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5-12 面接官なんて柄じゃないんだけども。

面接官なんかやったことがないので、あくまでも想像です。

苦労話をされたことはありますけど。

 次の日、早々にスノーモービルを使ってモーダルへ向かう。

 ちなみに、スノーウーズに沈めた本は無事に乾燥できた。

包んだ皮はボロボロだったけど。

当然、使ったスノーウーズは回収済みだ。

そういう作業を挟んでも午前中には門の前まで到着できてしまったので、あっさりしたものだ。

途中で何かに襲われることもなかったので、本当に順調だった。

二人に倉庫まで付き添われて戻ったところで依頼終了だ。

「ありがとう。今回は本当に助かりました。これ、一応ボーナスということで。」

 銀貨を詰めた袋を二人に手渡す。

一応、これは出す出さないは雇い主の裁量に任されているが、依頼料の10分の1をボーナスで渡すのが通例だ。

既に傭兵団には日当を含めた報酬は支払ってるので、渡さなくても何の問題もないけど、当然世話になったんだからそれなりに包む方がいいに決まってる。

次に頼む機会もあるはずだし。

当然、二人は特別な位置づけにある。

ちょっと多めに包んでおいた。

ベネットには、代金不足で引き渡せてなかった《軟着陸》の指輪を渡しておく。

「むしろこちらが感謝するわ、ヒロシ。地図づくりしている人を見つけたら連絡する。」

 ドライダルの居場所を見つけるためには詳細な地図があった方がいい。

そういう話をしていたので、ベネットも伝手を使って探す予定だとは聞いている。

「僕もいろいろ体験できてよかったよ。早めに専属にしてくれると助かる。」

 トーラスのリクエストにこたえられるのはいつくらいだろうか。

1年以内には何とかしたいところだ。

目標としては、ちょっと高めだけど、何とかしたい。

「じゃあ、また。何かあれば、手紙を入れてくれれば見ますし、トランシーバーで知らせてくれてもいいですよ。」

 そういって、俺は手を振って見送った。


 倉庫の事務所に入るとライナさんが忙しそうに書類を見ている。

グラスコーの姿は見えない。

倉庫に車が無かったことを考えると、また乗り回してるんだろうか?

「あら、お帰りなさいヒロシ。里帰りは楽しかった?」

 ライナさんはにこやかだ。

忙しいけど、余裕はありそうだな。

無断欠勤した時もそこまできつくは怒られなかったし、多少は評価されてるんだと思う。

「思った以上にいろいろありました。これ、おみやげです。」

 そういって、チーズを取り出す。

「ありがたいわ。うちの子たちもチーズは大好きなのよ。」

 迷惑がられなくてよかった。

「ところでライナさん何見てたんです?」

 気になってテーブルの書類を見る。

どうやら推薦状っぽい。

「去年は地獄みたいだったでしょう?だから事務員を増やしたいってお願いしたら、結構集まってね。」

 ギルドの推薦が基本だし、写真もないからどんな人かもわからない。

肩書はとか、どこの紹介かとか。どういう業務の経験を何年したとか、そういう内容だ。

事務員だから女性ばかりなのは当然か。

「これなんか面白いわよ?修道女をしてた人が還俗して事務員やりたいって。」

 確かに、教会の推薦状だ。

なんか嫌な予感がするな。

「どれくらい雇うつもりなんです?うち、そんなに余裕ありましたっけ?」

決算内容は知っているので、それなりに人を雇う余裕があるのは分かっているけど、一応確認してみた。

「今のところは、4人かしらね。すぐ辞める子も出るだろうから、半分残れば御の字よ。」

 あー、そういう話聞くと胃が痛くなる。

すぐ辞める子というのによく俺が当てはまってたからだ。

本当に期待されてないのが分かるので、結構つらいんだよなぁ。

「他にも雇ってくださいって直接くる子もいるのよ。儲かってそうだからね。商人志望の子も多いわ。」

 確かに儲かってそうなところに就職したい気持ちはわかる。

自薦の推薦状って言うのは、言って見れれば履歴書みたいなもんで、自分をよく見せようとするのも似ている。

親の職業や身分なんかは、この世界では当然考慮される要素ではあるし、農民出身よりは自営業者の子の方が有利なのは確かだ。

男爵家出身とか見ると、商人なんかやって平気なのかと心配になるけど、ほかに道がなければそういう人もいるだろうなぁ。

結構年がいってる人もいる。

「商人志望の人は雇う予定あるんですか?」

 ちょっとそこは気になる。

同僚になるわけだから、どんな人が雇われるのか気になるところだ。

「募集はしてないから、予定はないんじゃないかしら?グラスコーがどうするつもりか、それ次第じゃない?」

 確かにその通りだ。

「それと、ヒロシ。あなたのお眼鏡にかなうかどうかね。」

 俺はきょとんとしてしまった。

「とりあえず、全員にあってもらうから、ちゃんと出勤しなさいね。」

「いや、俺が面接するんですか?」

 思わず聞いてしまった。

ここまで言われれば、確定事項だろう。

「そうよ。仕事たまってるからよろしくね。」

 にっこり笑われたので、はいと返答するしかなかった。


 そのあとは、大家さんのうちにカールを迎えに行き、お小言を貰いつつ、最近の街の話や景気の話をした。

世話話のつもりだったんだけどいろいろと大変そうだ。

雪で屋根が抜ける家も多くて補修に金がかかるという苦労話を聞いたので、ふと思いたって大工さんを紹介して欲しいという話を振ってみた。

もちろん、ただじゃなく紹介料を包んだけど、そのくらいは些細な出費だ。

今後、お世話になる機会も増えるだろうし。

 というわけで、何人かの大工さんを紹介してもらえた。

 グラスコーは車を乗り回すのに夢中になっていて、何かといえば連れまわされた。

まあ、大工さんの一人にレイナの家の屋根づくりをお願いして、車で連れていけたのはありがたかったけど。

大工さん、あまりの速さに目を回してたんだよな。

もう二度と付き合いたくないと思われてなければいいけども。

 その間にも面接が挟み込まれる。

基本的にやる気のなさそうな人にはやんわりとお引き取り願ったわけだけど、気が滅入る。

やる気がないって一言で片付けてしまえばそれだけのことだけど、人それぞれ事情が違う。

楽に稼げそうだから、とりあえず雇ってみたいな若いのは、一見するとやる気がありそうに見えるけど仕事を覚えるつもりがないのはやる気がないと判断されても仕方がない。

不憫に思うのは、破産して色々財産を失った元商人の人たちだ。

経験はある、だけど運がなくて破産したという人たち。

じっくり話を聞けば、自業自得だろうと思える内容ならまだましだ。

途中で山賊に襲われ、けがを負い、荷物を奪われた人は、さすがにお前のせいだというのは酷だろう。

ある程度のリスクを背負わなければ、商売はできない。

その綱渡りの結果、失敗した。

 もちろん、本人はいろいろ手を尽くしたんだと思う。

だから、そういう人たちは、最早やることはやり尽くしてどうしようもなくなり、やる気が失せて死んだ目をしている。

同情はする。

だけど、同情だけで人を雇うことはできない。

 グラスコーなんかは、雇うつもりが一切ないらしく、話を聞き流しているが、そういう態度で臨む方が精神的には楽なのかな。

しょんぼりした背中を見ると、何とかできないかなぁと思ってしまう。

「ああいうのはな。ほっといた方がいい。やる気がでなきゃ仕事には身にも入らん。港にでも行って荷物の積み下ろしでもやらせてもらえば、食いつなげるから気にすんな。」

 グラスコーの言う言葉に、俺は無理やり納得した。

 ちなみに、事務員の募集の方はライナさんと組んで面接を行った。

基本的に、計算や読み書きができないと話にならないので、大半は書類選考で落とされてる。

問題は残った面子だ。

ギルド推薦の人間は軒並み美人ぞろいだった。

タイプもそれぞれ違って、こんなに美人がこの街にいたんだなと思うくらいの人たちだ。

中にはわざわざ銀色に髪を染めてきた子までいる。

 当然全員落した。

ここまであからさまなハニートラップを仕掛けてくるとは、支部長は強いというか、執念深いというか。

もちろん、能力は間違いなくあると思う。

だから、うちじゃなくても間違いなく食っていける人たちだ。

中には事情を知らなさそうな子もいたけど、そういう問題ではない。

というわけで、あっという間に一週間が過ぎてしまった。

 疲れた。

長期休みが明けた後って言うのは、大抵忙しくなるというのは俺も経験があるけど、本当に忙しかった。

しかも事務員はまだ決まっていない。

こっちが根負けするか、ギルド外の自薦で紐付きじゃない人が見つかるか。

見えないところで、支部長に挑まれている。


「おなしゃーっす。」

 あくびを噛み殺しながら、人狼さんが目の前にいる。

一応事務員の募集だよな?

自薦の推薦状を見る限り、字もちゃんとしてるし、事務員としての資格もちゃんと有してる。

能力的には申し分なさそうだけども。

「ちょっとあなた、やる気あるの?」

 ライナさんの言うとおりだ。、

とてもやる気には見えない。

「ごめん、朝まで粘られたから眠いのよ。娼婦やってるのは書いてるでしょ?」

 確かに書いてある。

じゃあ、仕方ないかとはならないけど。

「えー、レイシャさん」

「あ、やっと名前呼んでくれた。ねえ、今度遊ぼうよヒロシ。」

 そういえば、名前で呼ぶのは初めてか?

 いや、そうじゃなく。

「一応、募集要項では、朝から勤務です。8時の鐘が鳴った段階で勤務が始まるんですが、平気ですか?」

 この街では朝8時とお昼、そして夕方5時に教会で鐘がならされる。

機械式の時計は当然存在しているが、庶民が気軽に持てる値段ではない。

だから、教会の鐘頼りで行動することが多い。

 そういうわけで教会が鐘を鳴らさなければ、出勤時間じゃないということになるわけだけども。

「んー、何とかする。」

 何とかするって、ちょっと何とかならないんじゃないですかね?

夜のお仕事とダブルワークって大変だと思うんだよなぁ。

「なんで昼のお仕事始めようと思ったんですか?」

 稼ぎだけで言えば、娼婦の方が儲かるだろう。

でも将来のことを考えれば手に職を付けたいと思うかもな。

「私人狼でしょ?珍しいから、娼婦としては人気だけど、嫁にしたいって思う人はいないじゃない?」

 そうですねとは言いづらい。

 ただ事実として人間が人間以外と結婚と考えると厳しいのは確かだけど、それってその……

いや、うん。

現代基準で物事を考えちゃいけないな。

事実だ。

「分かりました。それで手に職を付けたいと?」

 聞くまでもないことだけど念のために聞く。

「んー、それもあるけど、面白そうかなって……」

 俺は、その言葉に動かされた。

仕事で面白そうだなんて言える人はそうそういない。

誰だってお金が欲しいし、働かなければお金はもらえない。

だから何だってやりますって気持ちの方が強いだろう。

多く稼げる仕事をしたい、楽な仕事をしたい。

でも、面白そうな仕事だからしたいって人はなかなかいない。

「なぜ、そう思われたんですか?」

「なぜって……まあ、色々と申請書類とか書かなきゃいけなかったことがあったんだけど、普段は人任せだったのよ……」

 確かに、いろいろ稼ぎがあれば、税を納めないといけない。

書かなきゃいけない書類は多いだろう。

「んで、人に任せるより自分でやった方がお金が浮くじゃない?

 それで、書いてたんだけど、文字を書くのって案外面白くって、いろいろ計算して答えを書くのも面白くって……

 まあ、それだけなんだけどね。」

 なるほど。

全然気持ちが分からない。

正直、俺は計算するのも苦手だし、字を書くのも好きじゃない。

出来れば全部ワープロで済ませたい人間なので、気持ちは分からないけど、事務員には向いてるんじゃないだろうか?

 俺は、ライナさんの方を見る。

渋い顔だ。

まあ、当然だよな。

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