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出会い、のち⑤

 チアーノ支部。

 ダイニングルームにて。

 額の手当を終えたセレネとミスラは、大テーブルの椅子に腰掛けていた。

「大丈夫?」

 心配するルチアに、ミスラは申し訳なさそうに答えた。

「はい……お騒がせしてすみません……。お姉ちゃんも、ごめんね」

「ん……」

「まったくですわ。お姉さまにけがを負わせるなど」

「す、すみません……」

「エル。そんなに責めないの。起きたら目の前にいきなり自分のお姉さんがいたんだから、びっくりするのは当たり前だろう?ただ、ちょっと……驚き方が面白かっただけで…ふふ、くくく」

 話の途中で思い出し笑いをするフェルドに、ルチアが口を挟む。

「フェルド、そこで笑ったらフォローにならないよ」

「……うぅ。すみません……」

 ミスラは額の傷を触るふりをして、赤面する顔を隠した。

 全員が席についたのを確認して、ルチアが話を切り出す。

「じゃあ、みんな集まったわけだし、早速ミスラの知りたいことを話していこうか」

「あ、はい。お願いします」

「まずは……やっぱり俺達のことからかな」

「自己紹介?」

 フェルドの問にルチアが頷く。

「そうだね。さっきちょっとやっちゃったけど、もう1回簡単にしておこうか。改めて……俺はルチア。よろしくね。こっちはフェルド」

 ルチアが右隣を指す。

 フェルドがミスラに笑いかけた。

「よろしく〜」

「で、そっちが」

「エルですわ」

 明らかに不機嫌な顔で、エルがセレネ越しに初めて自分の名前を口に出した。


 わたし、やっぱりこの人に嫌われてるよぉ…


 ミスラはセレネの陰から自分を睨むエルを見て、心の中で泣いた。

 向かいの席のルチアはふたりの様子に苦笑いしつつ、続ける。

「あと、ミスラの隣にいるのが、知っていると思うけど、セレネ」

「……セレネ、です」

 少しのぎこちなさを纏って、セレネがミスラを見て言った。

「………」

「……セレネ、なんか他にいうことないの?折角また会えたのにそれだけって寂しくない?」

 フェルドにそう言われたが、セレネは首を傾げる。

「……?ほか、に?……あ。ミスラのお姉ちゃん、です」

「……え、うん。そだね」

 全知の事実を言われ、返事に困るミスラ。

 フェルドはそんなセレネに、半目でつっこむ。

「いや、そういうことじゃなくてね……」

「……?」

「あー、まぁいっか」

「俺達4人と、今出かけてて居ないんだけど、リーダーが1人の合計5人が、国際警察部隊チアーノ支部の戦闘隊員だよ」

「これガキ!わしを忘れるとは何事じゃ!」

「!?」

 突然年をとった男の声が、エルの方から聞こえた。

「え、今のって……」

「わしじゃ」

 ミスラの言葉に応えた主が、エルの胸の谷間からひょっこり顔を出した。

「え!?」

 それは昨夜見た青い獅子……ではなく

「ぬいぐるみが喋った!?」

「誰がぬいぐるみじゃ阿呆!!」

 青色のライオンのような、かわいいぬいぐるみだった。

「ごめん、ラム。すっかり忘れてた」

 ルチアの一言に、ぬいぐるみのラムはテーブルの上に飛び降り、声を荒らげた。

「なんじゃと!?まさかお前本気で忘れていたのか!?」

「う、うん……」

「なんということじゃ!けしからん!大体お前はいつもいつもいつもいつも………」

 テーブルの上でルチアに怒号を飛ばすラムの後ろ姿を見て、不意にミスラが零す。

「ぬいぐるみが説教して……」

「ぬいぐるみじゃないわい!!」

「ごっ、ごめんなさい……!!」

「むっ!?お前さんか。昨日の娘は」

 ミスラを見るなり、駆け寄ってくるラム。

「あ、はい。ミスラです。えっと……」

「ラムじゃ」

「ラム……さん…?」

 ミスラはぬいぐるみから感じるラムの気迫に、年上と会話をしている気分になった。

「ラムも俺達と同じ戦闘員なんだ。戦いの時には結構頼りになる存在なんだよ」

「そうなんですか」

 フェルドの言葉に、ミスラは曖昧な返事を返しつつ、思う。


 今この段階でそれを言われても、しっくりこない……


「今の姿を見てもしっくりこないとか思っておるじゃろ」

「えっ!?そ、そんなこと思ってないですよ!?」

 と、否定するミスラの笑顔は変にひきつる。

「……バレバレじゃ」

「す、すみません……」

「まぁよい。わしが戦っているところを見れば、お前さんもイチコロじゃからの!」

「い、ちころ……?」

 ふんっ、とラムは得意げに話す。

「そうじゃ!なんせわしの真の姿は、そんじょそこらの男よりも断然カッチョイイからのぅ」

「へ、へぇ……」

 およそ老人が使うとは思えない単語がぬいぐるみの口から飛び出すおかしな状況に、ミスラは呆気にとられた。

 ルチアが話を進めようと口を開く。

「じゃあ自己紹介も全員終わったし。本題に入ろうか」

「あ、あの!……昨日見たバケモノって一体……?」

「その前に国際警察部隊、IPFについて説明しておいた方がいいかな」

「IPF?それって、教科書とかに載ってるあのIPFですか?」

「うん。そうだよ」

 世界の警察の統一を目的として動く、国際警察部隊。通称IPF。

 主な活動は、国外へ逃亡した被疑者の指名手配、逮捕。

 各国の警察をつなぐ窓口にあたる存在だ。

「IPFの中は、大きくふたつに分けられているんだ。ひとつは通常犯罪を取り締まる普通警察。もうひとつは特異能力を持つ者のみで結成される特殊警察」

「特異能力……?」

「そうだなぁ。例えば……」

 ルチアはおもむろに右手を差し出すと、その指先から細い糸が垂れた。

「え!?」

 糸はテーブルの上で自在に動き何かを編んでいるように見えた。

 目の前で繰り広げられる不思議な光景にくぎ付けになるミスラ見て、ルチアはくすりと笑った。

「こういうのとかね」

 出来上がったのは小さな熊のぬいぐるみだった。ルチアが指を動かすと、ぬいぐるみの手や足も可愛く動いた。

「わっ!かわいいっ、すごいっ!どうなってるんですかこれ!?」

「ふふ、俺の能力はこうして指先から糸を出して自在に操ること。はいこれ、あげる」

 ルチアがすっと手を横に流すと操り糸がプツンと切れ、熊のぬいぐるみはミスラの手の上で座った。

「わぁ、ありがとうございます」

「特殊警察は今みたいな能力をみんな持っているんだよ。俺たちはその力を使って影花を倒している」

「かげはな……。あの黒いバケモノは影花って言うんですか?」

「そう。あれは人の負の感情から生まれると言われているんだ。不安、恐怖、妬み、怨み、あと深い悲しみとかね」

「………」

 ミスラは、昨日のことを思い出した。


 あの男の人も、何かつらいことがあったのかな……


「……昨日、わたしを保護しないといけない、みたいな事言ってましたよね。どうしていきなりそんなことになったんですか?」

「それは……」

「……?」

 何故か口ごもるルチアに、ミスラは首を傾げる。

 と、その時。

 隣で無言を貫いていたセレネが呟いた。

「……お守り」

「え?」

 ミスラがそう聞き返すと、セレネは顔を上げてもう一度繰り返した。

「お守り。昨日、ダメになった、から……」

「お守り……。あ、もしかしておじいちゃんが作ったネックレスのこと?」

 ミスラの問に、セレネはゆっくりと頷く。

「どうして、ネックレスが無いからわたしを保護するって話になるの?」

「………」

「教えて、お姉ちゃん」

 セレネの手首をつかみ答えを求めるミスラ。だがセレネはうつむいてなにも言おうとしない。

「狙われているから、ですわ」

「え……?」

 不意に聞こえた高い声に、ミスラは視線をセレネからエルに移す。

「今、なんて……」

「あなたが、影花に狙われているからですわ!」

 エルは今までためていたものを爆発させるかのように声を上げ、ガタンと勢いよく椅子から立ち上がった。

 その顔には、怒りがにじみ出ていた。

「………え……?わたしが、影花に……?」

「そうですわ!あのネックレスは、あなたを影花から守る物だったんですのよ!?」

「エル、落ち着いて」

 そう言ったルチアの言葉も、エルの耳には届かなかった。

「それをあなたが身につけている限り、影花はあなたを見つけることが出来ないようになっていましたのに!そのような大切なものを、どうしてあなたは……!!」

「……っ…」


 お守りって、そういう意味だったの……?

 毎朝わたしがそれを付けているかしつこく確認していたのは、そのため……?


「なん、で……。なんでわたしが影花に狙われるんですか……?」

「っ!!……あなたは…ほんとに……何も知らずに……!!」

「っ!?」

「エル!!」

 ミスラに手を上げようと構えたエルを、フェルドとルチアが止めに入る。

「エル!落ち着いて!!そんなことをしても、何も解決しないだろう!?」

「あなたがそうやって、何も知らずにのうのうと過ごしてきた時間、お姉さまがどれだけ傷ついたか、あなたに理解できますの!?」

「……っ…」

「あなたを影花から守るために、どれだけの血のにじむ努力を積み重ねてきたか!!あなたに会えない日々を、その寂しさを、影花を倒すことでしか埋められない、この辛さを!あなたに理解できますのっ!?」

 そう叫ぶエルの瞳には、涙が溜まっていた。

「……わ、たし、なにも…知らなくて……」

 耳に入るエルの、怒りの中にも悲しみが混ざる声に、ミスラは震えた。

「そのような言葉、言い訳にもなりませんわっ!…っ、どうして……どうしてあなたのような守られるだけの足でまといが、お姉さまの妹なんですの……」

 がくりと膝から崩れ落ちるエルは、その金色の瞳から大粒の涙を流した。

 ミスラは必死で涙を拭うエルの姿に、言葉を失い後ずさる。

「……っごめ、なさ……わたし……っ」

「ミスラ!待って!今の君はこの館から出てはいけないんだ!ミスラ!」

 ルチアの忠告が聞こえているのか、いないのか。

 ミスラはこの場の空気に耐えられず、逃げ出した。

「どうしよう。追いかけなきゃ……」

「わたしが、行く」

 終始うつむいていたセレネが、椅子から立ち上がり、ミスラのあとを追う。

「お姉さまっ!!」

 エルに呼び止められ、部屋の入口でセレネは振り返る。

 そして柔らかく笑って、言った。

「エル。わたしのこと、大事に思ってくれて、ありがとう」

「お姉さま……っ、お姉さまっ!」

 部屋を出ていくセレネを、エルは濡れた声で何度も呼んだ。



 

こんにちは。蒼依です。今回はルチアの能力しか判明しませんでしたが、セレネやフェルド、そしてエル、ついでにラムの能力はまた近いうちに……。今回もお読みいただきありがとうございます。

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