5-2 おみやげは、渡す方も嬉しい。
湯船があって、お湯を張ればお風呂に入れることを説明したが、今日はさすがに風が強すぎるので、実演は断念した。
お湯に関しては、俺がハンスたちの持つバッグに用意して置けばいいから、毎日でも入れるわけだけど。
本当にそこは遠慮してもらいたくない。
取り出すためのポリタンクも用意してるし、何の問題もない。
そうはいっても入るかどうかはハンスたちの自由だし、強制するようなものじゃないからあまり強くはいえないんだけどね。
その話をしてもわかったよと軽い感じで流されたらそれ以上は強く追及できない。
「あー、あとここから屋上に行ける。ちょっと上ってみる?」
先導するように俺は梯子を上った。
風が強いので、かがんだ状態で上に上がる。
テリーやロイド、そしてハンスとトーラスも上がってきた。
見事に男性陣のみだ。
「これで、一応明かりのエネルギーは賄えてるけど、場合によったらエネルギー切れになるかもしれない。
ここのバッテリーのランプが赤くなったら収納してくれ。1時間もすれば回復するから。」
屋外にバッテリーを置いたので、見るためには屋上に上らないといけないのは不便かもな。
あー、それと丁度いいから武器も渡しておこう。
「テリー、クロスボウって見たことあるか?」
取り出して見せてみた。と言っても、普通のクロスボウじゃない。
滑車付きのいわゆるコンパウンドクロスボウという奴だ。
照準器付きで、暗視タイプのスコープもついてる。
充電が必要だから、収納しないと充電できないのがちょっと面倒かもしれない。
「見たことあるけど、整備が面倒だよね。特に何その形、手入れが面倒そう。」
テリーが受け取り、スコープを覗く。
「へぇ、暗視能力付きの単眼鏡なんてついてるんだ。すごい。」
それもすごいんだが。
「それ魔法の武器だから、手入れはいらないぞ?」
実は先生に頼み込んで強化してもらっていた。
+1程度の強化なので性能にあまり寄与しないけど、手入れがいらなくなるのは便利だろう。
「うげ、高かったんじゃない?」
流石にテリーも、魔法の武器の高さには気付いたらしくて、渋い顔になってる。
ロイドは、もうあきらめた様子だ。
「そうでもないさ、直接お願いできる人がいたから、安く仕上げてもらった。」
実際、1万ダールで請け負ってくれたから先生には頭が上がらない。
「すごいなヒロシ。お前がこんなに短期間で、そんな人にお願いできるなんてな。」
ハンスは俺を褒めてくれる。
実際はグラスコー経由の伝手なわけだから、俺がすごいわけじゃないけども。
「ハンスには、魔法の武器は無理だけど、俺の世界の素材で作った武器を渡すよ。」
ポリカーボネート製の柄でできた槍だ。
ワイバーンを叩きのめした奴と同じ奴だし、ハンスが使えばもっとうまく使ってくれるだろう。
「ちなみに、ロイドは武器はどうしてるんだ?」
武器をふるったところを見たことはないけど、何も持ってないってことは無いだろう。
「俺には必要がない。こいつがあるからな。」
そういうと、指を鳴らしてどこからともなくシャムシールを取り出した。
片腕だから、確かにあった方が便利だけど、ストアリングブレスレットを持ってたんだな。
しかも”鑑定”してみると、シャムシールも鋭利の能力を持った+2のシャムシールだ。
切断能力を格段に上げてくれる鋭利の能力と、シャムシールの切断に特化した作りは相性もいい。
これは、俺がわざわざ武器を用意する必要はないな。
多分、俺の防刃服なんか一発で両断される。
ハンスがにやりと笑った。
「いうほど俺たちも弱くないぞ、ヒロシ。」
いや、ハンスたちを全然侮ってはいなかったけど、改めて凄い人たちだったんだなと感じる。
「ちなみに君は何を使うんだ?……」
ロイドは、トーラスの獲物が気になったらしい。
「普段はマスケットですね。それとこっちはヒロシが用意してくれたライフルです。」
そういいながらベルトポーチから、マスケットとライフルを取り出す。
「触っても?」
「どうぞどうぞ。」
ロイドはライフルが気になったのか、トーラスに了承を得た後、ライフルを手に取った。
「見た感じマスケットと変わらない気もするが、ライフルって言うのは何だ?」
どう説明したもんだろう。
「銃弾を回転させることによって弾道を安定させる銃のことですよ。銃弾も空気抵抗を受けないようにどんぐりみたいな形になってる。
射程は1㎞程度なら余裕で届きますよ。いや、改めていい武器を売ってもらえて僕もうれしいですよ。」
流石ガンマニア、銃のこととなると早口になるな。
トーラスは相当銃が好きらしい。そこまで知ってるとは思わなかったよ。
「1㎞?そこまで行くと、もはや近接武器はいらないな。」
ロイドは射程距離に驚き、ちょっと不安を覚えた様子だ。
特に蛮地は開けた土地が多い。これが普及したら、銃の数で勝負が決まると言っても過言じゃなくなる。
「もっとも、ワイバーンには苦戦しましたけどね。ヒロシがいてくれなかったら食われてたかもしれない。」
ハンスたち3人が俺を見てくる。
「ヒロシ、ワイバーンを倒したのか?」
流石に語弊がある。
俺一人で倒したわけでもないし、トーラスが目を打ってくれたおかげで何とか攻撃をさばけたようなもんだ。
俺がサポートして、二人に何とか倒してもらったというのが正しい判断だろう。
「俺じゃないよ。俺は単に突っ立ってただけだ。」
巨大化したのも敵の打撃を他にそらせないためだし、ウェブで動きを封じたのもたまたまうまくいっただけのことだし。
まあ、そういう意味では十分に役に立ったとは思う。
「護衛としては情けないけど、ヒロシがいてくれたから勝ったようなものだよ。」
「そう言ってくれるのはうれしいよ。まあ、でも3人だから何とかなったんだよ。じゃないとどうなってたか分からない。」
こういうのは水掛け論になる。
戦いなんて水ものだから、次も同じようにうまくいくとは限らない。
だから功労者は誰とか決めずに全員がいてくれたからだと思うのがベストだよな。
「なるほどな。まあ、俺たちもワイバーンには苦戦してるよ。空を飛べるってのはそれだけで厄介だ。羊を何匹か持ってかれるし、人もひっつかんで飛ばれるとどうしようもない。」
それはそうだ。
もし、抱えたままとばれたら手の施しようがないだろう。
そういう意味では網とか用意して置いた方がいいかもな。
「投網とかで動きを封じたほうがいいかもな。必要だったら……」
ハンスは首を振る。
「網もただじゃない。一回使えばボロボロになるだろ?会わないようにする方が何倍もいい。」
確かにその通りだろうな。
「見つかんないようにするのが僕の役割だし、そこはしっかりとやるよ。」
やっぱりテリーは頼もしいな。
「ちなみにテリー、偵察のために何かを飛ばすとまずかったりする?」
そうだねぇ、と少し悩んだ後でいろいろと教えてくれた。
偵察のイロハって言うのは、大切だな。
トーラスもいろいろと聞いていた。
「いや、そういう話は下に戻ってからにしないか?さすがに冷えてきたぞ?」
ハンスに促されてようやく凍えていることに気づいた。
やばいやばい。
戻ろう。
降りるのを待っている途中で、ハンスが声をかけてくる。
「ちなみに、ヒロシ。あのお嬢さんはお前の恋人か?」
切り出しにくかったのか、みんなが下りようとしたタイミングを見計らっててくれたようだ。
「あー、いや、まだ。彼女もいろいろと事情があるから。うまくいったら、また話すよ。」
俺は笑って誤魔化す。
「そうか。頑張れ……」
最後は笑って応援してくれた。
本当、気を使ってくれて助かる。
ミリーがあのまま、彼女なのとか聞いてたら微妙な空気になってたな。
止めてくれてありがとうハンス。
夕飯は、ヨハンナが用意してくれたポリッジとヤギを俺が用意したスパイスで炒めたもの、そしてこれも俺のリクエストだが蕎麦を使ったガレットを焼いてもらった。
ちなみに、ハンスたちも畑というわけじゃないが、蕎麦を植えてる場所があるらしい。
もし、俺がずっとキャラバンに残ってたらガレットも食えたかもな。
「山羊って……こんな味なのね……」
ちょっとベネットの顔色が悪い。
いや、単に茹でた山羊よりはましだと思う。
「ヒロシ、これちゃんと置いてってね?……」
テリーがスパイスを要求してきた。
了解だ。
俺も、これなら何とか食べられる。
しかし、ガレット自体もうまいし、やっぱりヨハンナは料理上手なんだと思う。
色々と素材が限られているから、手間とかでおいしくしようとしてくれてるんだろう。
ポリッジが本当においしい。
「ところでヒロシ、一つ聞きたいことがあったんだ。」
突然トーラスが聞いてきた。
なんだろう?
「ミソとかショウユっていうのは渡さないのかい?」
突然何を言い出す。
「いや、なんでです?あれは、ちょっと食材としては特殊なんじゃ?」
まさかこっちではよく食べられるとか言う話じゃないよな?
「いや、僕も見たことがない食材だったけど、ヒロシがいたところでは好まれる食材なんだろ?」
まあ、食材というか調味料だ。
好んでいると言えば好んでいるけど、やっぱり独特だからなぁ。
人に薦めるのはちょっと躊躇われる。
「いや、俺は料理が得意じゃないから、どう使ったもんだか。」
そのままガレットに塗って食べてもうまいとは思うけどね。
「興味があるね。ヒロシ、よかったら私に料理させてもらえんかね?」
ヨハンナが新しい食材ということで興味を持ったみたいだ。
そう言ってくれるなら、提供するのはやぶさかじゃない。
どんな風に使ってもらえるのかには興味がわく。
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