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5-20 傭兵にはなりません。

まあいずれ戦うことになるわけですが、それはまた別のお話。

「ヒロシ、ワイバーンを狩ったんだってな!!」

 団長の執務室に通されると開口一番そんなことを言われた。

「分かってると思いますけど、ベネットとトーラスのおかげですよ?」

 分かってる分かってると団長も手を振る。

「あいつは空を飛んでくるから厄介だろ?通常は、10人程度で網を投げて捕まえておかなきゃならん。

 もしくは、飛び掛かってくるところを待ち構えて大砲でどかん!!

 それを一人でやってのけたんだから十分凄いさ。

 お前は、本当に自分を過小評価するな。

 何だったら、うちに入らんか?いつでも歓迎するぞ?」

 ご勘弁願いたい。

ベネットからは、帰り道で落ち着いてきたのか愚痴みたいな手紙が来て悲惨さを思い知った。

 今回は攻城戦だったらしく、壁で突き崩したところに兵士を送り込むという大乱戦だったそうだ。

中には勇敢に立ち向かってくる少年やら、槍を支えにした老人が挑みかかってくるなんてのもあったらしい。

もちろん、戦う意志があるうちは敵として倒さなきゃいけないわけだけど、決して気持ちのいいものじゃないだろう。

 最後は敵側の指揮官がベネットに一騎打ちを申し込んできた。

条件はベネットが勝てば降伏、指揮官が勝てば包囲を解き、1日の追撃を免除するという内容だ。

城の防備が崩れているので力押しすれば勝てるところまではきていたけど、そうすると敵にも味方にも辛い泥沼が待っている。

 今時一騎討ちなんてと嘆いていたけれど、結局ベネットは条件を飲んだらしい。

手紙が今も届いていることを考えればわかるけど、結果はベネットの勝利したわけだ。

 と言っても、勝ったことを喜んでる感じではなかった。

 ちょっとこれは精神にくるものがあるよなぁ。

帰ってきたら、ちょっと労わってあげないと。

 まあ、そういうわけで傭兵は願い下げだ。

とてもやわな俺に務まるお仕事には思えない。

「前も言ったと思いますけど、商人で食っていくつもりです。

 できれば、戦わなくて済むなら戦いたくないですよ。」

 すげない返答に、団長は口をへの字にする。

「まあ、分かってたがな。

 誰も好き好んで人殺ししたいってやつはいない。

 それでも戦わざるを得ない状況って言うのはいつだってあるわけさ。

 そういう時こそ、戦いたくてしょうがねえ馬鹿どもの出番だ。

 まあ、そういう分けだから、ご贔屓に。」

 前回の旅では結構払った。

そういう意味で言えば、俺も立派な顧客なわけだ。

そして、逆に彼ら相手に武器を売る死の商人でもある。

「で、どうでしょう?銃剣の方は?」

 気持ちを切り替えよう、おセンチになろうと思えばいくらでもおセンチになれる。

そんなことより金儲けだ。

「一応レポート提出をさせてみたが、どっちも構造はもっと簡単な方がいいという意見だな。

 両方ともそれなりに作りがいいから壊れなかったけども、やっぱりシンプルな方がいいという意見だった。

 まあ、レポート書いた一人は死んじまったがな。」

 そういいながら、団長はレポートを俺に渡してくる。

一つはトーラスのだから、もう一つの方が戦死した人のレポートか。

内容的には、戦闘が終わる度にねじを巻きなおしたり金具が外れないかチェックしていたが、いつ引っ込んでしまうか不安で仕方がないという内容だった。

「ちなみに、本当に引っ込んでしまったとかですか?」

 それだとすると、死因に絡んでそうでやだな。

「いや、回収されたマスケットにしっかりと装着されてた。

 敵にぶっ刺さったままだったらしいし実用面では問題ないとは思う。

 ただ、心理的な面の問題だな。

 確かに弾込めの時に引っ込めておけるのは便利だろうけど、むしろ外側に湾曲させて出っぱなしの方が安心感はあるんじゃないか?」

 団長もレポートをちゃんと読んでいるらしく的確なアドバイスをくれる。

「そうですね。その方向性で考えておきます。」

 問題は、装着方式で銃身をいじらせてもらうか、それとも今回の銃身をいじらずねじ止めするか、俺の分からないからくりで筒が絞られる方式か。

どうせ他の商人なんかも似たような商品を出してくるだろうし、さっさと動いた方がいいかもな。

「ちなみに、注文していいか?ねじ止め式を50、絞り式を50でトライアルさせてくれ。

 どっちにするか使ったうえで決めたい。もちろん、代金は支払うぞ?」

 団長は、大分乗り気らしい。

「これからは、どんどん銃が広まっていくだろうしな。そうなってきたらいつまでも槍を持たせておくわけにもいかなくなってくる。

 俺みたいな剣士なんぞ、いつまでも残ってられなくなる。なら、早めに切り替えるのがいいだろうさ。」

 銃弾を切る人が何を言ってんだろうか?

 とはいえ一般人はそうなっていくだろうな。

銃弾を飛び交う中、銃じゃなくて槍を持たされるとしたら心もとないどころの話じゃないだろう。

「分かりました。用意して置きます。

 それと、銃身をいじって脱着がしやすいものも考えています。

 そちらも試してみてください。」

 まずは試作からだよなぁ。

 あー、そういえば、冷蔵庫の試作もしないとなぁ。

職人さんに説明するプレゼン資料は何とかまとまったから、どこかで打ち合わせをしないと。

とても、素人だけでは考えがまとまらない。

どこに集めて説明したもんだろうなぁ。


 居留地には門が近いので、衛兵にスノーウーズの駆除依頼を出してきた。

1匹当たり銀貨10枚、死体でも構わない。

倉庫に持ってきた時点で支払うという形の依頼だ。

銀貨10枚だと若干安すぎるかもしれないが、動きは鈍いので先に発見できれば安全に狩れる獲物だ。

 とりあえず、倒す際は叩いてはいけないということと不意に襲われたときはカイロを投げろという注意喚起も合わせて依頼した。

 ちなみに、関所は王国の管轄だけど、市の門は市の管轄で運営されている。

傭兵とは違い、常時雇用だから安定している分給料は安い。

過酷な家業である傭兵をやめて衛兵になる人も少なくないから腕が悪いというわけでもないけれど、やる気という面ではあまり高くない。

 なので、こういう駆除依頼というのはいい小遣い稼ぎになるから喜ばれるそうだ。

しかし、死体を持って来いという依頼は珍しいらしく、なんに使うんだとちょっと訝しがられてしまった。

 いろいろと使うんですよと誤魔化しながら、ついでに官報も買った。

通常は、中央の市庁舎に行かないといけないんだけど、外部から来る人間に対する注意も含まれるので、門で購入することもできる。

 ただし、1週遅れだけど。

 といっても、そこまで頻繁に更新があるわけでもないので、これで十分だろう。

 俺は帰りの辻馬車で官報を読んだ。

水道局員募集は先生が言っていた通り、水道局が開かれたことを意味している。

 一般職員の給与は大したことは無いけど、浄水場勤務は結構な給金がもらえる。

週に銀貨100枚は熟練の職人なんかよりよっぽど高給だ。

但し、資格として《水操作》を使えることというのが含まれる。

 これは、正直厳しい。

話によると、そもそも魔法使いというのは、クレリックも含めても人口の1%に過ぎない。

その上で信仰系の術者だと教会に縛られる人が大半だろう。

それに《水操作》を使うだけの人生に喜びを見出す人は多くないだろう。

場合によれば、傭兵や領主のお抱え魔術師という道だってあり得る。

そうそう人集まらないのじゃなかろうか?

 金の臭いがする。

これはうまくすれば、儲けられるかもなぁ。

とりあえず、露天の水道を覆うところから始めてほしいところではある。

水栓やら、水道管導入から圧力をかけて蛇口をひねれば水が出るところにまでするのにどれくらい年月が必要だろうか?

ちょっとそこまで考えると、時間がかかりそうだなぁ。

 急に変えてしまえば反感を買うとはファビウス翁に怒られたことでもあるし、変な介入はせずに様子を見よう。

 他にも出資募集の記事や不動産の競売情報なんかも乗っている。

船を出港させるのに出資を募り、1年後に清算するという内容だ。

中には元本保証するという怪しげな出資募集もある。

なかなかきな臭い。

 不動産の競売情報は土地だけじゃなくて、建物を含んだものもある。

面白いのは、ゴーストが住み着いているので、退治しないと住めないというのが普通に掲載されていることだ。

幽霊物件が大真面目に乗っている。

 日本だったら、瑕疵物件として自殺者がありましたとか事故死です、殺人事件の現場でしたって言うことはあっても、怨霊に取りつかれて家主が殺されましたとは書かれない。

でも、この世界では普通にあり得ることだ。

オカルトじゃない。

だから、そういう物件も特別価格が下がってるわけでもなく普通に注意事項として載っている。

 こういうのを見ると、わくわくする。

辻馬車がうちに付くまでに一通り目を通し終えたので、しまっておこう。

 不意に見るとまた物乞いの爺さんがいる。

いつも通り、銅貨を木皿に入れる。

「兄さん、もう1枚くれんかね?できれば銀貨で……」

 珍しく声を掛けられた。

 しかし銀貨か。

たかられるのは困るんだよなぁ。

少し迷う。

 いや、いいか。

俺は銀貨を木皿に置いた。

「こりゃ、ありがたい。兄さん何か知りたいことはないか?まあ、モーダルの中でのことに限られるがね。」

 色々と思いを巡らせるがやめておこう。

何者か分からない。

「今は思いつかないですね。暖かくしてください。」

 そういって俺は部屋に入る。

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