血に濡れて①
リンゼは解けた髪を指で梳いた。
影花は消滅し、辺りを見回すと散々な状況だった。庭の大樹は多数の枝が折れ幹には大きな亀裂が走っていた。
ブラックプリンセスの腐蝕の余波で、リンゼの足元の草花は茶色く枯れている。
はぁ、と嘆息をひとつ。
「フラン」
名を呼ぶと大鎌が握っていた手から抜けて、ふわりと肩に影が落ちた。
『終わったの?』
後ろからそう聞くフランにリンゼは
「ああ」
と一言だけ返した。
『髪、また結直さなくちゃね』
フランはリンゼの長い髪を一筋手に取って目を伏せた。
「あ、もう終わっちゃったんだ」
振り向くと城と庭を繋ぐ廊下から、フェルドとルチアの姿が見えた。
腕に怪我を負って眠るルチアは顔色が優れない様子で、フェルドに横抱きにされていた。フェルドは大の大人の、しかも男を軽々と抱き上げた状態で言った。
「ていうか、リンゼ来てたんだね」
「ああ」
「ルチア!」
3人のもとにセレネが駆け寄ってきた。
「どうしたの?怪我、したの?」
血に濡れている包帯が巻かれた、ルチアの腕を気遣う様子のセレネ。するとルチアがうっすらと目を開けた。
「……ん…あれ、セレネ……?」
「あ、起きた」
「フェルド……俺…」
だがルチアが起きようと床についたはずの手は、空を掴んだ。
「……あ…?」
まだ自分の置かれた状況が把握できないルチアは、起き抜けで涙に濡れる目を動かした。
「………」
しばらくして。
「うわああああああぁあぁ!?!!?!?」
ルチアは声を張り上げた。覗き込んで様子を伺っていたセレネは、突然の大声にびくっと体を震わせた。
「ちょ、ええええぇぇえ!?なにっ、なにしてんの!?」
「なにって、影花倒した後キミが気を失っちゃったから、こうして運んでやったんじゃないか。ほらそんなに動いたら傷口がまた広がっちゃうよ」
「うわもう最悪だよさっさとおろして痛った……!?」
「言わんこっちゃない」
影花の棘が刺さった右腕を押さえてうずくまるルチアに、ため息混じりでフェルドが言った。
「出血多量で貧血気味なんだよ。大人しくしてなさい。僕の腕の中でね」
「それが嫌だってことわかんないかな!?」
「ルチア、怪我…痛い?」
セレネが眉を垂らしてルチアの手にそっと触れた。
「ううん。大丈夫だよ。心配かけてごめんね。セレネはどこか怪我してない?」
「ん、大丈夫」
「そっか。よかった」
「途中で抜けてごめんなさい。何が、あったの?この、腕」
セレネが視線をルチアからフェルドに移して問う。
「影花が突然棘の弾丸を放ってきてさ。それが刺さっちゃったんだ。結構深い穴が空いてるからしばらく血は止まらないと思う」
それを聞いてセレネはオロオロとたじろぐ。
「あ、穴………」
「ああいや……!」
不安を煽るなとフェルドをキッと睨むルチア。
「本当に大丈夫だから」
「セレネが居なくなっちゃうからだよ、もう」
だがフェルドがさらに追い討ちをかけた。
「ご、ごめ……」
「フェルド!なんでそんなふうに言うの!?」
「だからセレネ。君にはルチアを看病する義務があると思うんだよ」
「……は?」
気の抜けた声を出すルチアに対し、だがセレネは食い気味に頷いた。
「する!ルチアの看病、するっ」
「よし。じゃあ早速この怪我人ルチア君を君に託そう」
そう言ってフェルドがルチアを差し出す。
「いやいや待ってよ。おかしいでしょ!?俺もうひとりで歩けるから。託す前におろして」
「はいどうぞセレネ」
「ん。まかせて」
ふんっ、と気合を入れて全力の歓迎を示すセレネに、ルチアは両手で顔を隠した。
「お願いだからやめて」




