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6-1 春到来。

6章開始です。

ただ、まだ出発にまでは至りません。

 ようやく春が来た。

時々思い出したように雪が降る日もあるが、だんだんと雨交じりになり晴れる日も増えてきた。

鮮やかさが増す気がしてくるけれど、それでも若干淡い雰囲気があるかもしれない。

 市場には春野菜として、レタスやキャベツが出回り始めた。

山菜なんかも取れるらしくソレルというのがよく出回っている。

 他に驚いたのが、タンポポだ。

これもよく食べるらしい。

最近は市場の人たちとも打ち解けてきたのか、お勧めされる野菜や野草が増えてきた。

 他にも、陶器職人さんからはよく食器なんかの売り込みを受けるし、鍛冶屋さんも釘や針なんかを買ってくれないかと打診されるようにもなった。

木工職人さんは棚や椅子、机なんかも試しに買ってくれと来る。

 どれも新人さんが作ったもので、程度はいいけど普通の商人だと相手にされなくて困っていると嘆いていた。

 そんなものなんだろうか?

デザインとか作りとかは普通だし、特に品質が低いようにも思えない。

 ”売買”での値付けもそれほど低い価格は提示していなかった。

 まあ、そんなわけで言われるがままに購入している。

 あるいは、体のいいカモに思われてるのかもしれないが、そこまでの悪意も感じないし言い値で仕入れた。

失敗してもそれは俺の責任だからな。

何事も勉強だ。

 グラスコーはすでに仕入れを済ませて春の旅に出発している。

護衛はベネットとトーラスだ。

 先を越された感じがするけど、こればっかりはしょうがない。

なにせ、蛮地を経由した販路なので腕が確かな人間じゃないと困るというのもあるし、ベネットもあまりにも有名になりすぎていて街からなるべく離れたいという愚痴も聞いていた。

 3か月も会えないのが寂しいが、仕方がない。

 もちろん、交換日記みたいなやり取りは続いているので、それで我慢しよう。

 それとドライダルの件は気が重かったが一部を伏せてベネットに知らせてある。

 渡したときには表情が消えてたから、相当つらかったんじゃないだろうか?

それでもありがとうとは言ってくれた。

よかったのか悪かったのか。

 いや、どう考えても渡すべきだった。

相手の手口を知っておくのはベネットの安全にも関係している。

使っている麻痺毒にしても、解毒剤があるので渡しておいた。

網を使ってくる手口にしても、知っていれば対処方法がある。

 なので、ちょっと俺がつらい以外は悪いことはない。

よかったんだ。

 とりあえず、仕事に専念しよう。

 仕入れは当然商会の金で行うわけだから、領収書を渡さないといけない。

荷物が届いている可能性もあるので、倉庫に行かないと。


「なんだよ!だましたのか!!いいから金出せよ!!」

 元気な男の子が、倉庫の前で声を張り上げている。

その後ろに弟と妹なのか、幼い子が籠をもっておろおろしている。

 対応しているベンさんが困ったような顔をしているけどなんだろう?

「どうしたんですか、ベンさん。」

 俺が声をかけるとみんなが俺を見る。

 いや、そんなに注目されると隠れたくなる。

「あー、ヒロシ。こいつらがスノーウーズを狩ってきたって言うんだが。」

 なんだろう?何か問題があるのかな?

 確かにスノーウーズの駆除依頼を出して死体を買い取るとは言っている。ちゃんと出してあげればいいのに。

「なんでもこいつらだけで、捕まえてきたらしいんだよ。」

 へぇ、それはすごい。

スノーウーズの大きさは人と同じサイズだ。それを子供たちだけで狩ってくるとなるとさぞ大変だったろう。

「それはすごいな。」

 ベンさんは苦虫をかみつぶしたような顔をする。

「すごいなじゃない、危ないだろうって怒るところだぞ。」

 まあ、確かに。それはその通りだ。

「うるせえんだよ!!つべこべ言ってないで金よこせよ!!孤児だからってバカにしてんのか!!」

 そうか、親がいない子なのか。それはお金欲しいよな。

「ベンさん、お金を渡してあげてください。お説教はあとでもできますよ。」

 仕方がないとベンさんは奥へ金をとりに行く。

「説教なんか、散々シスターにされてるんだからいらねえよ!!ふざけんな!!」

 おうおう、元気なお子だ。

「確かにね。まあ落ち着いて。これいるかい?」

 飴をいくつか取り出す。

子供たちの目の色が一瞬変わるが、先頭の男の子は舐められてたまるかといった感じで再度睨みつけてくる。

「ほら、後ろの子たちも籠を下ろして。別に変なものじゃないよ。」

 そういいながら、俺は一つを口に入れる。

「知ってるぞ、そういいながら一つは色が違って他のやつには薬とか混ぜてんだろう。」

 頭が回るなぁ。そういう警戒が必要な社会で暮らしてるんだろう。

「違うよ。ちょっと話が聞きたくてね。もし話を聞かせてくれるなら、追加で銀貨を1枚多めに渡すよ。」

 丁度ベンさんが袋に入れた報酬の銀貨10枚を持ってきた。

「無駄遣いするんじゃないぞ。」

 ベンさんの言葉にうるせえと返すけど、それはそうだよな。無駄遣いできるような余裕なさそうだもの。

「飴をよこせよ。話はそれからだ。」

 後ろの子たちがスノーウーズの入った籠を渡している時に、男の子が声をかける。

「3つでいいかい?」

 数を聞くと、男の子はたじろぐ。

「いいから数を言ってごらん?」

 おずおずと20個と言ってきたので、袋に入れた飴を渡す。

 多分この子が世話になっている修道院の子供の数じゃないかな。優しい子だ。

「それより話があるんだろ?銀貨の約束忘れるなよ!!」

 そういいながら男の子はくんくんと袋の中の飴の匂いをかいでいる。安全と判断したのか、まず自分が飴を舐め始めた。

後ろの子たちがずるいとか言ってるけど、たぶん毒見だから、あんまり責めないであげてほしいな。

「ずるくない。ほら、お前たちにもやるから。」

 そういいながら、一個ずつ後ろの子たちに飴を渡した。

「それで話なんだけど、どうやってスノーウーズを倒したのか聞きたかったんだ。」

 飴を舐め始めたところで話を切り出す。

 確かに、捕まった時の対処方法や倒し方なんかの注意喚起をしてはいるけど、子供でも平気とはとても思えない。

「なんだそんなことかよ。あいつら動きが鈍いから、雪の中にいなければ簡単に捕まえられるぞ?」

 ちょっと得意げだ。

 確かに、ここのところの陽気なら雪はだいぶ減っているかもしれない。

「あいつら、普段は日の当たるところにいて、そういう場所で他より寒いところがあれば、あいつらがいるってわかるんだ。

 あとはカイロ入れた袋の中に誘い込めば、退治するのは簡単さ。」

 なるほどなるほど。

 これも周知した方がいいかもな。より安全に駆除できるなら、それに越したことはないだろう。

「ありがとう、それをみんなに伝えれば、もっと捕まえてくる人が増えるかもな。

 いやぁ、ありがとう。

 貴重な情報を貰えて助かったよ。」

 そういいながら、俺は男の子に銀貨を渡す。

「え?みんなに言うってなんだよ?」

 男の子は茫然としたように、手渡された銀貨と俺の顔を交互に見る。

頭が回るから、気づいているかなと思ったらそんなこともなかった。

「ずるいぞ!!これは俺たちの秘密なんだ!!ほかのやつらに言いふらしたら許さないぞ!!」

 話しちゃってる時点で秘密でも何でもないんだよなぁ。

「残念、俺は聞いてしまったからね。みんなが取ってきてくれるなら、俺は大助かりさ。

 大人はずるいんだから、簡単に秘密を話しちゃだめだぞ?」

 そういいながら、金貨を取り出す。

「もちろん、秘密を話すことで、お金や願い事が叶うなら話は別だ。

 よく考えて話すか話さないか決めようね。」

 男の子は、しばらく歯ぎしりしていたけど、ふんだくるように金貨をもぎ取っていった。

後ろの子たちは、金貨だと大喜びだったけども、銀貨10枚と価値は変わらないんだよなぁ。

「やることえぐいな、ヒロシ。」

 ベンさんが呆れたように言ってきた。

 そうだろうか?

ちゃんと対価は渡してるんだけどな。

「あれだと、早晩スノーウーズに殺されるぞ。生きるのに必死なのはわかるが、危なすぎる。」

 ベンさんの言葉は確かにもっともだ。それでも彼らには金が必要なんだろう。

考える力もあるし、うまくやってのけた実績もある。それでも、運が悪ければ死ぬかもしれない。

 でも、それはいつだって存在する可能性だ。別の可能性だってありうる。

「どうするかは、あの子の自由なはずです。例えば、俺が広める前に捕まえ方を他人に教えて小遣い稼ぎするって手もありますしね。」

 やり方は人それぞれだ。

ちょっと意地悪が過ぎたかなと思わなくもないが。

「そこまで頭が回るかねぇ。金を出すから話を聞かせろと言われた時点で気づかないなんて、相当馬鹿だぞ。」

 確かにベンさんの言う通り自分の持ってる情報の価値って言うのに無頓着だったとは思う。

でも、そこは経験の有無という奴だと思うから、一概に馬鹿だともいえないと思うけど。

「まあ、なるようになりますよ。」

 それでも、ベンさんはご不満な様子だけど、俺も用事を済ませないとな。

事務所に入ると、明らかに暇そうにライナさんたち事務の人たちが思い思いのことをしている。

「すいません、これお願いします。」

 仕入れた代金が書かれた領収書を渡す。

「また、ずいぶんと買い込んだわね。まあ、暇だからいいけれど。」

 ライナさんは領収書の束にうんざりという顔をする。

手持ちの資金が消えていくわけだから、うきうきするような事じゃないし、気持ちのいいものじゃないのも分かる。

「むしろありがたいです。レイシャのように寝てしまいそうでしたから。」

 イレーネはぼやくように言って、作業し始める。

当のレイシャはここにはいない。

多分、普段グラスコーが使ってる部屋にあるベッドで横になってるんだろうな。

「なんで、あれでクビにならないのか不思議です。いいですかあれで?」

 セレンは不満げだけど、別に暇なときはそれでもいい気はするんだよなぁ。

別にグラスコーも気にしている様子はなかった。

「それと、明日から俺はアルノー村に行きます。

 何かあったら、そちらまで手紙をください。」

 農業研修と称してアルノー村の農作業を手伝いに行くわけだけど、その間に何か判断しないといけないことがあったら困る。

なので一応は手紙をくれと要求しているけど、多分そんな判断が必要になることはないだろうな。

 あくまでも念のためだ。

感想、ブックマーク、評価お待ちしています。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字報告もしましたが、ここにも報告を。 ベットではなくベッドです。 ベッドは寝るところ。ベットは賭けること。
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