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授業?

「ん…朝か…」


 カーテンの隙間から入り込んだ朝日の眩しさに目を覚ました。

 しかし、目は覚めたがまだ朝は肌寒く布団が恋しくなってしまい、なかなか出るに出られないでいた。

 頭まですっぽりと布団を被りなおして二度寝と勤しもうとした時、自分以外の寝息が耳に入った。

 その音源を探そうと寝惚けた意識の中、手を伸ばすと自分以外の温かいモノに触れた。

 一気に意識が覚醒した透真は布団を跳ね除け飛び起きる。


「な、な、なんでお前が此処で寝てるんだよ!」


「むにゃぁ」


 透真がワナワナと震える手で指差す先には、いつも通りメイド服を身に纏ったウィルマが気持ち良さそうに涎を垂らして寝ているのだ。


「起きろ!この駄メイドが!」


 ペシンと気持ち良さそうに寝ているメイドの頭を強めに叩く。

 流石の駄メイドも目が覚めたのか叩かれた頭を擦りながらのっそりと起き上がるが、その眼はまだ閉じている。


「おい、駄メイド。何でお前は此処で寝てるんだ」


「んぁ。ウィルマは…貴様を起こしに…きたのだ」


「貴様って…また一段と言葉遣いが悪くなってんぞ。つか、起こしに来た奴が何で寝てんだよ」


「布団の誘惑に…負けたのだ。ウィルマは…悪くない」


 ベッドの上で未だに眠そうにコックリコックリと頭を揺らしているウィルマにイラッときた透真は枕を顔面へ投げつけて部屋を出ていく。


「一生寝てろ」


 部屋を出た透真はリビングへ顔を出す。

 既にメイド達が朝食の準備を完了し部屋の隅で待機しているが、本来の主人であろう二人がまだ起きてきていない様だった。


「俺もこれ食っていいのか?」


「はい、もちろんでございます」


 昨日二人が座っていた以外の場所に座り、朝食にしてはなかなか豪華な料理に手を伸ばす。


「うめぇ…」


 少しすると二人もやってきて、昨日と同じ席に着き朝食を食べ始める。

 その間は大した会話もなく静かに時が過ぎて行った。

 何となく居心地が悪い透真はさっさと朝食を終えると簡単に身支度を済まし、寮を出た。


「何だアイツ等?機嫌悪くね?」


 明るくなれば流石に道が見えるので迷うことなく、一般寮まで辿り着くことができた。

 まだ早かったのかチラホラと制服を着た生徒が見えるだけでとても静かなものだった。


「う~ん、静かでいいねぇ」


 大きく伸びるように両手を上げ、深呼吸を繰り返す。

 しかし、その静かな朝も直ぐに消え去った。


「兄さん、奇遇ですね」


「兄様…おは」


「おはよー、お兄ちゃん!」


「あぁ、俺の清々しい朝が終わった」


 現れたのは透真の三つ子の妹。

 皆同じ黒髪だが、段違いの身長に、似た部分のない顔付き。本当に三つ子かどうか疑いたくなるほどだ。

 透真は渋々といった感じで妹達の方を向く。

 しっかりと学園の制服を着こなし、とても似合っていた。


「それはあんまりじゃないかしら?愛しの妹が会いに来たのよ」


「それなら昨日、お見舞いに来てくれた方が嬉しかったかな」


 昨日のことをまだ若干根に持っている透真は三人に聞こえない程度の声でボソッと呟いた。

 それが聞こえたのかは分からないが、黒依が顔を近づける。


「……兄さん、兄さんから雌豚の臭いがするわ」


 どうやら臭いを嗅いでいた黒依がそう言うと、灰音と白乃も臭いを嗅ぎ始め「本当だ」と呟く。

 当の本人も「あ~」と唸るような声を出しながら、今朝のウィルマの事を思い出していた。


「そういやそんな豚もいたな」


 他人のベッドで仕事もせず勝手に眠りこける様な奴は豚だなと判断した。


「始末してくるわ」


「止めとけって、本当にただの豚だから」


「兄さんがそう言うなら…」


 黒依を宥めると四人で校舎に向かって歩き始める。

 妹達に昨日はどうだったかや友達は出来たのか等、結果はどうあれごくごく普通な仲の良い兄妹の会話を続ける。

 もちろん逆に妹達が透真に聞いても答えることはできなかったのだが…。


 校舎に入ると妹達とは別れ、各々の教室に向かうのだが透真は昨日の記憶が曖昧で、取り敢えず職員室に向かうことにした。

 道中迷わずに辿り着くと中に入って、担任のレイナの元へ向かう。


「先生、俺の教室は何処ですか?」


「カグラザカ、挨拶ぐらいしろ。そういえばお前はクラスでの自己紹介もまだだったな」


「えぇ、誰かさんのお陰で…」


 透真は鼻で笑って椅子に座っているレイナを見下ろす。


「うぐっ…お、お前は今日からの編入ということにして、私と一緒に教室に行くぞ」


 レイナはそう言いながら机の上に散らばった紙を集め、机の上でトントンと纏めると引き出しの中に仕舞い、代わりに黒い冊子のようなものを出す。

 表には大きく出席簿と書かれている。

 それを開いて透真の名前がある欄の昨日の日付を斜線で引っ張る。出席者は○、欠席者は×で印、学校が休みだったりすると斜線を引っ張っているようだ。

 実際に透真の欄は昨日までが全て斜線で、紅葉達は一昨日までが全て斜線になっている。

 どうやら本当に今日からの編入になるようだ。


「センセ?」


「ん?」


 ここで透真は出席簿のとある欄に記載されているもの気が付くと、不気味な笑みを浮かべながら優しい声でレイナを呼ぶ。

 この表情にレイナは気が付いていない。


「これどういう事ですかね?」


「あぁ、これは………」


 透真が指差した先はそれぞれの名前の欄の最後にある備考の欄。

 ほとんどの人が空白の中、三人だけ記載されている。


 その三人というのが以下の三名である。


 アルヴィス・クルーエル――超問題児


 ギルバート・ウォーロック――超問題児


 トーマ・カグラザカ――準問題児



「なーんで俺が問題児扱いなのかなぁ?」


 未だにニコニコと不気味な笑みを浮かべている透真の方へ、壊れたブリキのようにギッギッ、ギッギッと顔を動かすレイナ。


「そ、それはぁ…先生に手を出す奴は問題児で十分かと…」


「元はと言えばアンタの所為だろうが!」


「いふぁい、いふぁい」


 レイナの両頬をグイグイと引っ張りながらあの不気味な笑みを崩して怒鳴る。

 周りの教師達も此方を見るが、見て見ぬふりを貫く。

 どうやら既に召喚した勇者には極力関わらない方がいいとお触れが出ているようだ。

 そう。透真はこれも納得がいかない理由だった。

 自分でも確かに不真面目な所はあるかもしれないが、あのメンバーで真っ先に問題児扱いにされたことが気に食わなかったのだ。


「はなひぇ」


 とここでゴーンと大きな鐘の音が聞こえ、パッと手を放してしまう。


「うぅ、だからお前は……それよりも予鈴だ。行くぞカグラザカ」


 レイナはうっすらと涙を浮かべながら赤くなった頬を擦りながら出席簿を持ち立ち上がる。

 透真は「漸くか」と呟きながらレイナの後を追う。

 教室に着くと昨日何事もなかったかのように自己紹介を済ませる。

 アルヴィスとギルバートは此方を見ながらニヤニヤし、薄情な同級生の紅葉、蒼唯、緑夏は興味なさそうに自分の好きなことをやっている。

 やっぱりアイツ等の方が問題児だろうと肩を落として苦笑する。

 そしてアリシアは何故かゲッソリしていた。

 透真がレイナに指定された席に着くと、レイナがバンッと教卓を叩くと大きな声で宣言した。


「今日から三日後に丸一日を使ってサバイバル訓練をする。持ち込みは何でも可、自分で必要だと思うものを持ってこい。場所は学園所有の森でやるつもりだ。知っての通りあの森はランク2までの魔物しか出てこないから心配するな。身体が鈍っている奴は今のうちに身体を動かしとけよ」


 そう言い切ると質問を一切受け付けずに教室を出ていく。

 レイナが完全に教室を出ると、一気に周りが騒がしくなる。

 教室の彼方此方から「ヤバい」だの「楽しみだの」だの「パーティー組んでいいのかな」など様々な声が聞こえる。

 そして案の定、透真の身近にも騒ぐ奴がいる。


「うぉーー、魔物だってよ。蒼唯、どっちが多く狩れるか勝負しようぜ」


「望むところだ」


「触手とか出てくるかなぁ。ワクワクだね」


「………」


 しかし一番騒ぎそうなあの問題児二人は逆に奇妙なほどに静かだった。

 アリシアは相変わらずゲッソリしている。

 そして透真は違う意味でドキドキしていた。


(ランク2の魔物ってミノタウロスとかだよな?あんなの倒せるのか?ランク通り弱いのか?つか、それよりも俺に攻撃方法がないじゃん。ヤバイヤバイヤバイ…)


 そして透真は……


 授業をサボった。





 授業をサボった透真は学園内にある巨大な図書館に来ていた。

 今から武器の扱いを覚えるのは無理と考えた透真は異世界の可能性、魔法に掛けたのだ。

 しかし透真の属性は“無”でそれ以下でも以上でもない。

 そこで取り敢えず、情報を集めようと図書館へやってきたのだ。


「うはー、すげぇなこりゃ。流石異世界だな」


 図書館に入るとそこは十メートルはありそうな天井高に、その天井まで伸びた本棚にぎっしりと入った本だった。

 どうやって取るのかという高さの本が急に飛び出し、ふわりと下に降りてくる。

 本が降りてきた先には一人の少女がいた。


「セシリア。こんな時間に何やってるんだ?」


 本を取った少女、セシリアは肩をビクッと震わせゆっくりと此方に振り返る。

 相手が透真だと分かると、あからさまにホッとした表情になる。


「授業、つまんない」


 読書家のセシリアには年齢相応な授業は退屈で仕方ないらしい。


「だからってなぁ…。友達いなくなるぞ」


「大丈夫、元からいない」


「あ……」


 流石の透真も言葉に詰まったが、当の本人は気にした様子もなく本を抱えて図書館の奥へと入っていく。

 透真もなんとなくそれに着いていく。


「トーマ、何しに来たの?」


「えーと、魔法の勉強かな?」


 セシリアが突然立ち止まり、一つの本棚に触れる。

 すると本棚の中段から本がふわりと降りてきた。


「どうなってるんだこれ?」


「陣魔法」


「陣魔法?」


「うん、陣を書いて魔力を籠めると魔法が発動する。ただコスパが悪い」


 詳しく陣魔法について聞いたところ、陣魔法はその名の通り魔法陣を書いて魔力を籠めることによって発動するようだ。

 ただ魔力の消費は同じ初級の魔法を使用しても2倍から3倍近くの魔力を消費するようだ。

 しかも大きな魔法ほど魔法陣が壊れやすいらしい。触媒にもよるらしいが、大きな魔法ほど使い捨ての魔法のようだ。

 しかしデメリットだけではない。

 陣魔法は所持属性関係なく誰でも好きな属性の魔法が使えるようだ。

 因みにこの図書館に設置されていた陣魔法二つ。一つは高いところの本棚の背板に一冊毎に敷かれた小さい突風を起こす魔法陣。

 この魔法陣は自動販売機などの車椅子用のボタンのように棚の低い位置に遠隔操作ができる魔法陣があってそこから魔力を流して欲しい本を突風で落とすようだ。

 そしてもう一つ。この図書館全体に描かれているらしい落下速度低下の魔法陣。

 これは常に発動されていて、地脈的なものから永続手に魔力を供給されているようだ。


 因みに高いところの本を戻すときは、図書館の司書さんに持っていくと戻しておいてくれるらしい。

 梯子を上って一冊ずつ。


「なるほどなぁ…これは使えるかもしれんが、確か陣魔法も高いんだろ?」


「うん、初級魔法の紙の陣でも一週間の食費くらい」


 この一週間の食費が庶民の食費なのか、それともセシリアみたいな貴族の食費かで大きく変わってくるが、どちらにしても今の透真には高価な物に違いなかった。

 しかも紙程度の触媒だと初級でも使い捨て。


「…これって自分で書けないのか?」


「理屈さえ分かれば難しいことではないらしい」


「ふぅーん、セシリアは分かるのか?」


「まだ、分からない」


「でも、思ったんだけどさぁ…簡単な陣位なら見様見真似で描けそうだけどな」


「描く人は文字の意味とかを理解する必要がある。…それにルールもあるらしい」


 いつの間にかセシリアが出してくれた魔方陣の本を開いてみる。


「ん?」


 適当に開いた真ん中らへんのページ。

 そこにはこの世界の文字でウォーターボールと書かれ、ページの中心には六芒星の魔法陣が描かれていた。

 透真が驚いたのは六芒星に描かれた六ヶ所の文字だった。

 これは明らかに日本語で書かれたものだった。

 ミミズが這ったような字で描かれた平仮名2文字が六ヶ所。

 何とか読めた書かれた平仮名は“みず”“だい”“てい”“たん”“たま”“なし”の六文。


「…ハハッ、見つけたぞ。異世界攻略法!」


「………??」


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