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5-10 天井が抜けるってこうなるんだな。

歌を歌わされたり、天井が抜けたり。

 選ばれた唱歌は、素朴な歌だった。

任地に赴く兵士に向けて故郷で家族が待っている、生きて帰ろう。

そういうメッセージをストレートに歌うものだった。

 まあ、その分だけ送別会にはうってつけだったかもしれない。

意外だったのは、トーラスの歌声が素晴らしかったことだ。

低い声が響いて、プロの歌手顔負けだったから、音痴な俺の歌声はかき消され、みんな拍手喝采ということで万事うまく切り抜けられた。

こんな隠れた特技があるとは。

 とりあえず、そのあと一杯だけということで、ベネットの掛け声で乾杯してお開きとなり、そそくさと宿屋逃げ込んだ。

「ありがとう、トーラス、助かったわ。

 私歌なんて歌ったことなかったから、誤魔化せてよかったわ。

 あぁ、恥ずかしい。」

 本当に顔を真っ赤にしている。

お酒に強いベネットにしては珍しい。

「まあ、ともかくあれで満足したと思うし、次が来ないように明日は早く出ようよ。」

 トーラスも辟易していたらしく、早めに立ち去ろうと持ち掛けてきた。

「スノーモービルは明日届くので、早めに出て準備しましょう。

 しかし、なんであんなに人がいるのかな。暇……あー、暇なのか……」

 よくよく考えてみれば、仕事があるはずの衛兵があれだけ集まれるのは暇だということだろう。

職務怠慢かとも思えたけど、ちゃんと出る時も入る時も身分証明を求められた。

それだけこの関所は平和だという証だろう。

 いや、まあ、それを言えば冬なんだから人の行き来はなくなるし、ちょうど蛮地と王国の境目で豪雪にもならず突風が吹きすさぶこともない。

スノーウーズみたいな厄介な奴も雪がないから見かけない。

そりゃ、暇にもなるか。

逆に仕事もなく、娯楽もないとしたら騒げることで騒ぎたくもなる。

何かスポーツでもあれば、話は別なんだろうけどなぁ。


 まあ、あれだけ順調だったから何かあるんじゃないかとは思ったけど、もう一波乱あった。

アルノー村近郊にあるレイナ嬢宅まではすんなりとたどり着けたわけだが、途方に暮れているレイナ本人が滂沱の涙を流して佇んでいた。

「ヒロシくーん、おうち壊れたー!!」

 俺たちを見たら、なんか全体に濁音が付くような声で泣き叫び始めた。

見た感じ壊れているようには見えないけど、どういうことだろう?

「え?壊れたって……」

 とりあえず、指をさされたので扉を開いてみると、そこには雪まみれの部屋がある。

「うわ!!何だこれ……」

 玄関を開けたら直接部屋がある様な作りだから、居住スペースが雪まみれだ。

天井を見上げれば、屋根がない。

いや、正確に言えば骨組みはある。

 つまり、天井が抜けたというやつみたいだ。

本来傾斜があり、雪が自然に落ちる作りになっているはずだが、経年劣化なのか雪の重みに耐えきれず木材を巻き込んで雪がなだれ込んだようだ。

こんなことあるんだろうか?

 いや、まあ、起こってるんだからそんなこと言ってもしょうがないだろう。

「れ、レイナ様けがは?」

 ベネットの言葉で、俺もその可能性に気づく。

こんなのに巻き込まれたらただじゃすまないだろう。

「ジョシュの家にお呼ばれしてて、いい気分で帰ってきたらこれだよ!!最悪だよ!!こんなのってないよ!!」

 うわーんと子供みたいに泣き始める。

ともかく、雪を掻きださないと。

「こりゃ酷いね。ともかく僕も手伝うよ。」

「そうですね。本は乾かさないとまずいだろうけど、ともかく全部外に出しましょう。」

 こういう時、水だったら操作してどかすって言うのもできるんだろうけども。

いや、水だったらもっと悲惨か。

「うわ。ほんとうにひどい。」

 雪と本がぐちゃくちゃに攪拌されているようなもんだ。

「あ!そうか。いや…できるか?…」

 ちょっと思いついたことがあるか可能かどうか。

 まず、基礎がどうなっているかだろう。

がっちり固定されていたら不可能だ。

「ちょっとトーラスさん、出ておいてもらっていいですか?俺も、いったん出ます。」

 とりあえず、床部分がどうなっているかによる。

場合によれば、家ごと特別枠に”収納”してしまおう。

「どうだい?何とかなりそう?」

 ううん…

割としっかりとした木で基礎が作られているみたいだ。

「基礎を外せば、丸ごと”収納”できると思うけど……」

 そうなったらもうこの家は住めないよなぁ。

「本が、本が無事ならいいからぶっ壊して!!」

 いいんかい。

まあ、許可を貰えたら、あとはやるしかない。

 結構太い基礎がいくつもある。

のこぎりはあるけど、結構苦労するぞ。


 素直に運び出した方が早いかとも思ったけど、意外と快調に基礎を切断できた。

というか、途中でベネットも手伝ってくれたので、割とスムーズにいく。

やはりこの世界の能力値がもたらす恩恵はでかいな。

汗だくだが、どうにかできた。

 ポンっと手をついて、特別枠に家を”収納”する。

いや、無茶苦茶な使い方だ。

こんな使い方していいもんじゃない気もするけど、出来るんだからやらない手はない。

「何とかなりました。」

 インベントリを開き、家の中の雪だけを通常のタブに移動させて行く。

重さとして3tくらいあって焦った。

流石に二桁トンの収納があるから何とか一発でできたけど、これが一桁のころだったら、何回かに分けなきゃいけなかったろうな。

 まあ、それでもその都度捨てればいいから、出来なくはないか。

とりあえず壁を作るように雪を配置していく。

今回は入れ物無しでいいし、ただ出すだけだ。

「本は無事かなぁ。」

 まあ順調に済んだとはいえ、しみ込んだ水までは除去できない。

無事だとは断言できないよな。

「とりあえず確認しましょうか?」

 そういいながら、前にコンテナハウスを置いた場所に2号を設置する。


「よかったぁ!!ほとんど無事だよぉ!!本当によかったぁ!!」

 むしろ涙で本が濡れるんじゃないかってくらい涙を流してるが、まあそれだけ大切なものって事だろうなぁ。

いくつかの本はぐっちょりぬれているけど、破損は無いから乾かせば何とかなるだろう。

問題はどうやって乾かすかだよなぁ。

何とはなしに、ネットにつないでほんの乾かし方を調べる。

そうすると、冷凍しろという話が出てきた。

冷凍ねぇ。

どのくらい凍らせればいいんだ?

あんまり冷やしすぎると砕けるんじゃないかと心配になる。

「ヒロシ、濡れた本はどうしよう?タオルで拭くとかだと、壊しちゃいそう。」

 不安げにベネットが聞いてきたけど、どう返答したもんか。

レイナが何か思いついたのか口を挟んでくる。

「ティッシュあったよね?あれ挟もうか?」

 ティッシュ?

あー、トイレットペーパーのことか。

ううん。

「冷凍乾燥って方法もあるらしいけど……試してみますか?レイナさん……」

 そう聞いて、トーラスとベネットはちょっと驚いている。

「え?せっかく雪から出したのにまた凍らせるの?」

「凍らせたら、砕けちゃいそうだけどね。あれを使うんだろう?スノーウーズ。」

 まあ、普通はそう思うよな。

「あー、皮布かなんかがあるから、それで包めばいいか。冷凍乾燥って言うのはおばあさまに習った。」

 レイナは知識はあったようで、乗り気な様子だ。

「あ!家は、ヒロシが持ってるんだった。皮布出して。」

 確かにその通りだ。

特別枠の中から皮布を直接出す。

「とりあえず、水はふき取りましょうか?」

 若干濡れてる。

これをこのまま包みたくはないよな。

タオルを取り出して拭いていく。

本当、全部の水を移動させられたら楽なんだけどなぁ。

「さすがにミクロン単位の水は完全制御できないからなぁ。私も拭く。」

 レイナも大切な本の為ということで手伝ってくれた。

 もちろん、トーラスとベネットもだ。

 まあ、全部拭く必要はないんだけどね。

「さて、適度に縛って……」

 こういう時ラップがあると便利なんだよな。

そもそもジップロックがあればもっと楽なのに。

いろいろ買っておくかなぁ。いや、あんまり文明の利器に頼るのはよくない。

ヨハンナたちが編んでくれた糸もあるので、それで縛ろう。

「こんなものかな?」

 全部を包み終わったので、いよいよスノーウーズの出番だ。

「外でいいですか?」

 風呂桶を中に置くのはさすがにきつい。

前より狭いんだから。

「えーっと、布かぶせてくれるなら。」

 もちろんサンシェードも開きますけどね。

「ビニールシート敷きますよ。」

「あぁ、青いあれ?グレイウーズの皮があれば似たようなことできるんだけどねぇ。」

 相変わらず、何でできてんだウーズの体って言うのは。

少なくとも成分表的にはただのたんぱく質だ。

極薄だけど、それ以上でもそれ以下でもない。

後はほとんど水だ。

 そう考えると、あれがどう動いているのがめちゃくちゃ謎だ。

化学の分野からは完全に逸脱している。

「ヨハンナさんも言ってたけど、いろいろ利用できそうよね、ウーズ。」

 ベネットもウーズの有用性が気になっている様子だ。

「今まで、ウーズってどうしてたんですか?」

 今まであったこともないというわけでもないだろう。興味がある。

「基本的には食べられないし、酸を持ってるし、危ないから燃やしてたわ。厄介だから、利用してみようって発想がそもそもなかった。」

「僕もだねぇ。不意打ちが得意だし、あれに関わると大抵ろくな目に合わない。大して実入りもよくないしね。

 金や宝石を体内にため込んでいる場合もあるけど、期待はあまりできないって印象があるよ。

 ただ、そこまで有効利用できるともったいなかったかな。」

 そこまで言われると、何か考えたくなるのが人情だよねぇ。

 まあ、そこは置いておいてさっさと冷凍しよう。

サンシェードを出して、風呂桶にスノーウーズを出す。

相変わらず強烈な冷気だ。

「入れますよ?」

 皮布に包まれた本をゆっくり置いていく。

バキバキ音が鳴って怖い。

「いや、分かってるんだけど怖い。本壊れちゃいそう。」

 レイナも若干怯えてる。まあ、分からなくもない。

「どれくらい、漬けておけばいいのかしら?」

 確か24時間って話だけど。

「一晩漬けて様子見ましょうか?」

 とりあえず目安もないから様子を見ながらやるしかない。

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