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5-27 俺は上手くやれてるんだろうか?

課題というものは常に頭を悩ませますね。

 アーノルド商会の仕事は結局2週間もかかってしまった。

その間も他の仕事が止まるわけじゃないけど、結構うっとうしい仕事だ。

ひたすら、何かを”鑑定”し続ける仕事って言うのは本当につらい。

 最初のうちは、セレンが拗ねたというか拗ねたふりなのかは分からないけど、レイシャやイレーネが一緒に来てくれたから、俺としては安心してたんだけども。

そのうち、それが効いてないと思ったのか、またセレンが付きまとってくるようになったのも、ちょっと気力が減衰した理由だ。

 態度を変えるつもりはないけど、正直辛い。

いくら暗殺者っぽくても普段の言動や行動は普通の女の子だもんな。

そりゃ、油断も出てくる。

 しかも、ちょっとした行動でも好意的に受け取って感謝を伝えられれば悪い気はしないだろう。

例え、それが罠だと思っても気を許しそうになるのは男の悲しい性だ。

 もちろん、一線を越えるつもりなどさらさらないが、対応が緩くなるのは仕方ないよなぁ。

でも、罪悪感が半端ない。

 それと、つくづく俺はあほだなと思う出来事があった。

すっかり忘れていたんだ。

初めて見た時は、これすげぇと思った一品。

無限の水差しのことを、埃をかぶっている状態で困ったもんだとベンさんが言ったときにようやく思い出した。

 急いでグラスコーに買取の打診をして、6万ダールで譲ってもらった。

これがあれば、コンテナハウスの水問題は一気に解決する。

どころか、これで水場に無理に立ち寄らなくて済むようになる。

家畜たちが飲む水も賄ったうえで、生活用水を準備することも可能だろう。

そんな大事なものをすっかり忘れていた。

 結構な出費だけど、それに見合う価値は絶対あるだろう。

早速、キャラバン専用のインベントリに使い方を記した手紙と一緒に送っておいた。

ハンスからは、つべこべ言わんが正直持て余すとだけ返信が来たけど、なんでも受け入れるって言ってくれたんだから、それは聞かなかったことにしよう。

 冷蔵庫の試作品はまだ時間がかかりそうだ。

夏までには何とかなってくれればいいんだけどなぁ。

うちの商会専用の工房でも作れればいいんだろうけど、資金がどう考えても足らない。

ギルドがある以上、好き勝手はできないしなぁ。

いろいろと面倒だ。

 ベネットからは時々、レポートがめんどくさいようという泣き言が送られてくる。

思わず解決策を考えてしまうが、こういう場合女性は解決策ではなくて愚痴を聞いて欲しいのだという話を思い出して、トランシーバーを起動するようにした。

 大丈夫?何か送ろうか?うん、大変だね。そうだね。みたいな中身のない話をしてるが、これであってるんだろうか?

でも、大分元気を取り戻してきたみたいだから安心している。

 トーラスにちょっと話を聞いてみたら、どうやら戦闘詳報や戦術評価、それのレポートって言うのは幹部候補生にのみに要求される課題らしい。

トーラスも当然その候補らしいんだけど、正直辛いらしい。

 もちろん、その分の報酬は支払われるから文句は言えないけど、こんなことをしているのは暁の盾が初めてなんだとか。

ちょっとびっくりする。

 そうか、やっぱり暁の盾は特別だったんだな。

 そんな忙しい中、ベネットには例の攻城戦の話を録音させてもらった。

結構長い話になったので、これを本にするとなると大変そうだな。

レイナにちょっと聞かせてみたところ、面白そうではあるけど出版するのかと聞かれてしまった。

だから結局、そこで話がストップしてしまっている。

 駄目だ、どう考えても時間が足らない。

ベーゼックあたりに話を聞こうかとも思ったけど、そもそも夜の街に出ていく気力がない。

グラスコーは、どうやらアレストラばあさんの工房に通っていたらしく、定期的に織機と紡績機を持ってくるようになった。

改良がくわえられ、完成版と言える出来らしい。

大体1000枚を織れるから、価格もそれに準じた値段で販売する予定だ。

 もちろん、俺も買ってキャラバンに送った。

ヨハンナから手紙が来て、ローフォンのキャラバンに古い織機と紡績機を渡してもいいかと打診された。

もちろん、こちらとしては全然問題がないので、構わないよという手紙を送った。

同時に織ってもらったタオルも使ってほしいと言われたので、俺のインベントリに一旦移す。

 代わりに、貨幣を送っておいた。

必要なものがあったら言ってほしい、そのお金で買うからと手紙も添える。

これについては、マージンを取らないつもりだ。

 一応事前にグラスコーにはタオルをいくらで買い取るかという話をしてあるので、単に建て替えた状態だし俺は仕事をしていない。

だから当然なんだよな。

 そのあと、またタオルが置かれていたんだけど、添えられたヨハンナの手紙にはアジームたちのキャラバンから預かったもので、麦や野菜、日用品なんかを買って欲しいという内容だった。

麦は、そもそもこっちで手に入れるよりも”売買”で買った方が安いし収穫はだいぶ先だ。

あまり”売買”で購入し続けるのも問題かなとは思いつつ、そこは妥協した。

 とはいえ、他の細々した日用品やら野菜なんかは、市場に行って買い付けの練習を兼ねてなるべく安く購入できるように頑張ってみた。

鮮度や品質はわかるけど、どう指摘すれば安く買えるかは、本当話術だなと思い知らされた。

真正面からあたると大抵拒絶されて他で買えとなるし、かといって回りくどければ逆に高く買わされそうになる。

 本当に難しい。

俺、商売に向いてないんじゃないだろうか?

何をいまさらという話でもあるんだが。

「大変だったんだね、ヒロシ。よしよし。」

 というわけで、そんな話をして突っ伏したところをベネットに慰めてもらっている。

頭を撫でられるのはやっぱり恥ずかしいし、ちょっとその、やっぱり男としてのプライドが傷つく。

「やめてくれぇ……立ち直れなくなるぅ……」

 まだ、お昼だし、ようやくハロルドのところ以外でお茶やジュースを出してくれる店を見つけたんだ。

そんなところで、こんな醜態をさらし続けられない。

俺は何とかテーブルから、顔を離す。

「本当、ずいぶんと余裕ですね、ベネットさん。」

 じとっとした目で思わず見てしまう。

「そりゃ、団長から優の評価貰えて、レポート地獄から抜け出せたもの。余裕もできるわ。」

 にっこりと笑われた。

もしかしたら、レポートを書かせるのは心理的なケアをする意味合いもあるのかな。

「そういえば、セレンって子が謝りに来たんだけど、ヒロシ何かやった?」

 初耳だ。

何やってんだあの子は。

「いや、なにも。でも、謝るって何を?」

 もうなんか嫌な予感しかしない。

「変な噂を信じてしまってごめんなさいって言うのと、ヒロシとの仲を裂くようなことを言ってすいませんって……」

 それだけを聞く限りだと、問題なさそうだけど。

いや、問題ないのか?

「仲を裂くって言っても……その……」

 ベネットも困惑気味だ。

「でも、最初に抱いていた印象よりは、いい子なのかな。」

 なるほど、目的はそれか。

 でも、それでベネットに気を付けろというのもまずい。

的確に弱点を突いてくるな。

「まあ、悪気はなかったんだと思いますよ。正直、教会のスパイと思ってつらく当たりすぎましたかね。」

 実は、そんなことはかけらも思ってないが。

「本当にそう思ってる?」

 ベネットにそう問い詰められて俺は思わず目をそらしてしまった。

「分かったわ。警戒しておく。私を懐柔してヒロシを操ろうとしてるかもしれないって事ね。」

 言ってないことを的確に当てられると俺も困惑せざるを得ない。

「いや、でも警戒し続けるのもいろいろと難しいですよね。」

 俺がそういうと、ベネットも頷いた。

「正直どこまでが演技なのかは分からないけど、気を許しちゃいそう。迷惑を掛けたらごめんね。」

 迷惑はかけてもらっても構わないけど、正直ベネットが心配だ。

どう接してもらえればいいか分からない。

「それは構いませんけど、出来れば何かあったら教えてください。多分、目的は俺の能力についてでしょうし。

 とはいえ、ある程度推測はつくと思うんだけどなぁ。」

 そういうと、ベネットは首を横に振った。

「意外と、ヒロシの能力は推察しずらいと思う。複雑だし、ヒロシの発想が要だし。」

 そういうものかなぁ。

「それに目に見えないでしょ?」

 ぽんぽんとベネットは彼女専用のインベントリを叩く。

ベネットには渡すつもりでいたので、普段でも扱いやすい可愛いデザインの肩掛けバッグにしておいてよかった。

こういう時でも、不自然さはない。

「なるほど……」

 少し迷ったが、俺は何とか意図がくみ取れた。

確かに、インベントリ越しのやり取りが増えた気がする。

セレンからすれば、俺は単にホールディングバッグを持った荷物持ちにしか見えないかもしれない。

「それに、ヒロシは意外と真面目に商人してるもの。余計に混乱するんじゃない?」

 ベネットにそう評価されたのはうれしかった。

ただ、それがカモフラージュになってるとは思ってもみなかったな。

「ヒロシはすぐに口にしないから、この人何を考えてるんだろうって思ってるかもね。

 そうやって考えてて、案外本当に惹かれてたり……」

 思考停止してしまう。

いや、それはないだろう。

うん。

「そうやってすぐ否定する。可能性は無いことはないと思うなぁ。」

 ベネットはちょっと不満そうな、でもどことなく嬉しそうな笑みを浮かべる。

どういう感情なんだろう?

よくわからない。

 とりあえず、考えていることを当てられると本当に戸惑う。

「よく見てくれてるのはうれしいですけど、一応これでも伝える努力はしてるんですよ?

 口下手なだけです。」

 そういう俺の言葉にベネットは頷く。

「まあ、あくまで可能性の話。可能性。」

 ベネットの言う通りかもしれない。

まあ、あくまで可能性として片隅に置いておこう。

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