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5-22 農業研修を申し込む。

農業のことはよくわかりません。

 しかし腹の立つ話だ。

王国側の指揮官はベネットではない。

あくまでも依頼した王国の騎士が指揮官であって、ベネットは傭兵団の一員でせいぜい小隊長という立ち位置だ。

そこからすると、王国の騎士が一騎打ちをすればいい話なのに、指揮官の指名でベネットが矢面に立たされた。

 ちなみにこれは傭兵団の事務員さんに聞いた話なので、あまり大っぴらには話せないのがさらに腹が立つ。

団長も、その件に関してはご立腹だったらしい。

契約にもないし、戦士として恥ずかしくないのかって珍しく怒鳴ったんだとか。

 そういえば、怒鳴ってるところ見たことないな。

 しかし、どっちの陣営も責任者が責任取ってるとは言えないよな。

世の中そんなもんだと言えば、そんなものだけどさ。

ちょっとやさぐれた気持ちになる。

 まあ、気持ちを切り替えよう。

 午後は、グラスコーと門の前で待ち合わせている。

車で来るということだったんだが、まさか門の外にいるとは思わなかった。

衛兵とどうだ、俺の車はすごいだろう見たいな話をしているけど、どこ行ってたんだ?

「グラスコーさん、お待たせしました。」

 とりあえず、謝りながら門の外に出る。

「おう、デートはどうだったよ?」

 なんで知ってんだ?

「ベネットがボロボロになって帰ってきたのは見てたからな。

 相当ひどい仕事だったみたいだな。」

 俺は苦笑いをするしかない。

どこまで話ていいんだかもわからないから、黙秘するしかない。

「まあ、いいから乗れよ。今日は宴会なんだろ?新人を迎えたら祝うって言うのは知らなかったが、まあ面白そうだから、参加したいしな。」

 そっか、こっちだとそういう風習はないのか。

失敗したな。


 車があると、本当にアルノー村は近い。

街道が通ってるのもあるけど、馬車に乗れば半日かかるところを1時間もあれば到着できてしまう。

グラスコーが飛ばし気味だって言うのもあるんだけど、やはり馬車とは比べ物にならない。

安全な道ならやはり馬車よりは自動車だろう。

 しかし、相変わらず勝手に村長の家を使うのな。

厩舎に自動車を突っ込ませたら、そのまま停車させてしまう。

 いや、迷惑だろう。

いくら馬車を止めるスペースだからってここに停める馬車もあるだろうに。

 まあ厩舎といったけど、馬はいないからいいか。

いたら、中の馬に悪影響あるぞ。

「いや、お待ちしておりましたよ、ヒロシさん。

 無理を言ってすいません。」

 ドレンさんはやはり気にも留めてないのか、歓迎の意思を表明してくれる。

「いえこちらこそ、すぐに来れなくてすいませんでした。

 ちなみに、屋根が抜けた家の人たちは今どうしてるんでしょう?」

 聞いてみれば、親類のところに身を寄せているのですぐどうこうという状況ではないらしい。

とはいえ冬の間に家の補修をするのは危険ということで、家は放置されている状態だそうだ。

 ちなみに、補修は村が総出で行うことになっている。

街から職人を呼ぶよりもそちらが安く上がるからだとか。

そう考えると農家の人ってすごいよな。

大半自分で解決しようとするし。

 問題は、家財が雪に埋もれっぱなしで、春に向けての準備ができないのが困る。

なので、臨時で何か住む場所を用意できないかという相談だ。

 一応、プレハブのレンタルを考えてグラスコーには打ち合わせをしておいた。

「で、費用なんですが。一棟あたりひと月に金貨3枚かかってしまうんですよ。

 補修を始めるのが春だとすると、3か月は必要じゃないでしょうか?」

 ドレンさんには魔法を使って召喚すると説明してあるので、レンタル切れで消えてしまっても不思議には思われないだろう。

 問題は、その費用だ。

街で家を借りると考えると割と高い。

家族向けの豪華な家が借りられる値段だ。

「いや、こんな状況ですから費用が掛かるのは仕方がないのですが。うむぅ。」

 ドレンさんが負担することになるとすると、結構な値段だ。

「まあ、安心しろよ爺さん。何も一括で払えとは言わねえよ。収穫する小麦でどうだ?今年はこっちに回してくれてもいいだろう?」

 いわゆる物納という奴だ。

しかも、将来採れる麦を目当てにしてるから、先物と言ってもいいかもしれない。

「そうしていただけると助かります。去年は申し訳なかったですな。」

 ドレンさんの言葉にグラスコーは手を振る。

「仕方ねえよ。あんな値段付けられちゃ、こっちとしても手が出ねえ。穀物商人の独断だから高い方に売るのは仕方がないさ。」

 穀物商人って言うのは何だろう?

米問屋みたいなものかな?

多分、税は物納じゃなく換金して行われているだろうし、それを執り行う商人かな?

後で聞いておこう。

「去年の相場はこうだったけど、増産するだろ?安くなるかもしれねえ。この値段でどうだ?」

 10ポンド単位なのでちょっとつかみづらいけど、去年の相場は大分高かったんだな。

多分、これよりも高い金を出して集めてるだろうから、ハンスに渡した量があれだけだったのも仕方ないか。

ほぼ利益なかったんだな。

 しかし、これだと完全に先物だな。

ただ、さすがに安すぎるのかドレンさんもちょっと悩み気味だ。

今年が必ずしも豊作とは限らない。

出来ればもうちょっと値段を上げてほしいんだろうな。

「分かりました、それで結構ですよ。まあ、せいぜい励みます。」

 力なくドレンさんは笑った。

「あー、えっと……じゃあ、俺が金貨4枚出します。」

 二人が俺の方を見る。

まあ、俺の取り分があるだろうとグラスコーは分かってるとはいえ、金貨4枚は結構な値段だ。

マージンとして取っていた分は全部飛ぶことになる。

「何言ってんだおめぇは。邪魔すんじゃねえよ。」

 グラスコーからするといい迷惑だろうが、ちょっと俺には俺で考えがある。

「いや、もちろん、ただで出すって言う話じゃないです。ドレンさん、今年の春は俺にちょっと見学をさせてほしいんです。」

 つまり、農業研修の費用として渡すつもりだ。

「いや、それは構いませんが、忙しいのでお構いすることはあまり……」

 まあ、いい迷惑だよな。

「仕事も手伝わせていただきますが基本的に何をしているのか、出来れば秘密も少し教えていただきたいんですよ。」

 どうやらグラスコーは納得した様子で黙る。

秘密といった段階でドレンさんにも警戒心は生まれたかもしれないので、ちょっと付け加えよう。

「何も農家をやりたいという話じゃないんです。皆さんのお役に立てる可能性があるかもしれないということなんで。

 どうでしょうか?」

 まあ、4枚じゃ村にかかる負担はそれほど軽減されるわけじゃない。

でも、ないよりはましだと思うけど、拒絶されるかなぁ。

「いや、人手は一人でも多い方がいい。それでもかまいませんね?」

 つまり、こき使うぞという宣言か。

まあ、それは甘んじて受け入れよう。


「しかし、お前も物好きだな。金を払って働きたいとはな。」

 プレハブを設置中にグラスコーにそんなことを言われた。

「人にものを教わるときに、金を払うのは当たり前じゃないですか?」

 プレハブを固定するために杭を打ち込みながら俺は答えた。

丁度これで、最後だ。

 この家に住む人が、礼を言いながら荷物を運びこみ始める。

「んー、まあ、俺らの知らねえことは知ってるかもしれねえが。どう考えても、お前がお人よしにしか俺には見えねえよ。」

 ならいいことじゃないか。

悪人と思われるよりも善人と思われる方が何倍もいい。

その上で、舐められないようにしろって言うのは大事だけど、まあそれはおいおいでいいと思うんだよな。

「まあ、俺はグラスコーさんと比べれば、お人よしですよ。

 えげつないことばっかりしてたらそのうち刺されますよ?」

 と言ってるが、俺からすればグラスコーも結構お人よしだと思う。

ただ、いい人に見られるのが、すごく嫌いなんだろうな。

「まあ、刺されそうになったら助けてくれよな。」

 すげえ嬉しそう。

そんなに悪い奴に思われたいのかね。

その感覚はよくわからん。

「それより、暗くなる前に帰りましょう?みんな帰って二人で食事なんてたまったもんじゃないですよ。

 それなら、俺はベネットのところに行きますからね。」

 仕事も終わったし、早めに帰ろう。

やろうといった人間がいかない宴会ほどつまらないものはない。

 不意に電子音が鳴る。

調べるとトーラスから、明日には帰れるという内容と愚痴の手紙だった。

とりあえず無事で何より、帰ってきたら何かおごるよと返信しておく。

「毎度思うけど、お前のそれは何なんだ?時々、指を動かしてるが?」

 あぁ、これは教えてなかったかな。

「モニターを見せたことありましたよね?あれに文字を打つ仕草ですよ。」

 ふと思いついて、ソフトキーボードみたいなのが表示できないか試してみた。

うん、出来る出来る。

「ほーん。なるほどタイプライターみたいなもんか。便利なもんだ。全部あれで処理できりゃ一番楽なんだがな。」

 フォントを作ればあるいは自筆風にできるかもしれないが、ちょっと手間がある。

それに綺麗に揃った字だと本当に自筆か訝しがられても嫌だろう。

まだまだ、代筆をお願いしておく方が安全な気はする。

「まあ、いいや。帰るか。」

 車までたどり着いたので、グラスコーが運転席に座る。

俺も助手席に乗り込んだ。

帰りも割かし飛ばすので、あっという間にモーダルが近づいてくる。

次々人をよけ、馬車をよけるから多分グラスコーの運転はうまいんだろうな。

怖いと言えば怖いけど、グラスコーは運転に自信を持ってるみたいだ。

舗装されているとはいえ道はそれでも凸凹しているので時々跳ねる。

それも計算に入れてるのか思わず危ないと叫ぶ必要はなかった。

 しかし、キーボードを打つ仕草の時に改めて思ったけど、出入り口を設定しているカバンにアクセスしている時は、みんなどんな風に見えてるんだろうか?

ちょっと気になるところではある。

 それとは全く関係ないことだけど、すっかり聞きそびれていたことを思い出した。

 まあ、そのことは宴会の時でいいか。

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