すき、きらい③
———……
遠くで、自分の名前を叫ぶ声がする。
「先程からうるさいですわね。言ったでしょう、これが私たちの『仕事』だって」
エルは静かにそう応え、鞭を握り直す。
「お姉さまとお約束しましたもの。貴女を必ず護ると……」
腕を空中で振り上げながら、影花に向かって下降していく中で、エルの薄く紅のさした唇が小さく言葉を紡いだ。
「それに、もう嫌いじゃないですし……」
ぽう、と鞭の先端が黄色い光を纏い始めた。
「私は、私の意思でミスラ、貴女を護ろうと決めたのですわ。誰にも文句は言わせませんわよ。さぁ、全ては千紫万紅の世界のために!打ち砕きなさい!女王の鞭!」
鞭の軌跡に黄金の光がはしる。
影花を覆っていた分厚い氷も、凄まじい勢いの鞭に連続して打たれ砕け散っていった。
エルのまわりで、砕けた氷の破片が太陽の光を反射して煌めく。
エルがまだ地に足をつかないうちに、氷は影花を巻き添えにして消えた。
後にはホアだけが残っていた。
「お嬢!」
スタと着地したエルのもとにラムが駆け寄ってきた。
エルが息を切らして目先のホアに目を向けると、彼女はうつ伏せに倒れていた。
「や、やりましたの……?」
「いや、まだじゃ。あの女を消さんことにはすべて終わったとは言えんぞ」
「…………」
ラムの言葉を受け、ため息をひとつついたエルは膝に手をついてゆっくりと立ち上がった。ホアに近づくと彼女にまだ息があることが確認できた。
「……よかった…これで、お姉さまのお手間がひとつ省けますわね……」
エルがホアを見下ろしながらラムの名を呼ぶ。すると空中に鋭く尖った氷柱が現れエルの手のひらに落ちた。
「これで終わりに……」
酷く疲れた表情を引きずりながらも、エルはホアの心臓目掛けて氷柱を振り下ろした。
「ふふふふふふ」
「!?」
ホアの心臓に一直線だった氷柱は突然聞こえた笑い声に、その一歩手前でピタと静止した。
「本当に、今日は人生最大の吉日ね!」
「な、に……」
「お嬢!!」
ラムがエルを呼んだ瞬間、ホアの背から無数の黒い影が四方八方に勢いよく伸び、すぐ近くにいたエルをふっ飛ばした。空中に仰け反るようにして放り出されたエルに、間を与えず影花の魔の手が迫る。
「ふふふふっ」
「エルさんっ!!」
「おのれ化物が!!」
ラムが怒りの咆哮を影花に向けて発射した。
直後、大きな爆発音が城中に響き渡った。
エルの姿はその爆煙で見えなくなった。




