0 プロローグ
俺はクズだ。
別に刑法犯罪で捕まったこともないし、薬物中毒でもなければ、アルコール中毒者でもない。
酒はほとんど飲まないし、たばこも吸わない。
近所迷惑でトラブルを起こしたこともない。
でもクズだ。
派遣でふらふらし、いい加減な仕事で金を稼ぎ、借金を重ねた。
パチンコで、その借金を返そうとしたバカでもある。
結局破産した。
借金の主な理由がギャンブルではなく、生活苦にあると認定してもらえたから助かったが借金は借金だ。
親元からはとっくに離れているが、金を稼いでいたときもろくに親孝行はしていない。
生活もいい加減だ。
ぶくぶく太り、あげく糖尿病で入院し仕事を失った。
晴れて無職になったわけだが、仕事を探すでもなく、その足で生活保護の申請に行った。
心は全く痛まなかった。
普段は公務員なんぞ国民の金で飯を食ってる連中とさげすんでいた癖に、かけてもらえる暖かい言葉に涙していた。
都合のいい精神構造だ。
しかも、そんな気持ちは1年、2年もすれば薄れてきて、働きたくない気持ちでいっぱいになる。
別に、無理をして働かなくとも不満がないのだ。
それはもちろん、金は欲しい。
欲しいが、働きたくはない。
そもそも金が欲しいのも、食費と光熱費以外はほとんど遊興費だ。
そして、今は様々な娯楽をただで手に入れる手段に溢れている。
ゲームだって漫画だって、金を出さなくても何とかできるし、作る方だってフリーソフトで何とかでっち上げられなくもない。
俺に才能があれば、それで逆転って言う可能性はごろごろある。
いや、才能じゃないな。
やる気だ。
やる気が全くない。
いろいろなことに手を出すが、どれもこれも中途半端にしかできない。
しょせんクズはクズだ。
まだ本気を出してないだけだとか言い訳にもならない言い訳を言う気力すらない。
これが俺の本気なのだ。
中途半端故に、死のうという気すらない。
ただ空しく、パソコンの画面を眺める。
作る喜びに溢れ、様々な物を作り出す、画面の向こうの誰かに呪詛を投げかけた。
みんな死んでしまえばいいのに……
思わず笑ってしまう。
むしろ俺の方が死んだ方がいいはずだ。
多分、誰も悲しまない。
世間から必要とされていないのは俺の方だ。
分かってるさ。
そんなことは……
それでも俺は呪詛を言葉に変え、批評と称し取り繕った言葉を匿名と言う殻で包んでインターネットへと投げつけ続ける。
「チート物はうんざりだっつうの。」
無料で読めるネット小説に無意味な不満をぶつけた。
誰が聞いているわけでもない。
一人でぶつぶつとつぶやいている。
物語としては、確かに陳腐だ。
面白くはない。
それでも、多くの人間が読んでいる。
ニーズがあるのも事実なのだろう。
逆に言えば、それが気にくわない。
それなら俺の方が上手く書ける。
そう思うが故に、燻っていた不満が爆発している。
実際に書ける書けないなど関係ない。
大して面白くもない物が、成功している姿に嫉妬しているのだ。
ふと冷静になってみれば、そもそも俺はネット小説に書かれているものが欲しくてしょうがないのだろう。
「俺だって、金が欲しいし、女だって欲しいさ。
いや、めんどくさいな。何でも言うこと聞いてくれる従者が3人くらい欲しいな。
嫁なんかいらん。」
ばかげた妄想だ。
そもそも恋愛なんてしたこともない癖に……
口にして改めて自分のクズさ加減を自覚する。
女性を物としてみてると他人から言われたら激高するだろうが、それは事実だ。
性欲のはけ口としか見ていない。
こんな男は、小説の中の悪人のように斬り殺されるのがお似合いだ。
「何をくだらないことを考えてるんだろうな……」
現実にはそんなものは存在しない。
都合のいい物語など、この世に用意などされていないのだ。
それでも……
夢でもいい。
誰かに愛される世界が欲しい。
誰かに褒め称えられる世界が欲しい。
「本当馬鹿だな。」
もし、仮にそんな世界があっても、俺は俺自身でその世界を壊してしまうだろう。
俺はクズだ。
誰も愛してない。
他人も褒めない。
そんな人間を誰が愛し、褒め称えるって言うんだ。
もし、そんなことをされても実感など湧かないし、信じることなどできるはずもない。
与えられない理由は俺自身にある……はずだ……
「死ぬか……」
思わず口から、そんな言葉が漏れる。
言葉にしてみて、そんな勇気などみじんもないことを自覚し、苦笑した。
信仰がないが故に、死について考えはあやふやだ。
何とはなしに死後の世界があって欲しいと願ってはいるが、死ねば全て無くなるという言葉にも頷けてしまう。
色々考え始めれば怖くて怖くてしょうがない。
できれば永遠に生きたい。
と考えても、実際誰もいなくなった世界で生きていくのも怖いと考えてしまう。
くだらない雑学的な知識は無駄に蓄積している。
それに妄想を重ねて勝手に恐怖を膨らませていく。
結局は自分の考えにおののき、ものの数分で考えることを放棄した。
怖いなら考えなければいい。
クズらしい結論だ。
「どこかに俺の都合のいい世界はないかな……」
無意識に言葉が漏れる。
次の瞬間意識がとぎれた。