出会い、のち⑥
ミスラは、憂い顔で館の庭のベンチに座っていた。
「はぁ……」
口からこぼれるのはため息ばかり。
頭からエルの言葉が離れない。
あなたがそうやって、何も知らずにのうのうと過ごしてきた時間、お姉さまがどれだけ傷ついたか、あなたに理解できますの!?
「……そんなの、出来るわけないじゃん…」
悔しそうに唇をかみしめるミスラ。
「わたしだって……っ、わたしだって好きでお姉ちゃんと離れていたわけじゃない……!」
お守りのネックレスを失って、少し物足りなさの残る首にそっと触れた。
「嬉しかったのに…。やっと会えたって、すごく、嬉しかったのに……」
自分の本音を口にすると、我慢していた涙が一気に溢れ出した。
「こんなに苦しくなるなら、会えないままの方が良かった……。おじいちゃん、おばあちゃん…。ふたりのいる家に、帰りたいよ……」
ミスラの膝に、涙が次々と落ちていく。
何とかしてそれを止めようと目を袖口でこすった時————
「うぉぉ!?」
館の門の前で、幼い少女が叫んだ。
べしゃぁ、という音とともに、少女は盛大に転び、顔面を強打した。
「……いったぁ。もうっ!だぁれ?こんなとこにちっちゃないしおいたの!」
少女は擦れた額をさすりながら唇を尖らせた。
「おかげで、おでこけがしちゃったじゃーん!きれいなおかおがだいなし……ってあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!!」
少女の目の前にはひっくり返ったかごがあった。その周りには小さくて赤い木の実が、所々に落ちている。
「あうぅ。どうしよう、おいしそうなきのみみつけたから、みんなにおみやげしようとおもってたのにぃ……」
「あの、大丈夫……?」
「お?」
ミスラが館の敷地の中から声をかけると少女が振り向いた。
わ……綺麗な子……
白い肌、長く伸びるレモン色の髪は綺麗に巻かれ、瞳は硝子玉のごとく光を乱反射して、きらきらと輝いていた。
まるで人形のような少女に、ミスラは見惚れ目が離せなかった。
「おねぇちゃん、だぁれ?」
「え?あ、わたしはミスラっていうの」
「みすら……」
少女はそう繰り返すと、何故か不敵に笑った。
「……?どうかした?」
「あ、ううん!なんでもない!」
「そう。あなたは?お名前なんていうの?」
ミスラがしゃがみ、少女と同じ目線で聞くと、少女は屈託のない笑顔で答えた。
「ろろ!ろろは、ろろっていうの!」
「ロロちゃん、ね」
「うん!」
「さっき転んでたみたいだけど、大丈夫?」
「うんっ、だいじょうぶ!ろろは、なかないいいこなの!」
「そっか」
「うん!あ、でも、みんなにあげるはずだったきのみ、おとしちゃった……。またとりにいかなきゃ。ねぇ、おねぇちゃん!いっしょにきのみとりにいこ!おてつだいして!」
「え?うーん……」
「おーねーがーいー!」
ロロの押しの強さに負け、ミスラは気づくと首を縦に振っていた。
「じゃあ、行こうか」
「やった!」
ミスラの答えに、ロロは両手を挙げて喜んだ。
□ ■ □
ミスラ、どこ……
セレネは館中を、走り回ってミスラを探していた。
部屋にも、いなかった。
どこかで迷子……もしかして、外に出ちゃった、とか……
「嫌な予感がする……っ…」
セレネは踵を返してエントランスに向かった。
□ ■ □
「いこっ、おねぇちゃん!」
ロロはぶちまけた木の実をカゴに戻して言う。
「あ、待って。一応みんなに言って……」
「ええー!?はやくいこうよ!ねぇ!」
「ごめんね。ちょっと待ってて」
「あ、おねぇちゃん!」
「すぐ戻るから!」
ミスラはロロを門の前に残して、館の方に走った。
その後ろ姿を見て、ロロはうつむく。
「………だめだよ…」
「……っ…!?」
背中に突如感じた悪寒に、ミスラの足は進むことをやめた。
「おねぇちゃんは、ろろといっしょにいかなきゃだめなの……」
ミスラが振り返って見たものは、確かにロロだった。
「…え……」
だがその背後に、吸い込まれそうなほど深い闇色の影———
「かあさまと、やくそくしたもん!!」
否、影花が姿を現した。
『ギュルルルルルルルルルルル!!』
みるみるうちに、黒い大輪の花を咲かせたそれは、鳴き声でミスラの体を震わせた。
「……い、や……」
「ミスラ!!こっち来てっ!」
館の入口で、セレネが叫ぶ。
「お、姉ちゃん……」
「早くっ!!」
ミスラが恐怖に震える足をどうにか動かして、セレネの元へ走ろうとした時———
「逃がさないんだからっ!」
ロロの合図で、影花の強靭なムチがミスラめがけて伸びる。
—————バリンッ!!
分厚いガラスの割れるような音が聞こえたと思った瞬間、館の敷地内外にひずみが生じた。
「わ……!?」
「っ!!結界が!!」
「こんなよわっちいけっかいじゃ、ろろのそだてたおはなさんにはかてないんだからぁ!!」
『ギュルルルルルルル!』
「きゃあぁぁぁぁぁ!?」
「ミスラ!!」
影花の伸ばしたムチが、ミスラの体に巻き付く。
「お姉ちゃんっ!」
「ミスラ!」
ミスラはセレネに手を伸ばし助けを求めたが、すでに時遅し。
『アアァーーーーン』
「いやぁぁぁぁぁっ!!!」
『———パクッ』
影花は大きく開けた口で、ミスラを丸呑みにした。
残酷すぎるその情景に、セレネは目を剥き言葉を失う。
「たいようのおねぇちゃんもぉらいっ♪あははっ」
「お前……」
「そんなこわいかおでおこんないで。おっきなきがあるこうえんで、ろろたちまってるから。ぜったいきてね!やっと『すたーとちてん』にきたんだからっ!」
「スタート地点……?お前、誰だ!!ミスラを返せ!」
「じゃあねっ!きっときてね!」
そう言って手を振るロロは、影花と共に地面に沈み消えていった。
「待てっ!!」
セレネが門の前についた時には、もう既に彼女たちの姿も気配も無くなっていた。
「……また、助けられなかった……っ…」
その場に立ち尽くすしかないセレネは、歯がゆさに拳を握る。
「セレネ!今結界が破れた音がしたけど、まさか……」
騒ぎを聞きつけたルチアに、セレネはロロが消えた地面を厳しい顔で見下ろして応えた。
「……ミスラがさらわれた。助けに行く」
そう言い残して駆け出すセレネの腕を、ルチアが慌ててつかみ引き止める。
「え?助けにって……ちょ、ちょっと待って!」
「離してっ!わたしが、わたしが助けに行かないと……!」
「落ち着いてセレネ!君ひとりで向かうつもり!?」
「……だって…だって助けられなかった!わたしが一番近くにいたのに、何も出来なくて……。ミスラはわたしの目の前で……っ…」
悲痛な叫びをあげるセレネの腕を自分のほうへ引いて、ルチアはそのまま彼女を優しく抱きしめた。
「落ち着いて。感情のままに行動してもいいことなんてない。そう、教わったでしょ?」
「でも…!」
「大丈夫。行くなとは言わないよ。だけど、俺達も一緒に行く。相手は館の結界を簡単に壊してしまうほどの力を持つバケモノだ。ひとりより、大勢で行ったほうがいいでしょ?」
「……っ…」
トクントクンというルチアの心臓の音が、セレネの耳に伝わっいく。
それは彼の温かい体温と混ざって、セレネの体にしみわたっていった。
「…………ん…」
頭をやさしく撫でられ落ち着きを取り戻したセレネは、ルチアのシャツをきゅっと握った。
「落ち着いた?」
優しい微笑みで見下ろすルチアに、セレネはこくりと頷く。
「うん、よしよし。……それで、どこに行こうとしてたの?」
「………」
————不意に頭をよぎるのは、昔の記憶。
この樹の下で、お父さんとお母さんは初めて出会ったんだ。
だからお前が誰かに心から会いたいと願えば、この樹がきっとその願いを叶えてくれるだろう——
頭上から聞こえるその低い声の主は、たしか……
「セレネ……?」
「………場所は…出会いの、公園……」
ロリっ子登場っ☆
こんにちは。蒼依です。
リアルの子供は苦手なのですが、アニメや漫画などのちびっ子は好きです。かわいいですからね(笑)
今週もお読みいただきありがとうございます。




