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4-21 そんなつもりじゃなかったのに。

といったところで許してもらえないものですよね。

 丁度きっかり予算の半分なので、全然問題ないはずだけど俺はベネットに訓練場に連行された。

「ねえ、本当にこれが4万ダールなの?見た感じ18万はするはずのオーラよ?」

 確かに、ベネットにも鑑定するための呪文は使えたはずだ。

似たような呪文だけれど、信仰系秘術系で、それぞれ存在している。

それがなぜなのかは分からないが、まあ、少なくともベネットには安物には見えないだろう。

「まあ、まず制約があるせいで一段低いオーラになってます。その上で、銀だからということで買い手が付きませんでした。」

 なるほど、とベネットは納得したようだ。

「それと、《炎よ》と言えば、火を出せます。」

 《炎よ》という部分は、なんというかニュアンスだ。

正確には発音していない。呪文を発動するときのいつものよくわからない言語だ。

「《炎よ》……うわ、本当に出た!!」

 それでもちゃんと伝わるのが不思議だ。

ちなみに消火は特に言葉もなく消せる。

消えろって思えば消えるので、驚いたベネットはすぐ消してしまった。

「ちなみに、ちゃんと強化もあります。+3相当かな。」

 ちなみにプラスいくつという等級は実際使われている。

なので、強さはつかんでもらえると思う。

「ちょっと試し切りしてみるわ。」

 ベネットは、人型の的の前に立ち剣を構える。

軽いせいか、何度か持ち手を確かめるために動かし、左手は添えるだけのような形に落ち着く。

そして、そのまま力を込めてないように軽く剣を薙いだ。

 とてもきれいなフォームだ。

流れるような動きは、まったく重さを感じさせない。

 いくら軽いミスリルだからって、こんなに綺麗には振れないだろう。

ぱっと軽い音がした次の瞬間、的が両断され、ずれながら落ちる。

 横なぎに一閃しただけなのに、こんな現象が起こるとは思ってもみなかった。

 ベネットはくるりと一回転して、綺麗なポーズをとる。

もしかしたら、ずれて落ちたみたいに思ったのはあまりに早くて勘違いしただけだろうか?

 ともかく、素晴らしい。手をたたいて称賛を送ってしまう。

「勢い余ったんだけど。」

 恥ずかしそうに笑う。どうやらベネットの意図した動きではなかったようだ。

「ともかく、いい代物だというのは、よくわかったわ。だけど4万は安すぎね。」

 そういうと、ベネットは剣を鞘に納め訓練場の隅に置いていた荷物の方へ向かう。

なんだろう、ずいぶん重そうな荷物だ。

「はい、まずこれ。」

 紙の束が渡される。証書だろうか?

「早くしまわないと、潰れちゃうわよ。」

 そういうと、重そうに袋を持ち上げる。

そして、中に詰まった貨幣を俺に向かってぶちまけ始めた。

「うわー、ちょっと、何してるんですか?こぼれるこぼれる。」

 急いで、俺はタブを作り受け取ったものをインベントリに詰め込んでいく。

もしかして、これは支払いなんだろうか?

 でも今は次々流し込まれる貨幣を受け止めるので精いっぱいだ。

「ふぅ……これで、全部ね……」

 結構こぼれた通貨も拾い集め、全部俺に渡す。

あの荷物全部が報酬だったわけか。

 でも多すぎでは?

慌てて確認をする。

 うわ、銀貨多い。銅貨も混ざってるから暗算できない。

でも、確実に言える証書だけで4万は越えてる。

「あの、多すぎませんか?」

 俺の言葉に、にやりとベネットは笑う。

「多くないわ。8万ダール、きっちり耳を揃えて出したんだから。」

 いや、それは予算額であって、手間賃とかそういうのを込みにしてももっと安くていいはずだ。

「いや、これじゃベネットさんの資産をむしり取ったも同然じゃないですか。」

 証書だけでも返そうと、取り出す。

「いいのよ、それで。少なくともこれで私はヒロシに全部貢いだ馬鹿な女になるでしょ?」

 何を馬鹿な。

誰も見て……見て、無いわけじゃないね……

 いつもの如く、訓練場には多くの傭兵たちがいる。

中にはベネットが何をしているのかも見ていた。

 いや、見ていたなら、これが業物であるのは分かるはずだ。

その上で、俺は証書を返そうとしてるんだから、全部貢いだなんて噂になるわけがない。

「みんな分かってるわよね?」

 そういうと、周りの傭兵が口々に、あーあ、お嬢が悪い男につかまっちまったなぁとかわざとらしく言い始めた。

ちょっと待て、お前らグルか!!

「いや、俺を悪者にしないでくださいよ。それにそれじゃあベネットさんが馬鹿扱いされる。」

 ちょっと勘弁してほしい。俺が悪者になるのはいいけど、ベネットを馬鹿にされるのは我慢ならん。

「どうせ自分が悪者になるのは平気だとか思ってるんでしょ?商人にはそれくらいの悪名は名誉じゃない?」

 ぐうの音も出ない。

うまい事安く買いたたいて、高値で売りつけたって言うのは商売がうまいという評判にもなる。

それが俺の望む評判かと言われれば全然そんなことはないが、悪いこととは言い難い。

「でも、分かったでしょ。私がどんな気持ちだったか。だから証書は、しまってね。」

 証書を突き返されてしまった。

これは、絶対に受け取ってもらえないな。

 ならば証人を消すしか……

って、無理だろう。

 結構な人数だ。一人二人消したところでどうにもならん。

それどころか一人を倒すことすら無理じゃないかな?

やっぱりレベル上げるべきだな。

 あー、もう頭が完全にこんがらがる。

「なんでそんな意地悪するんですか……」

 思わず情けない声が漏れてしまう。

「意地悪じゃないでしょ?もし私のためを思ってくれてるなら、誤解を解いて、ちゃんと私のために良いものを売ったんだって証明すればいいんだから。」

 口さがない連中に言っても聞くわけないんだよなぁ。

絶対尾ひれがつく。

「それにね。ヒロシが私のことを分かってくれればそれでいいのよ。」

 一瞬思考が止まる。

やばい動悸が止まらない。

いや、待て……多分、俺の勘違いだ……

 都合のいい解釈をしているだけだ。


 気が付けば、俺は居留地の外に出てた。

 特に何かあったわけでもない。

 ベネットがそのあとどんな顔をしてたのかも思い出せないけど、訓練場を一緒に出たのは分かっている。

それと護衛依頼の件は傭兵団として正式に受理されたというのも聞いた。

 うん、何も変なことはない。

 しかし、俺がベネットのことを分かってれば、それでいいのか。

分かってあげられてなかったってことだよな。

ちゃんとしないと。


 次の日、倉庫に顔を出すとグラスコーはにやにや笑っている。

こいつが噂を広めたのかと疑ったが、ちょっと疑心暗鬼が過ぎる。

せいぜい、俺がうまい事せしめたのを周りに言いふらしたくらいだろうな。

「よ、色男。どうだ調子は?」

 しかし、だとしてもムカつく。

他人事だと思いやがって。

「うぜえな。やめろそういうの。ただでさえムカついてんのにそういうこと言うな。」

 いかんいかん、他人にあたってもどうにもならん。

本当に俺は最低だな。

「おう、悪かったな。でも、俺に怒っても無駄だぞ?

 あいつらマジで何もわかってやがらねえ。」

 どうやら、例の噂を流してるのはオークションの責任者と俺が情報をわざと漏らした商人らしい。

 よし殺すか。

 駄目だ、思考が物騒な方向に行きかけてる。

舐められたら殺すって鎌倉武士じゃなあるまいし。

 しかし、まさか、未だにあれが銀だと思ってるとは思わなかった。

制約についても誰にも使えないって勝手に変換されてる。

本当に腹立たしい。

「よし、飲みに行くか色男。」

 グラスコーの意図がよくわからない。

こんな昼間っから飲みに行くって、ライナさんの目線が痛い。

 だけど有無を言わさず連行されてしまった。


「大体あいつら見る目がないんだよ!!漫然と物売りやがって!!ミスリルと銀の区別もつかねえのか!!」

 俺は酒を飲んで気が大きくなったのか、思いっきり叫んでる。

あー、すっきりするなぁ。

 こういう時は、酒飲んでクダでもまけって事なんだろうか?

 連れてこられた店は、ちょうど前にベーゼックに連れてこられた店だ。

最初は口当たりのいい酒から勧められ、女の子たちにおだてられながら飲んでいたけど、オークションで騙されたんだってと話を振られたところから、口が止まらなくなった。

着てるものからしゃべり方にまで文句をつけている。

オークションの信用が落ちるかもしれないが知ったこっちゃない。

「ミスリルってなに?」

 あれ?人狼さん?

いつの間に来てたんだろう。

「ミスリルは鋼鉄よりも固いの!!なおかつ軽い!!持てば分かるんだよ!持てば!!銀は柔らかいんだから、ちょっと力を加えればたわみ方でもわかるっての!!」

 俺は、いかに銀とミスリルが違うものなのかを力説してるが、へーそうなんだーで受け流されている。

それよりも飲んで飲んでと次々に酒を渡される。

 あれ?俺こんなに酒に強かったっけ?

まあ、いいか、気分いいし。

「しかもさ、せっかく情報をちゃんと伝えてやってるのに、何にも理解してないでやんの。聖戦士しか使えませんよって言ってんじゃん。」

 うんうんと相槌を打ってくれるだけだけど、気分がいい。

 あれ、白肌のエルフさんもいるわ。

ついでにベーゼック?

あれ?俺何人と飲んでるんだろう。

「じゃあ、俺が銀髪の剣姫が好きだって知ってんだろうよ。じゃあ、聖戦士しか使えないって時点で気づけよって話だよ。まったく、鈍い商人だ。すぐ破産するぞ!!」

 確かにねーと同意してくれるだけでもうれしい。

「大体、俺あいつのこと誰だか知らないんだよな。どうせ大した奴じゃないだろうけどさ……あー、なんで天井回ってんの?……」

 大丈夫ーという声が遠くこだまする。

頭痛い。

吐きそうだ。

「と、トイレ……」

 俺の記憶はそこで途絶えてる。


 目を覚ましたら、いつもの自分の部屋だ。

頭がめちゃくちゃ痛い。

二日酔いなんて久しぶりだ。

吐きそう。

 畜生、グラスコーのやつ面倒だからってしこたま酒飲ませやがって。

 トイレに駆け込み思いっきり吐いた。

カップを取り出し、水を飲む。

そしてまた吐く。

 ようやくすっきりして、俺はまたベッドに横になった。

今日はもう出勤しないからな。ざまーみろ。

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