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4-20 嘘なんかつかなくたって人は騙せる。

上手くやったと思ったんだけどなぁ。

 やっぱり最後の一本だよなぁ。

おあつらえ向きすぎてちょっと怪しいが、どう考えてもミスリル製の剣ってところもポイントが高い。

ミスリルは固くて軽い素材として有名で、主に防具向きの金属というのをアレストラばあさんから聞いた。

そう考えると武器としてはやや不向きになる。

武器にするには重量が適度にあった方がいいからだ。

 とはいえ、その固さは折り紙付きで銃弾を弾くのには向いている。

制約のせいで一段落ちた力しか持ってないようにも見えて、入札金額も押しなべて低調だ。

 しかも、どこをどう間違えたのか銀製とか御品書きに書かれてる。

銀とミスリルじゃ全然違う。

 本来なら入札価格を押し上げる要因なのに、逆に足を引っ張っている。

 しかも制約の部分は大きなマイナス要因だ。

聖戦士以外が使うと単なる軽い大剣になってしまう。

こういう職業的制約は商人としては致命的だ。

 しかし、クラスが見えないのにマジックアイテムにはそういう制約があるんだなぁ。

 あるいは聖戦士だけが特別なのか?

確かにどう考えても信仰心を捧げてないにもかかわらず、ある日突然選ばれるってところは特別感はあるよな。

 とはいえ他の職業はどう切り分けるんだろう。

今日から俺は鍛冶屋だと思ったら鍛冶屋扱いになるんだろうか?

一応、才能や魔法能力やその系統で、俺にはざっくりと分かるけれど。

そこらへんで判断されるとしたら、お前はその職業に向いてないって宣告されるみたいで残酷だなぁ。

 ただ努力をすれば才能が身に着けられそうなところを見れば、ある日認められて魔法の武器が力を発揮するという展開は熱いかもしれないけども。

「おや、ヒロシ殿、どうされましたかな?」

 突然、知らないおっさんに声を掛けられてびっくりする。

誰だっけ、このおっさん。

もしかしたら、鑑定士としてお手伝いした商人の一人かな?

 ごめん、やっぱり思い出せない。

 まあ、いやな思いはさせられてはいないから邪険には扱えない。

「いえ、ちょっといろいろと眺めてたんですが……」

 わざとお目当ての剣を見る。

「ほう。あの銀の剣は駄目でしょうな。見た目は立派に見えますが……」

 まあ、銀だと思えばそういう評価だよな。

「そうですね。制約が……」

 俺は、わざと口をつぐんで視線を逸らす。

「ほう、制約ですか。それはいったいどんな。」

 食いついてきたな。

「いや、勘弁してください。私は今日プライベートで来てるんで……」

 何が私だよ。気取りやがって。

でも一人称くらいは使い分けないとな。

「そういわず、これも何かの縁です。」

 そういいながら、俺の手を取って何か渡してくる。

「いや、出品者に迷惑が……」

 俺は心配そうに目配せをする。

白々しいのも大概にしろって話なんだが、仕込みはしておいた方がいいだろう。

「まあ、いいじゃないですか。ね、私にだけこっそり。」

 嫌らしい顔してんなぁ。

「とりあえず、これはいただけません。本当に秘密ですよ?」

 本当に誰にも聞こえないように、聖戦士だけしか扱えない剣だと伝えた。

「それは、また……」

 だよね、とてもじゃないが誰でも入札できる代物じゃない。

もちろん、その話をどうするのかは俺の預かり知らないことだから。


 話した直後、こそこそとその商人は入札した紙を回収しに行った。

当然、俺は眉をひそめる。

 その後は次々と紙を回収する人間が出てきて、最終的には空っぽになってしまった。

他の商品にも入札を終えて、剣の前に戻ってくると出品業者の責任者が顔を出し、箱の中身を見て確認した後に俺を睨んでくる。

 小芝居、もうちょっと続けるべきかな?

俺は顔を横に振り、俺じゃないよというアピールをした。

グラスコーがその後ろで、ちょっとニヤリとしている。

 やめろ、吹き出しそうだろ。

イライラしてる責任者の顔とグラスコーの今にも笑い出しそうな顔についに耐え切れなくなり俺は口元を隠す。

顔を下げて悩んでいるんですよと誤魔化しながら笑いを押し殺す。

 笑いが収まったところで仕方ないとため息をつき箱に近づき、入札の紙をためらいながら入れた。

丁度4万ダール、そう記した紙を何もない箱に入れる。

これで問題ないだろと、責任者を睨む。

 あからさまにほっとしてるな。

そもそも、これはあんたが銀とお品書きに書いた責任なんだから、損をしてもあんたの責任だ。

俺は、悪くない。

 腕組みしてたら入札時間の終わりを告げる鐘が鳴った。

一応第2ラウンドがあるかもしれないので、ちょっと箱を見ながらいったん会場を後にした。

ちなみに、最後は俺だ。変な工作がされなければ俺以外に入札はない、はずだ。


 とりあえず、近くの露店で腹ごなしをしつつ、落札の順番を待つ。

お目当ての《致命傷治癒》のポーションやポーチ型のホールディングバッグ、《軟着陸》の指輪は相場の半値以下で買えた。

よきかなよきかな。

 ホールディングバッグは、一応入札もあったけどみんな熱心じゃないからあっさり決着がついた。

目玉じゃないのは分かってたけどね。

 んで、盛り上がった入札は+2で反動の能力が付いた奴だ。

まあ、使えばすぐわかるから余計な口を挟むのはやめよう。

 俺のお目当ての剣だが入札会は開かれなかった。

当然だろう。、入札者俺だけだもの。これで、入札者がいたら不正を疑う。

 ただ、さすがに鑑定する人間からはあれくらい強いオーラで入札がないのは異例だと思われたのか変な注目をされてしまった。

「お買い上げありがとうございます。」

 責任者が嬉しそうに剣を入れたケースを渡してくる。

一応中身を確認して、俺が見ていたものと差し替えられてないかチェックする。

当然ながら差し替えるわけないよな。

「こちらこそ、いい取引をさせていただきました。ありがとうございます。」

 俺の笑顔に責任者は困惑顔だ。

いや、まじめな話これが4万ダールで手に入るとは思ってもみなかった。

工作した甲斐があったってもんだ。

 ただ、どうやらほかの人間には奇異に映ったらしいな。

まあ、まるっきり嘘をついたわけでもないけど、誤解を解く必要性は感じない。

グラスコーの取引が終わったら、さっさと帰ろう。


「ねえ、ヒロシ、そこに座って。」

 入札の次の日、護衛依頼を出すついでに早速ベネットに剣を渡すべく暁の盾の居留地へいったんだが。

俺は、エントランスでベネットにそんなことを言われた。

 これ、なんか正座しないといけないような雰囲気なんですが、それは……

流石に正座をベネットが要求するわけないよな。

俺はつばを飲み込んで椅子に座る。

「噂を聞いたんだけれど……」

 噂?なんだろう。

「銀髪の剣姫のために仮装衣装を買い込んだ馬鹿な商人がいたんですって。なんでも、相手にもされてないのに使えない剣を買って送ろうとしているそうよ。」

 え?いやいやそれは誤解だ。

俺は決して使えない武器を買ったわけじゃない。

「その商人の名前は、ヒロシって変わった名前なんですってよ。」

「いや、誤解だよ、誤解。決して使えない武器を買ったわけじゃないんだ。」

 ふざけやがって、誰だそんな噂を流した奴は!!許さんぞ!!

「ヒロシ、私が怒ってるのはそこじゃないの。あなたにもいろいろ考えがあってやったことだと思うから、それを否定するつもりはないの。」

 ベネットは慌てて武器を出そうとしてた俺の手をそっと抑えた。

「私は、ヒロシを馬鹿にされてるのに怒ってるの。私をダシにしてヒロシを馬鹿にされてるのを怒ってるの。分かる?」

「え?あ、いや、その……」

 涙ぐんでるベネットを見て、思わず俺はしどろもどろになってしまう。

「ごめんなさい。本当は、私が怒るのはおかしいのは分かるけど。どうしても我慢できなくて。」

 勘弁してくれ、君を泣かせたいんじゃないんだ。

「いや、誤解を受けるようなことをしたのは確かだから。ごめん。」

 とても、気分が落ち込む。

せっかく頑張って手に入れたのになぁ。

「いや、でも実際、やっかみも含まれてると思う。とりあえず、これを……見てもらえないですか?……」

 やばい、また口調が馴れ馴れしくなってしまっていた。

そのうち呼び捨てにしてしまいそうだ。

 俺がケースをテーブルに置いたら、ベネットは気持ちを切り替えようと思ったのか天井を見た。

数秒だけど、滅茶苦茶長い時間が流れたような気がする。

二度と会いたくないとか言われたらどうしようとか、席を立たれたらどうしようとか、いろいろ考えてしまった。

「ありがとうヒロシ、見させてもらうわ。」

 ほっとして、俺はため息を漏らしてしまう。

そして、そっとケースを開ける。

「ミスリル?」

 俺は頷く。武器には不向きかもしれないが、ベネットの能力には都合がいい素材だ。

しかし、一発で見抜くとは。見る人が見ればわかるはずなんだろうな。

「オークション会場では銀とか言われてたけど、俺はわざわざそれを訂正しなかっただけなんですよ。」

 その言葉にベネットは眉をひそめる。

「銀とミスリルじゃまったく違うわ。それは、確かに仮装衣装って言われるかも……」

 ベネットに分かってもらえれば、俺は何でもいいよ。

「それと、その剣には制約があって聖戦士にしか扱えない。逆に言えば、ベネットさんには能力をすべて引き出せる剣ということです。」

 じっと、ベネットが俺を見てくる。

怒られるのかな?

「嘘ついてたんでしょ?」

 ベネットがついっと、視線を横にずらす。

「いや、嘘は一つもついてないですよ。言ってないのは、ベネットさんのために買いたいって思ってるって一言だけです。」

 そこは確かに黙ってた。

それを知られたら、下手したら結構値段を吊り上げられてたかもしれない。

「そういう恥ずかしいことを恥ずかしげもなく。」

 少しむっとした顔をされたけど、確かにちょっとカッコつけたような言い回しだったかも。

 でも事実として、そう思ったのは確かだ。

「そこまでして、いくらで買ったの?」

 ようやく値段を聞いてくれた。

「4万ダールです。」

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