5-3 楽しいキャラバンの朝。
夜はいつも見張りは交代でやってるが、客扱いされて交代要員から外されそうになったので俺は見張りに組み込んでくれと頼んだ。
だが、ハンスは頑として聞き入れてくれなかった。
ローテーションを崩してしまうと予定が狂うからとか、また街に戻るのだからと言われると反論できなかった。
確にペースを乱すだけでお邪魔虫になるのは心苦しい。だけど、ちょっと仲間外れにされたみたいで悲しい。
ちょっとすねた気分になったので、俺は床で寝ることにした。
8人もコンテナハウスに詰め込まれると、さすがに寝る場所に困る。
ソファはベネットとトーラスに譲り、残ったスペースに寝袋を敷いて寝ると言い張った。
別に床は固くないからクッションの入った寝袋でも何の支障もない。
もう一つコンテナハウスがあるから、明日からはそっちで寝よう。
別に邪険にされてるわけじゃないのは分かっている。
これは単なる俺のわがままだ。
誰かが寝袋の方にやってきて座った。
ベネットだ。
「眠れない、ヒロシ。」
優しく声をかけてくれる。
「いや、もうすぐ寝るよ。ちょっとすねてただけだから。」
素直なんだか、ひねくれてるんだかよく分からない返答をしてしまった。
「子供っぽいくせに、素直だし、ヒロシのことよく分からないわ。」
そういいながら、俺の頭をなでてくれる。
「正しいことを言われたら、そりゃね。ただ、まだ俺はいろいろと力不足だなって……」
もし、金が有り余ってるなら、もっと人を雇って警備をさせて、みんなをぐっすり眠らせることだってできるはずだ。
それをみんなが望んでいるわけではないのは分かってはいるけど、やらないのとやれないのじゃ全然事情が違う。
「十分頑張ってると思うけどな。」
そうかな。
俺、あんまり頑張れてない気がする。
いつもは、全力でこれだとは思ってるから矛盾しているけど。
客観的に見れば色々と浪費もしちゃってるし、自分の楽な方、楽な方に逃げている気がする。
ただ、それが悪いことだとは思ってないし、みんなにはもっと楽ができたらいいなと思う。
「お休みヒロシ。」
ベネットの声が心地よかったのか、俺はそのあとすとんと眠りについてしまった。
「ヒーロシー!!おっきろー!!」
「ぐは!!」
いきなりの衝撃に俺は目を覚ます。
目の前にはミリーの顔がある。
つまり彼女が寝ている俺の体に飛び乗ってきたのだろう。
スキンシップしてくれるのはありがたいが、そこまでいきおいをつけなくてもいいのに。
「お嫁さんはもう起きていろいろ手伝ってくれてるのに、旦那がそんなにだらしないんじゃだめだぞ!!」
やっぱりミリーには嫁を連れてきたと思われてたんだな。
「ミリー、嫁さんじゃないよ。いろいろ事情があるんだ。」
説明するのは面倒だし、できればそれで納得してくれると助かるんだけども。
「いろいろな事情って何よ?」
まあ、そうは問屋が卸さないか。
仕方がないので彼女の父親が殺されたことや、今も仇を探していること。
そして、その父親と仇、その両方に俺は似ているという説明をした。
顔形は仇で、態度や行動が父親というなんとも複雑な立場だけど、ミリーには伝わっただろうか?
「なるほど、それは複雑だ。」
ちゃんと伝わってる気がしないな。
ミリーの言葉は表面をなぞってるだけのような気もする。
子供だからってバカにするつもりはないけど、こればっかりは経験がないと分かりづらいだろう。
「だから、あんまりからかわないで欲しい。いいか?」
一応念押ししておこう。
「分かった。ハンスが止めたのはそういうことだったんだね。」
そうそう。
そういう機微にハンスは鋭い。
しかし、なんか違和感がある。
昨日と違って、ミリーが綺麗になってる気がする。
あー女性として美しくなったとかじゃなくて、清潔になったという意味の綺麗だ。
「そうそう、お風呂空いてるから早めに入ってね?他のみんなは、入ったから。」
なるほどそういうことか。
ふと見ると、ミリーの頭の上には花を編んで作られた冠が載せられている。
「あ?気付いた?お嫁さんが編んでくれたんだ。虫よけにもなる花だから便利なんだよ?」
だから、嫁というな。
しかし、実用性も兼ねるとはいえ女の子らしくてかわいいな。
花冠をつけてるベネットを想像して、早く見てみたいと思った。
風呂に入り、外に出てみるとなかなかカオスな風景になっていた。
焚火で料理をしているヨハンナはいつも通りだけど、花冠を付けてる嫁、じゃないベネットがそれを手伝っている。
想像通り花冠が似合ってる。
ロイドが俺が持ってきた電動スクーターを片手で操作して乗り回している。
一応タイヤとサスペンションをいじってあるけど、こんな悪路にもかかわらず平然と乗り回す姿は魔法でも使ってるんじゃないかと疑いたくなる。
とても片腕とは思えない。
トーラスとテリーは射的をしている。
二人とも弓矢を使ってるけど、弾やボルトはいくらでも用意するのにな。
まあ、遊びだから別にいいか。
ハンスはミリーに抱き着かれながら、何か作ってる。
なんだろうか?
しかし今日は風も穏やかで寒いけど、十分に平和な朝だ。
「おはよう。」
そう声をかけるとみんながおはようと返してくれる。
幸せだなぁ。
朝は定番のポリッジだ。
ヤギの乳で乳白色の優しい味のポリッジ。
おいしい。
ただ、ちょっといつもと違う気がする。
「隠し味に味噌を使った?」
俺は、ヨハンナに尋ねた。
微かに香る程度だけど、うまみが引き出されている気がする。
「ベネットさんが手伝ってくれてね。まあ、私はほとんど見てただけだから、おいしかったら、ちゃんとお礼を言うんだよ。」
そうなのか、てっきりヨハンナが作ったものだと思った。
「とんでもないです。分量とか、煮る時間とかいろいろと勉強させてもらいました。ありがとうございます。」
なんだかベネットは恐縮しきりって言うのがなんとも……
「おいしいですよ、ベネットさん。ヨハンナもありがとう。」
ともかく、二人には感謝しないと。こんなにうまく味噌を使ってくれるとは思わなかった。
「臭いはともかく味はいいかなぁ。お塩足らないと思ってたから、これはこれでいいかも。」
ミリーも納得してくれてる様子で安心した。
他のみんなもめちゃくちゃうまいとかではないけど、食べられなくはないという様子でよかった。
変なもん食わせるなって文句言われたらどうしようかと思ってたからひと安心だ。
食事も終えたところで、ハンスが槍を持ち出した。
作っていたのは手袋のようで、それを身に着け槍を握っている。
「久しぶりに練習しようと思ってな。どうも、ヒロシのくれた槍は勝手が違う。見ててくれるか?」
他のみんなは、片付けや山羊や羊たちの世話がある。
残されたのは、ハンスと俺だけだ。
見ててくれということだけど、俺が見ていて何かあるんだろうか?
とりあえず勉強させてもらうつもりでちゃんと見よう。
「分かった、ちゃんと見るよ。」
そういうと、ハンスは頷き練習を始めた。
最初は基本的な動きの繰り返しだ。
でも、やっぱり俺とは根本が違う。
ただなぞるだけの俺とは違い、一つ一つの動きを確認しているような気がする。
そこから徐々に、連撃や防御から攻撃に移る動作、その逆といった感じで空手で言えば型みたいな動きになっていく。
凄いのは、想定している相手が見えるような気になってくるところだ。
それがどんどん強くなっていき、数も増えてくるように見えた。
凄い。
俺は、以前ハンスでも何百人は倒せないだろといった覚えがあったけど、もしかしたらハンスなら何とかできてしまうんじゃないだろうか。
流石に、後半になってくると息が上がってるけど、想定する敵の強さはさらに強くなってる気がする。
見ている俺も息が上がってくるような勘違いをしてしまいそうだ。
ハンスは息を大きく吸い、そして吐き出した。
練習が終わったようだ。
とても俺にはまねができない。
「ヒロシ、同じものを持っているか?一つ教えたい技がある。」
真剣な目で言われて俺は黙って頷くしかできなかった。
槍を取り出し、穂先を外す。
「まずは好きに打ち込んできてくれ。」
とても自然体のまま、ハンスはそう俺に告げた。
槍を構えているわけじゃない。
状況としては俺が有利なところから始めさせようという事みたいだ。
でも、ためらわず俺は槍を突き出す。
手を抜いてたら殺されるような気がしたからだ。
そんなことはあり得ないんだが、そういう気持ちになった。
いつも以上に真剣に槍を振るう。必死にハンスに当てるように努力する。
でも、それらをすべて避けられいなされ、俺が勝手に転ぶ。
多分、ハンスが槍を持っていなくても同じことになっていただろう。
強い。とても勝てる気がしない。
当たり前だ。素人に毛が生えた程度の俺じゃ全く歯が立たない。
「いいぞ、ヒロシ。とても筋がいい。もう少し、腰に力をためるんだ。そして、背中、そして肩、腕、そして指先に力を放つように。」
どこがよかったのかさっぱりだ。
そして、ハンスは俺に槍を構えさせて、手を当てて細かな動作をチェックしていく。
「よし、防御はこうだ。」
次は何度か打ち込んだ後に、防御の仕方の指導が始まる。
確かにそうした方がいいだろうなというのを、的確に指摘してくれる。
相手も、人型の相手、四足獣の場合、馬上からの攻撃、空中からの攻撃とさまざまなバリエーションを教えてくれる。
特殊だったのは、非実態の敵に対する対処法だった。
ここら辺になってくると、観念論というか、感覚というか、そういう話になってくるんだが、事実としてこの世界には幽霊や怨霊の類がいるらしい。
そういうものへの対処法まで教えてくれる。
ゲーム知識があるから、何とはなしにそういうのもいるだろうと思ってたけど、現実での対処というのは考えてもみなかった。
ただ、言われてみれば重要だ。
俺の世界では考えなくてもいいような事態が実際にある。
「ここまでできるなら、十分だろう。じゃあ、本番に行こうか、ヒロシ。」
まだ、全然本番ではなかったらしい。
俺は冷や汗をかく。
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