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真紅の少女①

フェルドの炎が開けた穴をラムが氷で固めたあと。

その中を恐る恐るのぞき込むエルは、影花がいないことを確認して散らばった瓦礫を踏み中へと進む。



「……」



影花がいるのは洞窟の出入り口付近だけのようだ。ひとつそこから道を外れれば一匹も見当たらない。

とはいえ背後ではラムが影花を警戒して見張っている。

奥はどうなっているのだろうかと、さらに進むと。



(物音…?)



ぼうっとしていたら聞き逃すほどの小さな物音がした。

気になってそれが聞こえた方へと足を向ける。

するとぼんやりと明かりが灯っているのが見えて、エルは微かな望みを胸に、だが気配を殺してそっと岩陰から様子を伺った。

そこに居たのは。



「はい、おゆうごはんなのよー」

「ギュル…ルルル」



真っ赤なドレスを着た小さな子供と、まだ蕾もつけていない影花だった。



□■□



(なん、ですの。あれ…)



遠目から見てもわかる。

まだ幼い少女の雑草の皿の上に乗せた土の団子を受け取るのは、間違いなく影花。

エルの頭はひどく混乱した。



(あれがヴィーヴの?いいえ、エクラさんから隊長は赤髪の男だと聞きましたもの。あんな、子供なんて…)



だとしたらあの少女は誰なのだろうか?

ヴィーヴの隊長の他にも、洞窟に閉じ込められた者がいたという事か?

いや、でもあの状況は…。

エルは自分の目を疑うが、



「もぉっ。すききらいしちゃだめって、らら、いつもいってるのよっ」

「ギュ、ギュルル…」

(……)



何度見ても、赤いドレスの少女が影花とままごとをしているようにしか見えない。



(もしかして…。まさか、あの時と同じ…)



あの時。

それはミスラがチアーノ支部に来てすぐの頃。



(確かあの時も、似たような子供がいましたわ。ではあの赤い少女はその仲間…?)



だとしたらまずい、と。

エルの背筋をじわじわと伝うのは、紛れもない恐怖という感情。

洞窟潜入の直前、エクラが言っていた。



『影花の数が前よりも増えているみたいなの』



そしてミスラを襲った子供は影花を何らかの方法で操っていた。そして恐らく影花と遊ぶ赤いドレスの少女も同じ能力を持っている。

だとしたら、エクラの言葉も説明がつく。



(…つじつまが、あってしまいますわね)



ゴクリと、エルが唾を飲み込む。



(駄目…お姉さまは今ここにはいらっしゃらない。私たちだけでは影花の相手をするだけで精一杯ですわ…!)



前回の戦闘の事を踏まえ危険すぎる、とエルが出した答えは即時撤退。

見たところシドらしい男の姿は見当たらない。

ならば見つからないうちにそっと抜け出して、今すぐにでもこのことをセレネとルチアに伝えなければ…!

手に冷たい汗を握り、エルが足音を殺して後ろに一歩足を引いたその時。



「ねぇ」

「…っ!!?」



なんの前触れもなく、否。

エルが眼前の少女と影花に気を取られすぎていた為に、その気配に気づけなかっただけなのだが。

とにかく全く意図せずにいきなり肩を叩かれ耳元で声をかけられ。

エルは喉まで出かかった叫び声をどうにか、どうにか堪えてちらりと目を動かした。



「え、エクラさん…!?」

「…なにその反応」



ジト目で返されるも相手がエクラだったことに、だが安堵のため息をつく暇はなく。



「そこにシドがいるの?」



エクラが目の前を通り過ぎて岩陰から出ようとするのを、



「あっ…まっ、待ってくださいまし…!」

「ぐえっ」



エルが冷や汗タラタラで制止する。



「……ちょっと!いきなりマフラー掴ま…んん…!?」



しかしエクラがまたも相手に見つかる様な行動、つまり大声を出して抵抗しようとした為、エルは咄嗟に彼女の口を手で塞いで岩陰に押し付けた。



「んんっ…!」

「あそこには、恐らくあなた方の隊長さんはいらっしゃいませんわ」



エルはエクラの口元を手で押さえつけたまま、有無を言わさず要求した。



「いるのは影花を操る恐ろしい敵だけ。私たちだけでは到底かないません。見つかれば命すら危ぶまれますわ。今すぐに撤退を…!」



身動きも言葉も奪われた状況で、だが切羽詰まったエルの表情と声からしてもそれが虚言だとは思えず。

エクラは静かに頷いた。



□■□



「ラム!帰りますわよ今すぐに!」



戻ってくるなりそう言い放ちエクラと共に背に乗るエルに、ラムは首を傾げる。



「見つかったのか、ヴィーヴの隊長は」

「いいえ。見つかりませんでしたわ。でもその代わりに、見たくないものを見つけてしまいましたわ」

「はて。見たくないものとはなんじゃ」

「続きは後で説明しますわ。とにかく、早くここから離れますわよ!」



背にに触れるエルの手の冷たさが気になったが、ラムはそれ以上は聞かなかった。



「伊勢!帰るよ!キミは自分の足で行け

るよね!」

「うん。でも…」



『帰る』という言葉に反応しながら、伊勢はくるりと踵を返して奥を指差しふたりに問うた。



「あの子供、誰?」

『…!?』



伊勢の一言に、青ざめた顔で振り返るエルの目が捉えたのは、赤いドレスの少女。



「やぁっときたのよね!ららをまたせるなんて、ゆるさないのよ!」



少女は腰に手を当て、高飛車な口調でそう叫んだ。

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