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5-28 《言語理解》は難しい。

翻訳は便利だけれど、思わぬトラブルはつきものだよねというのを是非やってみたかったんです。

と言っても、ちゃんと言語設定が固まっていないので、矛盾が生じてしまうかもしれませんが。

「そういえばさっきの話だけど、ヒロシは言葉注意してる?」

 突然そんなことを言われて面を食らう。

また、言葉遣いが乱れていただろうか?

色々と思いだしてみるけど、追加の注文をして春からの予定を話していた。

そこで一人で王国内で商売をするという話をしていた後だから、さっきという話は多分そのことだと思うけど。

特に変なことを言った覚えはない。

「あぁ、ごめんねヒロシ。言葉って言うのは、帝国語やフランドル語の違いを意識してるのかなって思ったの。」

 フランドル語ってなんだ?

初めて聞いたぞ?

「えっと……帝国語が通じると思ってしゃべってたつもりでしたけど……」

 そうか、やっぱりかという顔をされる。

「実はね、ヒロシ。今私がしゃべってるのはフランドル語なの……」

 ちょっと待ってほしい。

とりあえず、音に注意して聞いてみよう。

「ヒロシもさっきからフランドル語をしゃべってる。気付いてなかったと思うけど。」

 確かに帝国語の響きじゃない。

そんなことってあるのか?

「大抵この街に暮らす人は帝国語もフランドル語もしゃべれるけど、王国中央になってくると帝国語が通じなくなってくるわ。」

 そ、そうなのか。

「多分、《言語理解》のおかげでスムーズにヒロシはしゃべれるんだとは思うけど、注意しないといけない点がいくつかあるの。」

 いわく、俺から話しかける時は帝国語でしゃべり始めていること。

相手がフランドル語でしゃべってる人や返答した人間にはフランドル語をしゃべり始めること。

それが時々奇異の目で見られていることを指摘された。

「もちろん、みんな帝国語を知ってるから、あぁこの人は外国人なんだなって思ってくれてるけど、それだと色々と厄介なこともあると思うわ。

 特に帝国語なんてめったに触れない人には嫌厭されるかも。」

流暢だから、余計におかしく映ってただろうなぁ。

「なんでもっと早く……」

そう言いかけて、俺は言葉を飲み込んだ。

そりゃ、言いずらいか。

キャラバンで洗いざらい話したときに《言語理解》の話を聞いて、ベネットも初めてその仕組みに気づいたと言っていたし。

みんなも来訪者がどういう感覚で言葉を理解できているかは知らなかったみたいだった。

「ごめんね、癖なのかなとか思っていたから。

 でも、それで教養をひけらかす鼻持ちならない人物に写る可能性もあるかなって。

 もちろん、教会関係者の人や貴族でも上の方々には、帝国語で会話することを好ましく思う人たちもいるから。

 誰にでもフランドル語で話しかければいいって言うものでもないし。」

 確かに言われてみればそうだ。

癖なのかなって思われていれば、そう受け取れなくもない。

「じゃあ、もしかして俺って教養人を気取ってるように見えてた?」

 いきなり田舎のおばあちゃんにハローとかしゃべりかけていたようなもんか。

しかも、本式の発音で。

馬鹿じゃん。

「まあ、そうね……」

 ショックがでかい。

「言葉は本当に難しいわ。

 大体伯爵位を名乗る様な方々は帝国語で会話するのが当たり前で、フランドル語なんて庶民の言葉って思ってる方も結構いるけど。

 逆にそれより低位の方々だとフランドルの言葉に誇りを持ってる人もいるの。

 派閥によっても、ちょっと感覚が変わってくるって話だし、そこら辺は本当に複雑。

 だから、声を掛けられるのを待って話し始める方がいいとは思うわ。

 それとね、西と東で若干フランドル語も変わってくるの。」

 方言のようなもんだろうか?

《言語理解》はそこら辺も対応してるのかな?

「と言っても、大した差じゃないから街の人にはとりあえずフランドル語で話しかければ大丈夫だと思う。

 教会の人たちも普段はフランドル語だしね。」

 いったい、俺はいつからフランドル語を使っていたんだろう?

《言語理解》、怖い。

「いや、ありがとうございます。ヘマを繰り返すところでした。」

 そこで気になったのは、ベネットは言葉をどう使い分けてたかだ。

「ちなみにベネットさんは普段はフランドル語なんですか?」

 そう聞くと彼女は頷く。

「レイナ様には帝国語だったし、キャラバンの人たちは帝国語だったから、帝国語でしゃべってたわ。

 これでも私ちゃんと勉強してたからね。

 トーラスもそれは一緒よ?

 もともと彼はフランドル出身じゃないから、母国語の他にフランドル語と帝国語も使えるし。

 何かあれば通訳をお願いすることも多いわ。

 帝国語はいろんなところで通用するから、覚えておいて損はないとおもう。

 そうはいっても暁の盾でも帝国語をちゃんと使えるのは1割もいないけど。」

 超エリートだ。

ドイツ語とフランス語とラテン語使えますって感じなんだろうか?

ちょっと気が引ける。

今まで、ちょっと気の抜けた顔だなぁと思ってたのに、態度が改まってしまいそうだ。

「大家さんとかは、フランドル語だったのかなぁ。」

 相当奇妙な人物に写ってたかもしれない。

「うーん、大家さんってナバラ家の奥様だよね?多分、帝国語でお話になってたんじゃないかなぁ。

 もともと船を所有するくらいの豪商だもの。

 外国人との交流は多いから、ヒロシに対しては帝国語だったんじゃない?」

 そうなのかな?

あー、そういえばカールが最近帝国語をしゃべるようになってきたと思ってたから、大家さんとは帝国語でコミュニケーションを取ってたんだろうなぁ。

「じゃあ、もしかしたら大家さんには俺はフランドル語しゃべれないと思われてるって事かな?」

 支部長相手には、どっちだったのかとか、ベンさんやライナさんにはどうだったのかとか気になることが多い。

今後は注意しておこう。


 お昼のベネットとの有意義な時間のあと、つらい辛い午後の仕事を終えて俺は借りた部屋に戻ってくる。

いつものようにカールが絵を見せてくれて、ちょっとしたストーリーを語ってくれるようになった。

最初はどんな絵なのかを聞いたのがきっかけだったけど、カールの中では物語があった様子だ。

画家の先生は素晴らしいと大絶賛だったので、悪いことではないんだろう。

 でもますます絵本作家みたいだな。

「ご主人様、おじーちゃんが手紙を持ってきたよ?」

 思い出したようにカールが言う。

 差出人の名前はない。

多分、あの物乞いの爺さんだろう。

 見たいような見たくないような。

結構な厚みがある。

見ないわけにはいかないよな。俺が頼んだんだし。

 とりあえず、インベントリにしまう。

そこまで警戒する必要もないとは思うけど、念のためだ。

 とりあえず、食事を済ませ落ち着いたところでモニターで確認しよう。


 読んでいて気が滅入る内容だった。

モーダルでやった犯罪の数々に、手口がまとめられていて、つるんでる連中の情報も分かった。

昔からの仲間だった奴のうち、何人かはベネットの手に掛かっている。

 おそらくベネットは手にかけた奴からドライダルの名前を知ったんだろうな。

何度か、ドライダルの仲間がベネットに襲撃をかけていた様子も記されていた。

 ただ、ドライダル本人は、そういう襲撃には参加してなかったらしい。

仲間をけしかけていた様子なんかも記されているけど、どうやって調べたんだろうな。

 しかし、手口が陰惨だ。

麻痺毒を使ったり、網で絡めとった相手を散々嬲り、大切なものを蹂躙してから殺す。

 しかも執拗だ。

相手が殺してくれと懇願してからが本番みたいな雰囲気がある。

俺も大概、変な性癖をこじらせているけど、さすがに相手を絶望させて殺すというところは全く理解できない。

 そういうシュチュエーションが嫌いではないが、あくまでのシュチュエーションが好きなだけで、さらにいえば絶望から救われる話の方が俺は好きだ。

フィクションならいいけど、ノンフィクションは結構です。

そんな感じだ。

 趣味が合わないし、グロテスクさに辟易とする。

人に言わせれば、俺の方が業が深いかもしれないけども。

 ただ、純粋に犯罪としてみると、その分手間がかかってることを考えると効率は悪いよな。

実際、相手を屈服させる前に逃げだしている事例も多い。

そう考えると、恨みを買うばかりでとても割に合う犯罪じゃない。

 しかも狙う対象が、幼い子を含む家族が多いっていうのも、その効率の悪さで発見されて証言者が生き残っているせいだろう。

 ただ、仲間を囮にして逃げおおせていることからすると嗅覚は鋭いのかもな。

 しかしムカつく内容だ。

散々一番に幼い子に暴行を加えた後、仲間がそれに同調し夢中になったところで姿をそっと消す。

結果として、助かる子も多いけど、心の傷は深くなるよな。

 最悪だ。

とりあえず、つるんでいたという奴についてはベネットに教えておこう。

名前と人相書き、それに背格好だけだとちょっと心もとないけど、ないよりはましだと思う。

手口については伏せておこうかとも思ったけど、どうすべきか悩む。

対処方法については伝えないとまずいのは確かだけど、わざわざ心の傷をえぐる必要はないと俺は思う。

どう書いたもんだろうか。

 ふと、この手紙を”鑑定”すべきかどうか悩む。

あるいは、ここからあの不思議な爺さんの正体が分かるかもしれない。

どうすべきだろう。

 ……悩むなら辞めておこう。

どっちかというと俺はそういう性格だ。

なんか疲れたな。

 とりあえず、缶コーヒーを飲んで他に何かやってないことはなかったかなと考える。

ここのところ、本当に忙しかったし何か見落としてた可能性もあった。

 まず出版かぁ。

官報が印刷物として販売されてるんだから当然印刷所はモーダルにあるよな。

 考えてみると本屋ってないのか?

 本屋に聞くのが一番いいのでは?

というかなんで本屋って発想がすぐに出てこないんだ。

思わず頭を掻きむしった。

あいもかわらずぬけてる。

 とりあえず、本屋を探してみよう。

仕入れも兼ねて覗くのもありだよな。

感想、ブックマーク、評価お待ちしております。

よろしくお願いします。

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