1-11 チートを貰っても使いこなせなきゃ意味がない。
失敗した。
寝て起きて考えてみれば明らかに失敗だ。
そもそも、あっちの世界じゃ小麦や米以外の穀物なんか健康食扱いだから高いのなんか当たり前だよな。
しかも、異世界に持ってきてくれるんだ。
むしろ安い方なんじゃないか?
なんだよ、1週間で遅いって。
どうやって届けてるか分からんけど、普通は届かないんだから遅いもへったくれも無いだろう。
配送するのだって、異世界に届けるのが無料なわけないだろうに……
あー、俺馬鹿だなぁ。
そもそも、買うかどうか即決する必要もないんだし、もうちょっと考えればよかった。
買うにしても、ハンスの了承を得るべきだったなぁ……
気が重いなぁ……
あ! そうだ!! 半分は俺が貰うって約束なんだし、全部渡して半分って事にすればいいか!!
そうだ、そうしよう!
はぁ……
なんか気が抜ける。
オーツ麦に拘る必要なんか無いんだよなぁ……
菓子パンでもいいし、スパゲティや小麦粉だっていいはずだ。
彼らの文化を壊さないようにとか、そんなことでも考えてたんだろうか?
俺は異物なんだ。
今更、文化を保護しようだとか、下手な介入は不幸を呼ぶだとか、そんな高尚なことを考えること自体が、おこがましいと言えば、おこがましいんじゃないだろうか?
開き直りのような気もするが、ちょっと次の取引は考えよう。
そうそう。
そもそも皮って一括りだけど、全部同じ品質なのか?
便利すぎてそのまま売ってしまったけど、売値が妥当かどうか不安だ。
インベントリから、1枚皮を取り出して眺める。
”鑑定”はやばいと思って封印してたが、変な縛りを入れるのは自己満足だろう。
俺は、じっと皮を見つめる。
って、そんな必要はないと俺の記憶が呼び起こされる。
なんだかなぁ……
この思い出す感覚、明らかにおかしいんだが……
まあ、とりあえず集中する必要性はなく、鑑定しようと思えば瞬間的にできるらしい。
鑑定ウィンドウとも言える画面が出てきて皮のデータが読み取れる。
しかし、データが多い。
どんな動物の皮だとか、成分表だとか、大きさだとか、色々と表示されているわけだが俺の欲しい情報はなかなか見つからない。
これも、表示させるデータを選択できるようなので整理していく。
まず、名前は山羊皮とでている。
大きさや、大まかな品質。
最終的にはそれくらいしかデータは表示されなくなった。
微妙だ。
価格とかでないのか……
とりあえず、これでもう一枚取り出して”鑑定”にかけてみる。
大きさも品質も違った。
インベントリにしまって、リストを表示してみる。
山羊皮で一つにまとまっていたリストが、未鑑定と鑑定済みの皮で分かれていた。
そして、また記憶がよみがえる。
どうやらこの状態でも鑑定、分類、ソートができるらしい。
ので、反射的にやってしまった。
そこで俺はさらに思いついた。
品質ごとに見積もりが付けられるんじゃないか?
表示の柔軟さや、特能力同士の連携ができるなら、きっと可能だろう。
そう考えるとリストが勝手に更新されていった。
今、インベントリに入ってる物品のほとんどに値段がついた。
超便利だ。
と言っても、あのショップで売却した値段だろうから、目利きができてるとは言えないだろう。
それでも充分、参考にはなる。
しかし、これでよく分かった。
借り物だからこそ、ちゃんと把握しないとまともに運用できない。
ちゃんと活用方法を考えて、上手く利用しないとな。
不意に俺の頭にクイズに正解したときのような音が鳴り響く。
そして、ウィンドウが勝手に開いた。
『おめでとうございます。特殊能力のレベルが上がりました。』
頭の悪そうな丸文字で書かれている文章に俺は見入った。
下部には、
”鑑定” 1→2
と表示されている。
そして、今まで鑑定しても値段がつかなかったのが、つくようになったと理解する。
もちろん、これはあくまでも”売買”の能力で売却するとしたらの価格だ。
あー、うん便利だね。
便利だよ。
だけど……
なんだよ。
今更じゃねえか!!
なんか馬鹿にされている気がする。
「おい、ヒロシ大丈夫か?」
地面に手をついてる俺を見下ろしハンスが心配そうに声をかけてきた。
どうやら、なかなか起きてこない俺の様子を見に来てくれたらしい。
「だ、大丈夫大丈夫。」
俺は力なく笑いながらも立ち上がる。
「とりあえず、昨日話していたことなんだけど。」
言い出しにくいが、黙ってるわけにも行かないしな。
「その事なら飯を食いながらにしよう。みんな待ってるぞ?」
きっと失敗したことは、分かってるんだろうな。
気を使ってくれてるのはよく分かるんだけど……
ハンスの優しさが痛い。




