5-1 ただいま。
全員無事なようで何よりだった。
俺が渡した靴やジーンズは大切に使ってくれているようで、新品同様とは言えないまでもそんなにくたびれている様子もない。
「その様子だとうまくいってるみたいだな。」
みんなで焚火を囲んで車座に座っている。
ハンスの言葉はうれしいが、早くいろんなものを渡したい。
でも、さすがにいきなりコンテナハウスプレゼントするよじゃ、順序を守っていなさすぎる。
「えっと、みんなに紹介するよ。今回護衛をしてくれた、ベネットとトーラスだ。」
「初めまして、ベネットです。しがない傭兵ですが、お見知りおきを……」
やっぱり二つ名は名乗りたくないんだな。
まあ、みんなに通じるかどうかも分からないし当然と言えば当然だ。
「同じく傭兵のトーラスです。よろしく願いします。」
やや緊張気味だ。
オークにゴブリンがいるキャラバンだから当然と言えば当然だよな。
見た目は怖い。
「あの、剣を預けさせていただきます。」
そういえば、俺が預かると言っていたのをすっかり忘れていた。
鞘に納めたまま、両手で捧げるように持ってハンスに差し出す。
トーラスも、敵意がないことを示すように、掛ひもをもってポーチ型のホールディングバックを渡そうとしている。
「いや、いい……二人とも、ヒロシの護衛だろう?……」
ロイドは二人の行動を制止するように手で押しとどめるような仕草をする。
「それに、二人ともヒロシの友達だろう?俺たちも当然信用するさ。まあ、この顔だから緊張するなと言っても無理かもしれないが、許してくれ。」
明るくハンスは笑いながら、おどけて見せた。
「そういうわけだから、二人ともしまって。」
俺もそういうと、二人も納得したのか武器をしまった。
「よかったら、飲んでちょうだい。もしかしたらヒロシからもっとおいしいものを貰ってるかもしれないけど、体にはいいわ。」
そういいながら、ヨハンナが二人に野草茶を勧める。
いただきますと遠慮がちに二人はヨハンナの進めるものを手に取ってくれた。
本当に大丈夫そうだな。よかった。
テリーとミリーがそわそわしているのがちょっと気になる。
人間の男女が気になるんだろうか?
「ありがとうございます。ヒロシがいつも入れてくれるお茶はこれだったんですね。私とても好きです。」
そうだったんだ。
初めて知った。
なんとなく、飲み物といった紅茶か野草茶を出していたが、確かにベネットは紅茶よりも野草茶の方を好んでいたと思ってはいた。
とても好きだと言われるとは思ってもみなかった。
やっぱりまだまだ彼女のことが分かってないな。
いや、あるいはお世辞って可能性もあるかもしれないけど。
「そういってもらえると嬉しいよ。ヒロシもちゃんと覚えててくれたんだね。」
野草茶のレシピはヨハンナから直接聞いていた。
お茶にするとおいしい野草、胃腸に優しい野草、そういう草花の特徴を形や色で教えてくれたので旅先で暇になれば集めることが多い。
俺も全部は覚え切れないので”鑑定”に頼ってる部分もあるけど。
とはいえ、大変ありがたく利用させてもらっていた。
「ねえ、ヒロシ?なんで戻ってきたの?」
ミリーが不躾に質問を投げかけてきた。
まあ、当然な疑問だ。季節はまだ移り変わってもいない。
冬の初めに旅立って冬が深くなってきてから戻ってきたわけだから、早すぎだろう。
「まだ、お貴族様や大商人になったわけでもないんでしょ?なんで?」
いやいや、分からないじゃないかという風に言いたいところではあるけど、確かにまだ俺は大成してないのも事実だ。
これだけのチートを貰いながら、今でもまだ綱渡りといったところが情けない。
「みんなにいろいろと渡したいものがあったんだ。それと仕事をお願いしたいと思ってね。」
どの順番で渡していけばいいだろうか。
色々と悩む。受け入れてもらえるかどうかも分からないから、どれから渡して、どれからお願いすればいいだろうか?
急に突風が吹く。
バタバタと焚火が揺れ、冷たい空気が押し寄せる。
これは、きつい。
窪地を選んで、風が吹き込まないようにハンスが場所を選んでくれたから、気にならなかったが、ちょっと窪地から足を踏み出せば、下手したら吹き飛ばされそうな風が吹いている。
よし、まず何はともあれ住む家だ。
「うわー、すげー明るい!!それにあったかい!!」
はしゃぐようにミリーが部屋を走り回る。
「こりゃまたすごい魔法だね。」
驚いたようにヨハンナが部屋を見まわしている。
テリーは、風に吹かれないことにほっとしたように床に座り込んだ。
寒かったんだろうな。
「ヒロシ、鼻水出てる。」
ベネットが俺の顔をハンカチで拭いてくれた。
「ありがとう。ごめん。」
見苦しかっただろうか。
「何ヒロ…もご……」
ミリーが何かしゃべろうとするのをハンスが止めた。
何だろう?
まあ、いいか。
「とりあえずみんな腰かけてくれ。詳しい話がしたい。」
思い思いにソファや床に腰かけてもらった。
ベネットがヨハンナに気を使い、ビーズクッションに座らせてくれた。
言わなくても溶け込んでくれててうれしい。
「渡したいのがまず、この家だ。」
トーラスとベネットには伝えてあるので、驚きはないけどキャラバンのみんなはそりゃびっくりするよな。
びっくりしてもらいたくて、一生懸命用意したもの。
「いや、貰っても俺達には持て余すぞ、ヒロシ。」
ロイドはたぶん方々を歩きまわる以上、ここに家があっても仕方ないと思っているのだろう。
ちゃんと説明しないとね。
「さっきも見せたように、このバッグにこの家は入れられる。設置方法もさっき見せたとおりだ。」
事細かに設置の方法やしまうときに注意は必要ない旨も伝えた。
「だからこのバッグを受け取って欲しいハンス。」
まあ、呆けた顔をされるのは分かってたから、ハンスに無理やり渡した。
「あ、いやヒロシ、いくらなんでも急すぎる。もう少し話を聞かせてくれ。」
俺は頷いて、家の機能について事細かに説明した。
話が長くなってるので、ミリーやテリーは飽きてきてる様子だ。
ロイドは険しい表情をしている。
「あー、すごいのは分かったけど、なんで僕たちにこれを渡すの?」
テリーの疑問は当然だろう。
ただでこれを渡す理由がなくちゃ、気持ち悪くなる。さすがの俺だって疑問くらいは持つだろう。
まあ、疑問に思うだけで何も聞かずに貰うけども。
「みんなには、仕事を手伝ってほしいんだ。というか、まあ、お金になるかどうかが分からないから、ちゃんと報酬が渡せるか分からないんだけど。」
流石にこの場で出すと誰かに当たりそうなので、モニターをインベントリ越しに表示させる。
初めて見る画面にみんなは目を白黒させた。
これにはトーラスとベネットも驚いている。
「《投影》?」
まあ、その呪文が一番近い。
ベネットが気付いてくれたおかげで魔法ということで理解してくれたみたいでとても助かる。
「ここに写ってるのが手回し式のボーリングマシン、地面の下の資源を探す道具だ。
使い方については、明日にでも説明するけど、水が出てくるかもしれないし、何か別のものが出てくるかもしれない。
それをみんなに掘って欲しい。」
畜産業の傍ら、これをお願いするのは負担が大きいかもしれない。
やれる範囲で全然いいし、何か出てこなくても正直よかった。
あくまでも、これは口実だ。
仕事の対価として、これを渡すという俺の嘘だ。
「えー、面倒くさそう。」
ミリーなんかの反応は当然だよな。
何の成果も上がらないかもしれないことをやるのは疲れる。
「それくらいの価値は、この家にはあると思うぞ?それと、家の中でもやって欲しいことがあるんだ。」
「まだやらせるつもり?」
ミリーはちょっと不満気だけど、ロイドの表情は幾分和らいでいる。
対価もなしに何かを貰うのには、一番ロイドが厳しい。
次に渡すのは、タオルを織る織機。それと、紡績機だ。
こっちが言ってみれば、本命だろうか。
夜寝る前、風が強い日、そういう暇なときにタオルづくりをお願いしたかった。
量がどの程度織れるかは分からないが。
「まあ、機械がまだ精度不足だから、うまく織れないかもしれないけど、少なくともそのまま羊毛を売るよりも糸や布にした方が儲かる。
当然、俺が買うよ。商人だからね。」
「買うって言ったってヒロシ、毎回ここに来るのか?」
実はそのつもりだったんだけど、”収納”のレベルが上がってくれたおかげで、その必要がなくなった。
「だから、この家を納めるのとは別にこのバッグも渡したい。」
俺は、出入り口を取り付けたバッグをもう一つ用意していた。
取り扱えるのは、キャラバンメンバーだけだから、奪われても単なるバッグでしかない。
俺がどこにいても取り出せるし、何かあれば手紙をこの中に入れてくれれば俺も状況がつかめる。
ロイドは難しい顔をしていたけどやれやれといった表情に変わった。
どうやら受け入れてくれたみたいだな。
他にもトランシーバーやら双眼鏡みたいなこまごまとしたものを渡していく。
「ねえ、さすがにそこまで仕事させるんなら、他にもなんかちょうだいよ。けち臭くない、ヒロシ。」
言ったなミリー。そういうなら絶対受け取ってもらおう。
「仕方ないな。じゃあ、まずこれをやろう。」
みんなの分の防寒具一式に非常用のカロリーバー、娯楽用の糖衣チョコ、お菓子の類、みんなで遊べるカードやおもちゃの類と次々と取り出す。
みんなにあげたいものはいっぱいあるんだ。
「ヒロシ、僕はあんパンが食べたい。」
もちろんあるさ、テリー。
「家来だもんな。ほら、テリー受け取ってくれ。それと、ありがとうな。みんなを守ってくれて。」
当然じゃんとアンパンを奪い取り、早速テリーはあんパンをほおばった。
うまそうに食ってくれてうれしいよ。
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