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5-8 彼女が追う仇敵の影。

「どんな奴かと聞かれれば、卑怯者としか言いようがない。

 義兄弟だったんだが、殺しが好きな男でな。

 特に嬲り殺すのが大好きだ。まあ、それは別にいい。

 殺しが好きなだけなら、思う存分暴れてくれれば、こっちとしても使い道がある。」

 いや、よくねえよ。

俺のいた世界の基準で考えたら、とんでもない大悪党だし、そんなことが好きな奴は、この世界でだって扱いづらいだろう。

少なくとも、王国内なら大問題だろうな。

「困りものなのは、すぐ裏切るところだ。

 それも気軽に、後先考えずに裏切りやがる。

 別に、俺も綺麗な身じゃない。場合によれば、見捨てることだってある。

 それでも、気分で裏切ったりはしねえ。

 ましてや、面白そうだからって味方を敵に売る奴はさすがにな……」

 俺も眉を顰めるしかない。

面白いから裏切るってなんだよ。

「まあ、そういう性格のやつだから、まともな奴は誰も相手にしなくなった。

 いかれてる方の俺でも、あいつとの付き合いは慎重にならざるを得ないな。

 時々、手に入れた盗品やら血濡れの服を買ってやってるが、何か罠があるかもしれないから警戒するに越したことはない。

 しかし、あんなんでも若い馬鹿な連中はかっこいいと持ち上げるから始末に負えん。

 どっかでくたばっててくれたら、こっちとしても万々歳だ。」

 そういうのに憧れるものなのかな。

俺にはさっぱり分からない。

裏切るつもりがなくたって、時には人を裏切ってしまうことがあるのに、自分から積極的に裏切るって言うのはどんな感覚なんだろうか?

「ちなみに、最後にあったのはいつなんです?」

 いつだったかなと、アジームは少し首をひねる。

「あぁ、思い出した。ヒロシ、お前とあった最初の日、その前日だな。」

 ニアミスしていることに動揺したのか、ベネットの顔は真っ白だ。

人は本当に怒ると無表情になる。

ベネットの震える手をそっと握った。

「アジームさん、そいつの持ってきたもので譲ってもらえるものはありませんか?交換できるものがあると思います。」

 俺は、アジームに取引を持ち掛けた。

「そりゃいい。いい商売ができそうだぜ。」

 にやりと笑う。

吹っ掛けられんだろうなぁ。


 テント一つと麦200ポンドつまり90㎏弱でアジームが持っているドライダルの痕跡がある物品全てと交換できることになった。

 まあ、麦って言っても小麦粉だけども。

四の五の言ってられないので、”売買”で購入した。

初めて証書をサービスで売ったけど、まあ便利だ。

お急ぎ便で明日の朝に届く。

 問題は、テントだ。同じものを購入したけど、お急ぎ便でも今日中には手に入らない。

せっかく、しっかりしたテントを買ったのに分捕られてしまった。

麦は何とか納得させたけど、なにも渡さずに先延ばしできる雰囲気でもなかったしな。

ハンスたちに渡している分があるから、そっちに誘われたけども、いくらなんでも窮屈すぎる。

下手にコンテナハウスなんか出そうものなら、奪われかねないし。

仕方がないので、一発展開するテントでやり過ごすことになった。

3人だと、やや窮屈だが寝るには十分だよな。寝袋もあるから何とかなるはずだ。

「正直、僕はうれしくないけどね。なんで夫婦のテントに厄介にならないといけないんだい?」

 トーラスは不満げだ。

「ごめん、じゃあ、俺が外に……」

 思いっきりトーラスにため息をつかれた。

「せめてベネットとは距離を離してくれ。僕だって男だからね。」

 じゃあ、私がと外にと出ていこうとするベネットの手をつかむ。

そうじゃない。

「なんで二人が出てこうとするんだい?じゃあ僕が出て行こうか?」

 申し訳ない。

こんなはずじゃなかったんだけどなぁ。

「とりあえず、僕が左、ベネットが右、真ん中がヒロシ。これでいいね?」

 そういうと、さっさと寝袋を敷いて横になってしまった。

 そりゃ、不愉快にもなるよな。

ごめん、トーラス。

 まあ、寝袋の中だからベネットと触れ合ってもガサガサいうだけだ。

俺の図体がでかいから、二人と接触せずに寝るのも難しい。

色々ともやもやするけど、ともかく寝よう。


 ドライダルが持ち込んだものは、本当に雑多だ。

千切れたドレスや割れた花瓶、人を殴ったであろう椅子の足、人を殺した後である剣、しかも折れてる。

ほとんどゴミだ。

 畜生、アジームめ足元見やがって。

挽いた小麦200ポンドでほくほく顔だったが、どう考えたって購入した金額とは見合わない。

 いや、物品としての価値というより情報としての価値だと割り切ろう。

 一応ブローチやらネックレスなんかもあるけど、どれも血まみれだ。

流石に誰かに渡すのはためらわれたんだろうけども、掃除くらい……

いや、掃除されると”鑑定”の効果が試せないか。

 すこし、怖い。

「ヒロシ、無理しなくても……」

 盗品の前で気合を入れてたらベネットに袖をつかまれてしまった。

 いや大丈夫、殺される場面とかの視覚情報の取得はまだしないから。

「平気平気、無理そうなら言いますから。」

 昼食も取ってみんなも水場での仕事にいそしんでる。

遊んでいるように見えて申し訳ない気持ちになるけど、仕方ない。

 まあ、アジームのところの男連中はみんな遊んでるが。

トーラスは、アジームのキャラバンの男連中につかまり、射的に無理やり参加させられてる。

 もちろん、的じゃなくて射る方でだけども。

 とりあえず、ざっと”鑑定”にかける。

以前から出ている材質やら価値なんかは特に意識しないでも表示されるから、別にいいんだけど、来歴の方が困りものだ。

 まさか、歴代の持ち主全部が出てくるとは思わなかった。

正直、誰が売って、誰が買ったかとかそういうところまで出てくると情報が膨大過ぎる。

すぐに最後の持ち主だけに絞った。

じゃないと俺の頭の方がおかしくなるわ。

 よくわからないのが、全部がドライダルの持ち物じゃない。

ドレスやネックレスなどの装飾品はドライダルの持ち物にはならない様子で、逆に椅子の足やら花瓶なんかはドライダルが持ち物になっている。

つまり何かに使用したら、所有者認定されるんだろうか?

とりあえずそういうことだと解釈して先に進めよう。

 ドライダルの情報を見る。

これも膨大な情報なんだけど、こっちはステータスを見慣れているので絞られた情報だけが出てくる。

 つまり、深く知ろうと思えば別の情報が出てくるということだろう。

 とりあえず、顔だ。

顔、出てくるかな?

「出た……」

 特徴と言える特徴はない。

年のころは俺と……

今の俺と同じくらいに見える。

年齢は25歳。

能力値が特別高いわけではないが、レベルはベネットと同じだ。

結構強いな。

 しかし、よくよく見てみると俺とは似ても似つかない顔だと思うんだよな。

俺がぬぼーっとしている顔だとするなら、ちょっと殺気立ってる顔に見える。

最後に持っていた時の情報だろうから、当然と言えば当然なんだろうけども。

 どうしよう、ベネットに確認してもらうか?モニター経由で表示できると思うけど。

 いや、まだ別の情報を調べてからにしようか。

位置情報が無いか調べてみたけど、正直座標で示されても困る。

地図情報が出てこないから、正直微妙だ。

多分、経度緯度だとは思うんだけども。

 まず、そもそもの基準点が分からない。

惑星上であるという話は聞いていたから、緯度は赤道が基準だろとは思うけれど、じゃあ経度はどこを基準とするのか。

そこら辺が判断つきにくい。

惑星の大きさが違えば、同じ0.1°でも地上地点の距離はかなりずれるはずだ。

 しかも、たぶんこれが最後に使われたときなんだろうな。

刑事ドラマとかなら、地図上にピンを指して次の犯行現場を探すとかって展開になるんだろうけど、俺の知識じゃ全く分からない。

 何か有用な情報はないだろうか?

例えばだけど、今住んでる場所の地名とか。

 まあ、そう都合よくもいかないか。

地名だって人によって呼び方が違う可能性もある。多分座標になってしまうんだろうな。

一応念のためにドライダルの在住地と出身地を調べてみた。

 どっちも座標だ。

 駄目だ手掛かりにならない。

そうだ、俺の在住地と比較してみようか?

緯度経度なら、ある程度の方角が推測できるかもしれない。

 俺のプロフィールを確認する。

するとちゃんと地名が入っていた。

モーダルは市なので区画整理され区画名と番地まで表示される。

 これは……

つまり俺が知っている場所なら座標が地名に変わるのか。

 ちなみに座標は表示された。

そこから割り出せたドライダルの在住地は東側だ。

つまり、距離は分からないけど王国の内部ってことになる。

 いや、正確にはモーダルより東側だ。

王国を突き抜けて反対側に行ってしまうかもしれない。

だけど、少なくとも惑星の真反対ということはないとは思う。

この数字が角度だとするならばという但し書きがつくけども。

 あー、他の人の出身地を調べてみればあるいは知っている地名で角度単位の距離を測れるかもしれない。

 ただ、どうしたもんか。

割と持ち主がころころ変わってる物品もある。

どこから手を付ければいいだろう。

「ヒロシ、少し休んで。」

 そういうと、ベネットが俺の正面に立ってきて、口の中に何かを入れてきた。

チョコレートかな?

「あ、ごめん。」

 つい謝ってしまった。

「謝る必要なんてないわ。一生懸命調べてくれてありがとう。」

 野草茶を貰ってきてくれたらしく、そっとカップを渡してくれた。

気が休まる。

ちょっと調べる情報が多すぎな気もするな。

「ねえ、ヒロシ。もしかしたら、私も調べることができるんじゃない?」

 そういわれれば、モニターに写して調べることができるかもしれない。

 だけど、さすがに他のキャラバンがいるところでやるのははばかられる。

「手伝えるなら、手伝いたい。私が調べてほしいことだもの。今は人目が気になるでしょうし、あとで別の場所で調べましょう?」

 確かに、何やってるんだか注目されている気もする。

これでモニターなんか出したら、何か勘繰られるかもしれない。

「そうです……いや、そうだね……」

 一応、夫婦であると名乗った以上、敬語はまずい。

いつもと真逆で混乱する。

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