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6-3 農業には向いてない。

そもそも向いていたら他の仕事だってうまくやれると思うんですよね。

 次の日、朝早くに化学肥料と春化種籾をもって畑に入る。

肥料を撒き、筋蒔き用の種植え機を借りて種を植えた。

その上から、目の細かい網をかける。

ついばむ鳥から種を守るためだ。

 その様子を村長さん一家にじっと見られていた。

網をかけたところは、なるほどみたいに頷かれたけど、とてもあの広さの畑を覆うのは無理だろう。

役に立つとは思えない。

「ちなみにヒロシさん、先ほど種以外に何かを撒いていましたが、あれは何ですか?」

 ドレンさんは真剣に訪ねてくる。

どう説明したものかなぁ。

「えー、魔法で作った肥料です。実験のためにお願いして作ったものなので、効くかどうか。

 ともかく試してみないと分かりませんよね?」

 魔法というのは嘘だけど、他はおおむね真実だ。

本当に有効かどうかも分からない。

 仮に有効だったとしても、初めは高めに設定しておこうと思う。

 じゃないと、本当に社会が変わりかねない。


 そこから、村の農作業を手伝い昼を一緒にして、午後も農作業。

あとは明日には帰るので、もういろいろさせられた。

 午後におやつを食べた後、さらに作業が続き、日が沈んだところでようやく解放された。

俺には農家は無理だ。

死ぬ。

「よくやるよ。あんな肉体労働、私はパス。」

 ぐったりしてテーブルに突っ伏している俺を見て、レイナは首を振っている。

「ところでこの後、カール君は大家さんに預けるの?よかったら、うちで預かるけど。」

 レイナの言葉に、一緒に付いてきたジョシュが衝撃を受けている。

そりゃまあ、師匠の家にゴブリンが居たら迷惑だよな。

「いや、連れて帰りますよ。絵の指定が終わってるなら大家さんのうちでも挿絵は書けるでしょうし。」

 ジョシュはほっとした様子だ。

「ジョシュ、そんな顔するからヒロシが遠慮しちゃったじゃない。」

 レイナはそれが気にくわなかったらしい。

「遠慮とかじゃないですよ。大家さんもカールを気に入ってくれてるみたいだし、店子としては大家に気を遣うのは当然ですよね?」

 ジョシュが悪いわけじゃない。

だから泣きそうにならなくてもいいんだぞ?

「すいません、カールさんがいるのが嫌とか、そういうのじゃないです。ただ、その……いえ……何でもないです。……」

 なるほどなぁ。

ずっとレイナを見てるという事は、ジョシュはレイナが好きというわけか。

そりゃ、変なお邪魔虫は出て行って欲しいだろうな。

 でも、あからさまにするとジョシュも困るか。明らかにレイナが避けている。

色々とあったのは推察できるから無理からぬことではあるけども。

「レイナさんはちょっとジョシュ君にきつ過ぎじゃないかな?

 確かにカールは大人しいけど、大切なお師匠様に何かあったらと思うのは弟子としては当然だと思いますよ。

 むしろ俺はカールに変なことを教えてきそうで怖いけど。」

 最後はぼそぼそとしゃべる。

「失礼だなぁ。カール君ごときには負けないし、変なこともしないよ。

 単に作業がはかどるかなと思っただけ。

 しょうがない、ジョシュがカール君の代わりに頑張ってよね。」

 ひでぇな。

ジョシュは子供なりに、農家の仕事手伝ってるんだけどなぁ。

《水操作》を使えるようになったから、なおのことだ。

「分かりました!!」

 ジョシュは嬉しそうだからいいか。


 次の日、ドレンさんに挨拶をしてモーダルへ帰る。

また麦の収穫の時に伺いますと言うと、嬉しそうに是非と言われてしまった。

 もう完全に労働力として期待されてるなこれは。

 でも、植えた春植え麦の様子も気になるし、来ないわけにもいかないんだよなぁ。

とりあえず、そろそろ出発の準備をしなくちゃいけない。

 今回は、護衛依頼を暁の盾以外に依頼している。

 カレル戦士団とか言う若い団長が率いている傭兵団が売り込みに来たので、王国内で安全な販路を巡るという内容で依頼した。

暁の盾よりも、当然料金は安いけど、誰が来るかまだ打診がないのが気になる。

 ちょっと大丈夫だろうか?

 とりあえず、夜にモーダルについたので翌朝に大家さんのと宅を訪ねてカールを預けた。

一応、お手紙でご挨拶済みなので、お小言も身なりをきちんとしなさいくらいで済んでほっとした。

 そのまま倉庫に来たわけだけど、護衛依頼した傭兵団からまだ連絡がないそうだ。

 いったいどうなっているんだろう?

出発は明日の予定なんだけども。

 ともかく、馬車の準備をしよう。

 乗せる荷物はそれなりに目立つものをそれらしく乗せる。

下手に何も乗せてないと怪しまれるだろうしな。

「ベンさん、その荷物をこっちにもらえますか?」

 若干、農作業の疲れが残ってるけど、動けないほどじゃない。

やっぱり能力値の恩恵はでかいなぁ。

「あいよ。この棚でいいんだな?何だったらしまっちまえばいいのに。」

 確かにしまえるところを知ってるベンさんからすると不思議かもな。

「何も乗せてない荷馬車を引いて、行商人ですって言っても、信じてもらえないじゃないですか?

 ホールディングバッグがあるから、細かいものはそれでもいいですけど、一応商品見本としては、それらしく見せたいところなんですよね。」

 家具類やリンゴの樽、盾や梯子なんて言うのはそれっぽく見えるだろう。

「ヒロシさん。」

 不意に後ろから声を掛けられる。

「なんでしょう、セレンさん。」

 ぞわっと来たが、なるべく表に出さず声をかけてきたセレンに向き直る。

「なんで、私はついていっちゃ駄目なんですか?護衛の人に回復できる人連れて行かなくて平気ですか?」

 王国内だし、そんなにモンスターも出ないから別に……

護衛を連れ歩かない行商人もいるらしいので、一人旅でもいいかくらいに思っていたけど、まあ初めてだしな。

「大丈夫ですよ。運が悪くなければ、何もないでしょうし、悪くても盗賊くらいですよね?

 これでも逃げるのは得意ですよ。」

 むぅっと、セレンが頬を膨らませる。

「でも、2週間も旅をするんでしたら、何が起こるか分かりませんよ?今からでも準備しますけど。」

 2週間しか開けないんだからそれくらいは許してほしいんだよなぁ。

常時監視したいのはわかるんだけども。

 しかし、2週間は本当に短い。

まっすぐ行って、王都を往復してしまえば終わってしまう期間だ。

物を売り歩く旅だから、ほぼ隣接するアライアス伯を横切ってさらに東の男爵領がひしめく地域を巡ったらほぼ終わりといった程度で終わってしまうだろう。

 なるべく東、そしてベーゼックが地図を作っていると言っていた親戚のラウゴール男爵に会うのが主な目的だ。

それで手一杯だろう。

「準備は結構です。とりあえず、従業員同士が勝手にグラスコーさんが決めたことを変えちゃまずいでしょ?」

 こういう時の逃げ口上としては、上司に擦り付けるのが一番だ。

グラスコーが一人で言って来いって言ってるんだから、大人しくそれに従ってほしい。

「分かりました。じゃあ、せめてこれを……」

 彼女は、首にかけた聖印を俺に渡してきた。

「神様のご加護をお祈りしてます。」

 思わず、俺は何が仕込まれてるんだろうと思ってしまった。

 とはいえ受け取らないわけにもいかないので、受け取るけども。

「おい、グラスコー商会って言うのはここでいいのか?」

 不意に若い男の声が倉庫に響いた。

 なんかヤンキーっぽいしゃべり方だなと思って、振り向くとやっぱりヤンキーっぽい男が立っていた。

髪を逆立て、なんかやたらとごてごてした皮鎧を着ている。いつから世紀末伝説になったんだろうと思うくらい、服装が派手だ。

「そうですが、どなたでしょう?」

 なんとなく予測はつくんだけども。

「おう、ヒロシってやつの護衛を頼まれたラインズだ。よろしくな。」

 なんでわざわざガンを飛ばしてくるのかが不明だ。

どうやら、彼が護衛をしてくれるらしいが、ちょっと不安だな。

後ろのなんか水商売っぽい女の子も護衛なのかな?

 団長のカレルは割と好青年みたいな見た目だったけど、依頼先間違えたかなぁ。

「俺がヒロシです、よろしく。」

 一応手を差し出す。

「んな事よりさっさと打ち合わせしようぜ。座るところねえのかよ?」

 そういいながらずかずか奥へ行ってしまう。

「ねえ、ラインズ、私喉乾いたー。」

「リンダ、さっきワイン飲んでたろ?話が終わったら、酒場連れてってやるからちっとは我慢しろよ!」

 お熱いことで。

これは、完全にできてるな。

「お茶用意してもらえますか、セレンさん。」

 なんだか先が思いやられる。

「私、ああいう人たち嫌いです。」

 俺も同感。

正直、護衛無しの旅に切り替えたほうがいいだろうか?

 でも、ギルドには報酬を支払ってるから、キャンセルするとただでお金を払うみたいで癪だ。

「まあ、態度はともかく仕事をしてくれれば、個人の自由ですし。」

 そういって、お茶を濁す。


 駄目だ。

態度だけじゃなくて、護衛としても役に立ちそうにもない。

 打ち合わせとして、地図を見せて大まかな旅程を説明をしてもおう、おうしか言わない。

お前はオットセーか。

 リンダの方は常に髪をいじって、やたら足を組み替えたりラインズにしなだれかかったりしている。

暇そうにしてるけど、自分たちが何が出来るかすら言ってこない。

 仕方がないので、”鑑定”することにした。

もうこういう輩にあれこれ期待するのはやめよう。

本当に使えなさそうならキャンセルだ。

 ラインズの方は、そこそこの腕前がある。

レベル的に見て俺より2つくらい低いけど、この間までの俺と同じくらいだし、そこそこやってくれそうではある。

剣の才能があるってことは剣士なんだろうけど、どんなもんなんだろうな?

 能力値は俺ほど恵まれていない。

納得なのは魅力が8と非常に低い。

 リンダの方は、魔法の才能持ちだ。

レベルはラインズと同じ、覚えているのは攻撃呪文ばっかりなのが謎だな。

 まあ、小魔法は覚えているから水を自分で用意してくれるならいいか。

なんか、こんな奴らのためにいろいろ準備するのも嫌だな。

 こちらも魅力が低い。やはり見た目が基準ではないのはわかる。

見た目は少なくとも美人と言える容姿なのに、これだけ低いとしたらグラスコーの魅力の高さが説明がつかない。

 というか、あいつリンダにダブルスコアー付けて勝ってんだよなぁ。

「食事はこちらで用意させていただきます。

 以上ですが、何かご質問は?」

 ほとんど俺が予定を伝えるだけで、話は終わってしまった。

「ねえな。俺は最強だからよ。こんなしょぼい仕事どうとでもなるぜ。」

 何処が最強なんだかさっぱり分からない。

俺の能力をかいくぐる様な偽装でもしてるんだろうか?

ちょっと真顔になってしまった。

「お?なんだ、疑ってんのか?やってやってもいいんだぞ?」

 俺は思わず、天を仰ぎ見てしまった。

「いや、ちょっと農家のお手伝いをさせてもらってたので。疲れがたまってるんですよ。」

 顔を覆って、顔を伏せた。

「なんだお前、そんなバイトしないと食ってけないのか。しょぼい野郎だぜ。」

 まあ、そう解釈されるよな。

いいやそれで。

「ともかく、明日からよろしくお願いします。」

 面倒くさくなって俺は頭を下げた。

早く終わらせたい。

「おう、大船に乗ったつもりで任せな。」

 威勢のいい啖呵に俺は乾いた笑いを浮かべるしかできなかった。

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