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6-4 この年で初めてのお使いか。

なかなか思い通りにはいかないものですよね。

 王国内部での移動というのがこれまでだと仕入れ偽装の旅の時くらいだろうか?

あの時は、ほとんど東側に移動していなかった。

 なので、アライアス伯領の他はバウモント伯領ともう一つ、名前を失念した男爵領くらいしか通っていない。

その時でも、領をまたぐたびに関所が設けられていた。

 まあ、関所というほど大きな建物でもない。

ほとんど高速の料金所みたいなものだ。

 今までは税の支払いがグラスコー持ちだったので気にならなかったが、関所と違い料金所は通行した時点でどっちに行くにしても金がとられる。

蛮地は誰の領地でもないので出ていく分には金がかからなかったけど、入るときは一人銀貨1枚、馬車に金貨1枚、それに荷物の重量で200ポンドごとに金貨が1枚とられる。

 今回は、そこを勘案して200ポンド以内に収まるように調整していた。

 ちなみにホールディングバッグは中身はチェックされるが重量はバッグの重さをカウントする。

その点で言えば、ホールディングバッグは超絶便利だ。

商人なら、必ず一つは所持しておくべき品物の一つと言っていい。

 もちろん、駆け出しではそういうわけにもいかないので、どこかの商会に参加して地道に金を貯めるか一発逆転を狙って一人で高い税と闘うしかない。

 なるほど、これなら直接商人に税を掛けないわけだ。

とてもじゃないけど、やってられない。

 商会に参加してたら、いつまでも金はたまらないだろうし、一人で戦うには重さというのが非常に足枷だ。

いっそ、料金所をすり抜けようという発想の人間が出てきてもおかしくはない。

 とはいえ、そんなことは想定済みだ。

近隣を警邏する衛兵もそれなりにいるので、捕まれば数倍の罰金が科せられるし、下手に抵抗すると殺されても文句は言えない。

抜け道を教えるという言葉に騙されて盗賊に待ち構えられるという話もあるそうだ。

 もちろん、そんな話を俺から振ることなんかできないので《透視・盗聴》で盗み聞いた話だから、深くは掘り下げられないんだけども。

 しかし、土地というのは支配者の性格が反映されるものだ。

アライアス伯の領内はどこもきちっとしている。

法務の大家だけあって、衛兵もみな規則に従って行動し、道もよく整備されている。

 それが別の男爵の領内に入ると途端に道が荒れ始め、衛兵の質も下がった。

おかげでラインズと衛兵がもめ事を起こすというありがたくない事態に発展してしまった。

「なんだお前!!賄賂を要求とはいい度胸だな!!俺を誰だと思ってやがる!!」

 多分、ラインズからすれば善意なんだろうな。

暗に賄賂を要求する役人から、お前を守ってやるぜ。

みたいな有難迷惑だ。

「お前が何者かは知らんが、逆らうならそれなりに覚悟してもらうぞ?」

 勘弁してください。

「ラインズさん、頼むんでちょっと冷静になってください。

 賄賂をよこせって話ではないですから。ね?とりあえず、リンダさんとこれでも飲んでてください。」

 適当にシードルの瓶を渡す。

 正直疲れる。できればずっと酔いつぶれててくれ。

「近頃の若い奴は礼儀がなってないな。」

 ちらちらと俺の方を見てくる。

「申し訳ないです。彼も悪気があるわけじゃないですよ。」

 そういって、俺は銀貨を1枚、隠しながら衛兵に渡した。

 だが、それじゃ足らないというように手を振る。仕方がないので、追加で二枚渡した。

「まあいい、せいぜい気を付けるんだな。」

 これは、たぶん普通なら1枚で済んでたんだろうな。

 もしくは酒かなんかで済ませてもらえたかもしれない。

見ない顔だから狙われた可能性もある。

 いずれにせよ、高い勉強代だ。

 馬車に戻ると、リンダとラインズが馬車の後ろでいちゃついている。

二人の定位置はそこだ。

 御者台に3人で並んで座るわけにもいかないので、一人は馬車の後ろに乗らざるを得ないんだけどさ。

それなら、馬車の操作位してくれてもいいんじゃないかなぁ。

契約の中にはそういうのは含まれてないけどさ。

不文律というか、うん。

 いや、そういうのはよくないな。

次は契約の時にはっきりさせておこう。

これも反省点だな。


 他にもいろいろと反省するべきだなと思ったことがある。

 まず、村に立ち寄っちゃだめだ。

村長に話をしても、誰もかれもが領主様に許しを貰ってからにしてくださいと言ってくる。

 そして、町や市に行って許可を求めると1日とどめ置かれる。

 その間に、領主様相手に結構な取引を持ち掛けられるし、町の商店からも声がかかりいろいろと卸せる。

 どうやら、タオルや防刃服の評判は東側の男爵領群でも話題になっていたらしい。

試しにと的に防刃服を付けさせて試し切りや試し打ちをするとすっかり乗り気になってもらえて、いろいろな他のものも合わせて購入してもらえた。

 ただ、これは俺がタオルや防刃服を扱っているという事を衛兵に伝えた場合だ。

そうじゃないと歯牙にもかけられなかった。

 これは、ますます商売しにくい。

 そもそも、商店はモーダルにも支店を持ってる商会の配下だ。

アーノルド商会もそうだけど、ギルドの元締めネストホルン傘下の商店なんかもある。

 そういうところは独自ルートがあるので、そもそも目新しいものじゃない限り足元を見てくる。

通常なら2割引き、つまりギルド同士の取引で免除される年会費分の割引で取引を開始するんだけど、下手したら仕入れ価格よりも低くないと買い取らないみたいな商品まである。

 もちろん、そこの商店で足らないものや珍しいものは話が別だ。

場合によれば、通常の顧客に売る値段以上に高く売れる場合もある。

領主に要求されていた商品が足らないだとか、入荷が遅れているとなると多少高くても売れる。

 当然耳ざとい同業者が群がるので、もう早い者勝ちだ。

 でも、ここまでならやりようはある。

 それに比べると、村は……

村は無理だ。

男爵領にある村はどこも活気がない。

 せっかく許可を貰って販売を開始しても誰も寄り付いてこない。

食べ物で釣ろうと、ハロルドにお願いしたシチューや焼き物なんか値段付けてるのに炊き出しと勘違いされた。

 しかも、後から教会の人から喜捨を求められる始末だ。

 あまりにもアライアス伯領の村々とは状況が違い過ぎた。

 考えてみると仕入れ偽装の旅の途中の村はまだ活気があったと思う。

 それと比べてこの活気のなさは何なんだろうか?

「ちっ、しけた村だぜ。乞食の群れかよ。」

 ラインズ君やめてくれませんかね。

村の人の視線が怖くなってきてんだよね。

「何か事情があるのかもしれないじゃないですか?あまりそういうことは言わないでください。」

 とりあえず、擁護しとかないと殺されそうだ。

仕方がないので、早々に撤退した。


 とりあえず、複数の男爵領を巡ってみたが、どこも村は似たり寄ったりだ。

いわく昨年は不作だったから、戦争が起こったから、まじない師が死んだから、疫病が流行ったから。

理由は様々だけれど、盗み聞きしている範囲じゃなんとも言えない。

 どれも共通している点は殆どない。何かしらの不都合が起きてはいるのだろうけど、それは後付けの理由な気がしなくもない。

何せ、男爵様や領地を任されている騎士たちはみな裕福そうだからだ。

 気になったのは、村長不在の村だ。

なんでも村長は村人に農地を任せ町で暮らしていて、あれを作れこれを作れと指示を出すだけとか言う愚痴は聞いた。

それはもう、士気が崩壊するよな。

 そういう村は、忙しい時期なのにもかかわらず暇そうにしている村人で溢れかえっていた。

買い物はしないけど見物人は大量に出てきてたので、本当のお金がないんだろうな。

 それでもうまく回ってるとしたら、俺が口を挟むことじゃないんだけども。

大丈夫かな、この国は。

 非常に疲れたので、今は町にある酒場で夕食を取っていたけど物はあるんだよなぁ。

ちゃんと野菜や穀物、肉がある。

 流石に魚はないので、俺が新鮮な魚を提供すると飛ぶように売れる。

干し魚は出まわっているけど、さすがに海から遠いと鮮魚は難しいよな。

 なので、何かを頼もうとすると迷うくらいには料理の種類がある。

メニューを用意しないのがよく分からない風習だ。

 ちなみに、護衛の二人は帯同していない。

二人で別のところにしけ込んでるんだろう。

「兄さん、不景気な顔をしてるね。うまくいってないのかい?」

 ご同業に見える男が俺の席の向かいに座った。

こっちからは、話しかけづらいと思っていたので、大変助かる。

「いえ、商売はありがたいことにうまくいってますよ。損をするほどじゃないです。」

 ほーっと、感心するような表情をしている。

「その若さでうまくいってるとは驚きだ。

 ここら辺は商売がしにくい土地柄でね。

 町や市でなければまともに取引もできないし、そこに待ち構えてるのは大手の商店だ。

 よほどいい商材を持ってるんだね、兄さん。」

 なかなか小気味いい語り口だ。

「グラスコー商会のヒロシと言います。いろいろ縁があってタオルや防刃服を扱わせてもらってるんですよ。」

 なるほどと合点が言った様子だ。

「グラスコー商会というのは初耳だが、タオルや防刃服というのは聞いた事がある。

 確かモーダルから流れてきてたから、そこからかい?」

 俺は男の言葉に頷く。

「そうです。モーダルから持ってきました。それを話すと色々と融通が利きまして。

 とはいえ、村があんな状態だとは思いもしませんでしたよ。」

 俺の言葉にそうだろうそうだろうと男性は腕組みをしながら頷く。

「まあ、俺が思うに村の連中がやる気をなくしてるだけだと思うんだがね。

 昔はここまでじゃなかったと思う。

 穀物の価格は下がりに下がってるし、野菜や果物も似たようなものさ。

 誰も物を作りたくなくなるんじゃないかね?

 そのくせ、売値は高い。」

 なんだっけ、その状態。

スタグフレーションだったかな?

違うような気もするけど、とりあえずよろしくはない状態なのは確かだ。

「なんだってそんな状態になってるんです?だれかが買い占めでもしてるんですか?」

 俺の言葉に男性はさてねという。

「誰か分かり易い悪者が居れば、それを退治して終わりになるんだろうけど、そういうものでもないんじゃないかね。

 とはいえ、アライアス伯の所は上手いこといっているみたいだし、バウモント伯の所も安定している。

 何か原因となるものはあるんだとは思うけども。

 まあ、我々の下々が考えることでもない。

 うまい事、時流に乗っかるのが吉ってものさ。」

 それもそうなんだけど、なんだかもやもやする。

解決できない引っ掛かりがあって、とても気持ちが悪い

「ところで兄さん、タオルや防刃服を譲っちゃくれないかね。

 もちろん、そちらの言い値でいい。」

 それが目的かと思わなくもなかったけど、話の流れ的には今さっき思いついた事だろう。

それに俺にとっても、プラスに働く。

「もちろん、構いませんよ。

 どのくらい必要ですか?」

 あちこち移動するよりも誰かに任せた方が移動費がかからなくていい。

相手も商人だから、適正価格で取引に応じた。

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