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5-13 ハニートラップって怖いよね。

派手なことをすれば目を付けられるのは当然だと思うんですよ。

まあ、今回の場合はちょっと特殊ですが。

 午前の面接が終わり午後の面接が始まる。

一応、面接者には野草茶を出してるけど、まあ大抵の人は手を付けない。

人狼さん、いやレイシャさんの場合は匂いがダメと言われたけども。

 やってきたのは、教会の紹介でやってきた元修道女だ。

もちろん、文字も書けるし、資格も持ってる。

服装もちゃんと世俗の服だから、見た目は普通の女性。

なのだけども……

「私、ヒロシさんと同行したいんです!!」

 教会側のハニートラップだ。

落そう。

「セレンさん。一応、推薦状には事務員の募集で来られているようですが?」

 まさか、帰れと言えるはずもなく、一応質問してみた。

「もちろん、資格も持っております。でも、事務処理は現場で行っても問題ないのでは?これでも私、神より恩寵を賜っております。何かと役に立つかと。」

 一見するといいことづくめだ。

確かに、俺の帳簿はいろいろと問題がある。

計算間違いは多いし、誤字脱字も多い。

そういう書類って言うのは、実際年末の決算の時にすごぶる迷惑だというのは思い知った。

 しかも神の恩寵ということは信仰系の術者でもあるだろう。

ギルドのハニートラップ要員は、全員大人しく事務員としてのアピールだった。

そこからすると一歩踏み込んできた感じはする。

ライナさんからすれば、欲しい人材かもしれないな。

「いや、でも危険ですし、正直女性を連れて歩くわけには……」

 ちらりとライナさんの方を見るとレイシャさんの時と違って乗り気だ。

「修道院でも会計を任されていたのね。朝も強そうだし、文字も綺麗ね。」

 ライナさんは、何が問題あるんだという目で見てくる。

「ちなみになんですが、なんで俺なんですか?」

「もちろん、かっこいいからです。」

 にっこり笑って何言ってやがんだ。

俺がカッコよければ、世の中の大半の男がかっこいいだろう。

思わず、俺の笑顔が凍り付く。

背筋が凍る。

「ギルドの支部長に一歩も引かず、友情を大切にされて、悪徳オークションのオーナーに一杯食わせるその胆力。

 とても男らしいと思います。」

 何がどうなれば、そんな話になるんだろうか?

俺は、そんな話一度も聞いたことないぞ?

誰か別の人間じゃないだろうか?

まあ、いい落そう。


「何がそんなに気にくわないの。いい子じゃない。

 むしろ、あそこまで言ってくれる子はなかなかいないわよ?」

 いや、事務員候補に言うセリフじゃないですよ、ライナさん。

「いや、まあ、能力としては申し分ありません。でも、教会の影がちらついてとてもじゃないけど、お近づきにはなりたくないんですよ。」

 ある程度、ライナさんも俺がおかしな力を持っているのは分かっている。

そう考えれば、脅威であるのは分かってもらえると思うんだけど。

「むしろ、娼婦の方に肩入れするのが分からないわ。同情してるんじゃないでしょうね?」

 同情は正直していない。

別に彼女は娼婦をやってることを悔いている様子でもない。

「違います。確かに夜の仕事と掛け持ちするのは難しいと思いますが、やる気はあったみたいですし。

 同情するほど、付き合いは長くないですよ。」

 一応釈明してみるけど、いまいち説得力がない。

退屈そうにグラスコーが口を挟んでくる。

「あー、別に二人とも雇えばいいじゃねえか。」

 予定では4人の予定だ。

そういう意味では、グラスコーが言うようにどっちかじゃないとダメという状況じゃない。

「グラスコーさん。」

 でも、一人は確実にやばい。

性格は分からないけど、立ち位置的にはすごぶる都合が悪い。

「分かってんよ、教会のスパイだって言うのはな。」

「なら」

 言わんでもいいだろう。

「だけど、正直惜しい人材だって言うのもわかるだろ?

 だから、ヒロシと一緒に行動をさせるのは無しだ。ちゃんと事務員の仕事をしてもらう。それならある程度コントロールできるだろ。」

 近づけないのが一番いいとは思うけど、確かに能力は折り紙付きだ。

グラスコーが単独行動する場合なんかは、癒しの力があって困ることはない。

モーダルでも5人しか使えない能力なんだから、雇わないという選択肢はないだろう。

 ただ、俺としては二人には言ってないが、個人的な懸念がある。

俺は欲望に弱い。

変に誘惑されたら身をゆだねてもおかしくはない。

それが嫌なんだ。

今のところは警戒心が勝ってるからいいけど、油断したら手玉に取られそうだ。

結果、地下牢につながれて一生飼い殺しとか、たまったもんじゃない。

 それなら嫉妬に狂ったベネットに切り殺された方がましだ。

もちろん、嫉妬してくれるだけ好意を持たれていることが前提になるから愛想尽かされてたら、それも無理だろう。

本当たまったもんじゃない。

「なあ、面接予定者ってのはもう一人いるのか?訪ねてきた人がいるんだが?」

 ベンさんが事務所に顔を出してそんなことを言う。

予定は無いはずだ。

とはいえ、まだ面接をやる余裕が無いわけでもない。

飛び込み面接って言うのがダメというわけでもないから問題はないけど、誰だろうか?

「どうします?」

 グラスコーに尋ねてみた。

「いいんじゃね、見てみれば。」

 本当こいつはノリが軽い。


 自薦の推薦状を見させてもらう。

名前はイレーネ=アーネスト。

男爵家のご令嬢だ。

 ただ、俺はこの人に会ったことがある。

関所でいろいろお話をした事務の人だ。

「えー、お久しぶりです。その節はお世話になりました。」

 その言葉にいぶかしんだ顔をしたが、やっと思い出したのかばつの悪そうな顔をしている。

これが演技の可能性もあるけど、ひも付きではなさそうだ。

「申し訳ないですが、忘れていました。

 もし、面倒であればこれで……」

 いやいや、一度会ったことがあるから雇えとか言ってもおかしくないんだけどな。

男爵のところのお嬢様なら信用もできるし。

「いえ、問題はないです。ライナさんはどうですか?」

 ライナさんもじっくり自薦の推薦状を見ている。

「前職の事務官のお仕事は何故おやめに?」

 ライナさんはそこが気になったのか。

「父が結婚を勧めて来ましたので……

 正直、私は結婚をするつもりはないんです。」

 すっぱり言い切るな。

そういう意味で言えばハニートラップ要員ではないとはっきりしたな。

 でも、貴族で婚姻を拒むというのは珍しい。

「こちらに来ましたのは、小さい商会ですから父に見つからないと思ったからです。なので、表には出たくありません。」

 まあ、確かにそんなに有名な商人じゃないのは確かだけどさ。

「なぜ、そこまで御父上と……」

「浮気性で、私の母をないがしろにしたからです。なので、男性を信用できません。」

 うわー……

はっきりものをおっしゃるお方だ。

 とはいえ側室を持つのは、ご多分に漏れずこの世界でも同じだとは聞いている。

 あ、ちなみに側室というのは俺の言い回しで、第二婦人だったり愛人というのが正確だ。

 ともかく、それと浮気は別物だ。

正妻をないがしろにしていいはずもない。

そりゃ、男性不信にもなるか。

 しかし、能力は折り紙付きだ。

レイシャとセレンはあくまでもギルドが認定する事務員としての資格だ。

それに比べてイレーネの資格は国家資格であり、ギルドのものよりより高度な書類を処理できることを意味している。

ライナさんよりも能力が高いという扱いになるだろう。

 もっともそれを生かせる場面があるかと言われると疑問だ。

つまり宝の持ち腐れになる。

経歴の面でいっても公務員として王国に属していたし、等級としても管理職として経験があることを意味していた。

正直、箔が付く。

 でも、表に出たくないということだから、こっちも宝の持ち腐れだ。

とはいえ間違いなくエリートだ。

管理職経験者ということは組織論にも通じてそうだし、そんなことからっきしな今のグラスコー商会にとっては、喉から手が出るほど欲しい人材だ。

前に引き抜きたい人材だとは言っていたけど、まさかそちらからきてくれるとは思わなかった。

俺としては是非という気持ちだけど、ライナさん次第かな。

「気に入ったわ。私はあなたみたいにはっきりした子、好きよ。」

 ライナさん的には自分のプライドよりも、父親である男爵への反感の方が優先されたようだ。

どうやら、問題なさそう。

でも、即答するわけにもいかない。

「では一週間後、結果をお知らせします。」

 ありがとうございましたと一礼してイレーネは事務所を出て行った。

「あのねーちゃん、相変わらず愛想がねえな。」

 後ろで見ていたグラスコーがそんなことをつぶやく。

「まあ、表に出たくないと言ってるし、愛想は必要ないんじゃない?まあ、あれだけの美人だからもったいないとは思うけれどね。」

 ライナさんは心底もったいないといった様子だけど、それには同意かな。

 でも、そういうことを男が口にしちゃいけないのは、この場合鉄則だ。

「とりあえずあの人は採用ですかね?」

 二人とも頷いた。

グラスコーとしても、能力に不満があるわけでもないようだ。

そもそも、事務員だから美貌だとか愛想だとかは二の次でいい。

外部と接触があるのは受付がある時だけだし、それならレイシャの方が長けてるだろう。

そういうのは適材適所だ。

「タイプライターに慣れてくれるといいけれどね。これ、一度使ったらやめられないわ。」

 ライナさんは、決算の時に手にしたタイプライターが大のお気に入りだ。

あの、機械が動くときにぱしゃぱしゃいう音が好きらしい。

一応、こちらの文字を打てるようにサービスを使い、文字変換はしてある。

それなりのお値段だけど、お値段以上の効果があったから、実用面でも非常に助かっている。

 ちなみに、これはアレストラばあさんに解析してもらっている最中だ。

「あぁ、事務員が増えるんだから、追加で発注しておきますね?」

 試作品の話も来ていないから、今回は”売買”で買っておく。

出来れば、早めに普及させたいところだ。

俺は、文字を書くのが嫌いだしな。

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