6-6 護衛が役立たずすぎるんだが?
ラインズ君は護衛に向いては居ませんが決して弱くはありません。
ヒロシが実は強いです。
小説なら、暴れるヤンキーを制圧したらやんややんやの大喝采なんだろうけど、そうはならない。
現実は非情だ。
そもそも雇い主は俺だしな。
冷たい視線を浴びるのが当然と言えば当然だ。
「本当に申し訳ありませんでした。こちらの監督不行き届きです。」
頭を下げながら、代金を支払う。
「同情はするが、雇うなら人を見たほうがいいよ。
ああいうのは、護衛には向いてない。」
確かにその通りだ、弁明の余地もない。
やっぱり、一人で来るべきだったかもしれない。
とはいえ一人旅は心細いのも事実だ。
中には同業者とつるんで旅をしている集団もあったけど、お互い競争相手でもある。
途中で解散となる場合も多々あるそうだ。
下手すると他の面子に囲まれて荷物を奪われる可能性もあるらしいので、相当信頼関係がないとダメだ。
だけど、それならそもそも商会を組んでるだろうって話でもある。
次からは、暁の盾にしよう。
やっぱりモーダルで一番の傭兵団という信頼はでかい。
「それよりも、他にも何か買って言ってくれないか?今なら配送料も勉強するよ。」
ニコニコ笑いだしたので、商売をしようという合図だろう。
交易所の仕組みは、簡単だ。
基本的に直接生産者が商品を出している。
その分安くなってはいるができるだけまとめて買って欲しいという要望が出されるわけだが。
そういうだけで買ってくれる人は少ないだろう。
そこで、ラウゴール男爵が運営する水運ギルドの出番となるわけだ。
大量に購入した商品を、その水運ギルドが責任をもって要望した場所に送ってくれる。
もちろん、川がある場所に限られるが。
それでも近場まで運んでもらい受け取った後に自分の店に持っていく方が変な料金所に引っかからなくて済む。
さらに言うと、相当な重量でも水運なら運ぶのに苦労はしない。
そういう意味でとても便利なシステムではある。
もっとも、そこまでの荷物となるとこちらの資金が持たない。
せいぜい、10ダースも買えばいっぱいいっぱいだ。
しかも商品には目立ったラベルもないので、アピール力がない気がする。
せっかくなら、何か特別な商品ですと目立たせればいいと思うのだけども。
接着剤の問題なのかもしれないけど、味気ない感じがするのがもったいない。
まあ、一般顧客にはアピールできないけど、例えばハロルドの店で産地をうたって売り出せば相応の宣伝効果が見込める。
そういう意味ではブランド商品はありなのかもしれないな。
「逆に買っていただくこともできるんですよね?いくつか卸したい商品があるんですが?」
交易所のもう一つの仕組みは販売の方にもある。
卸した商品を一定期間預かり、代金を届けてくれるというサービスだ。
こちらは水運の範囲じゃなくて、ちゃんと指定した場所まで届けてくれる。
売れ残った在庫も送ってくれるというありがたいのか、ありがたくないのか微妙な部分もあるが、領内の交易所で順繰りに巡回してくれるからわざわざ自分で領内を回る必要がない。
行商人にとってはいいのか悪いのか。
もちろん、即座に資金が手に入らないし、それなりの手数料がかかるので自分で売り歩いた方が儲けは出やすい。
そこも含めていろいろとお試ししてみるのもありだろう。
とりあえず生鮮品はよろしくない。
家具や釘みたいな日用品も微妙だろう。
そこで、LEDランタンや紙、鉛筆、消しゴム、タオルを卸す。
ついでに、蛮地の交易で手に入ったはちみつやチーズなども一緒に付けた。
ちなみに、LEDランタンは外装を金属製に偽装してある。
見た目って大事だと思うからだ。
「また、ずいぶんと卸してくれるね。磁器やワインもたんまり買ってくれるし。流石ホールディングバッグ持ちは違うね。」
一応偽装はまだ続けているので、交易所の人からすれば荷物をバッグにしまっているように見えるだろう。
磁器なんかは繊細なものだから、ホールディングバッグ以外では割れる率が上がって商売に支障をきたす。
そういう意味でも、本当にホールディングバッグは商人必須のアイテムだ。
「役に立ってもらわなくちゃ高い金を出した甲斐がありませんよ。元を取るのはまだまだ先です。」
とりあえずこういう嘘をつくのばかりは上手くなる。
ちゃんと騙せているかは分からないけど、まあ疑われる程度なら許容範囲だろう。
とりあえず、購入したワインと磁器はさっそくグラスコーのインベントリにも入れておく。
近隣で売りさばくよりも、遠く離れたグラスコーの方が捌きやすいという目論見だ。
上手く当たってくれるといいけども。
一晩教会にご厄介になり、早速ラウゴール男爵が住む領都へとむかう。
約束通り、村を出た時点でラインズに剣を返した。
馬車に揺られながらなので、のんびりしたものだ。
実は内心、見境なくしていきなり切りつけられたり、寝込みを襲われないかと若干不安も感じていたので、なるべく野宿は避けよう。
「なあ、ヒロシ。お前、あれだけ強ければ護衛なんかいらないんじゃないか?」
不意にラインズが声をかけてくる。
今までは無視されてたのに、ちょっとこっちが暴力ふるったくらいで態度を変えられても困るんだが。
「強くないですよ。言っちゃなんですけど、ラインズさんが冷静さを欠いていただけで、たまたまうまくいっただけです。」
プライドをわざわざ傷つけたくはない。
「いや、俺だって腕に自信はあったんだ。それをあっさりやられたんだから、ヒロシは強い。護衛なんかいらないんじゃないか?」
面倒だなぁ。人生相談なら他をあたって欲しい。
「仮に、ラインズさんの言うとおり、俺が強いとしましょう。
でも、それと護衛が必要かどうかはまた別の問題です。」
返事がない。
なんだ、何か不満でもあるのか?
一応、振り向いて確認する。なんか悩んでいるような状態だな。
前見て運転しないといけないんだから、勘弁してくれ。
「例えば、ラインズさんは寝ないんですか?用を足さないんですか?飯は食わないんですか?」
そうするためのマジックアイテムがあるのは知っているが、正直人間を捨ててるみたいで勘弁願いたい。
呪いのリングというわけではないので、非常時には役に立つだろうけども。
「いや、それじゃ人間じゃねえじゃねえか。」
まあ、そう返答するよな。
頭のいい奴だったらもうここで気づくはずなんだけども。
「じゃあ、その時に襲われたらどうするんです?まさかズボンを下ろしたまま戦うんですか?」
言ってて滑稽だなとは思ったけど、そういうことが実際に起こり得なくはない。
相手は自分の都合で襲ってくるわけじゃない。
また返事がないので、振り向くと考えたこともなかったという顔をされてる。
正直、こっちの世界に来て、それなりの時間が過ぎたけどここまで考えなしなのは初めてだ。
最初は連携が取れてなかったベネットやトーラスも見張りの重要性は認識していた。
単に要領がつかめてなかっただけだ。
キャラバンのみんなに至っては、俺なんか足元にも及ばないくらい連携の重要性を知っている。
「それとですね。人間の目は前しか見えないし、耳だって他の動物と比べればびっくりするくらい悪いですよ。
それを補うのが数なんです。
強ければ護衛がいらないなんて、おとぎ話じゃないんですよ?分かりますか?」
なんか上から目線で申し訳ないが、勘違いは早めに正してほしい。
当然、俺だって人様に誇れるほど組織論を知っているわけでもない。
単なる駒の一つだったし、その役割もろくにこなせていなかった。
でも、少なくとも人数がいないとどうしようもないことはいくらでもある。
強ければ、賢ければ何でも一人でできると思うのは本当に勘違いだ。
これで考え方を改めてくれればいいけども。
また返事がない。
拗ねてるのかなと思って後ろを見たら、やっぱり拗ねていた。
困った子だ。
リンダは、別に気にする必要ないよ、ラインズは強いんだからとか言いながら俺を睨んでくるし。
俺を悪者にするのはいくらでもやってくれて構わないけど、他にそのイライラをぶつけないで欲しい。
もう、本当にそれだけはお願いしたい。
しかし能力値の数字で判断したくないとは思うんだが、リンダの知力が14もあるのが理解できない。
魔術師である以上はそれなりに勉学はできたはずだろうに、俺の話を全く理解できないのは何故なのだろう。
単に感情的に受け入れたくないという事であればいいんだけども。
本当に、ここら辺、能力値の数字は当てにならない。
それともラインズと一緒にいると知力が下がる呪いでもかかってるんだろうか?
流石に野営無しというわけにはいかず一晩、夜を明かすことになった。
一応、護衛なんだから見張りは任せきりでもいいかとも思ったが、特にどうするとも言ってこなかったので、こちらが早番、二人に遅番を頼んだ。
リンダは不服そうだったが、ラインズは渋々といった様子で了承する。
言っちゃ悪いがこっちは雇用主だ。
本来なら、見張りを買って出るなんてことは無い。
だけど正直、信用は地の底だ。
襲われないか不安だったので、結局一睡もせず夜を明かした。
《透視・盗聴》で二人の動きを観察していたが、途中出盛り始めたので監視は打ち切った。
こいつら本当に能天気だな。
何かに襲われても知らんぞ。
一応、人感センサーの説明はしてたけど、またオットセーになったので理解しているとは思えない。
でも、何か音が鳴ればさすがにやめるだろうと思って放っておいた。
まさか、夜が明けるまで乳繰り合ってるとは思わなかったわ。
「ヒロシ眠そうだな?ちゃんと寝たのかよ。」
ラインズは昨日のしおらしい態度はどこへやら、能天気に聞いてくる。
嫌味の一つでも言ってやろうかと思ったが無駄だと思ってやめた。
「不眠症の気があるんで、眠れませんでした。
次の村で眠らせてもらいます。」
流石に教会の中で襲ってくることはないだろう。
というか、襲ってやろうという気もなさそうだから気にしてもしょうがない。
そんな風に思ってしまう。
まあ、油断させる手……
とも考えたけど考えすぎな気がする。
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