6-5 せっかくまともな取引ができるところだったのに。
流石にこれは看過できない。
という主人公なりの線引きですね。
とりあえず、村がほとんど取引できない理由をいろいろ考えてみたが、もしかしたら料金所が関係しているような気がする。
アライアス領の料金所は領内から領外に出る主要な街道にあるのみで、裏道を通れば遠回りになるものの通行料を浮かすすることができるという話を聞いた。
逆に、男爵領は領内に街道はもちろん、裏道にもびっちり料金所がある。
下手をすると町単位で料金所を設定しているのではないかというくらい料金所に出くわす。
そもそも、領を超える際の料金所は国の管轄なのに対して領内の料金所は市や町の管轄になっている。
もちろん名目は街道の整備に使われることとなっているけれど、どうにも胡散臭い。
あくまで噂だけど半分は国に、残りはその地域の領主が懐に納めていて贅沢のために使われているという悪口めいたものも聞こえてくる。
それをそのまま鵜呑みにはできないが、改めて確認をする必要はあるんじゃないだろうか?
まあ、そんなことを言ったってそんなものは国の人間だってわかっているんだろう。
とりあえず高い通行料せいで物価が上昇しているような気がする。
価格をそのまま転嫁するわけにもいかないだろうから、当然商人側も努力をするわけで、じゃあ何をするかと言えば仕入れ値の抑制と無駄な物流の抑制、そして人件費の圧縮だろう。
何せ重い荷物を持ち込むと通行料が嵩む。大量に人を雇って小分けにして運び込むと人件費がかかる。
じゃあ、村にはいかない方が得策だろう。
仕入れ値の抑制については、まあ言わずもがな大口から大量に購入するという方法が一般的だ。
で、当然大口の業者がどこかとなれば、領主となるわけだ。
なんでも税として取り立てた小麦は高く商人に買わせ、見返りとして領内で農家が売る作物は安値で強制的に売らせているという話も聞いた。
それは、さすがにひどいとは思ったが程度の差はあれど、どこも似たり寄ったりなんだとか。
そんなわけで徐々に俺が面白い商品を扱っているといううわさが広まり、いろんな同業者に声を掛けられるようになって分かったことだ。
かなり根が深い。
一応、村々の作物を買い取る話を持ち掛けて、いろいろな相場を聞いてみたがやはり領主の力が強いところはかなり安値で買いたたかれていたらしい。
なので、嬉々として作物を売ってくれた。
倉庫や物置にひっそりとためておいた作物なので領主に見つかるととがめられてしまう。
なのでこっそりと、目立たないように買う。
もちろん言い値だ。
仕入れた作物が直接儲けになるかは分からないが、相場というのは大切な情報だ。
当然、これはグラスコーに手紙でまとめて送っておいた。
そういう色々商売をしている横で、ラインズとリンダは相変わらず偉そうにふんぞり返っているだけだった。
偉そうなのはグラスコーも似たようなもんだったが、それでも商売というものは忘れてなかったし、どんな相手にもひるまずに挑みかかる姿勢は嫌いじゃない。
敬語が使えない奴かと言えばそんなこともないが、それでも媚びへつらうという姿勢は見せなかった。
対して、ラインズはどうかと言えば、そんなこともない。
料金所の衛兵には居丈高に出るが、責任者のような身なりの立派な人間には腰が引けてるし、貴族には胡麻をする姿勢を見せる。
いや、権威におもねるのが悪いと言ってるわけじゃない。
少なくとも、お前より衛兵の方が偉いんだって気付け。
偉さって言うのは、見た目の豪華さや表面的な肩書で決まるものじゃない。
立場や状況によって変わってくる。
少なくとも、ちゃんと職務を果たそうとする衛兵の方がお前よりも状況としても立場としても上だって言う話だ。
その上で筋を押し通す気概があるなら、それはそれですごいとは思うけど、立場を勘違いして弱そうと思った人間に攻撃的になるのは、もはやただの害悪でしかない。
中途半端なヤンキーって言うのが一番嫌いだ。
よくリンダもこんな男と付き合ってるもんだなと思ったが、特に気にしている様子もない。
そこがなんとも理解がしづらい。
強そうな男に惹かれるというのはよく聞くけど、そこから行くとラインズはとても強そうには見えないんだよなぁ。
単に狂暴そうに見せてるだけに見える。
実際、よく剣を抜くがすごすごとそれを納める場面も何回も見た。
本当に些細なことで剣を抜く。
それが脅しになると思ってるんだろうけど、それだけは本当にやめてほしい。
抜いた時点で、例えその場で相手を倒せても死ぬのが確定する可能性もあるんだから少しは考えてほしい。
何度か隙を付かれて剣を抜かれた場面では、相手が大人の対応をしてくれて事なきを得たけど、抜かせないように毎度止めてる俺の苦労に気づいてくれ。
本当、それは俺にも迷惑掛かるんだから。
しかし、まだ旅は道半ばだ。
ようやく目的にしていたラウゴール男爵の領内に入れた。
領越えの料金所はそれなりに統制が取れている様子があった。
荷物のチェックもスムーズだし、受け答えがおかしいこともない。
当然、賄賂の要求もなかった。
まともそうな貴族で一安心だ。
料金所を越えて、最初にたどり着いた村もどんよりとした空気はなく、みな忙しそうに働いている。
そういえば、蛮地と接している領地と違い、男爵領群の村には必ず教会があった。
泊めてもらうとなると村長さんの家ではなくて、教会に泊めてもらうことが当たり前なのだそうだ。
もちろん喜捨を求められるわけだけど、まあそこは宿泊費だと思って割り切ろう。
若干高めのホテル代だとは思うが。
なので、まず話を聞くのは教会の司祭様になるわけだ。
「一晩の宿をお貸し願い、ありがたく思います司祭様。ところで、他の領とは違って村に活気がありますね?」
司祭様はうれしそうに笑う。
「そうでしょう。ラウゴール卿は主に商業に力を入れている方で、主に水運、交易で利益を得ています。
なので、村に課される税とは違い、2割ほどに抑えられているのです。
また、他領から流れてくる資材を使い交易品を作ることを推奨され、それらをもって税とすることも行っておいです。
なので、一つ一つの村が工房と言ってもいいほど発達している。
その分だけ収穫量は少ないですが、作り出した交易品を売れば十分なほど食料が買えるでしょう。
なので、領民は不作を気にせず暮らしていけるのです。」
いや不作になったら、何とかならなくなる可能性もあるから交易一辺倒もまずいと言えばまずいと思うけども。
とはいえ、畑が特別狭いとも感じなかったので、十分な作付けも行ってるんだろうな。
それとは別に加工品も取り扱っているので、換金性が高くなっている。
いわゆる六次産業を行っている村が多いんだろう。
「ちなみに、この村の名物は何ですか?」
そうなれば何を作っているのかは気になるところだ。
「この村では、ワインと磁器が特産品になっていますよ。
なかなかの一品なので、交易所を覗かれるといいですよ。」
交易所って言うのは初めて聞いた。
いったいどんな場所なんだろうか?
案の定、ラインズがもめ事を起こす。
勘弁してくれ。
交易所の仕組みや商品説明を受けている最中に盗みを働こうとしたらしい。
考えてみれば、よくラインズは馬車の荷物を勝手に拝借していたことを思い出す。
流石にこれは看過できない。
急いで暴れている現場に近づく。
「ラインズさん。まず剣を下ろしましょうか?」
なるべく冷静になろう。
武器を持った人間を下手に刺激ちゃいけない。
「うるせえ!!俺を盗人呼ばわりしやがって!!単に瓶を持っただけじゃねえか!!」
そうよそうよ、とリンダが加勢しているが、どうなんだろうか?
「懐にしまったからだろうが。じゃあ、料金を払ってくれればそれでいい。」
応対している人がちょっと不愉快そうながら、妥協案を示してくれている。
「盗人呼ばわりしたのはそっちだろ!!ならこれはわびの品として」
「ラインズ!!」
駄目だ、本当に駄目だ。
疑われて激昂するのはともかく、開き直って盗品を持っていこうとするのは完全に駄目だ。
「ラインズさん、払ってください。いいですね?」
呼び捨てにされたのが気にくわないのか顔が真っ赤だ。
知ったことか。
呼び捨てにされるだけのことをお前はしてるんだぞと俺もにらみ返す。
「そんなこと知るか!!」
瓶を振り上げる。
俺はその瓶を抑え、剣を握る腕の手首も握る。
「人様の商品をどうするつもりだ?商人の前でそれをするってことはどんなことか分かってやってるのか?」
瓶をもぎ取り、手首をひねりあげる。
剣は外方向に回り、地面に突き刺さった。
結構いい剣使ってるな。
しかし、なんだこいつ。
弱すぎだろ。
何か力を隠し持ってるのかと思ったら、”鑑定”通りの人間だ。
あー、駄目だ。
ちょっと、怒りすぎて思考が変な方向に行っている。
「俺にも雇い主としての責任がある。だから、支払いは俺がしますよ、ラインズさん。
お互い少し冷静になりましょう。」
ラインズは弱弱しくわかったと頷く。
俺が手を離すと、しりもちをついてしまった。
「とりあえず、剣を預けてもらえますか?村を出たら返します。」
流石に武器の剥奪まではやりすぎかもしれないが、少し見せしめにしてないと信用が落ちる。
これくらいは我慢してもらおう。
「わ、分かった。」
すごすごと剣を鞘に納めて俺に渡してくる。
剣士としての誇りもあるだろうから、ちゃんと受け取ろう。
「確かにお預かりします。なるべく、もめ事のないようよろしくお願いしますね。」
両手でちゃんと受け取る。
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