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召喚?

「うーん…」


「どうしたんだ?ボウズ」


 黒髪黒目の少年が腕を組みながら唸り、運動してもギリギリ邪魔にならないぐらいの長さの髪をガリガリと掻きむしる。

 薄暗い部屋の中、ひんやりとジャージとパンツ越しに感じるほどの冷たい床に座り込んで考え事をしてる。

 隣には白髪の角刈りに立派な白い髭を生やしたガタイの良いオッサンが同じ様に冷たい床の上に座っている。


「俺は何でこんな所にいるんだ?というか此処、何処だよ」


 心の声が自然と零れ落ちた。自身は決して誰かに答えてもらいたい訳ではなかったのだが気付かない内に声に出ていたのだ。

 自分でも声に出ていたことをその時になって気が付いた。


「此処はどう見ても牢屋だな」


「その通り。どう見ても牢屋だな」


 別に答えてほしかった訳ではないが隣のオッサンが答えてくれた。

 そう。今、この二人がいるのはどう見ても牢屋の中。

 冷たい石畳の床に頑丈な作りをした石積みの壁。地下なのかジメッとした空気に外からの灯りもなく僅かな蝋燭の灯りのみで薄暗い。

 そして極めつけはこの立派な鉄格子。

 何処からどう見ても此処は頑丈そうな牢屋だった。


 ―――というかいつの時代の牢屋ですか。コノヤロー。


 と、心の中で叫んでみたくもなる。何しろ牢屋に入れられるような身に覚えがないのだから。


「……何で俺は牢屋にいるんでしょう?」


 本当に何でこんな所にいるのかは皆目見当も付かない。

 朝、自宅でいつものように携帯のアラーム音で目が覚め、毎朝の日課のようにトイレに五分ほど籠り、スッキリした所で欠伸をしながらトイレを出たらこの有り様だ。

 まったく理解できない。


「さぁな。ボウズが急に現れたからな」


「…急にってどうやって?」


「儂に聞くな」


 あれか?知らぬ間になんちゃらドアでも潜ってしまったのか?と本気で考えてしまうほど頭の中は混乱していた。


「………」


「………」


 一人で冷たく硬い床をのた打ち回り、オッサンは不憫な目でその行動を見つめる。


「…あの、オッサンは何して捕まったんですか?」


 ふと気づいた。よくよく考えてみると此処は牢屋で、牢屋にいる人は法に反する事を何かしらをやらかした人が入る場所だ。

 こんな所に知らないオッサンと二人きりとか恐怖でしかない。しかも無駄にガタイが良い。

 このオッサンが連続殺人鬼とかかなりヤベェ奴だったらどうしよう。ていうか、この人のことオッサンとか言っちゃったよ。そう思った瞬間に混乱が恐怖に変わった。


「儂か?儂はなぁ……」


 ―――おぃ、何故そこで遠い目をするんだ。


 結局、オッサンが此処にいる理由を聞けぬまま少し経つと、檻の外でガチャガチャと金属音のようなものを鳴らしながら足音が此方に近づいてくる。


「伯爵様~伯爵様~。レイティア伯爵様~」


 檻の外からガチャガチャと走り寄ってきたのは、頭以外の全身フル装備で腰には剣を提げている騎士風の男。

 片手にはランプの様な物を持ち辺りを明るく照らしてくれる。

 騎士風の男は茶髪にキリリとした碧眼のイケメン。


「おぉ、近衛騎士のジョージ君ではないか」


 というか騎士だった。

 それよりもこのオッサンは伯爵様だったようだ。

 確かに牢屋に入っている割には着ている物が綺麗で明らかに高そうな物だった。

 伯爵って結構偉い人じゃないのか?何で牢屋なんかにいるんだ?

 と疑問に思っているとご丁寧に騎士の男が答えを教えてくれた。


「伯爵様、また城下の娘に手を出したんですか?だから奥様に牢屋に入れられるんですよ。少しは落ち着いたらどうですか?」


「むぅ、すまん」


 理由は至極簡単。オッサンの浮気が原因だった。

 そして騎士の男の言い回しからすると確実に初犯ではない。牢屋に突っ込まれたのも初めてではないのだろう。


「それよりそこの少年は誰ですか?」


「知らん。突然現れた」


「刺客ですか!?」


 オッサンの簡単すぎる説明を聞いた騎士の男は伯爵にランプを手渡してからかばうようにオッサンを自分の後ろに隠し、腰に提げている剣を抜いて切っ先を向けてくる。


 ―――俺が一体何をしたというのだ。俺だって何が起きてるのか分からないし。

 ―――というかマジでいつの時代だよ。


「ちょっ、待ってくれよ」


「問答無用!」


 騎士の男の威圧のようなモノに押され後ろの方へよろける。

 次の瞬間、今まで目の前にいた騎士がいなくなり、後ろにかばっていたオッサンの姿をもう一度ハッキリと確認できるようになる。

 それを理解することもできないまま後方に倒れそうになるが、踏ん張ろうと振り返って足を踏み出す。


「ガッ!?」


「イツッ」


 足を踏み出した瞬間、倒れずには済んだものの頭に激痛が走った。

 頭に痛みを感じた時には目の前には騎士の男がいたのだ。

 どうやら振り返った時に後ろに回り込んだ騎士の顎に頭突きをしたようだ。


「イッテェー!?」


 座り込みながら頭を押さえ、痛みを紛らわせるようにガシガシと痛い所を擦る。

 顎に頭突きをくらった騎士は脳震盪を起こしているようで目を回して倒れている。


「おぉ~。まさか近衛騎士ナンバースリーのジョージ君を倒してしまうとは…やるなぁボウズ」


「何なんだよ一体…」


「ボウズ、儂に着いて来い」


 オッサンは拍手をしながら少年を誉め、「着いて来い」と言って開けっ放しになっていた牢屋から堂々と出ていく。

 これまでの出来事は全て檻の中。

 意識はあるが未だ倒れている騎士の男は放置して、少年が檻から出るのを確認すると檻を閉めちゃっかり鍵を掛ける。

 檻の中からはまだ立ち上がれない騎士から「伯爵様~」と弱々しく聞こえる。


「よし、行くぞ」


「………」


 少年は何も言えずに、大人しくオッサンに着いていくしかなかった。


 蝋燭とオッサンが持つランプの明かりのみで足元が暗い中、幅の狭い階段を上がっていくと広い廊下に出た。

 廊下に窓はなく、外の状況が確認できなかった。

 その廊下の半ば辺りにある両開きの大きな扉を開けると大きな広間に出た。

 中は地下よりは明るいがそれなりに暗く、床が不気味に光っているように思えた。

 そして広間の中心には金色に輝く腰まで届きそうな長い髪を持った少女が今にも泣きそうな顔で佇んでいた。


「うぅっ…」


「おぉ、我が娘よ。一体どうしたというのだ」


 ―――娘!?

 咄嗟に出そうになった言葉を飲み込む。


「…お父様、私は駄目な娘です。召喚に失敗してしまいました」


「おぉ、そうかそうか、可哀想に。でも失敗なんかしておらんぞ。この阿呆が階を一つ間違えて下の地下牢に召喚されてきたのだ」


「ふぇ?そうですの?」


「そうじゃぞ。この男こそ儂等の勇者様じゃ。のぅ、勇・者・様?」


 ウゼェー。こいつ超ウゼェ。阿呆って俺の事言ってんのか?

 そもそも召喚とか勇者とかって何だよ。

 じゃあ何か?俺はこの魔方陣のようなモノによって召喚されたって言うのか?

 此処は魔法の国ですってか?

 こんな一般ピーポーの俺が勇者なんて務まる訳ないだろうが。

 そういうのはイケメン野郎に任せてもらいたいものだな。

 と心の中で怒りと混乱が入り乱れる。


「あの、勇者様!」


「あん?」


「私はアリシアです。勇者様のお名前は?」


「俺?俺は透真(とうま)神楽坂(かぐらざか)透真」


 ―――あぁ、俺は異世界に召喚されたのか…。


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