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5-6 ワイバーンを調理してみた。

醤油煮込みしてみました。

 さて、台所に立つのは久しぶりだ。

借りてる部屋には台所はないし、旅の途中でも買いこんだ料理を出すばっかりで全く調理はしていない。

手の込んだ料理なんか作った経験もないから不安だが、試してみないことには始まらない。

「ハンス、貰っていいんだよね?失敗しても恨まないでくれよ?」

 ハンスたちに渡したワイバーンの肉を前にちょっと怖気づいてる。

ちなみに、ハンスたちの取り分は俺のインベントリじゃなく、渡していたホールディングバッグにしまってもらっている。

そうしないと、ちょっと気分的に落ち着かなかったからだ。

いつでも俺がこっそり持って行けちゃうのは、いけないような気がする。

そのうち慣れるのかもしれないけど。

 とりあえず、そっちから出してもらってるから本来はハンスたちの取り分だ。

ワイバーンを調理しようと思うと言ったら、じゃあこっちから出すと言われて断り切れなかった。

「大丈夫だよ。信用してる。」

 信用しないでくれ。頼むから、変な期待を寄せないでくれ。

やるだけやってみるか。

俺は、まず手を洗い、ボウルを取り出してきのことワイバーンの肉を水に浸す。

きのこはこっちの世界で取れたものだ。

そこでいったん台所から離れる。

「いいのか?料理?」

 珍しいことをやってると思ったので、注目されてたけど結構時間が余るんだよな。

「あれは、ちょっと漬け込んでおかないといけないから。1時間くらいは放置かな。」

 とりあえず、その間にボーリング作業を説明しよう。

「じゃあ、その間にボーリング作業を説明するよ。」

 地味な作業だけど、単純だから丁度いいだろう。


 適当な地面を選んで掘削を始めたけど、ハンスたちの力を侮っていた。

結構な深さまで掘ってもらえたから、サンプルが膨大だ。

サンプリングは精密な分析にかける必要もなく”鑑定”で分かるので、問題はどの深さにあったかということになる。

 ただ、残念ながら今回は外れだ。

石と土、わずかな水だけが出てきただけだった。

 しかし、人力で20mも掘れるもんなんだな。

時間を掛ければもっと掘れるんだろうけど、1時間でこの深さまで掘れるとは思わなかった。

「大体、掘り方はわかった。この筒をインベントリにしまえばいいわけだな?」

 ハンスも若干お疲れ気味だ。

確かに、とてもじゃないがずーっとやってられる作業じゃない。

「うん、そうしてもらえると助かる。ありがとうハンス。こんなに深く掘れるとは思わなかったよ。」

 途中俺も手伝ったけど、ほとんどハンスが掘り進めてくれたようなもんだ。

「どのくらいの深さまで掘ればいいだろうか?あんまり深くても掘り起こすのには手間がかかるぞ?」

 確かにその通りだ。

水や石油のように吸い出せばいい液体ならともかく、鉱脈みたいなものだったら20m下でも、厳しいかもな。

とはいえ、液体ならポンプを使えば結構深くまで吸い上げられる。

「とりあえず、50mかな。週に2回くらいでお願いしてもいいかな?」

 そんなもんでいいのかという顔をされるが、十分すぎる。

そんなに早く結果は求めてないしね。

「それ以上掘られても、俺の処理が追い付かないよ。」

 苦笑いするしかない。


 戻ってきて、みんながボウルを覗いてる。

「ヒロシ、これ大丈夫?真っ黒だよ?」

 ミリーが心配そうに言ってくる。

「多分?」

 一応予定通りではある。

まいたけみたいなきのこだったし、”鑑定”でもまいたけとはなっていたから、多分まいたけ、だから肉と反応すれば黒くなる。

 いったん、水を抜く。

この黒さは確かに心配になるよな。

 次に、それを圧力鍋に移して炭酸水を鍋に注いでいく。

段取りが悪いな、急いで薬味を刻まないと。、

ショウガとニンニクは、ハロルドに使ってもらおうと思って、こっちで買ったものだ。

ネギはないので、エシャロットで代用する。

それを適当に刻んでいく。

別に直接食べるわけじゃないし、適当でいいよな。

しゅわしゅわ音がして、さらにみんなは困惑する。

「酸か?」

 ちょっとハンスも心配している。

「いや、普通の炭酸水だから、溶けてるわけじゃないよ。」

「そ、そうか。」

 そんなに見つめられると困る。

圧力鍋なので、ふたをして火をかけた。

 いや、火じゃないか。IHヒーターだし。

「とりあえず、今は煮るだけだから他に作るものがあったら、そっち進めて?」

 見たこともない鍋だから、ちょっとみんなおっかなびっくりといった様子だ。

今は、加圧しすぎを防ぐ仕組みもあるから爆発はしないけど、確かに爆発したらやばいもんな。

ちょっと目を離すのはよそう。


 加圧が済んだので、過熱を止めて今は余熱で調理中だ。

 その間に、ヨハンナとベネットがガレットを焼いてくれている。

今回は小麦とジャガイモのガレットだ。

いい匂がする。

 他にも、野草を茹でて、水切りした後、酢と塩で味付けをしている。

酢なんかあったかな?

 まあ、余計な口出しをするのはよそう。

 それと野鳥の卵と醤油をちょっと足して、油を混ぜたものも作ってる。

その親なのか、オーブンで鳥を焼いていた。

羽はむしってあったし、ちゃんと手間をかけて下処理をしてくれているから、これはおいしそうだな。

塩と香草まみれの鶏がオーブンでじりじりと焼かれてる。

 しかし、酢があるなら、酢も入れておけばよかったかな。

確か、酢もたんぱく質を分解してくれたはずだ。

ともかく徹底して、柔らかくしようという気持ちで作り始めたけど果たしてうまくいくかな。


 ベネットとヨハンナの料理が終わったので、蓋を開ける。

箸で突き刺してみる。

 おぉ、突き刺さった。

凄い弾力の肉だから心配だったけど柔らかくはできたみたいだ。

 さて。味付けどうしよう。

ワインは、確かあったはずだし、砂糖と塩がある。

それと、そうだな、醤油を入れてみよう。

 火を入れて、酒精が飛ぶまでに詰めて、砂糖を入れる。

 そして、火を止めて塩と醤油を加えた。

「すげー、料理人みたい。」

 ミリーが、そんなことを言ってくる。

「どこがだよ。煮てるだけだぞ?」

 ある程度煮詰まったところで、味見をしてみる。

俺的には、問題ない。

後は、味が入ってくるまで放置だ。


 大抵男の料理って言うのがダメな理由として、片付けができないことと、段取りができないことにある。

考えてもみれば、二人の料理は出来上がってるんだから、味が染みるまで待ってたら料理が冷めるだろう。

こういうところがダメなんだ。

「ごめん、先に食べよう。」

「えーー!!食べたい食べたいー!!」

 そりゃ、期待してくれてたからなぁ。

 ただ、たぶんまだ全然味が入ってない気がする。

「冷めるともったいないし、食べ終わってからお試しでもいいんじゃない?」

 テリーは若干警戒してるみたいで、あまり食べなくて済むように画策してるみたいだ。

「そうだね。僕もそれに賛成。」

 トーラスにも臭いが受け入れられてないのか、若干引かれ気味だ。

「じゃあ、そうするか。まあ、明日の朝にもう一度食べればいいだろう。」

 ハンスの提案にみんな納得してくれたようだ。

本当ごめん。

「ねえねえ、ベネット、文字を教えて?」

 ミリーがベネットに話しかけてる。

「いいわよ。そんなに難しいものじゃないわ。」

 いくつか法則があるにせよ、表音文字だ。

元々使ってる言葉なら文字を覚えるだけで済むから読み書きは楽だろうな。

「ジャガイモってのは、うまいな。こっちの方が豆よりうまいんじゃないか?」

 ロイドが、ガレットを食いながらそんなことを言う。

「元々、荒野で育つ食物らしいから、こっちでも育てられるんじゃないかな?」

 トーラスがそれに答える。

 あ、お浸し美味しい。

「この野草、おいしい。」

「そうかい、ヒロシ。古くなったワインを交換してもらってね。酸っぱくなって使えないって言うから、貰ったんだ。こうすれば、うまく使えるんだよ。」

 そうか、意図して作られた酢じゃなくて、古くなったワインなのか。

「ブドウも元々荒野に生えてるもんだから、ワインを作ろうと思えば作れるんだろうなぁ。まあ、ワインが作れるところはそういう技術を隠してるだろうから、作り方は教えちゃくれないだろうけどな。」

 ハンスは若干残念そうにつぶやいた。

「へぇ、ワインを作ってるキャラバンもあるんだ。」

 てっきり定住してないと、ワインは作れないものだと思った。

それぞれに食事を楽しみつつ、小さい話題で盛り上がる。


 さて、あらかた平らげてしまった。

みんなの目線は鍋の方を見ている。

まだ浅いんじゃないかなと思うが、お試しだしな。

取り出してみるか。

「じゃあ、切り分けるからちょっと待っててね。それとあんまり期待しないように。」

 そういいながら、ワイバーンの炭酸煮を取り出す。

まな板になる木の板の上にのせて、なるべく薄く切っていく。

とはいえ、柔らかすぎるのである程度の厚さまでにしか切れない。

技術があれば、また別なんだろうけども。

大分分厚いな。

煮汁は、味が薄いだろうから器にとって漬けながら食べてもらおう。

「見た目は、悪くないんじゃないか?……」

 ロイドの言葉からすれば、見栄えはよかったみたいだ。

真っ黒で気持ち悪いという様子でもない。

「いただきまーす。」

 ミリーが先鞭をつける。

「んー……味噌よりも醤油の方が好きかも……」

 そんなに違いあるだろうか?

「若干、薄いかなぁ。でも、悪くないかも。」

 ミリーに続いて、テリーも手を出してくれた。

「僕は味よりも臭いかな。ごめん、無理だ。」

 小さい欠片を口にしてトーラスはギブアップしてしまった。

 まあ、そうだよな。

なじみのない味が全員に受けるわけもない。

「ワインだけだったら、平気だったかもね。でも、食べれないほどじゃないわ。」

 確かに無理に醤油を使う必要はなかったな。

ベネットの言うとおりだ。

「甘いねぇ。私はこういうのは好きだよ、ヒロシ。もうちょっと焦がしてもいいかもしれないね。」

 ヨハンナの感想はおおむね好評みたいだ。

 しかし、焦がしてみるか。そういう発想はなかった。

「何より柔らかいのがいいな。よく煮込めばこんなに柔らかくなるのか。」

 ハンスも臭いや味に不満はないみたいだ。

これは、成功と言ってもいいんじゃないだろうか?

「しょっぱいな。できればガレットに乗せて食いたかった。」

 ロイドには、この状態でもしょっぱかったのか。

でも、確かに何か主食となるものと一緒に食べたほうがいいかもな。

「で、作った本人は食べないの?」

 ベネットに言われて、俺自身が食べてないことに気づいた。

「いただきます。」

 笑いながら、ワイバーンの肉を口に含む。

味は、悪くない気がする。若干獣臭さを感じるけど、脂感もあって歯触りも悪くない。

気がする。

 岡目八目な気もするが、俺的にはおいしく食べられる。

「自分としては、うまくできたと思うよ。」

 これなら自分でもある程度消費できるかもなぁ。

 ただ、結構な量がある。

人に食べさせないと、とても消費しきれないだろう。

 まあ、腐ることはないから……

 あー、そうか。

結局腐るかもしれないから、ハンスたちの取り分もインベントリに移してもらわなきゃ。

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