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5-25 修羅場?

気持ちは決まっているので割とすんなり終わります。

 連れまわされた店はどれもかわいらしい雑貨屋さんみたいな店だった。

基本的には小物や衣類関係のものがメインで、ボタンやフリルに使われるような刺繍が入った布や編まれたレースが置かれている。

宝飾関係もあるけど、どれも価値がある石じゃない。

 でもデザインは千差万別だ。

石を彩る金細工は安い青銅だったりするから、磨かないとすぐ色あせてしまう。

中には銀を使ったアクセサリなんかもある。

どれも銀貨2,3枚で買えるようなものばかりだからおもちゃと馬鹿にしてしまいそうだけど、それは値段を見ているからだ。

ちゃんとした服に合わせて付ければ十分それらしく見える。

 思ったのは、完成品の服というものがないということだ。

布は売っているが、服はない。

 聞けば、古着屋はあるので、服を買うならそういう店に行って分解して作る。

これはベネットにも聞いていたけど、扱う店も違うんだな。

一緒に扱えばいいのに……

そこら辺の事情を聴いてみたいが、どうしたもんかな。

「ヒロシ、その人は誰?」

 不意に俺の耳に、すっと冷たい声が入ってきた。

今、ちょうどセレンが隣にいてアクセサリを覗き、俺が店主を見ている状況だ。

そしてこの声は……

「どなたですか?」

 セレンも振り向いたので、俺も振り向く。

ベネットだ。

「あー、ベネットさん、彼女は新しく入ってきた事務員のセレンさん。」

 これは完全に勘違いされてもおかしくないシュチュエーションだ。

「あー、知ってます!銀髪の剣姫!!とても有名な方ですよね?このあいだ悪魔騎士を倒したとかってききましたよ!!」

 悪魔騎士?

なんじゃそれは。

「何の話?」

 ベネットも困惑気味だ。

セレネの冗長な話をまとめれば、早速ベネットの武勇伝が流布されているらしい。

 まあ、娯楽が少ないから仕方ないが。

それで、一騎打ちした相手が悪魔に魂を売った騎士だとなっているのだとか。

ベネットの表情がどんどん消えていく。

「彼は、悪魔に魂なんか売ったりしてないわ。最後まで忠義に殉じただけなの……」

 そうか、一番近くで見てたのはベネットだもんな。

それを好き勝手に言われたら腹も立つ。

「セレンさん、あまり噂話を吹聴しないでください。事実と異なることは往々にしてありますから。」

 俺はセレンに注意した。

「……分かりました。ヒロシさんが言うなら。」

 何処か不満げではあるが、飲み込んでくれたようだ。

教会出身のセレンからすれば、悪魔崇拝していた主人に仕えている時点でとても評価できる人物ではないだろうけど。

そこを主張するほど愚かではないようで安心した。

「ところで、お二人の関係って何ですか?」

 丁度いい機会だ。

はっきりさせておこう。

「俺の意中の人です。噂だと黒髪で美貌の王子にされてますけど、あれは俺です。まったく男前じゃないですが。」

 多分知らないはずはない。

セレンは最初から知ってただろう。

それでもあえて聞いてきたのなら言っておこう。

恥ずかしそうに顔を赤らめるベネットには申し訳ないが、あやふやにすると余計にまずい。

「この間告白しましたし、いろいろ事情があるので返答はまだですが少なくとも俺にとっては大事な人です。」

 よし、ここまで言い切れば大丈夫だろう。

「ふぅん、でも返事はもらえてないんですよね?」

 痛いところをついてくるが、まあ、そうだよな。

確かにベネットの返答を貰ってないから、恋人とは公言できない。

「私と付き合った方が幸せになれると思うな。」

 なんでそんなこと言うかなこの子は。

ベネットは、そうなのかなと少し落ち込んだようにうつむいてしまう。

「俺は今でも十分幸せですよ。セレンさんには申し訳ないですけど、別の人を見つけてください。」

 そういって俺はベネットの手を握り、彼女の横に立つ。

かなりひどい仕打ちだ。

見る人が見たら、クズ野郎と罵られるかもしれない。

ぽろぽろと泣きだし、セレンは駆け出して行ってしまった。

 大丈夫だろうか?

 まあ、まだ日は高い。

ここで追っかけたら意味がない。

一応、”鑑定”をかけてどこに行くか見守ろう。

視線で追いかけている最中に、当然能力値なんかも見えてしまうわけだが、自然とそれに目が行ってしまう。

 なんだこれ?

レベル俺と同じじゃないか?

 しかも短剣の才能持ちってなんだ?

弱点攻撃や隠形とかって能力まで持ってる。

 確かに、信仰系の術者であることも示してるが、明らかに暗殺者っぽい能力もある。

思った以上にやばい奴だった

「追いかけなくていいの?」

 ベネットが心配そうに俺の方を見ている。

「いろいろあるんですよ。あの子は教会のスパイみたいですし。」

 まあ、暗殺者っぽいってことは言わないでおこう。


 一応、ちゃんと帰ってきてるか確認のために事務所に顔を出した。

うん、無事みたいだな。

俺を見たら、ぷいっとセレンは顔をそむけた。

 次からは別の人についてきてもらおう。

本当にトラブルの種にしかならない。

 ベネットには事務所の外で待ってもらってるから、この後は彼女を誘って一緒に食事をとろう。

「じゃあ、帰ります。お疲れ様です。」

 みんな口々に挨拶をしてくれるけど、セレンは完全無視だ。

まあ私は怒ってますって態度を取らなきゃいけないよな。

 しかし、恐ろしい。

何処までが演技なのかが分からない。

後で俺が悪者にされるパターンかなぁ。

備えておこう。

「お待たせ。どこ行きましょうか?」

 待たせていたベネットに声をかける。

今日の彼女はスタンダードなスカートにチェニックという出で立ちだ。

ただ足元はいつもと違いショートブーツを履いている。

「可愛い靴ですね?」

 どこに行こうか悩んでいる彼女に思わずそんなことを言ってしまった。

「これ?うん、流行りの靴屋さんができてね。ハイヒールみたいなのも扱ってたんだけど、普段使いならこっちの方がいいかなって。」

 確かに作りがしっかりしてて、ヒールもそこまで高くなさそうだ。

普段はブーツの他にサンダルを履いているのを見たこともある。

基本的には機能優先なんだろうけど、やっぱり女の子なだけにデザインにはこだわりがあるみたいだ。

「今度、連れて行ってくれませんか?男物もありますかね?」

 そういう俺の靴をベネットは見た。

「そんなに立派な靴はないかもしれないけど、確か男性向けの靴もあったと思うわ。一緒に行く?」

 考えてみれば、ずっとスニーカーのままだったな。

これはこれで便利だけど、ちょっと印象が悪い。

「お願いできますか?」

 うんっと、ベネットは小さく頷いた。

「ねえ、ハロルドさんのところを連続で行くのは嫌かな?」

 全然問題ない。

そもそも扱っている料理も多いし、新しいものにも挑戦している。

飽きるという段階ではないから、ベネットが良ければハロルドのところに行こう。

「いいですよ。ベネットさんが良ければ。」

 さて、今日は何を食べよう。


 ベネットは、フォークを眺めている。

俺が”売買”で購入したステンレス製なのでピカピカだ。

「銀?でも、色合いが違う気もするし。」

 新しい食器に興味津々なようだ。

ハロルドにフォークを見せたら、興味を持ってくれたので売ったけど。

まさか、早速使ってくれるとは思わなかった。

 そして、スパゲティが皿で提供されている。

最初は試してみたいのでとハロルドに言われたから、俺だけのつもりだったんだけど、ベネットも試してみたいということになり二人してスパゲティを試すことになった。

いわゆるアーリオオーリオみたいなスパゲティだ。

オリーブオイルと塩とニンニクで味付けして、好みで削ったチーズをおかけくださいという方式らしい。

それとバジルとレタスのサラダに温かいスープが添えられている。

 そして、初めてハロルドに会ったときに食べさせてもらったミートローフも出してもらった。

ちょっと値段はお高めで、二人合わせて銀貨5枚だ。

庶民が食うにはお高めではあるけどたまの贅沢くらいはいいよな。

 ベネットが出すとか俺が出すとか、そういう定番のやり取りはあったけど今回は俺が払うということで落ち着いた。

何せお試しの料理が出てきてるし、ベネットは仕事明けだし、生還祝いということで納得してもらう。

「これ、どう使うの?」

 やはり戸惑い気味だ。

そのまま掬い上げてかぶりついてもいいんだけど、見た目はあまりよろしくはないよな。

別に俺だけが見てる分にはいいとしても見栄えってのは大切だ。

「とりあえず、数本を端で引っ張って、くるくると巻くとこんな感じになりますよね?で、それを口に入れれば。」

 試しにお行儀のいいやり方で食べてみる。

「なるほど……」

 ベネットはもともと器用だから、使い方さえわかれば特に問題ないよな。

「まあ、あんまり気にせずにかぶりついてもいいと思いますけどね。」

 というわけであまりお行儀のよくない食べ方で食べる。

まとめて掬い上げてかぶりついた。

あまり見栄えはよくないが、さすがにそこから啜り上げるのはやめておいた。

汚すぎるもんな。

 後、啜るって言うのが苦手な人もいるから、出来ない動作をして白い眼をされるのは勘弁願いたい。

 ベネットは新しい食べ方が面白いのか、くるくるフォークを回してはスパゲティを口に運ぶ。

楽しそうだな。

「んー……ハロルドさんのところは面白い料理があって楽しい……しかも、おいしいし……」

 幸せそうなベネットの言葉にハロルドは厨房で笑いながら頭を下げた。

「ところで、ベネットさんはあそこで何してたんです?」

 まあ、十中八九買い物なのは間違いないんだけども。

「今日履いている靴をね。仕事の前に発注していたから取りに行ってたの。その帰りにちょっと良いのないかなぁって……」

 気晴らしに買い物に出れるならもう平気そうだな。

「でも、まさか悪魔騎士を倒しただなんて噂が流れてるとは思わなかったわ。」

 俺もその点についてはびっくりだ。

ベネットが戻ってきたのがつい昨日だ。

だというのに、もう噂が流れている。

ちょっと早すぎないかとも思わなくもないが、それだけベネットが注目されてるって事なんだろうな。

「まあ、噂をする人は責任を負わないですからね。好きかって言いますよ。」

 派手でセンセーショナルな方が話は広まりやすい。

俺としても、もしこれでベネットに何かあったとして、悲劇のヒロイン扱いされてたら腹が立つどころじゃない。

「でも、あの子なんなのかしら。思わずひっぱたきたくなっちゃったわ。」

 相当腹に据えかねてたみたいだ。

「仕方がないのはわかるんだけれど、ちゃんと伝わって欲しいって思うのはわがままかな。」

 わがままではないと思う。

出来れば、みんなに事実をきちっと知って欲しいと思うのは当然の感情だ。

 もちろん、真相が全部わかるということもない。

当人の気持なんかは推察するしかないからだ。

起こった事実だって全部拾い上げることはできないだろう。

いつだって、出来事は断片的で一方的だ。

「わがままじゃないと思いますよ。何なら、手紙に書いてもらった内容を本にします?」

 冊子にして教会にでも納めれば、後世には少なくとも資料として残るだろう。

「やだ、恥ずかしいし。せめて出すにしても体裁は整えたい。

 戦闘報告もしないといけないし、戦術評価をされなくちゃいけないし、それに対してレポートも書かなくちゃだし、書くもの多すぎよ。」

 暁の盾って言うのはそこまでやるのか。

ちょっとびっくりした。

結構、傭兵って言うのはノリで戦ってるもんだと思ってた。

それを考えると本を出そうとは気軽には言えないか。

いっそ、暁の盾にもタイプライター納入しようかな?

 いや、どさくさに紛れてライナさんにはタイプライター押し付けたけど、知らない人から見たら不気味に映るかもしれない。

何とか評判を広められたらなぁ。

 もしくは、口述筆記を誰かに頼むって言うのも手じゃないだろうか?

思い浮かんだのはレイナだ。

彼女にタイプライターを押し付ければ、案外乗り気になってくれるかもしれない。

音声ファイルはタブレットに入れればいいし、案外いけるのでは?

 問題は、それをどう出版するかだなぁ。

出版ってどういう仕組みなんだろう。

本当どんどんとやってみたいことが増えていく。

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