隊長③
影花は、苗床とした人間の負の感情を栄養にして育つ。
それは嫉妬であったり恨みであったり殺意であったりするが、時には憧憬や羨望といった一見すると負には見えない感情が、あるきっかけを経て影花を育てる養分になってしまう例もあるという。
だがそのどちらも末路は決まっている。
「タイムリミットか」
『侵蝕……?もう始まっちゃったの?』
「恐らく力の使いすぎだろうな。ラムがいたにもかかわらずエルの気を失わせた。それほど力を行使すれば、感情がどうこうという問題ではなくなる」
『腹が空けば命さえも喰い漁るなんて。とんだバケモノね……』
その時興奮した様子の影花が、リンゼに向けて茎のムチを放つべく大きく振りかぶった。
『ギュルルルルルル!!』
迫り来る黒い影。だが動じることのないリンゼの代わりに、動きを見せたのはフランだった。
『いけないわぁ』
リンゼを覆い隠すように漆黒の闇がフランから溢れ出した。
『この人間は、私のお気に入りなの。触っちゃダーメ』
その暗闇は、触れたものを腐らせるもののようだった。リンゼの足元の草花が一瞬にして枯れ果て、振り下ろされた影花のムチはジュッという音を出しながらフランの闇に蝕まれ消滅した。
「うっ……」
ミスラは思わず手で口を抑えた。
気持ちが悪い。何かが腐ったような、嗅いだこともない生臭さが呼吸を通して体内に押し寄せてくる。
リンゼの姿は黒い闇にすっかり隠れて、誰からも見えなくなっていた。
これから何が起こるのか、ミスラだけが想像出来なかった。




