないと思う。

「畏まりました。ご用意させていただきます。」

 さすがに直接値段交渉はしづらい、部下と呼ばれる人と相談しよう。

「それにしてもタオルなぁ。布切れ一枚がこの値段、食えもしなければ着れるわけでもない。

 作る労力を考えれば致し方ないとはいえ、何とも切ないなぁ。」

 確かに、俺も高いとは思う。

なんせ、元の値段は……

秘密だから言わないけども。

 一応、織機を使って製造してもらってはいるけれど、二級品のタオルでも金貨が必要だ。

それだけ製造するのに人的コストが必要という話でもある。

 とはいえ、効率化したら効率化したで労働者が搾取されることになるので、痛しかゆしというところでもある。

「申し訳ありません。色々なところに製造をお願いしておりますが、やはり数を揃えるには今しばらくのお時間が必要かと存じます。」

 俺は頭を下げる。

「いやいや、値段は市場が定めるものだ。

 下手に介入すればろくなことが起こらん。

 わしも散々ひどい目にあったからな。」

 苦労がしのばれる言い方だなぁ。

 なるほど、領内が随分と革新的だとは思ったけれど、それをしっかり根付かせるのには相応の時間が必要だったんだろうな。

「何せ、この領地は地勢が悪い。畑を増やそうにも土地は川で遮られるわ、斜面が多いわ。

 何とか水運でやっていけるようになったのは最近だ。

 地形を知るというのに長いこと掛かってしまったよ。」

 なるほど、それで地図なのか。

「ご苦労のほどが偲ばれます。

 ベーゼック様には地図の大家とお聞きしておりますが、そのような体験が地図作りにつながったのですね。」

 きょとんとした顔をされてしまった。

 あれ、俺の勘違いかな?

「あー、なるほど。確かにそういう面もあるか。

 いろいろと苦労したものな。

 とはいえ、いろいろと遊び歩くのが好きでな。

 地図を作るのは行った場所を記録したい、それが欲求なのだ。若いころから、地図作りは趣味でな。」

 つまり、地形を知らないといけないから地図を作ったわけではなく、地図を作っていたから地形を知ったというのが正しいのかな。

「しかし、まあ大家と言われるのは悪い気はしないな。

 王に献上した地図も数多いから、それは確かに自慢だ。」

 そりゃ詳細な地図はとても貴重なものだ。

野を歩き、山を越え、川を下りながら測量するんだから相当大変だろう。

 それを王に献上するというのは名誉なことだろうな。

「今ではすっかり衰えてしまってな。

 ふらふらと遊びに行くわけにもいかん。

 測量は部下に任せてそれを編纂するのがわしの趣味になっているよ。行ったこともない土地を知れるのも、また地図作りの醍醐味と最近は思うようになった。」

 楽しそうに語ってくれているけど、やっぱり色々大変なんだろうなぁ。

「ちなみに、ヒロシよ。おぬしの出身はどこだ?」

 聞かれて思わずドキッとしてしまった。

「蛮地の出身なので、生まれた場所は定かではありません。

 旅の空でしたから。」

 とっさに嘘をついたが、バレてるのかな?

「ほうほう、確かにあそこはおぬしのような顔のものも多い。できればそちらも地図にまとめてみたいものだ。

 ヒロシよ、そなた地図に興味がありそうだな。」

 あ、はい。

とっても興味があります。男爵様のように純粋な気持ちじゃありませんが。

「よければ、わしの作った地図を持っていくとよい。

 残念ながら軍事機密も含まれてしまうものだから、空白の多いものになってしまうが、貰ってくれるか?」

 思わず思考停止してしまった。

それはとてもありがたい申し出だ。

「あ、ありがとうございます。

 いかほどお包みすればよろしいでしょうか?」

 やばい、驚きすぎて失礼なことをしてしまった。

いくら出せばいいとか、聞くもんじゃない。

「よいよい、わしの趣味のものだし、ただで持っていくがいい。

 もし、恩を感じるなら村を回って品物を買い付けてやってくれ。」

 それはもう、是非もないです。

「失礼なことを言いました。お詫び申し上げます。

 過分のご配慮に感謝の言葉も見つかりません。」

 俺はもう一度敬意をこめて頭を下げる。


 ひとしきり話したところで退室を許された。

 年寄りの長話に付き合わせてすまないと言われたけれども、どれも貴重な話だった。

ちょっとメモを取らないとまずいな。

 とはいえ、地図をもらい受けたり、取引について打ち合わせしたりと忙しい。

忘れずにどれくらい記録に残せるだろう。

 せめて記憶力がもっとよかったらなと自分の低能さが泣けてくる。

本当に聞いた話を右から左へ流してしまう体質は何とかならないものか。

 これまでさんざん嫌な思いをしたけれど、本当に報われた気がする。

 ありがとう、神様!!

 あー、えっとその、モーラ様。ありがとうございます。

 そういえば、あの神様最近ちょっかい掛けてこないな。

すっかり忘れられてるんだろうか?

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― 新着の感想 ―
[一言] 取り合えず貰った地図にどの地方に特産品が取れるとかどれくらいの季節にどんな特産品が取れて特産品がどれくらい産出されるのか、どんな季節に食料とか特産物<塩やら薪などの物資>が取引されるのか、後…
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