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6-7 ようやく目的地に着いた。

 眠たかったので、村に付いたら早々に寝てしまった。

 お昼ごろに起きて、交易所に入って名産品を確認する。

家具とクッキーだったので、両方購入した。

 本来はクッキーは日持ちしないのでまとめ買いしないらしいから、ちょっと少なめにしておいた。

 逆にこちらもハロルドに作ってもらった固焼きクッキーを提供する。

日持ちすることを目的としてはちみつを入れ、念入りに焼き上げているので水分が飛び、日持ちがする仕組みだと説明すると興味を示してもらえた。

 たぶん似たような商品が近いうちに出回ることだろう。

領都へは半日あればつく計算なので、もう一泊させてもらった。

 その間、ラインズはというと特に変わった様子はない。

 ただ、騒ぎを起こす様子でもないから放置しておいた。

「とりあえず、明日は早めに出ますんでよろしくお願いしますね。」

「おう。」

 こいつ、起きてこなかったら置いてってやろうかな。


 流石に朝には強いのか、ラインズたちも起きていた。

リンダは眠そうだけど、ラインズはしっかり目が覚めてるみたいだ。

耐久力が15もあるだけに頑丈なのかもな。

 正直、俺は早くこの旅を終わらせたかった。

得るものが無いわけじゃないけど、護衛が悪すぎる。

 戦闘要員としては、どうなのかは知らないけど少なくとも護衛も警備も向いている人材とは思えない。

なんでこんなのを送ってきたのが不思議でならなかった。

 それとなく団長であるカレルについて聞いてみれば、あいつは俺の子分だから雑用を任せてるだけだとか言ってくるし。

どういう経緯でラインズが依頼を受けたのかと聞けば、別の人間が決まっていたけど自分が旅に出たいと思ったから外させたとか言い出すし。

正直、こいつ個人の問題なのかなと思わなくもなかった。

 いや、それでも団員を制御できてない時点で団長としては失格なんだけども。

 多分、幼馴染という話なので子供のころの関係がそのまま継続されてしまったパターンなんだろうな。

 知ったことではないけども。

 ただ、急に後方警戒するから、何か役に立つものが無いかと聞いてきたのは驚いた。

何か思うところがあったんだろうか?

 相変わらず、リンダはそんなラインズを全肯定する。

多分、この子はこの子でダメ男製造機な気はするなぁ。

 まあ、いい。

 とりあえず、双眼鏡を持たせてやった。

森の間を抜ける街道だから、さほど役に立つとは思えなかったが、やる気になったならそれなりの形を与えてあげた方がいいだろう。


 ラウゴール男爵の領都は村の活気とは裏腹に落ち着いた雰囲気がある。、

男爵領の領都のほとんどが街を完全に囲う城塞だったので小さい砦みたいな建物の周りを町が取り囲んでいるという日本みたいな街にちょっと違和感を覚える。

 もしかしたら、日本出身の来訪者なんだろうか?

それとも、自然とそういう作りになったのか。

 街を東西に流れる川を挟んで両岸ともそこそこの大きさの町だという話は聞いたけど、胸壁は低く威圧感はない。

 衛兵も気さくな感じだった。

もちろん、職務怠慢という事もない。

 紹介状を見せたら、男爵への取次ぎを行ってくれると請け負ってくれた。

宿泊するのであれば、この宿がおすすめだからとか勧めてくれる。

 もちろん、怪しいものを持ってないかという衛兵らしい仕草も控えめながらあった。

ラインズの格好には一瞬反応したけど、本人には気づかれないレベルの反応なのでもめ事も起きない。

 大抵、こういう時に大袈裟な反応をされて騒動になるから、とても優秀な気はする。

当のラインズはのほほんとしているからいい気なものだ。

 宿もおすすめされたところに入り、連絡を待っていると明日の昼に面会するとの伝達があった。

 こちらは庶民なのであちらに合わせるのは当然だろう。

 服はどうしたものかな。

ベネットと一緒に買った靴や服を着ていけばそれほど外れではないような気もする。

 実際、他の男爵領でも庶民は庶民の服を着ているべきという感覚らしいので、偉い人に会う時には正装をしろとは一度も言われたことはない。

但し、畏まった物言いをしないと当然もめる。

 ラインズにそれを期待しては駄目だと、これまでの経験で分かっているから宿で待機してくれとお願いしておいた。

 夕食は宿にある食堂でとることになった。

 つくづく思うのは、モーダルは食文化が豊かだという事だ。

 男爵領群で珍しい料理というものに出会ったことがない。

 シチューとライ麦パン。

何も言わなければそれが出てくる。

 食材は確かに豊かだ。

しかも頼めば、いろいろな料理を作ってくれはする。

 だけど、注文しないととりあえずシチューが出てきてしまう。

試しに何か珍しいものをと頼むと変な食材のシチューが出てくる。

 まさか、干し魚のシチューが出されるとは思わなかった。

 とりあえず干し魚とカブをひたすら煮ただけの代物は、生臭くてとても食えたものじゃない。

 焼き物を頼めば必ず塩焼きだ。

 干し魚は干物みたいなものだし、それはそこそこ食べられた。

 ともかく香草焼きみたいに味に気を使った料理は出てこない。

 それでも燻製されたウィンナーやらハムなら、単に焼いて出されてもそこそこおいしい。

 ただ、それならウィンナーやハムに使った香草を料理にも使えばいいのにとは思った。

 とりあえず、調理方法が煮るか焼くかの二択で、最初に料理の種類が多いと思ったのは食材が多いからだという事を旅を続けているうちに痛感した。

 さらに言えば、言わないと食材を組み合わせた料理は作ってくれない。

シチューと言えばカブか豆、それに注文を受けた食材一品を加えてひたすら煮る。

焼き物なら注文を受けた食材をただ焼くだけだ。

 しかも、地元の人たちが行くような店はもっと保守的だ。

とりあえず、豚と豆のシチューか豚とカブのシチューどちらかしかないと言われることが度々あった。

ジャガイモすらない。

村だとそもそも店がない。

 だから、食事を頼むとしたら教会で修道士たちと食卓を囲むしか方法がなかった。

出されるのは当然シチューだ。

 その日によって食材は違うらしいけど、当然ご厄介になってるから選択権などあるはずもない。

実際、豆のシチューばかりだった。

 しかも塩のみで素材の味を生かしてますといった感じ困惑するしかない。

 これは、ラウゴール領に入っても変わらなかった。

違いがあるとしたら、なんにでも胡椒が入っていることくらいだ。

 いや、思ったけどこれ結構な違いだ。

塩味以外の刺激がこれほどありがたいとは思わなかった。

 この宿もご多分に漏れず煮るか焼くか、どちらかになる。

 こちらが言えば、いろいろと作ってくれそうではあるけど、もう考えるのも面倒なので豚とカブのシチューを頼んだ。

 胡椒が効いてておいしい。

 しかし、なんでまたこんなに素朴な料理ばかりなんだろうか?

 村で食べ物を出したときは、割と食いつきがよかった。

 なんというか画一的というか、わざわざ違いを出していないようにも思える感じだった。

 もしかしたら、家庭の味だと変わってくるのかなぁ。

アルノー村で食べたミレンさんやファーマさんの料理はおいしかったしなぁ。

 謎だ。


 翌日、身支度を終えてラウゴール男爵の住む邸宅へと足を運ぶ。

どうやら、砦は緊急時用のものであって、住まいではないようだ。

 ただ、建物は豪勢だ。

白い漆喰で塗られ、前庭には整えられた樹木が植えられ、花が整然と植えられている。

見るからに豪華と言える作りだ。

 びっくりしたのは、出迎えてくれた門衛が甲冑で身を包んでいたことだ。

ハルバードを携え、きっちりした動きで出迎えてくれる。

 確か、プレートアーマーは廃れていると聞いていたので、はじめてお目にかかった。

こうしてみると、まだまだ有効なのではないかと思えるんだけど、やはり銃にはかなわないという事なのかな。

 待合室に通されて、しばらくした後に謁見の間に通された。

一応、他の男爵領でも同じ対応を受けているので、何となくは慣れた。

 主人であるラウゴール卿が登場するまで膝をつき、頭を下げて待つ。

「お前が、グラスコー商会のヒロシだな?ハルトマンの息子からの紹介と聞く。」

 そう声を掛けられた時点で名を名乗ることが許される。

ちなみにハルトマンとは、ベーゼックの家の爵位名だ。

「はい、ハルトマン様のご子息ベーゼック様よりご紹介を預かり、参上いたしました。

 グラスコー商会のヒロシと申します。

 以後、お見知りおきのほどよろしくお願いいたします。」

 ハルトマン様、なのは下手に伯、公みたいな敬称を付けると間違いやすいのでやらない方がいいからだ。

 直接相手を呼ぶなら爵位名や名前では呼ばず閣下が望ましい。

どんなに低い身分の貴族が相手でも、逆に高い位の貴族でも閣下なら間違いはないからだ。

名前を度忘れした時も、これなら見逃してもらえる。

 複数いる場合も、発言する相手に向かって閣下と言えばOKだ。

 もし紹介相手みたいに、その場にいなかった場合は閣下のご親族様や間柄に様を付けておけばいいとも聞いた。

 全部これはベネットからの受け売りなので本当に付け焼刃だ。

 もし間違っていたとしたら、俺が忘れてる可能性が高い。

 ちなみに、まだこの時点では頭を上げることはできない。

 爵位が上がると、そもそも名乗ることは許されない。

伯爵様以上には許しがない限り発言してはいけないことになっている。

 だから、通常はそれを伝達する使用人が居て、その人が素性を明かしてくれるのだとか。

 うん、面倒だ。

 もちろん、これはあくまでも正式な儀礼だ。

非公式の時、私人として接すると宣言された場合、御付きの従者がいない時は、その限りではない。

 まあ、とはいえそれに関する法は定められておらず、個人の裁量に任される部分もある。

そこが厄介だ。

 法できっちりしているなら、みだりに罰せられることもないけど、気分次第では瑕疵を見つけて罰するなんて宣言もできてしまう。

 前にも話したが司法は確かに国の管轄だ。

 しかし、立法と行政は各地の爵位持ちの貴族が持っている。

司法に従わず、さっさと処刑してしまうという事もざらに起こるのだとか。

 もちろん、それを国がとがめることもあるけれど、すでに失われた命は戻ってこない。

機嫌を損ねることだけは避けた方が賢明だ。

 最悪、機嫌を損ねたら、一目散に逃げだすのがよいとされる。

法的にお尋ね者にされるケースは少なく、他領に逃げ込まれてしまえば流石に軍事力を行使してまで追う余裕はない。

 あくまでも権力が及ぶ範囲は自領までという事だ。

問題は、その権力から逃げるまでの時間を稼げるかどうかだろう。

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