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5-14 やることが、やることが多すぎる。

 その後の面接は鳴かず飛ばずだった。

ギルドからの推薦は結構あったけど、やはりひも付きであるのが明白だし、落さざるを得ない。

自薦の子も何人か来たけど、そもそも文字が書けないのに事務員は無理だろう。

 一応、ギルドが金をとって字を教えてたりもするんだが、そうなると今度はひも付きになるからどうにもならない。

他にも教会や国が運営する学校というものもあるけれど、基本はお金持ちの行くところだからうちみたいな仕事はしない。

もう本当ないない尽くしだ。

 商人として雇ってほしいという人の中にはやる気を見せた人も来たけど、グラスコーがだったら融資してやるから自分でやれ、俺のところの商品も卸してやると追い返してしまう。

本格的に人を雇うつもりがないみたいだ。

いつまでも、それでいいってわけにもいかないだろうから、そのうち話し合ってみるかな。

 で、本日はレイシャ、セレネ、イレーネの初出勤日だ。

結局、4人予定していたけど、3人の採用にとどまった。

 まあ、募集をかけても枠が埋まらないのはよくあることだし。

言っても仕方がない。

二人残ってくれれば御の字と言っていたから、是非イレーネとレイシャには頑張って欲しい。

 ちなみに、俺もこの日は朝から出勤することになった。

いや構わないんだけど。

仕事として初めて出勤するんだから、それなりに対応しないといけないこともある。

 と言っても、リクルートスーツがあるわけでもないし、研修制度もない。

流石にライナさんのオリエンテーションはあるけど、組織としては不完全だからな。

そこら辺をどうフォローしたものか。

 なんか経営者目線になってるけど、そもそも俺は社長ではない。グラスコーの商会だ。

面接してたもんだから、ちょっと偉そうに上から目線になっちゃったけど本当にどうするんだろうなぁ。

「暇です。」

「暇ねぇ……」

「ヒロシさん、お茶いかがですか?」

「眠いから寝てる。」

 午前中にやれることはやり尽くしてしまったのか、事務員3人は口々に暇だと漏らす。

冬の間はモーダル内の取引に始終しているわけだから、必然的に取引量が減る。

だから、仕事がないのは仕方ない。

三者三様、好きなことをしてもらうとしかならないだろう。

 一応、タイプライターの使い方を教えたりとか、俺が出すモニターについてのレクチャーも含まれていたが、前者はライナさんに任せられるし俺もそろそろ外に出よう。

グラスコーはとっくに車で出かけてる。

 最近は、ようやく雪の状況が落ち着いてる。

そろそろ街中ならノーマルタイヤでも大丈夫じゃないだろうか?

「お茶はいいです。ちょっと出ますね?」

 そういって、事務所を後にしようとすると、セレネが俺に駆け寄ってくる。

「私もお供します!!」

 いやいや、事務所に詰めるのも仕事だからね?

「駄目です。あなた、タイプライターちゃんと打ててないですよね?」

 イレーネがセレネの首根っこをつかんでくれたので助かる。

「じゃあ、行ってきます。戻らないんで、グラスコーさんが戻ってきたら言ってください。」

 そのうち黒板かなんかが必要になるかな。


 さてどれから片付けていこう。

忙しすぎてやろうと思っていたことができていない。

 ウーズの件を先生に相談すること。

スノーウーズの駆除依頼を出すにはどうすればいいか衛兵に相談する。

これに関しては、俺がスノーウーズの死体を利用したいから、金を出すつもりだ。

 織物ギルドにタオル織機の売り込み。

一応、親方がどこにいるのかはグラスコーから聞いている。

 暁の盾に、銃剣の使い勝手を確認しに行く。

もしかしたら、防弾チョッキについて聞かれるかもしれないから、どうするかを考えること。

ここは、基本的には渡したくないんだけど、団長次第だよな。

うまく言いくるめられたらどうしようもない。

最近は防刃服の納入を他の傭兵団にも求められたし、衛兵にも声を掛けられている。

人を使うことを考えないと、そこは本当に忙殺されそうだ。

 ハロルドに料理の評判とレシピについて話したい。

蛮地で手に入れた食材も渡したいところだ。

最近彼は、小さいながらに店を持つことができたらしいし、祝いの品も持っていきたい。

 他にも鍛冶屋や大工みたいな職人さんとも話したいことがある。

具体的な話があるわけじゃなく、人脈として広げたい。

 あとは官報を買いたい。

町を離れていた間に何か変わったことが起きてないか、出来れば見ておきたい。

もしかしたら、何も出てないかもしれないけど、一応だ。

 あとは私事になるけど、オークションを訪ねたい。

結局、ワイバーンの戦利品を全部はさばき切れていない。

+2のフロストナイフが残っている。

他は、いろいろ伝手を使って売りさばいたので5万7000ダール。

一人頭、1万9000ダールの儲けになっている。

証書も半分くらい含まれているけど、十分だろう。

オークションに委託した、残りの大物がいくらついているかも気になる。

 カールの先生探しもまだだ。

本人は楽しく絵を描いているので別に無理に習わせるつもりもないが、カールにとってより良い方向に行くならそれに越したことはない。

念のために画家と言われている人たちに尋ねていいかと打診はしてあるけど、色よい返事があったのは二人位だ。

 まあどこの馬の骨かもわからない奴に、ギルド経由とはいえ突然手紙を送られてきたら不審に思うよな。

ゴブリンに絵を習わせたいと言ったらどんな反応になるだろうか?ちょっと不安ではある。

 絵つながりというわけじゃないが地図についても、ちょっとベーゼックを訪ねて聞いてみようと思っている。

彼は、教会の書庫の虫らしいので、あるいはそういう知識について知っている人間が知り合いにいるかもしれない。

知りたいと言えば、そもそもドライダルがどんな評判なのかも知りたい。

そうなってくると酒場とかなのかなぁ。

旅人が集まる酒場はそこそこある。

そこで聞き込みをするしかないか。

話せるかなぁ。

人見知りの気があるから、誰か馴れ馴れしい奴を……

グラスコーかベーゼックだなぁ。

飲みに誘うか。

 他は、ベネットに会いたい。

いかん、さすがにそれは私情が過ぎる。

しかし、こうやってやらなきゃといったものを上げていくときりがない。

途中からメモ書きをしてるけど、正直多すぎだ。

1日じゃ絶対終わらないな。


 とりあえず、今日は織物ギルドを訪ねた後、ハロルドの店を訪ねることにした。

試作品しかないので、興味を示してくれるかちょっと不安だったけど、タオルが話題になっていたので織物ギルドは手早く話が済んだ。

織物ギルドの親方の居場所が一番近いからという理由で選び、ハロルドの店が近くにあるから立てた予定だったけど、これなら次の予定が立てられるかな。

とりあえず、ハロルドの店のドアを開ける。

「あ、ヒロシさん。すいません、ちょっと賄いを……」

 丁度ハロルドは食事休憩中だったらしい。

だが、びっくりした。

いや、知識としてはあるんだ。

スパゲティというのは、手づかみで顔の上に持ち上げて下から食べていくものだったって言うのは。

丁度それをやってるところに出くわしたので、本当にびっくりだ。

いや、驚くことじゃないのかもしれないけども。

「あ、続けてください。ちょっと外で待ってます。」

 流石に、ちょっと席をはずそう。

別に気にすることもないかもしれないが、じっと見られるのも嫌だろうし。

 あー、そういえばベネットがご飯食べる時俺よく見てたかも。

あれ、嫌だったりするのかな。

 駄目だ、他のことを考えよう。

考えてみれば、俺はみんなが食事をするときにフォークを使ってないことには気づいていた。

 いや、正確にはフォークはある。

肉を突き刺す奴が一つ置かれて、取り分ける時に使われる。

ソースまみれのやつなんかは手持ちのナイフで刺して食べたりもするけど、基本は手づかみだ。

スプーンはあるので、シチューや煮物はそれを使って食べる。

だけど、焼き物は手づかみだ。

そういうものだと思ってたので、今の今まで気にしてなかった。

 そうか、フォークかぁ。

それも聞いてみるか。

しばらく様子を見て、再度店の中に入る。

「お恥ずかしいところをお見せしてすいません。」

 なるほど、あの食べ方はやはり恥ずかしいのか。

「身内なら、当たり前で気にもしないんですが、こちらではスパゲティは食しませんからね。」

 どのくらいの身内なら平気なんだろうか?

あまりそういう話をするのもよろしくないか。

「いえ、お気になさらずに。そういう食べ物があるのは知ってましたから。

 あぁ、そうそう。いろいろ買いこんできたんですよ?とりあえず、見てもらっていいですか?」

 チーズやはちみつみたいなキャラバンの交易品になるものや香草やそばみたく荒れ地でも育つ植物、そして猪とワイバーンの肉を出してみる。

ついでに、レイナが渡したがる味噌と醤油、そして米も一応見せてみた。

「お、面白い食材ですね。」

 味噌を見た瞬間、ちょっとハロルドも顔をしかめた。

しかし醤油はなじみがあるのか、少し舐めてみて、味を確かめ始める。

「魚醤に近いんですかね。ただ、なんだろう生臭みはない。意外と味わい深いですね。」

 魚醤かぁ。

やっぱりハロルドは南の人なのかな。

「ハジカミとは珍しい。これは、なかなかお目にかからないスパイスですよ。」

 ハジカミって何だろう?

聞いた事がないスパイスだな。

香草香草って言って、ヨハンナが使ってるところしか見たことがないからよく分からない。

「ブルツはいいですね。いい香りがする。」

 俺がよく野草茶として入れる草の中に入っている奴だ。

そんな名前なんだな。

「おや?これは何の肉ですか?やたらと弾力がありますが……こちらはイノシシですよね?それよりも固いというか……」

 ハロルドも知らないんだな。

ワイバーンなんて俺も前回初めて会ったしな。

珍しいんだろう。

「ワイバーンですよ?」

 その言葉に、ちょっとハロルドが硬直する。

「わ、ワイバーンって、あの、空を飛ぶ。」

 俺は頷く。

「どうやって……」

 んー、これは常識外れの戦果だったみたいだ。

ベネットやトーラスに擦り付けるか。

「いや、護衛の二人が優秀でしてね。とても助かりましたよ。」

 嘘は言ってない。

事実とても優秀だし、とても助かったし。

「なるほど、そんな凄腕の人たちがいたんですね。しかも二人で……しかし、これは食べられるんですか?……」

 ちょっと疑わしげだ。

それだけ倒せない化け物なら、そういう扱いにもなるか。

「尻尾の方に毒袋があるらしくて、身に毒はありません。そのまま食べられますよ?ちなみに、だいぶ煮込んで食べました。」

 醬油煮とは言いづらい。

ちなみに、圧力鍋については教えたうえで売ったので、それで煮た時間を伝える。

「なるほど……圧力鍋で、それほど時間を掛けないとですか……なかなか難敵ですね……」

 ハロルドでも苦戦するのか。

なかなか難しいな。

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