1-12 適正価格ってどんなもんなの?
正直値段付けや価値については一応調べていますが、やはりいい加減な部分はあると思います。
ご意見などいただけたら幸いです。
朝食の山羊肉はやっぱり臭い。
ミリーなんかは美味しそうに食べてるけど、テリーは苦手そうだな。
ちらちらと俺の方を見ている。
「あー、それで皮を1枚使わせて貰ったよ。」
とりあえず、ハンスにさっさと報告しよう。
「それで、麦なんだけど、5kgほど手に入りそうなんだ。お昼前までには手に入れられる。」
テリーは嬉しそうだが、皮1枚で麦5kgってどうなんだろうな?
「そうか、そりゃよかった。半分はお前の物だからとっておけよ?」
ハンスは特に不満そうでもない。
と言うか、5kgは妥当と言うことなんだろうか?
「いや、全部受け取ってくれよ。半分は貨幣でとってある。」
俺はしれっと嘘をつく。
「そうなのか?いや、そりゃまたずいぶんといい取引ができるんだな。」
ハンスはびっくりした表情を浮かべている。
「ヒロシ、嘘をつくな……」
ロイドが、ずいぶんと渋い声で言ってきた。
あー、ばれてるか……
ちゃんとした取引なんてしたこともないし、こっちの世界での相場なんか全く分からない。
そりゃ、取引内容が妥当かどうかで嘘かどうかなんて簡単か。
一度、ちゃんとした商人の元で働かないとだな。
でもどうしよう。
しらを切り通すべきな気はするなぁ……
「いや、どうせ俺が貰っても麦なんかどうしようもないじゃないか?それに嘘なんて言ってないぞ?」
こう言うときは目をそらしちゃダメだって言われたことあったなぁ……
怖い。
でも、しっかりロイドを見て話をする。
「そうか……嘘じゃないんだな?……」
なら、銅貨を出してみろとか言われたら困るな。
なんか、泣きそう。
「それならいい……ありがたい話だしな……疑って悪かった、許してくれ……」
困ったような笑顔を見せて、ロイドは引き下がってくれた。
ありがとう。
俺は、謝罪を受け入れたことを示すように頷くしかできない。
だけど、なんか妙にロイドの仕草が格好良くて妬ましい。
「まあ、ともかく麦が5キロも手にはいるなら助かるな。」
ハンスが仲を取り持つように割り込んでくれて助かった。
「旦那とはこの水場で会う予定だし、それまでに家畜を潰す数を減らせるのは嬉しいな。」
そっか、家畜はもっと潰していくのか……
考えてみれば山羊皮や羊皮の数を見れば、結構潰してるんだろうな。
皮1枚で麦5kgがいい条件の取引だとするなら、今俺が預かってる数でも結構厳しいんじゃないだろうか?
割と品質がバラバラだから、実際にはもっといい取引ができるのかもしれないが……
よく俺みたいなお荷物を抱えようと思ったもんだ。
「まあ、そういうわけでしばらく休みだな。ヒロシも大分疲れてるみたいだしゆっくりしよう。」
俺のことを気遣っていってくれるハンスの言葉が凄くありがたかった。
こんなに歩き続けたのは人生の中で初めてだ。
しかもサンダルは歩くのに向いてない。
よくみんなこんな物をずっとはき続けている物だと考えたが、そもそも履き物があるだけで裸足なんかよりよっぽどマシだ。
初めてキャラバンと合流しようとしたときなんか、足裏傷だらけだったもんな。
それでも、やっぱりサンダルはきつい。
ミリーやテリーなんか、割と歩きづらくしてるときだってあったしな。
靴、渡せたらいいんだが……
金がないのが恨めしい。
「まあ、それはいいけど今日も一匹潰すんだよね?」
ミリーが何気なく言う言葉に俺は戦慄する。
また、あのグロテスクなもんを見る羽目になるのか……
「あぁ、内臓も洗わなくちゃいけないしね。ヒロシ後で預けておいたのを出してくれるかい?」
ヨハンナの笑顔がなんか怖い。
ゴブリンだから当たり前と言えば当たり前なんだが、なんか内臓を口に含んで笑いそうで怖い。
いや、別にヨハンナはそんなゴブリンじゃないのは知ってるんだが、先入観はなかなか抜けなくて困る。
声を荒げられたこともなければ、叩かれたこともない。
笑顔が怖いというのは俺の思いこみのせいなんだよなぁ……
とはいえ、まだ慣れない。
「じゃあ、ヒロシは内臓洗い決定ね?」
ミリーが俺に仕事を割り振ってきた。
「うげ!!マジか!!」
できれば勘弁して欲しい。
「結構体力使うから、手伝ってくれると助かるねぇ……」
だがヨハンナにしみじみと言われると断れないよな。
「わ、分かった、手伝うよ。」
俺はげんなりしつつも頷く。
それと同時にぽーんと言う音が辺りに響いた。
人工音だから、能力関係のことだろうと思って俺は周りを見回すようなことをしなかった。
多分、荷物が届いた音だろうと当たりを付けてインベントリを確認する。
考えてみるとちょっと危険かもな。
思いこみで人工音がしない物だと思うと実は関係ない事柄かもしれない。
まあ、それはともかくインベントリにはオーツ麦5kgが追加されていた。
「とりあえず、麦が届いたから見て欲しいんだけどいいかな?」
そういいながら、麦をインベントリから取り出した。
それは、よく通販で売られている形と一緒で、フィルムで梱包されている。
カロリー表示やらなにやらまで俺の世界、と言うか日本で売られている物と寸分違わない。
中身が見えるから麦であるのは分かるのだろう。
それでもフィルムは、やはり不思議なのだろうか周りの反応がおかしい。
「へぇ、ヒロシの世界の麦って透明な袋に入ってるんだね。」
ミリーが不思議そうにフィルムをつつく。
「移し替えた方がいいよな?」
やっぱりこれはなかったんだな。
梱包とかちょっと考えないといけないかもしれない。
『おめでとうございます。特殊能力のレベルが上がりました。』
と言うウィンドウとともにレベルアップ音が聞こえる。
今度は、”売買”のレベルが2になっていた。
どういうきっかけなんだろうか?
レベルアップの因果関係が分からない。
とりあえず、追加料金を支払えば梱包を切り替えることができるらしい。
どういう梱包にするかは俺が考えなくちゃいけないってところが、また微妙だ。
追加料金とか、細かい。
チートのようで、なんか縛りが……
もどかしい。
便利ならどこまでも便利にしてくれよ!!
「しかし、ヒロシ……こりゃずいぶんと良いオーツ麦じゃないか?……」
感心したようにハンスが声をかけてくる。
そうなのか?
俺は安いからそれを選んだつもりだったんだが……
「とりあえず、ポリッジに使える麦なんだよな?」
一応確認をとっておこう。
「あぁ、間違ってない。でも、ポリッジにするにはもったいないなぁ……」
ハンスは麦をいじりながら呟いている。
つっても、俺はオーツ麦の料理の仕方なんて知らないしな。
ポリッジ旨いから、ポリッジでいいよ。
「ヨハンナばあさん、ポリッジ以外に作れるかい?」
ハンスも、オーツ麦の調理法は知らないらしい。
話を振られたヨハンナは困り顔だ。
「小麦がありゃ、混ぜてパンにできるんだがね。まあ、それでも美味しくできる自信はないねぇ……」
まずもって粉にする道具がない。
そりゃパンは難しいよなぁ……
パン、出せるけど。
「とりあえず、麦を買ったけどパンも買えるみたいなんだけどどうする?」
俺がそういうとテリーの目が輝いている。
食い意地が張ってるなぁ……
「私はヨハンナのポリッジ好きだからいらないよ……」
対照的にミリーはむすっとしてる。
分からなくもない。
そもそも、そのパンはどこからやってくるのかも分からない上に、今まで食事を用意してくれた人を蔑ろにしている気分。
せっぱ詰まってるならともかく、今は食べ物に困ってるわけじゃない。
なら、いらないって答える人間がいるものだろう。
「そうだな。全部を売ってしまったら行商人の旦那に義理が立たんし……」
ハンスの答えも慎重だ。
「まあ、全部売れるわけでもないから、旦那と取引した後で考えよう。ヒロシ、それでもいいか?」
そう尋ねられて俺は面食らった。
俺に決定権がある話だと思ってなかったからなんだが……
考えてみれば、、俺が荷物を預かってるから好きにしようと思えば好きにできるんだな。
いや、やらないけども……
そう考えると、急に怖くなる。
欲望に負けて持ち逃げとかしそうだ。
いや、やらないけど……
「ヒロシ?」
全く疑ってない様子のみんなの様子に身震いする。
「あ、いやなんでもない。とりあえず、考えるのは行商人さんと取引がまとまったらって事ね?」
ハンスに改めて確認する。
「あ、あぁ……問題ないか?……」
「構わないよ。そもそも俺の物じゃないし……」
ハンスの問いに、何とか笑顔で答えられた。




