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5-23 新人歓迎会。

会社の飲み会嫌いじゃなかったんだよなぁ。

あまり飲めないけど。

「えー、皆さんお集まりいただきありがとうございます。新たな仲間が増え、私もうれしく思います。

 これからグラスコー商会が、ますます発展することを願い、乾杯のあいさつに代えさせていただきます。

 乾杯!!」

 こんなんでよかったよな?

一応幹事の挨拶だけで、さっさと食事とお酒に移ってもらおう。

 カンパーイと掛け声が上がりみんな飲み物を飲み干していく。

俺もそれに習ってビールを飲んだ。

 いや、ビールというかエールか。

口当たりはあっさりしている。

流石にアルコール以外で乾杯って言うのもなと思い、ビールを頼んだけど、案外飲みやすい。

 並んでいる料理は、ハロルドが準備してくれたもので結構豪華だ。

アクアパッツァにカプレーゼにカブと生ハムのマリネに、ちゃんとしたピザがある。

それとアヒージョだ。

 やっぱりイタリアンっぽいよな。

みんなにも新鮮に映っているらしく、とくにカプレーゼに関しては生のトマトが珍しいのか、目を白黒させてる。

 ちなみに、名前に関しては俺が勝手にそういってるだけでハロルドがそういったわけではない。

創作料理だと言っていたから、イタリアンっぽいと評するのは俺の勝手な思い込みかもしれないけど。

 セレンはどうやらトマトが苦手らしいが、なんか目をつぶって食べてる。

無理して食べろとは思わないんだが……

頼めば別の料理を出してくれると思うんだけどなぁ。

俺の歓心を引きたいのかもしれないが、むしろあまりいい気はしない。

おいしく食べてくれるのが一番いいんだよな。

「そういえば、グラスコーさん、運転うまくなりましたね?」

 やっぱり才能があるんだろうか?

俺もいずれ運転するだろうけど、グラスコーほど早くは運転したくはない。

制御する自信がないからな。

「あんなのは、慣れだよ慣れ。むしろ馬車より運転しやすいんじゃないか?」

 確かに、それはそうかもしれない。

ロバや馬の機嫌次第でいろいろと変わるからな。

「そんなこと言ってると、ロバたちがへそ曲げますよ?たまには馬車にも乗ってやってください。」

 ベンさんが愚痴をこぼし始めた。

ロバたちの世話は、俺もやるが一緒にいる時間はやっぱりベンさんの方が長い。

 でも、いずれはロバたちも手放すことになるだろうな。

車が揃えば、そちらの方が絶対いいはずだ。

 ふと思ったが、《加速》を馬とかにかけたらどうなるだろうかと思った。

馬はある程度の速度を超えると骨を折ってしまう生き物だと聞いた覚えがある。

 とはいえ、それは競走馬、サラブレットの話として、聞いている。

まだアラブ馬との交配が進んでないのか、この国で見る馬はどれもがずんぐりむっくりだ。

ベネットの馬はそれでもスマートな方ではあるが、それでも足は太い。

それに、《加速》を掛けたら車並みの速度は出るんだろうか?

あー、自動車に《加速》は、かけられるのかな?

呪文に関して考えると色々と妄想がはかどる。

 いかんいかん、グラスコーに聞こうと思った前振りで余計なことを考えてしまった。

「ところで、グラスコーさん。従業員は増やさないんですか?販売員の方ですけど。」

 そういうと、グラスコーはどうしたもんかなと答えた。

「まず、自動車の性能を確かめてみたい。その上で、増やせるかどうかを考えてる。

 まず俺たちは足が命だからな。

 だから、春になったらヒロシと俺は、別の販路を動くことにしようと考えてるんだが。

 どう思うよ?」

 あー、予測してなかった。

そうか、そういう考え方もありか。

「つまり俺が王国内で、グラスコーさんが今まで通り蛮地経由ですか?」

 そういうと、グラスコーは頷いた。

「まあ、とりあえず王国内の中を見てみりゃわかるが、どれだけ商売しづらいか分かると思うぞ?競合が多すぎる。

 だけど、その中でどれだけやれるかちょっとヒロシには挑戦してみてほしい。」

 なるほど。

本当に経営者としてはよく考えてるな。

「まあ、頑張ってみます。一人でどこまでできるかは自信ないですけど。」

 だろうなという風にグラスコーは頷いている。

これは、失敗することも織り込み済みだな。

「その時はぜひ私をお供に!!」

 セレンが手を上げて話に割り込んでくる。

「はいはい、セレンちゃんはもっと事務を頑張りましょうねぇ。」

 レイシャがセレンをからかうように笑う。

「レイシャさんに言われたくないです!!いっつも寝てるくせに!!」

 うわ、喧嘩始まったよ。

「レイシャは仕事をしたうえで寝てる。あなたは、少し誤字脱字が多いですよ?タイプライターが苦手なのはわかりますが、もう少し頑張ってください。」

 イレーネがセレンを叱る。

そんな関係性がもうできてたのか。

知らなかった。

セレンはぐぬぅとうなって黙ってしまった。

イレーネには頭が上がらないんだなぁ。

「私としては、レイシャには夜の仕事はやめて事務に専念して欲しいと思ってます。

 字も綺麗ですし、仕事も丁寧です。

 今はまだいいですが、決算時には忙しくなります。

 その時に夜の疲れがたまっていて、働けないというのは困りますから。」

 いやいや、ちょっとイレーネはストレートすぎる。

確かに言いたい気持ちはわかるけど。

「いいじゃないの、宴会の時くらいは仕事の話は無しにしない?」

 ライナさんがとりなした。

「……そうですね。すいませんでした。お酒の席で言うことではなかったかもしれません。」

 ふむ。

やっぱり取りまとめ役はライナさんなんだなぁ。

 こういう飲み会は、実は大好きだ。

部署が離れると、どうしても距離があって人間関係分かりにくいし。

まだ明確な部署とかがあるわけではないけれど、今後はよりその傾向は強くなっていくと思う。

そういう意味では良い文化だと思うんだけどなぁ。

「楽しそうだね、ヒロシ。女同士がいがみ合うの好きなの?性格悪ーい。」

 レイシャが俺をからかってきた。

「そういうつもりじゃないですけどね。むしろみんなには仲良くやっていってほしいと思ってますよ?」

 そのために飲み会を設定したわけだしね。

「まあ、お酒が入ればみんな思ってることを口にできるじゃないですか。酒の席のことだから、水に流そうとか、そういう風に思える時間も大切かなって思ってるんですよ。」

 俺の言葉にレイシャはにんまり笑う。

「悪い男の手口だよ、それ?まあ、ヒロシがそれをうまくできるとは思えないけどね。」

 確かに言われてみれば、そんな気もするなぁ。

言葉がまずかったか、

「いや、案外うまくやるんじゃねえか?だからもっと酒飲めるようにならないとな。」

 そういいながら、グラスコーがエールのコップに蒸留酒をぶち込んできた。

どんな理屈だよ。

「いや、勘弁してくださいよ。酒は飲んだって強くなりませんから!!」

 うーん。

どうしよう。

いつもの手を使うか。

 とりあえず別の飲み物を頼むか。

注文しようとハロルドがいたはずの方を見ると、女性に食事をとらせている姿が見えた。

そういえば、奥さんがいたんだったな。

今はテナントの上にある部屋にハロルドも居を移してきてるけど、その時に初めて奥さんがいるのを知った。

いつもボーっとしていて、何もしゃべらない奥さんだけど、結構な美人だ。

 でも食事を口元に運ぶ姿は、いちゃついているというより介護しているようにも見える。

何かしらの障害でも抱えてるのかな?

ちょっと、間に入るのも悪いから、グラスコーがぶち込んだ酒を処理するか。


 途中から、セレンとレイシャで飲み比べが始まったり、イレーネが急に寝始めたりして面白い新人歓迎会になった。

結構いろいろな料理を追加したけど、どれもおいしくて俺はとても満足だ。

ベンさんとグラスコー、それにレイシャは二次会、起きたイレーネがセレンとライナさんとでご帰宅と相成った。

一応、残された男性は俺だけなので、護衛を兼ねて一緒に付いていく。

 最後にセレンが残ると困るので、まずはセレンを送り、次にイレーネ、ライナさんの順で送る。

料理はカールの分を確保してあるので、早く帰ろう。

まだ早いとはいえ、お腹すかせてるだろうしな。

 ちなみに、ベネットのタブにも手紙を添えて料理を送っておいた。

大分疲れもたまっているようだし、食べれるようなら食べてねという短い文章だから、手紙は余白ありまくりだけど。

 家の近くに来たので、なんとなく見回した。

例の物乞いの爺さんはいるだろうか?

「誰かお探しかね。」

 俺はびっくりして振り向くと、そこに爺さんが座っている。

いつの間に……

やっぱりただものじゃないな。

「驚かせないでください。あなたの目的は何ですか?」

 そういいながら、木皿に銅貨を1枚置く。

「ただの爺さ。お金を恵んでくれる旦那様に少し礼をしたくてね。」

 正体がつかめない。

まあ、そんなに言うなら試してみるか。

「ドライダルって男のことを知ってますか?できうる限り情報が欲しい。」

 そういって、俺は銀貨を木皿に置いた。

「もう、ここにゃいないが、それでもいいかい?」

 つまり、昔はいたって事か?

俺の顔を見て、爺さんはにやりと笑う。

「それでもいいですよ。どんな手を使うのか、どんな奴とつるむのか、弱点はあるのか、どうすれば殺せるかを知りたい。」

 もちろん、ベネットの敵討ちに介入するつもりはない。

彼女の敵討ちが無事終えるために必要な情報が欲しかった。

「復讐をやめさせるつもりはないんだね。」

 どこまで事情を知ってるんだろう。

ますます不気味だ。

「決めるのは彼女だから。

 復讐をあきらめるというなら、俺にとっては一番望ましい。

 危険な稼業からも足を洗ってほしい。

 でも、それは全部俺のわがままだ。」

 それに全部終わるまで待つといったしな。

「分かったよ。調べておこう。」

 どうやら納得したのか、ふっと静かな笑みを見せる。

何処か疲れたような様子があるのは、俺の気のせいだろうか?

 もうすぐ春だけど、まだ寒い。

「俺にはあなたが敵か味方かが分からない。だけど、風邪で死なれちゃ心苦しい。せいぜい暖かくしてください。」

 俺は、カイロを取り出して爺さんに差し出した。

陶器製の木炭を入れて使う奴だ。

酒を出そうかとも思ったけど、どこで寝泊まりしてるかもわからない相手に酒を贈るのは死ねと言ってるようなもんだからやめた。

「少なくとも、敵じゃあないよ。」

 爺さんはにこにこしながら、カイロを受け取った。

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