朝
ピピピ、という目覚まし時計の音が、ミスラを夢から覚まさせた。
ごろごろと寝返りを打ってまだ眠たい瞼を開くと、一輪のひまわりが花瓶に挿されてミスラを見下ろしていた。
「………」
その凛々しい姿が、昨日のフウマと過ごした時間を思い出させた。
□ ■ □
「…はよ」
大きなあくびをしながらダイニングに入ってきたのは、白シャツに黒いドロップパンツを履いたフウマ。
彼の首には銀製の笛が下げられている。
「あ、おはよう。フウマ」
「おー」
ダイニングでは既に、ルチアが朝食をのせたプレートをテーブルに並べていた。
「朝はいつもお前が作ってるのか?」
「うん。そうだよ」
「ひとりで?大変じゃねぇか」
自分の椅子に座りながらフウマがそう言うと、ルチアは眉を垂らした。
「うーん。まぁね。でも最近は……」
「あ!」
そこに、キッチンからグラスを持ったミスラが顔を出した。
「おはよう、フウマくん」
昨日の帰り道、フウマに名前で呼ぶことと敬語をやめろと散々言われて、ミスラはそれを承諾した。
「おー、おはよ」
グラスを運ぶミスラを見ながら、ルチアが先程の言葉の先を続ける。
「最近はミスラも手伝ってくれるから、少し楽になったよ」
「へぇ」
「……?」
ミスラが自分の椅子、フウマの前の席に座ったとき、廊下からエルの叫び声が聞こえた。
「お姉さまっ!!その格好で部屋を出ないでくださいと何度も申し上げているでしょう!?」
「!?……なんだ?」
「ああああっ!」
フウマがその声に反応し席を立とうとするのを、廊下で何が起きているのか予想がついたミスラは慌てて引き止める。
「なん、何でもないよ!」
「いや何でもねぇってことはねぇだろ……」
「ほんとに!!ほんとに何でもないから!」
「お、おー……?」
フウマが気圧されぎみに椅子に戻りミスラが小さく息をつく隣で、野菜ジュースのボトルを持ってルチアがグラスにそれを注いでいった。
「ねぇフウマくん。本当に食べ物の味がわからないの?」
「ん?ああ」
「じゃあすっごく濃い味をつけてもわからない?」
「いや、そんなことはないぞ。オレの舌は全く味覚がないわけじゃなくて、鈍ってるだけなんだ。だからあまりにも辛いものとかを食べれば、少しなら味を感じることも出来る」
「そっか」
なぜかにんまりと満足そうに頷くミスラに、フウマも笑みを返した。
「お前は甘いものが好きなんだろ?」
「うん!」
「昨日も美味そうに食ってたしな」
「へへー。あのドーナツ本当に美味しかった」
「また行くか、マーケット」
「……!行きたい!いいの?」
「ああ」
ふわふわと和やかな空気が流れるふたりをダイニングの入口付近で見つめる影がひとつ。
「お姉さま?どうしましたの?」
エルがダイニングに入ろうとしないセレネの背中越しに、顔を出して言った。
「………」
「あら。昨日はあんなにぎくしゃくしてたのに。いつの間に仲良くなったのでしょう」
「……気に、入らない」
その声にエルが視線を動かすと、不機嫌そうに頬を膨らませるセレネがいた。
「お姉さま?」
セレネはその顔のまま歩き、座るミスラの頭に顎を乗せた。
「……おは」
「お姉ちゃん。おはよう」
ミスラの問いかけも聞かず、セレネは目の前のフウマをじっと見下ろした。
「おはよう」
「………ん…」
「……なんだ?」
「……ん…」
「………え」
3人の間におかしな沈黙が流れる。
セレネはミスラの首に後ろから腕を回して、ぐりぐりと額をこすり付けた。
「ちょっ、お、お姉ちゃん!?本当になにしてるの!?」
「んーーーー」
「え、エル!お姉ちゃんをどうにかして!」
咄嗟に助けをエルに求めても、彼女は何やら端末の画面に夢中だった。
「寝起きに甘えるお姉さま……。かわい……」
「なにしてるのエル」
エルの握る端末からはシャッター音が連続的に鳴り続けていた。今のエルには訝しげなミスラの視線など視界の端にも入らない。
「む」
ふと、セレネが動きを止めた。
「ごはん、食べる」
セレネは顔を上げてそう言い、すとんとミスラの隣の椅子に座った。
(なんなんだ)
「朝から仲良しだね」
「フェルドさん。おはようございます」
「はよ」
「おはよう」
気怠い表情でやって来たフェルドは、キッチンの冷蔵庫からボトルを一本取り出しテーブルに置いた。
見ると、ミスラが用意したフェルドのグラスにだけ野菜ジュースが注がれておらず、彼はそこにボトルの中身を注いでいる。
「……?」
「なんでお前だけ飲み物が違うんだ?」
ミスラの疑問をフウマが先を越して聞いた。
「んー?これが一番体にいいからね」
「……?へぇ…」
いまいち納得のいかない答えにふたりが顔を見合わせていると、ルチアが口を挟んだ。
「フェルドはあのボトルの水しか飲まないんだよ」
「へぇ……?」
「さ!みんな起きてきたから、食べよう」
テーブルについたのはリンゼを抜いた6人。
「隊長さんはいいんですか?」
そして用意された食事も6人分だった。
「先生は昨日の夜に出かけたぞ」
「え、そうなんだ。どこに行ったんだろう」
「トゥルチアって言ってたから、本部からの招集じゃねぇか?」
「本部……」
「ルシアーゼの日記を本部に預けに行ったみたいだよ」
ルチアが全員の着席を確認して言った。
「では!グーテンアペティート!」
『グーテンアペティート!』
こんばんは。蒼依です。
今回もお読みいただきありがとうございます!
ちなみにグーテンアペティートとは日本語で召し上がれ、いただきます、という意味らしいです。ドイツ語です。
そしてTWINSのプロローグなのですが、一部変更しました。そして2話以降の『歯車』のところですが、そこからが本編という形にしました。
もしよろしければ再度読んで理解していただければと思います(宣伝デス)
話の入りが難しい!との意見を何度か頂きまして、歯車のところも今書き直し中です。再投稿したら掲示板などでお知らせ致します(*¨*)♡
では、また次話もお楽しみください




