1-13 自分がゲス過ぎて吐き気がしてきた。
倫理的にOUTなことを言ってますので、ご注意下さい。
俺は無言で桶に入った山羊の内臓を踏んでいる。
ぐちゃぐちゃという感触が気持ち悪い。
なるべく考えないようにしよう。
とりあえず、別のことを考えて意識を反らそう。
しかし、みんな心配にならないんだろうか?
今、俺が消えたら結構困るはずだ。
大事な物を預けてるって意識がないわけじゃないだろう。
でも、俺をそんなに信用してていいんだろうか?
正直、俺は学生時代、バイト先で店のレジからちょろまかすとか、そんなこともやったことがある。
友達から、それくらい普通にやるとそそのかされて、それが癖になっていた。
安いバイト代の補充だと思って罪悪感も感じてなかった。
今思うとよく捕まらなかったものだ。
みんなやっていたから、平気になっていたんだろうな。
店長に理不尽なシフトを組まれていたりだとか、殴られていたりだとか、恨みもつもってたんだろう。
だからって犯罪は犯罪だ。
やっていい訳じゃない。
年をとって、そこら辺のことを思い出すと気分が悪くなる。
俺は、俺自身を一番信用できない。
だからどうしても不安だ。
他人の財産を預かるって事は、相手の命を預かってるも同然といえる。
なのに、一番信用できない人間がそれをやっているわけだ。
働いていたときなんかは、それが不安で会計係は徹底的に避けていた。
なのに、今は他人の全財産を預かってる。
あー、いや全財産でもないか……
彼らにとって家畜こそが財産だ。
確かに容易に換金できる加工品や、加工を行うための道具なんかは預かっているが、大本の家畜は生きている。
だから、俺が強制的に連れて行ったりしなければ、平気なのか……
多分、呪文なんか使っても、羊や山羊たちはミリーを選ぶだろうし、馬たちをロイドから引きはがすのなんか無理だろうしな。
そう思うといく分、気が楽になる。
「ヒロシ、そろそろ良いよ。」
ヨハンナに声をかけられ、俺は考え事から意識が離れた。
「ずいぶんと熱心に踏んでくれたから、そろそろ選別できるよ。ありがとうね。」
真面目に働いていたわけじゃないんだから、褒められると恥ずかしい。
「あ、いや……ぼーっとしてただけだから……別に……」
しどろもどろになりながら、俺は桶から出る。
桶の中の内臓は、水で洗浄され血や排泄物は完全に取り除かれているようだ。
何度か水を換えたらしく、近くに掘った穴に汚水がためられている。
いつの間にやったんだろう?
俺がやったのか?
まあ、時々こういうことあった気もするけど、実感が湧かない。
油まみれの足を砂でぬぐい、こそげ落としていく。
ぬるぬるとした感触が無くなり、ほっとする。
たき火で焼いた砂は、まだ暖かくじんわりとかじかんだ足を温めてくれた。
さて、汚水のため池なわけだが……
聞いた話だと、掘り起こした砂や土を戻して埋めてしまうらしい。
まあ、血やら排泄物が浮いている水を再利用はできないよなぁ……
でも、もったいない気もする。
そういえば、水を作る呪文は水を浮かせたりもできたなと思い起こした。
浮かせられるのは水だけだろうか?
血液は無理?
じゃあ、この汚水はどうだろう?
面白そうだ、ちょっと試してみよう。
ふっと意識をため池に向ける。
すると、水が徐々に浮き上がってきた。
しかし、普通に水を容器に入れて持ち上げるのとは違った現象が起きる。
汚物や、血の色が、徐々に沈殿していっていく。
ちょっと驚きだ。
ため池から完全に水を浮き上がらせてみると、底には無色透明な水が浮いていた。
重い。
結構な重量感を感じる。
でも、動けないほどじゃない。
俺は水を穴からどけて、底を覗いてみる。
底の方には、固形物や粉末状の何かが残っているだけで、水が一切残ってなかった。
ように見える。
完全に脱水したわけでもないだろうけど、乾いていると言っていい状態じゃないだろうか?
思わずにやけてしまう。
俺が思っていた予想の中で一番良い結果が出たかもしれない。
しかし、飲めるような水かどうかは別だ。
確か、皮を鑑定したときに成分表が出てたはずだ。
浮かんでる水玉を鑑定してみよう。
しかし重いな。
どこに荷重がかかっているか分からないけど体が重い気がする。
出てきたウィンドウの成分表を見てみると、アンモニアや細菌、ウィルスの類は検出されていない。
よく見る、ミネラルウォーターみたいな成分だ。
いや、それでも飲みたいとは思わないかなぁ……
うーん、気にしすぎかな。
いや、それでも嫌だなぁ……
しかしミネラル分は出ていないのは不思議だな……
と思った瞬間、粉末が飛び散った!
ウィンドウからミネラル分も消失し、超純水が出来上がっていた。
おいおい……
思ってみないところにチートがあったぞ。
「ヒロシ、水を注いで貰って良いかい?」
ヨハンナの声に実験に夢中になっていた俺はびっくりしてしまう。
そして、次の瞬間水玉がかき消えた。
あれ?どこに消えた?
インベントリだろうか?
あわてて確認しつつ、俺は呪文で呼び出した水を桶に注ぎ込む。
「ごめん、またぼーっとしてた。」
そういいながら、桶に水を注いで残りの水分量を確かめた。
あれ?100リットル超えてる?
なんで?
え?もしかして、こっちにさっきの超純水が合算された?
と言うか、合算できるの?
意味が分からん!!
いや、と言うことは元汚水が混ざっちゃったって事かよ。
ど、どうしよう。
いや純粋なH20だし、飲んでも平気………平気………
言わなければ……
とはいえ、俺は分かってるんだよ!!
でも、破棄するのはもったいないしな。
やっぱり黙っておいて使い切ろう。
大丈夫、濾過したおしっこは飲める。
でもなるべく煮沸しよう。




