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勇者?

 ランドルフに促されて入った部屋には中央に二十人は囲って座れそうなほど大きいテーブルが置いてあり、既にその大半の席が埋まっていた。

 しかし、それよりも驚いたのが座っていたメンバーだ。

 召喚された勇者であろう人が全員、日本人どころか透真の知人だったのだ。


「よぅ、透真ー。遅かったじゃねぇか!」


 真っ先に声を掛けてきたのは不知火しらぬい 紅葉くれは

 鋭い目つきにあまり手入れのされていない長い髪。スレンダーで美人だが態度がでかく、言葉遣いもあまりよろしくない。

 透真の幼馴染で腐れ縁。


「うるさいぞ、紅葉。静かに出来んのか」


 その紅葉を注意したのは水無月みなづき 蒼唯あおい

 同じくスレンダー美人だが紅葉とは違い長い髪を一本で縛り、凛とした態度をとっている。まさに大和撫子の様な少女だが、紅葉とは仲が悪い。

 そして同じく透真の幼馴染。


「あん?やんのか?蒼唯~」


「上等だ。その腐った根性、叩き直してやるぞ紅葉」


 途轍もなく仲が悪い。


「…先輩」


「…何かな?」


「………」


 透真に声を掛けておきながら沈黙を貫く、それどころかこちらすら見ていない少女は樹心院じゅしんいん ささ々。

 透真の一つ下の後輩で無表情、無関心、無感情を貫く変わった小柄な少女だ。

 良く透真に声を掛けてくるがまともに会話をしたことがない。


「やぁ、透真君。一緒に入ってきた美しい女性を僕に紹介してくれないかい?」


 入ってくるなりナンパを仕掛けてくる野郎…もとい、男装の麗人は雷久保らいくぼ 紫苑しおん

 透真の一つ上の先輩だが、学校でも有名な女好き。女性にも関わらず其処ら辺の男よりイケメンなので質が悪い。


「…チッ、憎たらしい。リア充め爆発しろ」


 顔が隠れるほどの長い黒髪を振り乱し、紫苑を見ながら呪詛を振りまく少女は古明地こめいじ 黄泉よみ

 紫苑の同級生で透真の先輩。学校ではオカルト部に所属し、ガチで黒魔術などを研究していた結構危ない人だ。

 あんなことを言っているが紫苑とは仲が良かったりする。


「と、透真君。やっぱり最後の一人は透真君だったんだ」


 このオドオドしていて一見真面目そうな眼鏡を掛けた少女は東風谷こちや 緑夏りっか

 透真の同級生だが、透真から言わせてみればただの変態。教室の中で堂々とエロ本を読むような少女だ。透真でなくても変態だと思うだろう。

 更に最近はマニアックなモノが増えてきたらしい(本人談)。しかも最近はMに目覚めたらしい(本人談)。

 そして何故だか透真とは仲が良い。


「兄さん、やっぱり兄さんなのね」


「やぁ、兄様」


「お兄ちゃん、会いたかったよう」


 そして、透真のリトルシスターズ。透真曰く世界一に似ていない三つ子。

 性格も見た目も好みすらも違う。しかし、唯一似ていることといえば兄ラヴの超ブラコンということだろう。

 三つ子の長女、神楽坂かぐらざか 黒依くろえ

 紅葉や蒼唯と同じくスレンダー美人。身長は百六十五センチはあるだろうモデル体型。胸は無い。

 人の弱みにつけ込むのが得意な悪女だったりする。


 次女の名前は灰音はいね

 百五十センチくらいの身長に眠たそうな瞳。普段は物静かな読書が趣味の少女だが、一度キレると誰も手が付けられないほど危ないようだ。


 そして末っ子三女の白乃しろの

 透真の一つ下とは思えないほどの低身長。本人曰く百四十センチはあると言っているがそれすらも怪しい。本人は狙ってやっているのかやっていないのかは定かではないが、その小さな容姿で男女共に数々の人を落としてきた。


「…なぁ、アリシア」


「何ですか?」


「学園の問題児とやらは一般人に比べるとどのくらい強い?」


「さぁ、どうでしょうか。彼等の本気を見たことがありませんので何とも言えませんが……百倍は軽く超えるんじゃないでしょうか?」


「じゃあ勇者って一般人と比べるとどれくらい強い?」


「そうですねぇ、過去に召喚された勇者は一般人の五十倍くらいはあるのではと言われてますが…」


「…あぁ、終わった。この世界終わったよ」


「ちょっ、どういうことですか!?」


 透真は両手で顔を覆い、絶望に浸る。

 今この空間は透真にとってはカオスでしかない。

 問題児なんて目じゃないほどの問題児が透真の目の前にいる。実際は透真も問題児の一員だったりするのだが、本人は知らない。


「アリシア、今の内に学園の問題児達と仲良くなっていた方が身の為だぞ」


「はぁ…」


 真剣に話す透真だが、アリシアはどういうことなのか分からず首を傾げる。

 透真は腹を括ると気合を入れて席に着く。いつまで立っていても話が進まないからだ。

 早くこの空間から抜け出したいという思いを胸に秘めながら。


「さて、それでは予定していた人が揃ったので話を進めます。この度は伯爵様方のお力で十の勇者が召喚されました」


 ―――—魔王にならないことを祈ろう。


 因みに此処には十の伯爵の召喚者達も此処に同席している。


 透真を召喚したレイティア家。

 紅葉を召喚した火を司るフレイティア家。

 蒼唯を召喚した水を司るウルティア家。

 緑夏を召喚した風を司るブローティア家。

 黄泉を召喚した地を司るグランティア家。

 茶々を召喚した木を司るフォレスティア家。

 紫苑を召喚した雷を司るボルティア家。

 黒依を召喚した闇を司るブラッティア家。

 白乃を召喚した光を司るセインティア家。

 灰音を召喚した空間を司るルーティア家。


 それぞれが召喚された家系の属性を使うことが出来るらしい。

 どちらにしろ透真には無属性しか使えない。


「勇者様方には学園の問題児、ギルバート・ウォーロックとアルヴィス・クルーエル。この両名の手綱を握ってもらいたい。方法はどんな方法でも構わない。武力で制するも仲良くなって諭すも何でも構わない」


「一つ確認だ。その二人は強いんだよな?」


「あぁ、世界最高峰だろう」


 挙手もせずに質問をする紅葉に目くじらを立てることもなくその質問にランドルフは答える。その返答を聞いた紅葉は満足そうに頷き、目を輝かせる。

 その後は学園に入学するにあたっての説明。学園のルールであったり、寮生活であったりと様々な内容をまとめて話した。

 基本は彼等の自由で良いらしいが、最低限のルールは守ってほしいとのこと。

 クラスは高校二年生であった透真、紅葉、蒼唯、緑夏が問題児が所属する二年Aクラス。

 一年生の黒依、灰音、白乃、茶々は一年Aクラス。三年生の紫苑、黄泉は三年Aクラスの所属となった。


 入学は三日後。それまでに学園側は制服や教材を準備するようだ。

 透真達勇者はそれまで基本自由行動。訓練するも良し、遊ぶも良し、だそうだ。ただしパートナー、召喚された家系の者が常に一緒にいることが前提らしい。


「それでは今日は解散にしましょう。では、また三日後に…」


 立ち上がってお軽く辞儀をしながら丁寧に挨拶すると他のメンバーもそれぞれ立ち上がり、部屋を出ていく。


「よっしゃ、蒼唯!さっきの続きといくか!」


「望むところだ」


 部屋を出るなり廊下を駆け出し、窓から飛び降りる二人。

 流石の二人も此処で暴れたらイケないということが分かるのか、此処では存分に戦えないと思ったのか、あっという間に外へと出る。

 その二人を追い掛けるように駆け出したのがあの二人のパートナーなのだろう。

 一人は赤髪の二十台の青年。学園は卒業しているだろう年齢のイケメン。

 もう一人は青髪の子供。小学生くらいの男の子で、この学園に初等部があればそこに通っているのだろう。

 召喚者も様々な年代の子がいるようだ。


「あの二人は大変だろうなぁ。いや、他の人もか…」


 透真の呟きは誰にも届かなかった。


「では僕達も帰るとしようかエリザベス。僕達の愛の巣へ」


「はい、シオン様!」


 一人は既に毒され。


「シエルさん、この辺で本屋さんはありますか?」


「えぇ、ありますけど」


「では行きましょう。未だ見ぬ桃源郷へ」


 一人は毒されかけ。


「………」


「ちょっとササさん、一人で行かないで下さいよ!」


 一人は無視され。


「ぶつぶつぶつぶつ……」


「ヒィ!?」


 一人は怯え。


「私、ずっと兄さんと一緒にいたいんだけれども」


「それは出来ません。僕達も帰りますよ」


「そう。それなら…貴方のピーをピーにピーということをバラすわよ」


「ちょ、分かったら止めて!」


「止めて?」


「…止めて下さい、お願いします」


 一人は脅され。


「ボクも兄様と一緒にいたい」


「駄目だ。というよりもあんなアニキの何処が良いんだ?」


「あ゛ぁ゛ん?」


「ヒッ!?すいません。ご自由に」


 一人は恐怖し。


「白乃もお兄ちゃんと一緒にいたいな(はーと)」


「…もう、しょうがないなぁ。今回だけだぞ」


 一人は落とされた。


「マジでカオスだな。…俺等も帰るかアリシア」


「…私はトーマ様で良かったですわ。それより良いんですの妹さん達を放置で…」


「あぁ、めんどくさいからいいよ。早く帰ろうぜ」


 そう言うと透真は未だ目を覚まさないセシリアを背負いなおして部屋を後にする。

 二人、いや三人はまたあの長い道のりを歩き始める。

 校舎出た所の庭で紅葉と蒼唯がガチバトルを開始していた。

 紅葉の武器はグローブを嵌めた己の拳。対して蒼唯の武器は刀。しかも真剣。

 二人の動きは最早人間業ではなかった。紅葉の一撃は地面にクレーターを作り、蒼唯の一撃は大木を一刀両断にする。

 二人はそれを弾き、攻撃、躱し、攻撃、逸らし、攻撃を繰り返していく。

 更に魔法まで覚えたのか火や水も飛び交う。


「おぅおぅ、やってるなぁ。本当に地球に来た時よりもパワーアップしてんなぁ。つか、もう魔法も使えんのかよ」


「あの、止めないんですか?」


「無理に決まってんだろ。俺は死にたくない。あの二人のことはパートナーさんに任せるよ」


 その二人のパートナーは既に戦闘不能になっていたりする。

 透真もそれを知っていてか「早く帰るぞ」とアリシアを急かす。

 更に歩けば漸く正門に辿り着く。馬車はずっと此処で待機していたのか既に準備万端ですぐにでも出発できそうだった。


「くそっ、馬車の事をすっかり忘れてたぜ」


「諦めて下さい」


 透真は溜め息を吐いて嫌そうな顔をしながら取り敢えず、セシリアを乗せる。

 しょうがないと透真も乗り込もうとした瞬間に後ろから声が掛かる。


「ねぇ、君が召喚された勇者?」


「あん?」


 透真が振り返ると同い年くらいの金髪の爽やかイケメンと興味なさそうに空を見上げる銀髪のクールなイケメンが立っていた。


「チッ、死ね。イケメン」


「ちょっ、初対面なのに酷くない?」


「アルヴィス・クルーエル!」


 先に乗り込んでいたアリシアが馬車の中から驚き交じりの声を出す。


「ギルもいるよ~。アリシアさん」


 ギルというのは恐らくギルバートのことだろう。つまり此処には件の対象が二人揃って現れたのだ。

 関わりたくなかった透真は更に心底嫌そうな顔になり、それなら馬車の方がマシかと問題児二人を無視して馬車に乗り込む。

 しかし、それは出来なかった。アルヴィスが透真の腕を強く引張り引き戻したのだ。


「無視するなんて酷いなぁ」


「はぁ…俺はアンタ等とは関わりたくないの。世界が征服されようがどうでもいいの。分かった?」


「そうはいかないんだな、これが。僕達は君に用がある。正確に言えば君達にだけど…」


「早めに始末しようってか?」


「違う違う。勇者って強いんでしょ?なら僕等の仲間になってもらおうと思ってさ」


 なるほど、と透真は思った。この国が勇者を使ってこの二人を引き込もうと考えているように、この二人も勇者を自分達の方に引き込めると考えたのだろう。

 誰だって最強の敵になるよりは味方になった方が良いに決まってる。魔王とかならまだしも同じ人間だから尚更だろう。


「…悪いけど断るわ。なんたって俺は弱いからな」


「そっか。それなら無理には誘わないよ。気が向いたらまた言ってね」


 ―――—コイツが本当に最強の一角なのか?


 あまりに覇気を感じず、強さを感じない。透真は逆にそれが恐怖に感じた。

 問題児には全く見えない。それが透真の感想だった。


「あぁ、そうだ。他の奴等も断ると思うぜ」


「ふーん、まぁ一応期待せずに声掛けてみるよ」


 そう言うとアルヴィスはギルバートの肩を叩いて「次行くよ」と声を掛ける。

 そこで透真は初めて今までボーっと空を見上げていたギルバートと目が合った。


「!?お前はっ!」


「ん?」


 この世界に来て初めての外出をした透真には初対面の奴に睨まれながら「お前は」と言われる覚えはなかった。


「いや、待てよ。この声どっかで…あぁ!!お前、け、むぐぅ」


 そう、透真が思い出したのは今朝の仮面をかぶった襲撃者。その声に酷似していたのだ。

 それを爆発的に思いだし声に出そうとした瞬間、目の前にはギルバートがいて口を手で塞がれていた。


「(静かにしろ。標的が後ろにいるんだぞ)」


「(いや、知らねぇよ。俺には関係ない)」


「(てめぇが勇者だったのか)」


「(俺は認めてない。つか、最強が誘拐なんてこすいことやんなよ)」


「(うるさい。お前には関係ないことだ)」


「(何々?朝ギルを邪魔したの君だったの?強いじゃん君)」


「(るせぇ、たまたまだ)」


 ギルバートは透真から手を離すと額と額がくっつきそうなほど顔を寄せ小さな声で話し出す。

 暫く話していると横からアルヴィスも混ざり始め、三人で顔を寄せながら話す。


「(それより、いいのか?対象はぐっすり夢の中だぜ)」


「(人目がありすぎる。当分はやらねぇ)」


「(そういえば君の名前は?僕はアルヴィス。こっちはギルバート。よろしくね)」


「(…透真だ。俺はよろしくしたくない)」


「ちょっと三人で何話してますの?そ、それに顔近くないですか?」


 いつまでも顔を突き合わせたままだったことを心配に思ったのかアリシアが顔を朱く染め心配そうに声を掛ける。


「何でもないよ、ただの自己紹介。じゃあまたねトーマ、アリシアさん」


「ぜってぇに言うんじゃねぇぞ、トーマ」


 捨て台詞のように吐き捨てながら去っていく二人をゲンナリした顔で見つめる透真は、また大きく溜め息を吐くと馬車に乗り込む。


「…めんどくせぇ」


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