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銀色の男④


フウマがミスラを連れ出した先は、この街の市場(マーケット)だった。


「おっ。まだ結構店出てんじゃん」


平日の昼下がり。いつもより人が少ない気もするが、それでも十分賑わっていた。


「この街のマーケット初めて来た……」


「そうなのか?じゃあオレと一緒だな。オレも初めて来た」


マーケットは大聖堂の前広場で行われていて、食べ物や服など、様々な店がずらりと並んでいた。


「とりあえず、何か食うか。小腹が減った」


歩きながらあたりを見回すと、そそられる匂いを漂わせて揚げたてのドーナツを出す店がミスラの目についた。


「……美味しそう…」


思わず店の前で立ち止まって見入るミスラに、フウマが笑った。


「お前甘いもの好きなのか?」


「あ……。うん。好き」


笑ってる……。こんなに柔らかく笑うんだ、この人……。


人として当たり前のことなのだが、この時初めて見た彼のこの笑顔に少し驚いた。


「じゃあオレもこれにしよう」


フウマはミスラを丁度近いところに見えた大聖堂前の階段で待つよう言って、その店からふたり分のドーナツを買った。


「はい」


「あ、ありがとう、ございます」


受け取ったドーナツを口に入れると柔らかな食感と控えめな甘さが、ミスラの頬を緩ませた。


「美味いか」


「……うん」


「良かったな」


そう言ってフウマはまた笑った。


「あなたも、甘いもの好きなんですか?」


「ん?多分、好きなんじゃねぇか?」


まるで他人事みたいな口調。違和感を覚えたミスラは首をかしげた。


「……?」


「オレ、食べ物の味とかよく分かんねぇんだ」


「え…」


「だから食べれるものなら何でもいいんだけど、これは本当に美味そうだな」


「……どうしてですか?」


「お前が幸せそうな顔してるから」


「……!」


にっと笑って、フウマはドーナツを口に入れた。


彼が買ってくれたドーナツはまだ温かくて、でも少し喉が渇いた。


———……

小腹も満たされて、しばらくここで休んでいこうとフウマは言った。

階段の近くに構える花を売る店から、芳しい香りが漂っていた。


「なぁ」


ミスラの隣に座ったフウマの目線の先、空の上では彼の白い鳥が悠々と飛んでいた。


「お前、両親を影花に殺されたってほんと?」


「え……」


いきなりのことに戸惑うミスラの横で、フウマはぼうっと空を見上げながら言った。


「興味本位で聞いてんじゃねえぞ。言っただろ、お前のこと知らなきゃなんねぇって」


確か、彼の部屋で館を出る時にそう言っていたのを思い出す。


「何も知らない相手に命はれるほど、オレはお人好しじゃねぇからさ」


「……」


正論だと思った。

ルシアーゼの一件で、影花がどれだけ恐ろしいものなのかを思い知った。

エルは気を失いルチアは腕を貫かれた。みんなそれぞれに傷を負って、この国に帰ってきた。

それが、当たり前なのだと言って……。

フウマの横顔が風に揺れる銀髪越しに見えた。


これからわたしは、この綺麗な顔にどれだけの傷を作らせるんだろう……。戦えないわたしを庇って、わたしの代わりに血を流して。わたしは、彼に何を……。

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