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出会い、のち④

「…………」

 セレネは自分の膝の上で眠るミスラの頭を優しく撫でていた。

「セレネ。紅茶、飲む?」

 ルチアがティーカップを差し出したが、セレネは首を横に振って断った。

「………。大丈夫だよ。本部の人たちも俺たちに渡したのはほぼ完成品だって言ってたし」

「……ん…」

「…………」

 俯いたまま短く答えるセレネに、ルチアはどうすれば良いのわからず、椅子に座って頬杖をつくフェルドの方に戻った。

「だいぶ落ち込んでるみたい……」

「まぁ昨日のセレネの行動は一番手っ取り早いけど、最善ではなかったわけだし、仕方ないよ。……どうして普段おとなしいあの子が実の……双子の妹に対してそんな行動をとったのか、ちょっと気になるけど」

 と、フェルドはソファに座るセレネに目を向けて言った。

「うん……」

「それにしても、本部の開発者達は面白いものを作るよねぇ。記憶操作、とかさ」

「たしか、雨を食べさせた本人が、食べた人の名前を呼ぶことで記憶は元通りになるってことだったよね」

「作った奴らによるとね。ま、本当かどうかは知らないけど」

「え?どうして?」

「……さっきの姫の反応」

「反応?……ていうかその『姫』ってもしかしてミスラのこと?」

「そうだよ。みんなに守られてるなんて、姫以外に何があるのさ」

「………。で、ミスラが何に対して反応してたの?」

「逆だよ」

「逆?」

「そう。セレネがエルに連れられてこの部屋に入ってきた時さ、あの子、無反応に近かったと思わない?」

「あ……」

「姫は昨晩の記憶が無いって言ってた。僕らのことを知らないのはわかる。でもセレネのことが思い出せないなんてことないだろう?」

「……確かに、昨日の夜はずっと会っていなかったにもかかわらず、あの子はすぐにセレネのことに気づいてた……。ていうことは……」

「あのあめも、どうやら万能ではないっぽいってことだね〜」

「俺の昨日言った言葉が現実になっちゃったりして……。あぁぁぁぁ!!どうしようフェルド!!ミスラに忘れられたショックで、普段から滅多に笑わないセレネがもっと笑わなくなっちゃうかもしれないよ!!どうしよう!!」

 ルチアはフェルドの肩を揺さぶって嘆いた。

「僕に聞かないでよ」

 景色がゆっさゆっさと揺れるなか、フェルドが半目でそう言い返した時

「あなた達……先程からうるさいですわよっ!!」

 と、今まで落ち込むセレネをその横で慰めていたエルが、ふたりの近くまで来て彼らを叱った。

「エル……ごめん」

 素直に謝るルチア。

「僕とくにうるさくした覚えないんだけどなぁ」

 と、軽い反論をするフェルドに、エル。鬼の形相で言い返す。

「あなたの声は耳障りなんです!!」

「えぇ……。ちょっとそれ酷くない?」

「本当のことなのですから酷いも何もありませんわ」

「そんな事言われると、お兄さん傷つくなぁ」

「お兄さんではなくて、おじさんの間違いではなくて?」

「やめて」

「……とにかく、お姉さまは今傷心中なんです。静かにしていただきませんの?」

 と、その時。

「……ん…」

「!!……っ………」

 セレネの膝の上で、ミスラがゆっくりと目を開けた。

「……………」

「………ミ、スラ…?」

「……………」

 セレネは自分を見ているような見ていないようなミスラのぼーっとした瞳を、不安そうにのぞき込んだ。

 それを他所に、ミスラはまだ起きぬけの顔で思案する。


 …………あれ。

 わたし、なにしてたんだっけ……?

 ……………あ、お姉ちゃんだ

 今わたし、お姉ちゃんに膝枕されてる……?

 なんか……いいな、これ

 お姉ちゃんの足、ちょうどいい感じの、まく、ら……に………

 ——————!?


「お姉ちゃあぅ!!!?」

「!?!!!?」

 ゴチンという音をたてて、突然起き上がったミスラの頭と、ミスラの顔をのぞき込んでいたセレネの頭が思い切りぶつかった。

「お、おおおおおお姉さまぁぁぁぁ!!」

「だ、大丈夫!?」

「すごい音だったけど……」

 心配と半笑いが交差するギャラリーの声。

 双子は痛みに悶え、ぷるぷると体を震わせた。

「………いたい…」

「ご、ごめんお姉ちゃん……。でもこっちも結構な痛みが……」

「………ごめんなさい……いたい……」

「お、おお姉さま!!今救急箱持ってまいりますわっ!!」

「……ん…たのんだ……エル……」

「はいっ!!少しだけお待ちくださいまし、お姉さまぁぁぁぁ!!」

 エルは光の速さで、救護室から救急箱を取りに部屋を飛び出していった。



  □ ■ □



「……ふむ…」

 スカアハは自らが治める冥界、ダン・スカーの中央にそびえる城で何かを考え込んでいた。

「スカアハ様。おやつのお時間です」

 王の間に、クーの抑揚のない声が響く。

「あ、クーさん!キミってばいつもいい時に現れるね!」

「………はぁ」

 嫌な予感しかしない……と、クーは内心思った。

「クーさん、こっちきて!」

「………」

 手に持っていたおやつのティーセットをテーブルに置き、クーは王の玉座に座るスカアハの元へ歩く。

「ほら早く!僕の膝の上に頭を乗せて!」

「はい……は?」

「………。クーさん……どうしてそんな怖い顔するの?」

 スカアハに指摘され、クーは眉間に寄っていたのシワを伸ばす。

「申し訳ございません。スカアハ様の言動が私の予想の斜め上をいかれたのでつい……」

「それは良かった!僕はキミの予想なんか軽〜く飛び越えちゃうようなすんばらしい男だからね☆」

「……そうですか」

「そうだとも!こんないい男、どんな世界に行ってもいないんだからっ☆」

 シャキーンとセルフ効果音を発し、スカアハは顎に手を当ててポーズを決める。

「………。で、何故私が、スカアハ様のお膝に頭を乗せなければならないのですか?」

「あ、そうそう!あのね、今僕の世界の子達がさ、膝に頭を乗せて寝てたんだよ〜。膝枕って言うんだって!とっても楽しそうだから、僕もやりたいなって思って!」

「………」


 どうしましょう

 心底どうでもいいのですが……


 クーはこのくだらない茶番を強制的に終わりにしたい本能と、スカアハには従わなくてはならない我が主との主従関係、どちらを優先すべきか悩んだ。

「クーさーん。はーやーくー」

 子供のような駄々をこねるスカアハに、呆れるクー。このままこの状況を強制シャットダウンしたら、もっと面倒なことになりそうだと、仕方なくスカアハの言うことを聞いた。

「こう、ですか?」

 クーはスカアハの足元に座り、彼の膝の上に頭を預ける。

「そうそう。僕の膝の上にいらっしゃーい」

「………」


 冷たい……


 神には体温がない。体が冷たいのはいつものことだが、クーには服の布越しに伝わるスカアハの冷気がむなしく感じられた。

「!?」

 突然頭にスカアハの手が置かれ、クーはびくりと体を震わせた。

「よしよーし。クーさんはいい子だね〜」

 クーはスカアハが頭を撫でながら言った言葉に、目を伏せた。

「……私は、いい子では……」

「いい子だよ。クーさんは僕の唯一の弟子だからね。いい子いい子。よしよし」

 人間に直接関わったことのない神が、どこでこのようなふざけたことを覚えてきたのか、いやもしくは誰かに吹き込まれたか……。


 だとしたらその犯人、見つけ出して抹殺致しましょうか……


 殺気をスカアハに気取られないように、自分の奥深くに押し込むクー。

「…………」

 小さくため息をつきスカアハから離れて、無表情で言う。

「もう、よろしいですか」

「えええええ!!まだだよぉ。ほらほらおいで〜」

 ぽんぽんと自分の膝を叩いてクーを誘うスカアハ。だが

「では、今日のおやつはなしという事でいいですね」

 と、クーが先程持ってきたティーセットを片付けようとしたため、慌てて引き止める。

「あぁぁだめだめ!おやつ食べるから!もうしないから〜!」

「………」

 はぁ、と再びため息をついて、クーは玉座の横の小さな丸いテーブルにティーセットを置き直す。

「んん!おいし♡」

 皿の上のクッキーを1枚指先でつまんで、口に放り込み満面の笑みを返すスカアハ。

 その隣で、クーはカップにお茶を注いで言った。

「先程、僕の世界の子達、と仰られていましたが……」

「ぎくっ」

「………」

 そのおかしな音を出すのは流行っているのだろうか、とクーはスカアハをちらりと見て思った。

「あまり下界に干渉することはよろしくないと何度も…」

 それを聞いて唇を尖らせるスカアハ。

「だぁって……」

「だってじゃありません。大体『地球』を復活させたまではいいとして、生物の進化を速めるなど規約違反もいいところです」

「………」

「神が下界に手を出すことは禁じられています。本来の『地球』は、誕生からたったの1億年でこれほど文明が進むなんてこと、ありえないのですよ」

「それはしょうがないじゃん!自然の進化に任せていたら、ここまで来るのに40億年もかかるんだよ!?40億だよ!?40億!僕そんなに待てないよ」

「だからといって、神の力で歴史を変えるのは……」

「あーあー聞こえなーい」

 クッキーを食べる手を止めて耳を塞ぐスカアハに対して、クーは相変わらずの無表情で3度目のため息をついた。

「そんなことより!」

「そんなこと……?」

 怪訝そうな顔のクーを無視し、スカアハは続ける。

「クーさん。子供たちは元気?」

「……はい。とても」

「じゃあもうすぐ初仕事だから、下界に行く準備させておいてね♡」

「………」


 本当に話を聞かない神ですね……


 クーは半ば諦めて、手を前で組み頭を垂れた。

「……仰せのままに」



 …………—————


お読みいただきありがとうございます。

今回のキーワードは膝枕です。嘘です。

ちなみにわたしは幼稚園の時に父上にもらった枕を未だに使っています。

次回もどうぞよろしくおねがいします。

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